わけのわからないオリンピックが終わって、ブエルタ。キンタナとバルベルデのスペイン語2枚看板のモヴィスタ―に、フルーム・ケーニッヒのスカイ、チャベス・イェーツのオリカが三つどもえでいい感じ。ブルゴスで好調だったコンタドールも、きちんと5位に食い込んでいる。だれが勝ってもおかしくないから、おもしろい。ツールのようにフルーム圧勝では、レースにならないものなぁ。

 ま、レースはどうでもいいんだけど、自転車レースは景色が見もの。どのツアーも、昔から観光案内が半分の企画だ。今年のコースはオーレンセのあたりをぐるっと回って、それから北岸、ピレネー、バレンシアへ。高校生のころ、世界歴史地図帳で見て、なぞって書き写していたあたりのところが、いま、空撮で俯瞰できる。ああ、こんなあたりをフランスと、取った、取られた、とやっていたのか、とか、なかなかに感慨深い。

 今年は行かないが、ブエルタの地図には、かならずアフリカ北岸も出ている。というのも、ジブラルタル海峡の対岸にセウタ、アルボラン海に突き出た半島にメリリャの街をスペインは持っているからだ。とくにメリリャは、アフリカとの交易の中心で、いまでもまさにスペインの街並み。もっとも、カサブランカと同じで、モロッコの交易都市は、イスラム教徒とユダヤ人、ポルトガル、スペイン、フランス、ドイツが入り乱れて、まさに取ったり、取られたりしてきたところで、ヨーロッパとはべつの意味での多様な文化が混在する国際都市。EU以前から衰退続きのスペインより、モロッコの方が勢いがある。

 逆に言うと、スペインからすれば、モロッコは脅威だろう。もともとスペインなんていう国は、北側、つまり、フランスやブリテンの方を向いていた国で、地中海岸はイスラムのグラナダ王国。それをレコンキスタで取り込んだものの、心情的にはやはり地中海気質で、北の連中とは相性が悪い。もちろん、日の沈まぬ国、なんて言っているうちはよかったが、北側の没落が著しく、足を引っ張られ続けているくらいなら、対岸とビジネスした方がまし、という考え方も出てくる。「幸い」まだ、独裁軍事国だったモロッコが政情として落ち着かないままなので、かろうじてEUの方を向いているが、北アフリカが民主化すれば、イタリアやトルコ、エジプトまで含めて、地中海世界の方が仕事しやすかろう。

 世界歴史地図帳というものが、じつは帝国主義の版図という思想に支配されている。面で国土を持つ、という発想は、農本主義の農民連中が政治の中枢を握ったから。中世までの商業主義からすれば、違うところとところを繋いでこそ、商品価値が生まれる。面で広げても、隣はかえって価値がない。だから、植民市が沿岸のあちこちに点在し、それ以上、内陸に広がろうとしなかった。現代も同じで、内陸にむだに版図を拡げても、維持が重荷なだけ。商業都市としては、空港と港湾で、できるだけ異質のところが近い方が都合がいい。中国が、内陸部奥地を見捨ててフィリピン沿岸に出っ張ってくるのも同じ理由だ。

 スペインだけではあるまい。米国も、日本も、商業国家になれば、無駄な内陸部を見捨てるのは必然。ブエルタの空撮を見ていると、その捨てられつつある内陸農業部、集中が著しい港湾都市、そして、北側と南側の格差などが目で見える。自分の国の姿以上に客観的に見えてしまうので、なかなかに怖い。