2012年01月14日
ポスト・チルウェイヴ的アルバム・ガイド~オリジネイターたちのその後編

チルウェイヴのディスク・ガイドは以前やったので、ポスト・チルウェイヴ以降のもので、ウィッチハウスなどその他のジャンルとかかわりを持つ作品から取り上げていこう。
「Kimmi in a Rice Field (Balam Acab Remix)」 Twin Sisterロング・アイランドの5人組、ツイン・シスター。彼女たちは最初から音楽性の幅の広いグループで、その他のウォッシュト・アウト・フォロワーなチルウェイヴ・ユニットとは一線を画していた。アルバム・デビュー前の、2枚のEPを合わせた『Colour Your Life-Vampires With Dreaming Kids』(2010年)の幻想的なシンセ・サウンドはチルウェイヴ的といえるが、スロウなビート、深くかけられたリヴァーブとディレイによる甘くて重い抒情性は、その後のポスト・チルウェイヴ/アンビエント・ソウルの面々と通じるところがあった。しかし、デビュー・アルバム『In Heaven』では一転、ブギーなダンス・チューン「Bad Street」を筆頭に、 チルウェイヴ的な甘さを抑えた、軽快な曲が中心に。飽和したチルウェイヴ・シーンから抜け出そうというその試みは確かに上手くはいっていたが、一方でこれまでの儚さや抒情的な一面が幾分減じたのも事実であった。Balam Acabも同じことを思っていたのだろう。ウィッチハウスの総本山、Tri Angle Recordsの主催者は、幻惑的なコーラスやSEで原曲を幾重にもデコレートし、甘く、甘く、リミックスしてみせた。それはバラム・アカブの官能的なウィッチハウスの手法だが、彼女たちの以前の音にもよく似ている。この“近さ”は、彼女たちがHow To Dress Wellのリミックスを行っている、ということからも説明できるかもしれない。
Twin Sister, "Kimmi in a Rice Field (Balam Acab Remix)" MP3 by The FADER
How To Dress Well :: Ready for the World (Twin Sister Remix)
「French (Toro y Moi Remix)」 Tyler, the Creatorトロ・イ・モアはシーンのなかでもクォリティの点で頭一つ抜きんでたアーティストで、デビュー・アルバム『Causers of This』はチルウェイヴ屈指の名盤といえるだろう。そんな彼は脱チルウェイヴの動きも早かった。別プロジェクトのLes Sins、EP『Freaking Out』と立て続けに、エレクトロ/ニュー・ディスコ的路線を提示(EP収録の「Saturday Love」はアレキサンダー・オニールのカヴァーだ)。セカンド・アルバム『Underneath The Pine』でも先行シングル 「New Beat」と「Still Sound」はどちらも躁的なビートが特徴のディスコ・チューンだったが、同時にステレオラブも彷彿させる緩いポップ・ソングも披露し、音楽性の幅広さを印象づけた。そんな彼がさらなる可能性を示したのが、このリミックス。暗く抑制された原曲の雰囲気はそのままに、チルウェイヴ的手法で空間的な広がりを持たせた。しかし、ミックスの出来云々よりも、タイラーとトロ・イ・モアの両者が実際に出会ったこと、その事実が重要だ。 ヒップホップの最先端とロックの最先端が実は近いところにいた、ということだから。今後の展開にも期待がふくらむ。
French (Toro y Moi Remix) by ToroyMoi
『Moon Killer』 Small Black「ミックステープ」とは本来の意味から離れ、いまやラッパーによるフリー・ダウンロード可能なアルバムを指すが、ブルックリンの”ロック・バンド”であるスモール・ブラックが本作を「ミックステープ」として発表した意味は決して小さくないだろう。もともとノイジーでエクスペリメンタルな、いかにもブルックリンらしいバンドとしてデビューした彼らは、次の『New Chain』ではシンセを多用し、ダンス・ビートを強調。ウォッシュト・アウト、トロ・イ・モア、ネオン・インディアンと並ぶ、チルウェイヴの代表的なアクトのひとつとなったわけだが、そうした変化はブラック・ミュージックへの接近であった。その傾向はますます強まっている。「ミックステープ」とは、彼らなりのブラック・ミュージック宣言だ。Das RacistのHimanshu SuriことHeemsが客演し、ニッキー・ミナージュをサンプリングしたこのアルバムは、『New Chain』よりも一層ブラック・ミュージック色の強いアルバムであるが、それだけではなく、同時代のヒップホップ/R&Bへのラヴ・コールでもあり、彼らとの共闘の可能性を示そうとしたものでもあるだろう。
MOON KILLER MIXTAPE by Small Black
『Heart Shaped EP』 Jason Grier & Nite Jewelナイト・ジュエルはチルウェイヴ勢のなかでも最も80年代エレクトロ色の強いひとりで、Dam FunkとのNite Funkはもちろん、ローファイなシンセ・サウンドを聞かせたデビュー・アルバム『Good Evening』もそのファンク趣味がところどころで顔を出していた。そんな彼女が次にコラボレーションしたのが、Jason Grier。LAのレーベル、Human Ear Musicの運営者だ。HEMはナイト・ジュエルのデビュー盤をリリースしたレーベルだが、2008年には80年代から活動するエレクトロ/エクスペリメンタル界隈のカルト的存在であるGary Wilsonの『Lisa Wants to Talk to You』もリリースしている。つまり、本作は80年代シンセ・ファンク趣味のふたりによるコラボレーションで、前半3曲はそうしたサウンドに仕上がっているのだが、後半は一転、静謐としたミニマルなアンビエント風に。注目すべきはむしろこっちだろう。ダウンテンポ化・ミニマル化するチルウェイヴ/ウィッチハウスの流れと、さまざまな領域でみられるアンビエントの影響・流行、その可能性を探る内容だ。彼女が同僚のJulia HotlerとコラボレーションしたNite Jeweliaの活動も、そうした試みのひとつといえるかもしれない。





































