今日の朝日新聞オピニオン面(17面-12版)に、「ことばの広場 『ご苦労様』と『お疲れ様』」という記事が載っていました。冒頭から、

以下引用(太字は済印によるもの。以下同じ)

 上司には「お疲れ様」を使うべきなのに「ご苦労様」と言う失礼な人を見かける――こんなメールが読者から届きました。・・・

引用終了

 別ブログで月曜(9日)に「ご苦労様」を使ったのですが、これに断り書きのようなものを入れたところだったので見出しに目が行ったという経緯です。
 記事では社会言語学が専門の中央学院大非常勤講師・倉持益子さんに聞いたとのことで、こんなことが書いてありました。
以下引用

 昭和初期から2010年までのマナー本など200冊を材料に、使われ方の変遷を調べた倉持さんによると、70年代に「ご苦労様」は部下へのねぎらい」という記述が現れ、80年代に増加。90年代には「上司にはご苦労様よりも、お疲れ様がふさわしい」となり、00年代には完全に「ご苦労様は目上には失礼だ」と変化してきたそうです。
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 一方で、倉持さんによると、江戸時代は上下に関係なく「ご苦労」という言葉を使っていたのだそうです。現代の辞書でも「広辞苑」は「他人の苦労を敬っていう語」とするだけで、上下関係には触れていません。

引用終了

 時代による分析は拙ブログの感覚と一致します。時代とともに少しずつ「目上にご苦労様は失礼」という主張が増え、そのために拙ブログも使う際に断り書きを一応入れたと言うわけです。
 そこで、その断り書きというか根拠をそのまま入れます。

萩野貞樹著「みなさん これが敬語ですよ」の中にある、「ご苦労さま」は目上の人には失礼ではないか、という疑問に対する説明(15頁)から、

以下引用

 あまり古い言葉ではないのですが、江戸時代の浄瑠璃などを見ると「ご苦労さま」は目上の人に使っていますから、「目上には失礼」とはすぐには言えません。以前、天皇陛下が外国からお帰りになったときの中曽根首相のお出迎えのあいさつには「ご苦労さまでございました」という言葉がありました。だからというわけではありませんが、悪いと決め付けることはないでしょう。そもそも尊敬語なのですから、上位者に使って悪いはずがありません
 ただ、職場によっては「ご苦労さま」はよくないとしている所もあるようですから、そういう所では使わなければいいでしょう。無用の波風は立てない、というのはわれわれの社会常識です。(済印注:ここの太字は原著のもの)
 たとえばNHKの日本語センター長の河路勝さんの本(『敬語の極意』祥伝社)には、目上には不適当だと書いてありました。NHKでは「ご苦労さま」は失礼だとされているのでしょう。そのほかにたくさんあるようです。
 ただ河路さんは、時代劇などで命令者が実行者に「ご苦労であった」と言っていることをあげて、「ご苦労」は下位者に向かって使うものだと述べています。しかしドラマの「ご苦労」はあれは脚本家のミスで、「苦労であった」とか「大儀であった」、あるいはただ「苦労」「大儀」が本当です。家来に向かって尊敬語「ご」は使いません。(済印注:ここの太字も原著)

引用終了>

 朝日新聞の引用で、江戸時代に関する部分を入れた理由が分かって戴けるかと思います。
 江戸時代に住んでいたわけではありませんから、殿様などが家来に向かって「苦労」、「大義」と言っていたのか、「ご苦労」と言っていたのかは拙ブログには分かりません。ただ、家来に向かって尊敬語「ご」は使わないという萩野氏の説明に説得力があるとは思います。殿様に関する落語のマクラで、

殿 お月様がきれいじゃのう
家老(三太夫) 殿は単に「月」は「月」と仰せられますように
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殿 して星めら

というようなものがあるのを思い出します。

 朝日の記事は「お疲れ様」についても、

以下引用

 最近ではある大物芸能人が「お疲れ様というのは元来、目上の者が目下に言う言葉。子役が『お疲れ様』と言って回らないようにさせるべきだ」とまで言って話題になりました。

引用終了

 この論理だと、今度は上司に「お疲れ様」ということも相応しくないということになります。これを扱った「タモリ口火の『お疲れ様禁止』 『こんにちは』導入の会社も」から、

以下引用

「子役が誰彼かまわず『お疲れ様です』といって回るのはおかしい」──タモリのこんな発言が大きな波紋を呼んでいる。

 きっかけは7月26日放送の『ヨルタモリ』(フジテレビ系)。タモリが、「『お疲れ様』というのは、元来、目上の者が目下の者にいう言葉。これをわかっていないんですね」と力説し、民放連(日本の民間ラジオ・テレビ業者が所属する団体)が子役に「お疲れ様」といわせないよう申し入れをすべきだとまで提言 したのだ。

「我が意を得たり」と声を上げたのが中高年世代である。

「先に帰る若手社員に『お疲れ様です』といわれるとカチンとくる。
そこは『お先に失礼します』だろう!」(50代男性)
「後輩に上から目線でいわれているようで、嫌だ」(40代男性)

「お疲れ様」が悪いのか、気にするほうが悪いのか。日本語教育研究者で山形大学地域教育文化学部准教授の園田博文氏はこう話す。

『ご苦労様です』『お疲れ様です』というのは、本来、人をねぎらう言葉目上の人が使うのが伝統的で、目下の人が目上の人に使うのは失礼にあたります」

 若い世代は、タモリの指摘にショックを隠せない。

ビジネスマナー講習で『ご苦労様』は失礼だから、『お疲れ様』を使えと教わったのに」(20代男性)

 園田氏によれば、こうした世代間ギャップが生じ始めたのは、ここ10年から20年ほどのことだという。

「『ご苦労様』は若い人の間でも“上から下”の意識が強いようですが、『お疲れ様』ではその意識が崩れている。その分岐点は40代あたりで、50代、60代以上の人が違和感をおぼえるのは当然でしょう」(園田氏)

「お疲れ様」はいつの間にやら若い世代の中で挨拶のスタンダードになっている

引用終了

 拙ブログも目上の人に「お疲れ様」ということに抵抗があるのですが、実際には「お疲れ様」と言っておけば無難かなと思って使っていたことは確かです。萩野氏が言うところの「無用の波風は立てない、というのはわれわれの社会常識」というわけです。

 この番組は見ていたのですが、既に寝付く直前で記憶がはっきりしないため、確認したら「『ヨルタモリ』で、タモリさん扮する大学教授が『子役が目上の者に、『お疲れ様です』というのはおかしい』と発言。」に、

以下引用

もっとも、タモリさんではなく、言ったのは、
野々村修という大学教授に扮したタモリさんですが。
アナウンサーの佐藤里佳さんを相手に、
芸能界での子役の挨拶について解説
というかたちをとったVTRの中での話です。
野々村教授の意見
子どもが「お疲れ様です」という心理は、
芸能界に所属しているという帰属意識。
組織にいるという安心感。
創造的なことが出来ないと批判。
親が悪いと思うが、お疲れ様ですというのは、
元来、目上の者が目下の者にいう

社長にあった場合、「お疲れ様です」というのは間違い
正しくは「どうも」と言いなさい

引用終了

 最後がタモリさんらしくて「お見事!」といったところでしょう。

 拙ブログは過剰敬語の氾濫や「ら抜き言葉」を普段から不快に思っており、「ら抜き言葉」については、

「ら抜き言葉」よりも撲滅すべきは「本当ですか?」

「可愛いおばあちゃん」と「ヘソ手のお辞儀」

「ら抜き言葉」は撲滅可能かも・・・

などを書いて来ました。
 「ビジネス敬語」や「ビジネスマナー」なるものは相当怪しいものなのだろうとは思っていますが、「じゃあ、何が正しい使い方なのか」も良く分からないというのが現実です。







敬語のイロハ教えます
萩野 貞樹
リヨン社
2002-11-21


ほんとうの敬語 (PHP新書)
萩野 貞樹
PHP研究所
2005-04-16