
フローラルの専門店

調べてみると(Meditation さんにはお世話になった)、このMacintosh Plusと情報デスクVirtualは、同じアメリカ西海岸の女性(ネカマかもしれない)による別名義だった。彼女の名前は明らかにされていないが、New Dreams Ltd. という「会社」の「関連会社」として、Macintosh Plus、情報デスクVIRTUALのほか、Vektroid、Laserdisc Visions、Fuji Grid TV、Initiation Tape、Esc 不在、Sacred Tapestry という名義で活動していることがわかった(彼女のタンブラー参照)。Vektroidはチルウェイヴ寄りのシンセ音楽(Toro Y Moi「Still Sound」のリミックスもしている)、Fuji Grid TVは日本のCMなどの音声サンプル中心であるなどの違いはあるが、クレジットが明示されていないサンプリングをスクリューし、カット・アップしたものがほとんど。つまり、名義を変える必要性がはっきりと見当たらない。なぜ、彼女は作品ごとに違う名前を使うのだろうか?
インターネット社会とニューエイジ・リバイバル
情報を無駄に増やすため、ではないか。現代社会は情報社会だ。インターネットを始めとしたマス・メディアは日々新たなニュースを量産し、SNSやソーシャル・メディアの発達が情報経路をあらゆるところに敷き詰め、「情報社会」という言葉自体が人々を情報の取得にけしかける。一方で、弱肉強食のグローバル資本主義社会にあって、本当に重要な情報というのは極めて少数の人間が握り、一般市民はそれにアクセスするどころか、存在すら知りえ得ない。能動的に取得しているつもりの情報も、メディアのフィルターを通したものにすぎないし、その真偽だって確かではない。そんな情報社会批判すらもありきたりなものに聞こえてしまう状況に対する嘲笑。New Dreams Ltd. が次から次へと名前を変える意図はここにあるのではないか。僕はこの記事を書くにあたって、Beer On The RugやNew Dreams Ltd.周辺についてネットで調べたのだが、細かく、複雑で、膨大な情報の海に、ずぶずぶと溺れてしまいそうだった。

ニューエイジとはニューエイジ運動のことであり、音楽ジャンルとしてのニューエイジのことでもある。ウィキペディアから引くと、「ニューエイジ運動は、60年代のカウンターカルチャーをその直接の起源とする。物質的な思考のみでなく、超自然的・精神的な思想をもって既存の文明や科学、政治体制などに批判を加え、それらから解放された、真に自由で人間的な生き方を模索しようとする運動」のこと。自然回帰や人間力といったものを思想の中心に据え、エコロジー、菜食主義、潜在能力、東洋思想、神秘主義などを標榜した運動のことだ。つまりそれは、資本主義社会、情報社会からの逸脱であり、New Dreams Ltd.の音楽活動の中心にあるものと同じである。
ただし、いまでもエコロジーやロハスや自己啓発みたいなかたちで継続しているように、それは簡単に危ない方向に転がりうる。自然や人間や神秘といった美辞麗句は最強の金儲けの道具となり、カルト教団を生み、オリエンタリズムを助長する。音楽ジャンルとしてのニューエイジもそうだ。初期シンセサイザー音楽や現代音楽、アンビエントなどが含まれる場合もあるが、狭義としては、レーベル、ウィンダム・ヒルに代表される、洗練された、インストゥルメンタル中心のムード音楽を指す。しかし、上の「Windham Hill Medley (ウィンダム・ヒル メドレー)」をご覧いただければわかるように、これは“癒し”を掲げた当たり障りのない、漂白された音楽に過ぎない。New Dreams Ltd.を始め、Vaporwaveと括られる面々は、このつまらない音楽をサンプリングする。ただし、どろっどろにスクリューし、ざくざくとカット・アップして。ピッチがずれ、ガタガタになった癒しの音楽は、どんな意味を持つだろう?

Vaporwaveって何だ?
Vaporwaveの主要アーティストとしては、まずJames Ferraroが挙げられる。「☣ NEW AGE PLAYBOY ☣」の異名を持つ彼も、膨大な量の音源を残しているが、2011年リリースの『Far Side Virtual』はニューエイジ音楽を中心としたサンプリングをカットアップし、雑多に組み合わせて創り上げた、巨大なコーラジュのようなアルバムだった。今年、新プロジェクト、BODYGUARD名義でリリースした『SILICA GEL』も、これからリリース予定の新作『HYDRATION ♲ : SAVE THE PLANET ☮』(セイヴ・ザ・プラネット!)からの数曲も、ブラック・ミュージック寄りではあるが、サンプリングやニュー・エイジ的な音色のシンセを元に、ダークなコズミック・サウンドを実現していた。

このほかにも、bandcampのVaporwaveタグやLast.fmのVaporwaveページ、またHi-Hi-Whoopee さんが同じくVaporwaveを取り上げたこちらの記事をみれば、いくらでも怪しい音源が載っている。

これら、Vaporwaveと呼ばれるミュージシャンに通低するのは、ニューエイジ/ニューエイジ音楽に対する批判的参照である。彼らはジャケットや曲名で(変な)日本語を多用する。それはファッションとしての日本語流行に加え、日本を情報社会の象徴と捉えた結果であり、ニューエイジの東洋趣味のパロディである。彼らは美しい言葉で人の心の隙につけ込む、ニューエイジの闇の部分を、批判的に引用することで、その美しい仮面を剥ぎとってみせる。ウィッチハウス(Tri Angle的なものとは違う方)やピラミッドなど、ニューエイジの再来のようなブームが起きていることも関係しているかもしれない。ピラミッドを掲げたり、オカルティックな雰囲気を醸す彼らのほとんどは無邪気だろうが、そこを牽制する意味合いもありそうではある。

すべてはNU AGE

Vaporwaveという未知のジャンルを知りたいがためにインターネットの情報の海を延々と泳ぎ続けた結果、愛聴しているミュージシャンにぶつかったことは、衝撃が大きかった。しかし、それだけではない。このJoseph Volmerを改めて調べてみると、男性版New Dreams Ltd.のような人だったのである。もともと、Police Academy 6でチルウェイヴ寄りの活動をしていたり、lost planetというヒップホップ・デュオを組んでいることは知っていたが、Party Trash、Police Academy 6、Virgin Spirit、lost planetのほかにも、Skylines、clearling、Ener Y Deci、Joseph Volmer and Eric Fourman、Inert Ingredients、THOED MYNDEZ...と、多数の名義を使い分けて音源をリリースしまくる、インターネット・モンスターだったのだ。得意のスクリュー・ミックス、ウィッチハウスやドローンなどのダークなスタイルのものがほとんどだが、clearlingなどは瞑想を誘う現代のニューエイジとも言えるもの。もう、すべてはニューエイジでつながっているのだ。すべてまとめて、新時代のニューエイジ=NU AGEと呼んでしまおう。
Genre-Specific Xperience sampler by Fatima Al Qadiri

Oneohtrix Point NeverとHype Williamsのこと書き忘れた...
コメント
コメント一覧 (2)
Vaporwaveシーンにいるとこの周辺はなぜか女性アーティストやプロデューサーが非常に多いと感じます。
コメントありがとうございます。
エントリを書いた当時は本名までたどり着きませんでした...
Ramona Huntleyというんですね、勉強になります!