さて、前回引用した「飼ってみたいからという動機でヤギを盗んだ」事件に関連して阿曽山さんが過去の動物の盗難事件の話をしており、その中にレッサーパンダの盗難がありました。「そんなことあったっけ?」と思って検索したところ、「徒然レッサーパンダ」平成24年8月25日の「天天の盗難」が見付かりました。

以下引用

~事件の概要~
管理人がまとめた記事です。もしも事実と異なる箇所がありましたらご連絡ください。
2003年6月20日の夜、千葉県の市川市動植物園に何者かが侵入し、レッサーパンダとワタボウシパンシェ(ワタボウシタマリン)を盗み出しました
いずれもワシントン条約で保護対象になっている希少動物です。
盗まれたレッサーパンダは天天(オス、1998年生まれ)。
(先日亡くなった王子動物園の天天とは同じ名前ですが別の個体です。念のため。)
しばらく行方不明の状態が続いていましたが・・・、その後、秋になって、秋田県の民家で飼われている天天が発見されます!
無事に保護され、10月22日、動物園に戻ってくることができました。
飼っていたのは一般男性。
笹などをちゃんと食事に与えていたようで、保護された際は盗難前よりむしろ少し太っていたらしいです。

引用終了

 「レッサーパンダは知っているよ」と言われるでしょうが、一応動画を入れておきます。「パンドラの憂鬱」の「海外『日本では動物も忍者か』 レッサーパンダの行動が面白いと話題に」で見付けたものです。



 前回の「九官鳥事件」は、

九官鳥が舞い込んだので飼い始めた
  ↓
持ち主と称する人が持って行った
  ↓
民法195条を根拠に取り返そうとした

でしたが、今回は、

誰かが市川市の動物園に侵入してレッサーパンダの「天天」などを盗んだ
  ↓
秋田で飼われている「天天」を発見した
  ↓
動物園が取り返した

という経緯です。
 千葉県で盗まれたレッサーパンダが秋田県の家に迷い込んで来たので飼い始めたというのは一寸考えにくいですから、飼っていた人は誰かから買ったのだろうと思います。
 従って、以下は「買った」というのを前提に話を進めます。

Ⅰ.レッサーパンダは動産である
 レッサーパンダ(動物)は「不動産」ではありませんから、「動産」です。

民法(以下の条文もこれ)
(不動産及び動産)
86条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2項 不動産以外の物は、すべて動産とする。
(3項略)

Ⅱ.買ったので即時取得の問題である
 レッサーパンダは動産なので、買った人がその所有権を取得するかどうかは即時取得の問題になります。

(即時取得)
192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

 即時取得・善意取得を規定した192条は、不動産と違って占有に「公信力」を認めて取引安全・動的安全を図った規定であることは、

民法で理解すべき3つのこと3 「登記に公信力なし」と結論

で書きました。また、「静的安全と動的安全」については表見代理の、

代理22 表見代理1 概要と取引安全

で簡単な説明を書きました。

 「売買」という「取引行為」で動産の占有を取得した場合、「平穏・公然・善意・無過失」に占有を始めれば「行使する権利を取得」できます。すなわち、買った場合は所有権を取得することになります。
 因みに、「行使する権利を取得」できるという場合の権利としては所有権の他に質権があります。

 「平穏・公然・善意」は民法で推定されます。

(占有の態様等に関する推定)
186条 占有者は、所有の意思をもって善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
(2項略)

 また、「無過失」は前の占有者(売主)の占有が188条の推定を受ける結果占有を取得した者(買主)の「無過失」が推定されるというのが判例です。

(占有物について行使する権利の適法の推定)
188条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

[追記]
 ミス(勘違い)があったため、9日に上記の4行を改変・追加しました。
[追記終わり]

 すなわち、判例(最判昭41.6.9)は、

「思うに、右法条にいう『過失なきとき』とは、物の譲渡人である占有者が権利者たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものであるが、およそ占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定される以上(民法188条)譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについては過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証することを要しないものと解すべきである。しかして、このように解することは、動産流通の保護に適合する所以であり、これに反する見解に立つ判例(大審院明治4?元年9月1日判決)は改むべきものである。」

平成23年・本試験問題
問題29 A所有のカメラをBが処分権限なしに占有していたところ、CがBに所有権があると誤信し、かつ、そのように信じたことに過失なくBから同カメラを買い受けた。この場合に関する次のア~エの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものをすべて挙げた組合せはどれか。

イ Cは、カメラの占有を平穏、公然、善意、無過失で始めたときにカメラの所有権を即時取得するが、その要件としての平穏、公然、善意は推定されるのに対して、無過失は推定されないので、Cは無過失の占有であることを自ら立証しなければならない。

正解
イ ☓ 判例にあるように、無過失も推定されるので誤り(☓)です。

 話が逸れます
 上記判例の最後のところに「明治4?年」としたのは、最高裁の判例検索で出てくる「判決全文」でも分からないからです。以前にも書きましたが、どうもスキャナーで読み込んだものをOCRで文章化しているのではないかと思われます。

 良く分からないのに何故この部分を入れたかというと、大審院の判例を「小法廷(第一小法廷)」で変更しているからです。最高裁判例を「判例変更」する場合には大法廷でなければなりませんが、大審院については大法廷である必要はないということです。

17年・本試験問題
問題1 裁判に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

イ 最高裁判所は、憲法その他法令の解釈適用に関して、意見が前に最高裁判所のした裁判または大審院のした裁判と異なるときには、大法廷で裁判を行わなければならない。

解答
イ ☓ 大審院の裁判(判決など)を変更する場合には上記のように大法廷でする必要はないので誤り(☓)です。

 最高裁判所の判例を変更する場合には大法廷でしなければならないことについては、

判例の意味と違憲判決の効力1 判例の意味

で書いています。

平成19年・本試験問題
問題1 各種の裁判所や裁判官に関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。

5 最高裁判所は、大法廷または小法廷で審理を行うが、法令等の憲法違反の判断や最高裁判所の判例を変更する判断をするときは、大法廷で裁判しなければならない。

解答
5 ◯

 話を戻します
 判例にあるように「無過失は推定」されるのですが、じゃあレッサーパンダの現在の買主は「無過失」なのかというと、それは無理でしょう。
 ジャイアントパンダほど珍しくないとはいえ、レッサーパンダを犬や猫と同じように普通に飼えると思うこと自体に過失があると考えられます。

 従って、そもそも即時取得・善意取得は成立しないと考えるのですが、もしも成立すると考えた場合は193条と194条の話になり、これは次回にします。


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