自主レーベル〈New Age Tapes〉を立ち上げ2000年半ばより40以上にも及ぶ名義やプロジェクトで作品を量産、80年代をソースとしたニューエイジやシンセポップのサウンドやスタイルを用い、ヴェイパー・ウェイヴの先駆けとして時代の空気を常に批判性のあるシニカルな切り口で10年代USインディ・シーンにおいて絶大な賞賛を得る孤高のミュージシャン、ビデオ・アーティストでもあるNYを拠点とするアヴァンギャルドな多作家。後に〈Underwater Peoples〉からもリリースとなった 自身のレーベル〈Muscleworks Inc.〉からの話題作『On Air 』(2009)を皮切りに、〈Olde English Spelling Bee〉、そして〈Hippos In Tanks〉など現行インディ・シーンの先鋭的レーベルからアルバムを発表。それまでのローファイから一転し、擬似的なデジタル音を用い話題作となった同レーベルからの『 Far Side Virtual 』(2011)は英WIRE マガジンの年間チャート第一位を獲得、 続く『Sushi』(2012)ではエレクトロニックなビート作品を発表、 そして今年の6月に発表されたミックステープ『Cold』ではR&B / ヒップホップ / エレクトロへとアプローチ、大都市の夜を舞台とした暗黒の世界へと深化。 その続編とも言える今作は808やサンプリングを使ったヒップホップのプロダクションを下地に、 R&Bのクリシェでもあるオートチューンやスクリュー・エフェクト、力のないか細いボーカル、情景を映し出すフィールド・レコーディングやノイズ、意味深な言葉を連発するPCボイス、ストリングス、ピアノ、ベルなどゴシックな雰囲気漂う重厚で荘厳な旋律のクラシカルなサンプリング、 淡々とした機会的でプラスティックな冷たい都会の情景と日常、孤独と欲望でひしめき合う刹那的な熱い都会の感情とドラマ、そしてテレビのニュースやインターネットが複雑なレイヤーで入り組んだ、資本主義経済が崩れ落ち暗黒の時代を迎えた現代における大都会のディストピアを描いた唯一無二の傑作へ。 https://soundcloud.com/pdis_inpartmaint/sets/james-ferraro-nyc-hell-3-00-am

10/27発売、USインディ・シーンのアヴァンギャルドな多作家、ジェイムス・フェラーロの『ニューヨーク・シティ、午前3時の地獄』 のライナーノーツを書かせていただきました。今年リリースしたミックステープ『Cold』が年間ベスト級の一枚だったので期待していましたが、その『Cold』の方向性をより深化させた内容になっており、はっきり言って傑作です。

40以上にも及ぶ名義に、それ以上の作品数。過去の作品は皮肉と諧謔で満ち溢れ、冗談と本気が入り混じる、一聴してもよくわからないものばかり。ヴェイパーウェイヴの祖のような扱いも受けるジェイムス・フェラーロはなかなかとっつきにくいミュージシャンですが、2011年のBebetune$名義の作品以降明らかに作風を転換。最新のヒップホップやベース・ミュージックを歪に取り入れ、持ち前の前衛性と聴きやすさとのバランスを絶妙にとった作品が続いていました。『Cold』とこの新作ではさらに最近流行りのインディ・R&Bにまで手を出し、オートチューンによるヴォーカルも全編で披露。ライナーでも触れましたが、カニエ・ウェスト『808s & Heartbreak』や『Yeezus』のダークサイドのようなアルバムと言っていいかも知れません。
 





舞台はタイトル通り、午前3時のニューヨーク。人工的な街並、金、麻薬、暴力、売春婦、頬のこけたモデル。昼間は活気に溢れるニューヨークが深夜3時に見せるまったく違う顔。文字通りの闇に映し出されるのは、汚れた欲望、歪んだ価値観、悲しき孤独。自分の出身地であるニューヨークが深夜に見せる陰鬱で冷たい暗闇を、捩れたビートや生々しいフィールド・レコーディング、重厚なオーケストラや朧げなオートチューン・ヴォーカルを用いて描き出していくさまは圧巻です。

ライナーは当初の予定の倍近い文字数で書かせていただきました。かなり自由に書かせてもらっていますが、大事なポイントについては触れたつもりです。コンセプト含め楽しむという意味で、ぜひ国内盤をお聴きになってみていただければ幸いです。というか、ボーナストラック5曲もありますし。
 
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