以前はほとんど出題されなかった損失補償が何故か26年と28年に出ました。2年続けて出すところではないと思いますが、試験委員は拙ブログの想像を超えていますので、基本的なことを書いてみようと思います。

 拙ブログではまだ書いていませんが、お持ちの憲法の本の「財産権」のところに書いてあることと重複するものが多いでしょう。従って、憲法で得た知識の確認を中心にして、そこに入っていなかった判例にざっと目を通せば足りると思います。

Ⅰ.損失補償の意義
 行政目的を達成するための適法な行政活動によって発生した個人の損失を公費で補うことにより、損失の公平な分担を図る制度が「損失補償制度」です。
法律上「ほしょう」には3つあるというのは前にも書きましたが、ネットサーフィンをしているとやむを得ないこととはいえ、この点を雑に表記(変換)されているものが散見されますので、簡単に書いておきます。

保障:人権保障、安全保障などの場合の「ほしょう」
保証:連帯保証、保証人、相互保証主義など主に民法上の「ほしょう」
補償:刑事補償、損失補償などの「ほしょう」

 市民革命の時代に「所有権絶対」が確立しました。「王様にいつ取り上げられるか分からない」ということはなくなったのです。しかし、その時点でも補償による取得は認められていたようで、大日本帝国憲法では法律に委任していました。

フランス人権宣言
17条(所有の不可侵、正当かつ事前の補償) 所有は、神聖かつ不可侵の権利であり、何人も、適法に確認された公の必要が明白にそれを要求する場合で、かつ、正当かつ事前の補償のもとでなければ、それを奪われない
(条文は、樋口陽一・吉田善明編『改定版 解説世界憲法集』-三省堂-より引用)

大日本帝国憲法
27条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコトナシ
2項 公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル

 日本国憲法では「補償」をより明確にしています。

日本国憲法
29条 財産権は、これを侵してはならない。
2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 説明するまでもないでしょうが、初めなので例を入れます。
 拙ブログが土地を持っていたとします。ところが、この土地を通る道路の計画ができました。この場合、通常は売買契約で道路を起業者に売ることになります。
 「起業者」とは道路を建設する地方公共団体などのことで、

形式的当事者訴訟1 土地収用法を中心にした説明[追記あり]

で出てきました。
 私がどうしても「土地を手放したくない(売りたくない)」と考えたとしても、お上(起業者)は私の土地所有権を取上げることができます。憲法29条3項がこれを認めているわけです。

みんなのためにあなたの土地が必要だ。だから、所有権を取上げる。ただし、みんなのためなのだから、その分、補償はする(金は払う)。

ということです。そして、この「補償」が「損失補償」です。

Ⅱ.損失補償の特徴と国家賠償との違い
ⅰ)適法な活動から生じた損害の填補
 損失補償の制度は適法な公権力の行使により生じた損失の填補(てんぽ)です。道路を造る、トンネルを掘る、空港を造るなどはすべて国民・住民のためであり、その必要性から土地所有権などの権利を剥奪(はくだつ)するものですので、「適法な」行為です。

 国家賠償法が民法の不法行為を元にしていることから“違法”と評価される行為・状態であるのに対し、損失補償は“適法”な行為に基づくものです。そのため、国家賠償が「損害」を「賠償」するのに対してこちらは「損失」を「補償」するものになります。

ⅱ)財産権の剥奪・制限による損害の填補
 損失補償の制度は、行政主体による権力的・強制的な私人の財産権の制限・剥奪を補償原因とするものです。
 国家賠償法は、純粋な私経済作用以外の行政活動全般が賠償の対象になりました。これに対して損失補償は、財産権を「取上げる」・「制限する」のですから、「権力的・強制的」な行為です。

ⅲ)特別な犠牲とされた損害の填補
 損失補償の制度は、公共の利益のために「特別の犠牲」とされた個人的損失を公平の見地から受益者たる国民全体の負担において填補する点が特徴です。「特別の犠牲」がキーワードです。

みんなのためにあなたが特に犠牲(所有権の剥奪など)になるのだから、その分はみんなが(税金などで)負担する。」

となります。

Ⅲ.法的根拠
ⅰ)一般法なし
 損失補償の制度については、国家賠償制度における「国家賠償法」のような一般法は存在しません

ⅱ)個別の法令
 一般法がありませんから、ある法律を制定するときに「特別の犠牲」が発生すると考えた場合はその法律の中に損失補償の規定を設けます。損失補償の典型が土地収用法による収用で、土地収用法は詳細な規定を置いているのですが、ここでは損失補償の基本となる条文と土地収用法により収用する場合の例として都市計画法の条文を挙げておきます。勿論、覚えるものではありません

土地収用法
(土地を収用し,又は使用することができる事業)
3条 土地を収用し,又は使用することができる公共の利益となる事業は,次の各号のいずれかに該当するものに関する事業でなければならない。
(各号略)

(損失を補償すべき者)
68条 土地を収用し,又は使用することに因つて土地所有者及び関係人が受ける損失は,起業者が補償しなければならない。

都市計画法
(都市計画事業のための土地等の収用又は使用)
69条 都市計画事業については,これを土地収用法第3条各号の一に規定する事業に該当するものとみなし,同法の規定を適用する。

 それでは、「特別の犠牲」に該当するにも拘わらず「個別の法律」に補償の規定がなかった場合はどうなのか、という話になるのですが、今日はここまでにします。

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