Ⅱ.郵便貯金目減り訴訟-1条
 後掲する25年の問題が所謂「郵便貯金目減り訴訟」らしいことが分かるまでに時間を要した上、その事案を探すのにまた時間がかかってしまいました。これに関する愚痴は後で改めて書きます。

 事案は高度成長期のインフレ時代のものです。
 現在は「インフレ目標2%」なんていう時代ですが、昭和47年6月末から49年1月末までの間に大阪市の消費者物価指数は26%上昇したそうです。
 大阪市民の原告(複数-上告人)は郵便貯金をしていたのですが、昭和49年1月末の時点で元利合計26%分の価値が減少したことになるので、その減価分を国家賠償請求しました。

 銀行は「預金」なのに対して、郵便局は「貯金」ということをご存じの方は多いと思います。
 また、郵政民営化により現在は株式会社になっていますが、当時の郵便局は国営(五現業のひとつ)だったので、国家賠償請求です。
 インフレとそれに伴う郵便貯金の価値減少は、田中角栄内閣の経済政策の失敗に基づくものなので、国家賠償請求の対象になるという主張です。

 1審・2審ともに原告の請求を棄却しました。
 1審は、政府の政治的裁量の問題であり、その当否は裁判所の判断の対象外という理由だったようです。
 一方、2審は統治行為論を取った苫米地事件を引用しており、統治行為論を取った体裁ながら、内容的には1審と同じ自由裁量の考え方に立っているのではないかとの批判があったようです。
 統治行為論については、

砂川事件1 最高裁判所規則と統治行為

を参考にして下さい。

 最高裁(最判昭57.7.15)は、原告の上告を棄却し、国家賠償請求は結局認められませんでした判決文から理由のところを長目に引用します。

上告人らは、本訴において、政府が経済政策を立案施行するにあたつては、物価の安定、完全雇用の維持、国際的収支の均衡及び適度な経済成長の維持の四つがその担当者において対応すべき政策目標をなすところ、内閣及び公正取引委員会は右基準特に物価の安定という政策目標の達成への対応を誤りインフレーシヨンを促進したものであつて、右はこれら機関の違法行為にあたり、被上告人はこれによる損害の賠償責任を免れない旨主張するが、右上告人らのいう各目標を調和的に実現するために政府においてその時々における内外の情勢のもとで具体的にいかなる措置をとるべきかは、事の性質上専ら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄とみるべきものであつて、仮に政府においてその判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず、又はこれに反する結果を招いたとしても、これについて政府の政治的責任が問われることがあるのは格別法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない。」

 原告の主張する「違法行為」の内容が分かる部分を含めて引用しました。
 「事の性質上専ら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄」なので、「政治的責任」に問われることはあっても、国家賠償法上の責任は負わないと判断しています。「格別」とは、「・・・は別だけど」というぐらいの意味です。

 なお、原告は原審(2審-大阪高等裁判所)の統治行為論について憲法違反を主張したようなのですが、これについて判決は、

「右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。」

として、判断をしませんでした。

 そこで、25年の問題です。

平成25年・本試験問題
問題20 国家賠償法に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。
ア 経済政策の決定の当否は裁判所の司法的判断には本質的に適しないから、経済政策ないし経済見通しの過誤を理由とする国家賠償法1条に基づく請求は、そもそも法律上の争訟に当たらず、不適法な訴えとして却下される。

解答・解説
ア ☓ 自信がないというのが正直なところなのですが、恐らく上記「郵便貯金目減り訴訟」を参考にして出題したのだろうと思います。もしそうだとすれば、本肢は誤り(☓)になります。
 ただ、これも上記のように憲法の統治行為論で議論の対象になったものであり、「郵便貯金目減り訴訟」の事件名は知ってはいましたが、行政法の問題として出題されたことには疑義があります。

 そもそも判例六法(有斐閣)に載っていないのみならず、最高裁判所の判例集(民集)にも採用されておらず、最高裁判所裁判集(集民)に載っている判例です。そういうものを正誤問題、それも組み合わせ問題として出題することの妥当性は大いに疑問です。

 また、「棄却」か「却下」かは微妙です。本肢の「法律上の争訟に当たらず、不適法な訴えとして却下される」自体はその通りなのでしょう。つまり、「法律上の争訟」に当たらなければ「却下」になります。
 そうすると、「経済政策の決定の当否」が「法律上の争訟」なのかどうかが問題になり、「裁量の問題」と考えれば誤り(☓)になると作問者は考えたのかも知れません。

 問題自体は、前回書いたように前年(平成24年)に出題された肢を知っていれば正解に至るとはいえ、

行政書士試験の問題肢として出すのはいくら何でも・・・

と拙ブログは考えます。
 従って、「経済政策の決定の当否」に関する判例が他にあるのかも知れないのですが、思い当たらないというのが正直なところです。

 そんなわけで、文句を言い出したら切りがないため、今日はここまでにします。

 一寸だけど役にたったと思った方はクリックを・・・。

資格(行政書士) ブログランキングへ