人は誰も、母親になろう、父親になろうと思って育ってくる人はいません。人間として生まれて育っていく過程において無意識のうちに育つもののように思いますし、女性の場合は、DNAの陰謀も深く関わってきます。

妊娠すると、女性の身体はホルモンの影響で急速に変化していきます。エストロゲン・プロゲステロンなどの女性ホルモンや成長ホルモンが大量に分泌され、乳腺が増え、おっぱいが大きくなって痛くなり、体つきは丸くなり、お尻も大きくなります。また、生命の源とも言われるプロラクチンが水分の代謝を調整して、身体が水っぽくなっていきます。本人が妊娠した事実を深く感じていなくても、母体は『赤ちゃんの栄養源としての身体』に作り替えられていくのです。DNAの仕業で、意識とは別に、肉体的に否応なく母親になるスイッチを入れられるというわけです。

妊娠に気付く過程としては、生理が止まったり、つわりやその他の症状が現れたりすることはもちろんなのですが、たいていの場合、まず自分の肉体に「何か変だな」と違和感を持つようです。そして、市販の妊娠診断薬を使い、「え? これって、もしかして…」と受診してみて初めて、「あぁ、やっぱり(赤ちゃんが)いたんだ」と確認するという流れが、ごく一般的のように思います。まだ妊娠が確定する前に、すでに肉体として『今までと違う自分』というものを感じているんですね。

ただし、この時点ではまだ『生命を受け入れる』と言うよりは、少しずつ『妊娠を受け入れる』という段階です。自分で診断薬を使った時、医師に妊娠を告げられた時、初めて赤ちゃんの映像を見たり心音を聴いたりした時…と言うふうに、ゆっくりだんだんと「赤ちゃんがいるらしい」という気持ちになっていきます。

また、この頃には、脳の中にプロラクチンの受容体が増えてきます。プロラクチンは養育作用を持つ母性ホルモンで、『優しさホルモン』とも呼ばれます。感受性が上がるもとでもあるため、この増加と共に肉体だけではなく精神的にも、だんだん母親の気分に変えられていきます。不思議なことに女性のDNAには、このようにして自然に母親になるような仕組みが刻み込まれているのです。