「子どもが生まれるとお母さんは子どもに没頭し、お父さんは仲間に戻る」という言葉があります。これは、家庭の中で、お母さんが子どもを抱え込み、子どもによって自分の存在感を感じることができる一方で、お父さんは役割を果たせなくて自分の居場所を作れず、会社(仕事仲間)や遊び仲間の中で自己実現しようとする姿ですね。

 では、家庭でのお父さんの役割とは何でしょう? 炊事、洗濯、お買い物? それともハウスキーピング? これらは全部、お母さんでもお父さんでもできることです。もちろん役割分担は必要ですが、お父さんでなければできないこととは、一体何でしょうか。

お父さんが子どもを育てるには、家庭(お母さんの心の中)に定住し、家族を守る覚悟が必要です。家族を守る覚悟が、家庭での父親の存在感を感じさせ、子どもの価値判断基準を作る基になるからです。そこでお父さん、例えば『我が家の家訓』を作ってみませんか。要するに家族の理念、あるいは旗印です。お父さんがそれに沿って行動することで、子どもの身にお父さんの生き方が染み着いていき、人生の道しるべとなってくれるでしょう。まさに、子どもの判断基準、つまり『人生の物差し』がお父さんの役割なのです。

それと同じくらい大切なのが、『男のロマン』です。子どもの頃からずっと持ち続けた夢や遊びを子どもと共感覚することです。「父の背中を観て子は育つ」と言われたのは、もうふた昔前のことです。確かに、働いているときの姿は誰もいちばん生き生きしていますから、気がみなぎっていて惚れ惚れすることでしょう。しかし今、子どもたちに父の働いている背中は見えません。家庭でくつろいでいる、あまりかっこよくない背中が見えるだけです。ここで、言葉が活躍するのです。

仕事のことを話し、小さい頃の夢を語り、自然の不思議について話す。これが、子どもの心に夢を育てます。食事にもたっぷり時間を掛けて、美味しさを言葉に出して共感覚する楽しみを味わいます。お父さんのそんな行動すべてが、子どもの感性のアンテナを育て、子どもの幸せにつながることでしょう。ただし、覚悟がなくてロマンだけに生きると、『男のロマン、妻の不満』になりかねませんから、要注意ですよ。

妊娠、出産、子育ての期間中、家の中では圧倒的にお母さん、女性が主役になります。『おんな性』が最大限に発揮される期間と言っていいでしょう。お父さんつまり男性は、主役であるお母さんの力が最大限に発揮されるための脇役だと考えてはいかがでしょうか。名脇役がいないと、主役は光りませんね。脇役、がんばれ!
 『だいじょうぶ!子どもは育つ』より