路地裏に、少女は一人佇む。
 時計を見て、遅い、なんて呟きながら。
 十字路から一人、少年が路地裏に足を踏み入れる。
 少年は少女をみつけるなり、快活に笑ってみせた。
「ユリちん、ありがと。本当、助かった」
 少女の表情は呆れを示しているけれど、思いの他親しみを込めたしょうがないなというニュアンスを含んだものだった。
「ホンット、冷や冷やしたんだから。達也は寝惚けてると何言い出すかわかんなくてこっちが焦っちゃうわ」
 いつもの少女を知るものなら、驚いたかもしれない。
 昼間の彼女はプライドの高い女王である。
 決して、下品に大口を開けて笑ったりなんかしない。
「でもさ、眠いんだって学校。夜闘った後だと、タルくてタルくて。もう欠伸かみ殺すだけで必死」
 いつもの少年を知るものなら、驚いたに違いない。
 昼間の少年は年がら年中寝惚けた発言をする惚けた奴だ。
 決して、人の悪い鼻を鳴らすような哂い方はしない。
「……夜の半分位ズル賢くなれればねえ。あたし(・・・)もあんたの指導なんてタルいもんやんなくてすむんだけど」
 心の底から呆れたという声で溜息をつく少女に、少年はくすりと笑う。
「あらら、“天下無敵のユリカ様”にあるまじき発言じゃん」
「んー? “眠ってばっかりの水野くん”には言われたくないなあ。あたしの変わり方なんてまだまだ」
「よく言う。本当、だから女は怖い」
 オーバーアクションでおののく少年に、少女は眉を顰める。
「何言ってんのよ、先週の試合であたしを容赦なく倒した人間が」
「あはは、そんなこともあったっけ?」
「あったけじゃないわよ、何度も何度も叩き込むようにボディブロー食らわせといて。まだ痣残ってるのよ。嫁入り前だってのに、本当、ヒドイ男」
「だって」心外だというように大げさに驚いてみせる「そういう勝負だろ?」
「ごもっとも」
 少女はにやりと笑い、鼻を鳴らす。
「強くなるためなら手段なんて選ばない」
「そのために“先生”についてきたんだもの、ね」
「わかってるじゃん」
「あんたこそ」
「それにしても、ホント、邪魔だよな」
 一瞬にして、
「それにしても、本当、邪魔よね」
 少年と少女の瞳に、
「「あのホルン女」」
 殺気が宿った。
「うお、ハモっちった。気持ち悪ィ」
 もっとも、すぐにさきほどまでの気安い雰囲気に戻ったけれど。
 その瞬間に放った殺気は、もしもその場に他の人間がいたのなら、それだけで身がすくむほどのものだっただろう。
 幸いその場にいたのは、何も知らない、野鼠だけだったけれど。
 野鼠も不穏な2人組みに気付いたのか、こそこそと逃げるように路地裏を後にする。
「しっつれーねー。あんたみたいな性格最悪な奴と一緒のこと言っちゃったあたしのがショックなんだかんね」
 言いながらも、少女の目は笑っている。
 気安く、テンポのいい会話が続く。
「ひっでー。ユリちんのせいで俺のデリケートな心は傷ついた」
「良く言う。バリケードでしょ」
「おっと、やべーやべー。先生、公園にもうついてんじゃん」
「あらま、本当。ではでは、気付かれる前にさっさと用意するとしますか」
 少年と少女は向かい合い、ニヤリと笑んだ。
「悪ぃけど、今日も勝たせてもらうから」
 少年はトロンボーンのケースを持ち上げる。
「あら、負けないわよ、あたし」
 少女は細長い、小さなケースを持ち上げる。


 裏路地は静寂を取り戻す。
 最初から誰もいなかったように。
 少年と少女が何者だったのか、今はまだ、知るものはいなかった。


>業務連絡
主人公側の話じゃないので、番外扱いでインターバルってことで。
番外編だし、師匠の原作には全くなかった勝手な設定だけの話なので、タイトルのアナウンスやらクレジットもなし。
正体を隠す形ではなく、はじめっから見え見えなので、早めにこんな話を用意してみたり。
ユリカが誰かわからなかったら、読む順番が間違ってるのでまずは第1話、第2話を読むように。
こういう会話、好きっす。
水野の性格も完全にオリジ。
ぼけっとだけでは物足りないし闘い方と反するので、こういう形にしちまいました。
でもこういう奴なら結構好きだ。完全悪役に走ってるが。
というか、水野×ユリカじゃだめか? 真帆は直都さんにあげちゃってさ。だめか。そうか。
最早完全にオリジに走ってるけど、気にしちゃいけねえ。
ユリカの武器はクラリネットです>師匠の原作知ってる人間にだけわかる話題。
クラリネット遣いは男子っぽかったけど、勝手に女の子にしちゃった。
はじめは残虐ってことでシンバル使いにしようと思ってたけど、クラリネット使いはさっさと出しておきたかったので。
……なんてーと、続きを書くみたいだが。
基本的にこの話の続きを書くつもりはないよー。
自分の首は絞めないように。
またネタがあったら、「ひょっとしたら」更新する「かも」しれない位の気弱さで。
しかし、ずっとスランプでかけなかったのに、急に筆が進んだのがこの話ってのはどうなんだ、自分……。