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チルウェイヴがあれしてこれして・・・という話は省略するが、ヒップホップのチョップト&スクリュードを影響のひとつとしてスロー・ダウンしたポスト・チルウェイヴやポスト・ダブステップ、あるいはウィッチハウスといったふわふわ、どろどろとした動きが、再びヒップホップへと戻ってきている。ロックやエレクトロニカの最新モードを追っていたラッパーがそれをサンプリングするだけではなく、そのモードを作ってきたアーティストたちと親密な交流をみせているのも面白い。彼らをジャンルで区別することはもはやほとんど意味がないが、そうしたヒップホップを、Cloud Rap、あるいはTrillwaveというようだ。


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前者は「雲」のようにふわふわとしたシンセを特徴とするためだろう。後者はChillwaveの「Wave」に、「Trill」をつけた語。以下、トリルウェイヴと書くが、「Trill」の発音は「トゥリル」に近く、「チル」と語感が似ている。ダジャレ的な感覚でつけられたのではないかと思う。この言葉がいつからあるのか分からないが、広まったきっかけはおそらくThe Hood Internetが2010年6月にリリースしたミックステープTrillwave。これは、いわゆるマッシュ・アップで、意外な素材同士の組み合わせを楽しむものだが、このミックスではWashed OutやToro Y Moi、Neon Indianといったチルウェイヴとヒップホップを合わせたものが中心になっている。 つまり、Trillwaveとは、 ヒップホップのビート(Trill)&チルウェイヴのシンセ(Wave)といったところだろう。「Trill」には「震え声で歌う」とか「トレモロで奏する」といった意味のほか、「True」と「Real」を合わせたスラング(意味も両者を足したもの)としても使われるようで、「Trill」の原義と(意味も含めて)ヒップホップのスラングであるということをダブル・ミーニング的にかけたというところか。そんな名前の由来はどうでもいいのだが、このトリルウェイヴなマッシュ・アップの相性は抜群で、第二段Trillwave 2までリリースされるほど。ミックスされている各曲の組み合わせは下のsoundcloudのページに行けば見られる。

The Hood Internet x Mishka - TRILLWAVE by hoodinternet The Hood Internet - Trillwave 2 by Мишка Bloglin



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アトランタのNRKは、Bandcamp上で全ての作品に「Trill wave」タグを付けている。彼らに共通する、ジャジーでタメのきいたビートとそれに纏いつくようなシンセは、確かにトリルウェイヴ的。しかし、ピラミッドというオカルト的なモチーフや、無機質なロボ声やシンセの冷たい音色によるフューチャリスティックな装飾に、それがヒップホップとチルウェイヴの単なる足し算ではなく、前回までのエントリーで書いてきたような複数の支流を汲んだものであることが見てとれる。

Gloomy Pyramid『Venue: Adventures Through Nature & All It Upholds』Heterochromia『The 4th Chamber Of Ra EP』Jay Cue『Pyraimd Life』Pyramid Vritra『PYRAMIDVRITRA』、そして名前に“Cloud”が入ったAndre McCloud『Therapeutic Vapors』と、どれも甲乙つけがたいが、 ひときわクールなTyler Major『Alone In His Meadow Garden』と奥行きのあるサウンドが荘厳なLombardi & Luwees『LL 2: Samoan Fantasies』が完成度という点で頭一つ抜きんでてるか。クルーの最近作は、KC2.0『brightside』Mr. Northstar『lü-mə-ner-ē』。Lombardi & Luweesの一員でもあるKC2.0の新作は『LL2』の路線を引き継いだ、非常に重厚な一枚。NRKの新メンバーであるMr. Northstarのアルバムは、Pyramid Vritra/Hal Williamsのコズミック・ファンクに近い内容で、Gary WilsonやLAのビート・シーンからの影響も感じさせる作風だ。なお、Tyler Majorが2012年にリリースを予定している新作は、「ヒップホップ・アルバムにはならない」とのこと(ちなみに彼らの2012年のリリース予定はオフィシャル・サイトで既に明らかにされている)。もしかして、チルウェイヴだったりするのだろうか!? 

NRKと近いところでは、アトランタのETHEREALもトリルウェイヴ的な趣向を持ち合わせた人物だ。NRKのHal Williamsも参加している▲ B S T R ▲ C T I C ▲はアトモスフェリックな音像が魅力のアルバムだし、別ユニットSUPERBUDDAH『Watch The CouchはBandcamp上で「chillwave」「witch house」のタグまでつけている。さらに、Toro Y Moiのポスト・チルウェイヴ的ダンス・チューン「New Beat」のリミックスNew Beat ETHERRMX (Feel Like I'm On Dope)TORO Y ETHEREAL名義で発表している。なお、NRK、ETHEREAL周辺の動きについては以前ここにまとめた。



KC 2.0 & Jay Cue - Small Statement

Pyramid Vritra: "Su-Ru" F. Mr. Northstar, Andre McCloud, Tyler Major (Prefix Premiere) by prefixmag



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NRKを紹介する際にしばしば用いられるのが“ネクスト・オッド・フューチャー”という表現。確かにクルーの雰囲気は似ているものがあるし、年齢も同じくらいだが、彼らは音楽性も近い。ダウナーで厭世的なTyler, the Creator『Goblin』と自然をテーマにしたTyler Major『Alone In His Meadow Garden』の間にはリリック、イメージの点で違いがあるが、『Goblin』収録の「Nightmare」や「She」などを聞けば、そのサウンド的な共通点は明らか。今でこそNRKの面々はオッド・フューチャーと比べられることを好んでいないようだが、もともとは彼らのファンだったことを明言している。

人脈も重なっているところが多い。オッド・フューチャーではJet Age of Tomorrow、またプロデュース・チームthe Super 3!の一員として、NRKではPyramid Vritraとして活動するHal Williamsを媒介として、交流が見られる。例えばSPEAK!。彼のInside Out Boyは、Left Brain、Matt Martians(Halの相棒)が大半のプロデュースを、The InternetのSyd Tha Kydが全曲ミックスを手掛けている準オッド・フューチャー作品だが、そのアルバムに先駆けて発表されたTelevanelism(アルバム未収録)という曲は、NRKのJay CueMichael Uzowuluの共同プロデュース。あるいは、 先日傑作ミックステープShyne Coldchain Vol. 1をリリースしたVince Staples。Jet Age of Tomorrowのアルバムなどオッド・フューチャー作品に多く参加している人だが、彼はJay Cue『Pyramid Life』にも参加している。この2枚のアルバムはどちらもトリルウェイヴな内容で、クォリティも高い。

また、最近NRKのメンバーのツイッターの自己紹介欄に「ローズ Au79」という言葉が追加されている。見つけてしばらくは謎で、メンバー(Pyramid Murdock)にも質問してみたのだが、今は答えられないとはぐらかされてしまった。しかし、Tyler, the Creator『Goblin』には「Au79」という曲があるのに気づき、もしかしたらNRKとOFWGKTAのコラボ企画じゃないだろうか、なんて期待している。いずれにせよ、Jet Age of Tomorrow/the Super 3!のふたり、Hal WilliamsとMatt Martiansは、クラウド・ラップ/トリルウェイヴ・シーンの、中心ではないとしても、一翼を担う存在としてプロデュース作品も含めて注目すべき。もっとも、彼らの場合は雲を飛び越えて宇宙にまで行ってしまう恐れもあるのだが・・・。


Tyler, the Creator - Nightmare

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※SPEAK!の音源はすべてここでまとめてダウンロードできる 

cover-homepage_large (1)カリフォルニアのラップ・グループ、The Packの一員であるLil Bは、NRKやOFWGKTAがモデルにしたひとりだろう。ミックステープの爆発的流行の中心人物である彼は、フリーで膨大な量の楽曲を提供し続けているが、2010年11月にリリースされたRain In Englandというアルバムは、ビートが一切ない、アンビエントな音響とラップのみで構成された一枚だった。2010年といえば、チルウェイヴやウィッチハウスと“タグ付けられた”作品が次から次にネット上にアップされていたころ。ロック/エレクトロニカ界隈で起こっていたムーヴメントに敏感に反応したのがこのアルバムだといえるだろう。その後も相変わらず多作で、タイトルとともに『千と千尋の神隠し』をサンプリングした(「Gon Be Okay」)ことでも話題になった『I'm Gay』や、Toro Y Moiネタの「1 Time」を収録した『Angels Exodus』など、『Rain In England』でみせたアンビエント/チルウェイヴな作風も断片的に垣間見せているが、その傾向が最も強いのが、2011年11月に出たBasedGod Velli。文字通り、漂う煙に包まれたかのような「Up In Smoke」、ボストンの寒空を思わせる「Cold Nights In Boston」など、全編浮遊感のあるシンセがサウンドの決め手となっている。




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長々と贔屓のNRK関連を取り上げてみたが、トリルウェイヴ/クラウド・ラップ・シーンの中心は、A$AP MobやGreen Ova Undergroundsといったクルー。彼らについては他の注目クルーとともに次回取り上げるとして、ここでは、彼ら以外の動きをまとめておきたい。

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メンフィスのGavin Maysこと、Cities Aviv。彼はラッパーなのだが、Bandcampではそのデビュー・アルバムDigital Lowsが「Chillwave」タグで常に上位にランキングされており、チルウェイヴ+ヒップホップというスタイルを(特にロック・リスナーに対して)広く知らしめた人だ。肝は大胆なサンプリングだろう。Depeche Mode「People Are People」、Steely Dan「Midnight Cruiser」といったネタのほか、チルウェイヴの代表的なアーティストのひとりであるBlackbird BlackbirdがModest Mouseをカヴァーした「Float On」をそのまま使っているといった具合。ラップもトラックもざっくりしていて、悪く言えばアマチュア感があるが、その軽さも含めてCloudな雰囲気がよく出ている。前述のFloat OnとシングルでリリースしたPlanet (ft. Clement Roussel x Alexia Gredy)が白眉か。

このCities Aviv『Digital Lows』はメンフィスのFat Sandwich Recordsからリリースされている。このFat Sandwichはヒップホップだけでなくロック・ミュージシャンも抱えているジャンルレスなレーベルだが、その中のRoyal T『I​.​D​.​K. (FUMZ)はクラウド・ラップなアルバムだ。Cities Avivも数曲に参加しているほか、Cities Aviv名義のシングルArawでも客演している。ふわふわと軽いCities Avivに比べ、クールで重厚なゴシック感覚の持ち主で、NRKやオッド・フューチャー、あるいはウィッチハウスの面々と通じる魅力がある。

Cities Aviv関連としては、Lushlife『No More Golden Daysも聞いておきたい。フィラデルフィアのラッパーで、Cities Avivのほか、同地出身のDice Raw(the Roots)やHeems(Das Racist)、さらにはAndrew Cedermark(Titus Andronicus)といった豪華なゲストが参加。自らのことを「bedroom composer」と呼ぶだけあって、やはりベッドルーム・コンポーザーばかりだったチルウェイヴ勢と非常に近いサウンドが展開されている。また、「Still I Hear the Word Progress」はルクセンブルグのチルウェイヴ・ユニット、Sun Glittersがリミックスを手掛けており、ここに挙げたなかでは最も同シーンに近い人だと言えるかもしれない。



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そのほかには、オースティンの、CHiLL『Head In The Clouds。いかにもな名前でいかにもなタイトルではあるが、冷たく抑制されたトーンで統一されたサウンドは非常にクォリティが高い。フロリダのFTRSND aka Future Sound『The Thrillsも良い。僕は聞いたことがなかったが、UKの若きテクノ・スター、Space Dimension Controller(いつも読んでるこちらのブログでも紹介されてた)を使った長尺「Hey Dreamer」に顕著なように、開放的で浮遊感のあるコズミック・ダンス・チューンが並ぶ。あとは、ワシントンDCのクルー、Kool Klux KlanrMell『Hipsters & Hypebeast。Toro Y Moi使いの「Tyra Is A Hipster 1​.​5 (Featuring Avion)」をはじめ、浮遊感のあるトラックがかっこいい。彼は幼少期に沖縄に住んでいたそうで、日本ネタが頻出する。いまや日本ネタ自体は珍しくはないが、Snowed In EP収録の「Winter Affair」は聞けば驚くはず。サンプルとして使っているのは、あの超有名グループだ。




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Cloud Rap/Trillwaveと銘打っているわけではないが、そうした曲を集めたコンピレーションもある。まず、さまざまなジャンルのアーティストの集団であるMidnight Kids Academyが編纂したClass of MMXII。上に挙げたrMellやFTRSNDをはじめとして、マイナーながら質の高いアーティストの楽曲が収録されており、どの曲もCloudな魅力に満ち溢れている。この企画はもともとは東日本大震災のチャリティ企画だった。Midnight Kids For Japanがそれで、世界中から46のアーティストが曲を提供。収益は全額寄付される。個人的に非常にお世話になっている、信頼と実績のブラック・ミュージック・サイト、Back2Plutoからも2枚コンピレーションが出ている。Summer WarsThe Runners File Vol. 1だ。やはりrMellやSiR E.U.といったKool Klux Klan勢、FTRSNDなど上記コンピに収録されている面々を含みながら、女性R&BシンガーVida Jafari、オタク・ラッパーCurbside Jonesなど、同サイトのカラーにあったインディ・アーティストが幅広く選出されており、多彩だ。前者にはLil BやDam-Funkといった大物も参加している。



次回後編ですが、ここに挙げたアルバムはほとんどフリー・ダウンロードなので、ぜひ。