GuitarAndVoice


『Guitar & Voice』 Eric Chenaux
★★★★★★★★★★ 

トロントのエリック・シェノーの4枚目。去年ベスト・アルバムで2位にしたSandro Perri関連、ということで初めて聞いたが、思い切りハマってしまった。今年聞いたなかで一番かもしれない。

いま、トロントといえば、DrakeやThe Weeknd、BADBADNOTGOOD といった、旬なブラック・ミュージック・アーティストの出身地として注目されているが、もうひとつ、見逃せないのがアヴァン・ジャズ/フォークのシーンだ。このエリック・シェノーのレーベルRat-Drifting所属のRyan Driver、Doug Tielli、Jean Martin、Martin Arnoldといったマルチ奏者たちを中心にしたこのシーンがおもしろいのは、ジャズや現代音楽を演奏するその担い手たちが、フォークやエレクトロニカのミュージシャンと活発に交流していること。 例えば、エリック・シェノーやライアン・ドライヴァーはSandro Perriの『Tiny Mirrors』『Plays Polmo Polpo』などに参加しているし、そもそもこの新作はサンドロ・ペリと同じConstellation Recordsからのリリース。Rat-Driftingからフォーク・バンド、Deep Dark United名義でアルバムをリリースしているAlex Lukashevskyは、チェンバー・ポップ界の中心人物の一人、Owen Pallett(aka Final Fantasy)が『Plays To Please』で取り上げた作曲家でもある。Alex Lukashevskyは今年のARABAKIロック・フェスで来日を果たすが、そこに帯同するのはトロントのブルース/フォーク集団Bruce Peninsulaこちらのブログ参照)フォーク・デュオSnowblinkで活動するDaniela Gesundheitと、Feist『The Reminder』のギターを弾いているAfie Jurvanenのソロ・ユニット=Bahamasに参加しているFelicity Williams。そのブルース・ペニンシュラに参加しているギタリストのThomas Gillは、オーウェン・パレットの『A Swedish Love Story』でギターを弾いている人物だが、サンドロ・ペリがプロデュースしたダウンテンポなフォーク/エレクトロニカ・ユニット、LOOM『EPYLLION』にも全面参加しているし、自身もアンビエント・ソウル・ユニットのT H O M A Sとして活動している。また、同じくブルース・ペニンシュラのMike Smithは、サイケ・フォーク・デュオ=MV&EEのほとんどの作品でギターを担当しているが、サンドロ・ペリ『Impossible Spaces』ではベースやストリングス・アレンジで大半の曲に関わっている。などなど。



BRUCE PENINSULA - TAMARA LINDEMAN - 'Am I Lovely' by Eric Chenaux
(ブルース・ペニンシュラの TAMARA LINDEMAN がエリック・シェノーの曲をカヴァーしている。彼女はThe Weather Stationという名義でフォーク・シンガーとしても活動していて、そちらも素晴らしい)

Impossible Spaces - SANDRO PERRI by Constellation Records


と、長々書いても、複雑すぎて把握しづらいかもしれないが、要はRat-Drifting周辺、ブルース・ペニンシュラ周辺、サンドロ・ペリ周辺の交流や外部活動が、非常に活発でおもしろいことになっているという話。その音楽性は、フリー・ジャズからアヴァン・フォーク、今様のダウンテンポなエレクトロニカ/アンビエント・ソウルからチェンバー・ポップまで、実に幅広く、刺激的だ。ここらへんの動きはまた改めてまとめてみたいが、とりあえず、その中心人物のひとりである、このエリック・シェノーの新作は、そうしたダイナミックな動きを見せているシーンから生まれたものである。『ギターと声』というタイトル通り、パーソナルな雰囲気をまとった作品ではあるが、サイケデリックなエフェクトを施したエレクトリック・ギターと素朴に爪弾かれるアコースティック・ギター、そしてネオ・クラシカルなストリングスが巧みに重ねあわされた、幽玄で幻想的な世界は一方でとてつもない拡がりを感じさせる。


EricChenaux
Eric Chenaux


それは、同じく弦楽器の多重録音の美しさを追求した、M・ウォードの初期作やサム・アミドンの諸作、あるいはダーティ・プロジェクターズのベーシスト、ナット・ボールドウィンのチェロ弾き語りのソロ作にも通じる内容だが、もうひとつ、『ギターと声』というタイトルで思い出されるのが、カエターノ・ヴェローゾがプロデュースしたジョアン・ジルベルトの『声とギター』だ。『声とギター』はそれこそシンプルなアルバムだが、例えば、ストリングスを伴った『Amoroso』の美学に通じるところはないか。エリック・シェノーの同僚、ライアン・ドライヴァーはA Ryan Driver Quartetでジョアンの「E Preciso Perdoar」をカヴァーしているが、それだけではなく、サンドロ・ペリ 『Impossible Spaces』 で聞かれるドメニコやペドロ・サーといったブラジル新世代と共振する感覚や、ダーティ・プロジェクターズに大きな影響を与えているデヴィッド・バーンがカエターノと共演アルバムを作る背景に、共通するものはないか。具体的な例示がなかなか難しいのだけれど、そんなことまで夢想させる豊かな作品で、トロントのいまを知る意味でも、広く聞かれるべき一枚だと思う。