前回に触れたように、本試験で出題されながら入れ忘れた2つの判例について書こうとしたのですが、後掲する平成25年の問題20を見たら出ていない判例が新たに見付かりましたので、方針変更です。今日の分を含めて4つの判例を扱うことにします。
 今日は、そもそも入れようと思っていた判例を1つだけ書きます。

Ⅰ.税務署長の更正処分と国家賠償法-1条
 題名で分かるように、事案は所得税に関する更正処分です。
 X(判決文では「被上告人」)の所得隠しが税務署に発覚したのですが、Xが税務調査に全く協力しなかったので、税務署は他の調査からXが申告していない分の収入を認定し、そこから控除されるべき経費などは当初の申告をそのまま使って、更正処分をしたようです。国税の行政庁は通常、税務署長(本件では奈良税務署長)ですので、処分(行政行為)は「(奈良)税務署長による更正処分」になります。
 つまり、

当初の申告 = 当初の収入 - 当初の経費

更正処分 = 当初の収入 + 発覚した収入 - 当初の経費

だったわけです。
 発覚した収入にはそれなりに経費がかかっているのですが、Xが税務調査に協力しなかったので、その分の経費を無視して課税を計算したということです。

 Xとしては経費が計算されていないじゃないかとして行政上の不服申立てをした後、処分取消しの訴えを提起しました。
 1審は請求を棄却したのですが、2審は更正処分の一部を取消したようです。つまり、発覚した収入についての経費を認めたことから、課税所得金額が減り、それを元にした課税額も減らしたことになります。国側が上告しなかったので2審の判決が確定しました。
 そもそも経費を計算に入れていなかったのですから(奈良税務署が意地になった?)、判決がそれを認定したとすれば、国側としては上告しても意味がないと判断したものと思われ、それは妥当だと考えられます。

 通常はここで終わりなのですが、Xは税務署長などに過失があるとして国を相手に国家賠償法1条に基づき慰謝料、営業損害、弁護士費用の損害賠償を請求したのが本件です。ここで国家賠償請求が出て来るというわけです。
 原審(大阪高等裁判所)は、奈良税務署長が職務上通常尽くすべき義務を著しく違反した違法な処分であるとして、損害賠償を一部認めたため、国が上告しました。このため、Xが「被上告人」で国が「上告人」です。

 最高裁(最判平5.3.11)の裁判要旨を入れます。

裁判要旨
 税務署長が収入金額を確定申告の額より増額しながら必要経費の額を確定申告の額のままとして所得税の更正をしたため、所得金額を過大に認定する結果となったとしても、確定申告の必要経費の額を上回る金額を具体的に把握し得る客観的資料等がなく、また、納税義務者において税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって確定申告の必要経費が過少であることを明らかにしないために、右の結果が生じたなど判示の事実関係の下においては、右更正につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない

 このように、Xが調査に協力しなかったことなどを理由に、最高裁は違法性を認めませんでした

 なお、Xがなぜ税務調査に協力しなかったのかについては、お持ちの憲法の本では「人身の自由」、行政法の本では「行政調査」のところに書いてあると思われる「川崎民商事件」(最大判昭昭和47.11.22)を参考にして下さい。

 拙ブログでは「行政調査」について、

AIJへの行政調査(大幅改訂)

生活保護法から見る行政法4 行政調査と行政刑罰

で書いています。

 そこで、過去問です。2回出題されています。

平成25年・本試験問題
問題20 国家賠償法に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。

イ 税務署長が行った所得税の更正が、所得金額を過大に認定したものであるとして取消訴訟で取り消されたとしても、当該税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていた場合は、国家賠償法1条1項の適用上違法とはされない。

解答・解説
イ ○ 上記のように、最高裁は違法性を認めませんでしたので、本肢は正しき記述(○)です。

平成24年・本試験問題
問題20 国家賠償制度に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

3 税務署長のした所得税の更正処分が、税務署長が所得金額を過大に認定したとして判決によって取り消された場合、当該更正処分は直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受ける。

解答・解説
3 ☓ 最高裁は違法と認めなかったので「違法があった」としている本肢は誤り(☓)です。

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