ジンジャーエールのblog

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狙われる日本の産業技術(北朝鮮編)Ⅱ

 以下は、日本の輸出入管理における安全保障を研究する一般財団法人安全保障貿易センターが発行するCISTECジャーナルの今年7月号に寄稿した「狙われる日本の産業技術」第2弾です。

 前回同様、中国と北朝鮮、近隣の共産圏2国が仕掛ける技術盗用手法に焦点をあてましたが、今回は軍事争議の喧しいなか、北朝鮮の軍事産業と日本からの科学技術移転を中心にしました。

 長文になりますので、中国編と北朝鮮編に分けて配信させていただきます。


【北朝鮮篇】


対北朝鮮独自制裁

 今年に入ってから相次ぐ北朝鮮の軍事威嚇行動に対し、関係各国は制裁圧力を強めている。

 1月6日、北朝鮮は国際社会の制止を振りきって4回目の核実験を行い、さらに2月には、「人工衛星の打ち上げ」と称して弾道ミサイル発射事件を強行した。これを受け、日本政府は2月10日、独自の制裁措置を発効する。官邸発表によれば、内容は以下の4項目である。

①人的往来の規制措置を実施。

②北朝鮮を仕向地とする支払手段等の携帯  輸出届出の下限金額を100円超から10万円 超に引き下げるとともに、人道目的かつ10 万円以下の場合を除き、北朝鮮向けの支払 を原則禁止。

③人道目的の船舶を含む全ての北朝鮮籍船  舶の入港を禁止するとともに、北朝鮮に寄  港した第三国籍船舶の入港を禁止。

④資産凍結の対象となる関連団体・個人を拡大。
 
 そして、①の「人的往来の規制」に関する内容をさらに詳細に見てゆくと、次のような項目がある。

 ①北朝鮮籍者の入国の原則禁止。
 ②在日北朝鮮当局職員及び当該職員が行う 当局職員としての活動を補佐する立場にあ る者の北朝鮮を渡航先とした再入国の原則 禁止(対象者を従来より拡大)。
 ③我が国から北朝鮮への渡航自粛要請。
 ④我が国国家公務員の北朝鮮渡航の原則見 合わせ。
 ⑤北朝鮮籍船舶の乗員等の上陸の原則禁止 ⑥「対北朝鮮の貿易・金融措置に違反し刑 の確定した外国人船員の上陸」及び「その ような刑の確定した在日外国人の北朝鮮を 渡航先とした再入国」の原則禁止。
 ⑦在日外国人の核・ミサイル技術者の北朝 鮮を渡航先とした再入国の禁止。

 以上である。


5人の在日科学者


 規制対象となった22人の在日朝鮮人のなかに、⑦の項目にあたる「核・ミサイル技術者」が5名いることは報道陣や関係者のあいだで制裁発効直後から早くも言われていたことだったが、4月の終盤に入ってようやくその5名の名前が判明した。

 制裁の対象となったのは、徐錫洪、徐判道、卞哲浩、李栄篤、梁徳次の5人。全員が朝鮮総連傘下の在日本朝鮮人科学技術協会(科協=KAST)に籍を置く在日朝鮮(韓国)人科学者たちだった。この5名に関しては、目的がどうあれ、北朝鮮へ渡航したことが判明した時点で、日本に帰ることはできない――ということだ。
 最初の2名、徐錫洪と徐判道の〝ミサイル兄弟〟については、2014年11月発行の本誌No.154で既報の通りである。前回は精確な固有名詞の特定を避け、「徐兄」「徐弟」として紹介したが、今回は報道等で5人の姓名がすでに公表されているので、本稿もそれに倣うことにする。


「徐兄」の正体


「徐兄」こと徐錫洪は東京大学工学部卒業後、同大生産技術研究所(生産研)勤務時の64年、「予燃焼室付きディーゼル機関の燃焼に関する研究」で工学博士号を取得。80年代半ばには、アメリカ動力機械学会賞を連名で受賞したこともある2サイクルエンジンの世界的権威だ。

 その徐錫洪が北朝鮮の軍事開発に大きな功績を残したのは、ミサイルエンジン分野においてだった。北朝鮮本国では、元山市に本社と工場を置く日朝合弁企業「金剛原動機合弁会社」で社長を務めた。この会社は、表向きトラクターなど農業機械のエンジンに用いる「金剛エンジン」を生産していることになっているが、じつはここが北朝鮮ミサイルの心臓部を製造するミサイルエンジン工場であることは、関係者のあいだで、広く知られている。

  同社はまた、経済産業省の外国エンドユーザーリストの309番に「大量破壊兵器開発に関与している懸念がある」として掲載されており、日本側の出資元は朝鮮総連の傘下にある在日本朝鮮人商工連合会である。そして、北朝鮮側出資元が朝鮮恩徳貿易会社なのだが、この会社は北朝鮮の最大産業である軍事工業の財政を司る「第2経済委員会」の傘下にあり、ここからも金剛原動機合弁会社が北朝鮮の軍事関連企業であること疑わせる。


人材派遣業も


 在日の朝鮮総連において徐錫洪の占める位置は、在日本朝鮮人科学技術協会(科協)では関東支部副会長、常任理事、副会長を務め、現在は顧問に収まっている。彼はまた、朝鮮総連直営企業である進栄商事で監査役をやっていたこともあるが、この会社はかつて日朝貿易最大手で総連の看板商社だった東海商事の後継企業であり、北朝鮮との貿易を手広く手がける商社であることは、前回報告した通りだ。

 徐錫洪はまた、総連とは別に、個人で会社を経営してもいた。
 2006年11月、川崎市に本社を置く大宝産業という会社が無許可で人材派遣業を営んでいたとして、神奈川県警に摘発された。この会社の社長だったのが徐錫洪で、世田谷区の自宅が労働者派遣法等の疑いで家宅捜索を受けたのだった。ガサ入れ当時は夫人が同社の社長を務めていた。

 大宝産業は1961年に早くも創業しており、モーターや発電機を製造する電気機械メーカーなどに人材を複数派遣していたという。

  ところが、この経営者夫妻が複数の人材を送り込んでいた先の1つが、群馬県太田市のモーター製造メーカーだったことが発覚する。そして、太田市の隣、多野郡吉井町には陸上自衛隊の兵器開発用実験施設があったのである。


「徐弟」の正体


 前回、「徐弟」として紹介した除判道も、やはり東大生産研の出身。広島大学工学部から生産研入りした。その後、財団法人・日本自動車研究所(旧財団法人・自動車高速試験場)では副部長まで勤め、また、石川県金沢市に所在する民間のエンジン研究所にも籍を置いたことがある。この研究所は、大手自動車メーカーから低公害エンジンの開発に関して依頼を受け、実験データの提供なども請け負っていた。そして93年、徐判道は北朝鮮から工学博士の共和国博士号を授与されてもいる。北朝鮮がスカッドミサイル、ノドン2号ミサイル、テポドン2号ミサイルと、立て続けに同時乱射して世界を震撼させた2006年の7月5日、修学旅行帰りの朝鮮高級学校の生徒たちと一緒に万景峰号から下船してきたのが、この除判道だった。

 除錫洪と同様、内燃機関(2サイクルエンジン)の専門家で、前述のとおり、2人は連名で米動力機械学会賞を受賞した。

 それだけではない。北の金剛原動機合弁会社では、除錫洪社長時代に除判道が副社長を務め、除錫洪が顧問の進栄商事でも除判道が役員をしている。そして、日本の公安機関によれば、98年8月末のテポドン1号発射実験前後の時期、この2人がやはり万景峰号で、新潟と元山のあいだを夥しい回数往復し、時には揃って帰国したというのだ。

 今回、この〝徐兄弟〟については、「5人の在日科学者」のなかに当然入っているだろう――と、当初から予想されていた。しかし、残りの3人ついては、まったくノーマークだった人物が浮上してきた。


京大研究機関のエリート准教授も
 


 今回はじめて名前が取り沙汰された1人が、京都大学原子炉実験所で原子力基礎工学分野の准教授の地位にある卞哲浩だ。

  キャリアを見ると、名古屋大学工学部の修士課程を経て、京都大学でエネルギー科学分野の博士号を取得した後、同実験所へと進んだ、とある。今回、対北朝鮮制裁の一環として同人に日本政府から再入国禁止令が出たことと併せ、この人物が北朝鮮の核開発に深く関与していたのではないかと想像させるのに充分な経歴ではある。――が、在日韓国系の『統一日報』が同実験所の広報担当に取材したところ、彼は2002年に助手として入所して以来、これまでの間、1度も訪朝歴はないという。

 卞から事情を聞いた同実験所によれば、韓国籍の彼は大学院時代に科協所属の研究者と懇意になり、その縁でいつの間にか科協のリストに名前が載っていたのではないか――というのが本人の説明だったということだったが……。

 しかし、産経新聞(5月2日)の報道によれば、卞哲浩は主に在日韓国朝鮮人の科学者を育成することを目的とした財団法人・金萬有科学振興会から核技術に関する研究で奨励金を受けていた事実が発覚した。

 日本での病院経営で財をなした金萬有は、総連結成以来個人献金としては最高額となる22億円を1982年に北朝鮮に寄付した。北朝鮮はこの資金により、1300床のベッドを備えた「金萬有病院」を平壌に設立した。金萬有はまた、1996年の食糧危機に北朝鮮にコメ1000tを送り、故金正日から「人民医師」の称号を送られるなど、北朝鮮の最高指導者とも近い関係にあった。

「2002年以降、北朝鮮への出国は一度もない」とは卞哲浩本人の弁だが、中国や欧米への出国は確認されており、それら第3国からの入北がないとは言い切れないし、実際、「2008年10月に中国経由で入北していた」との公安情報もある。  

 さらに、現在は韓国籍を持つ卞哲浩は、韓国に多数回出国し、同国の学術会議等に参加していた。韓国で学会発表し、ハングルの研究論文がネット上に掲載されれば、それは即座に北朝鮮にも情報が流れるということを意味する。そして、韓国情報機関関係者によれば、現代韓国アカデミズム界は「従北勢力」、あるいは「主思派」などと呼ばれる親北朝鮮勢力に汚染されており、「学会によっては、ソウルで講演するのは平壌で講演するのとほとんど変わらない」という。
 
「世界レベルの研究を」

 4人目の李栄篤は、現在、日本の大手メーカー系民間企業に勤務している。彼は、東京朝鮮中高級学校を出た後、埼玉大学理学部(物理学)に入学し、その後東京都立大学(現首都大学東京)大学院に転じて物理学を修めた。さらにはつくばの高エネルギー加速器研究機構や大阪大学の大学院にて研究員として勤務したこともある。

 見逃せないのは、李が原子核物理学等を研究するつくばの高エネルギー加速器研究機構に在籍していたことだ。ここは、2008年にノーベル賞を受賞した小林誠が特別名誉教授を務めるなど、日本の物理学分野でも屈指の先端技術を扱う研究機関である。

 李栄篤は朝鮮総連傘下の留学同(在日本朝鮮人留学生同盟)に所属していた。この組織は、在日コリアンでありながら日本の大学や専門学校等、日校(日本の教育機関をこう呼ぶ)に〝留学〟している在日学生らで構成されるが、事実上の主導権は朝鮮総連にある。そして その留学同の一員として都立大大学院に進む際、彼がこんな風に決意表明している記録が見つかった。

「大学では学業に専念する一方で、留学同活動に参加した。そこには日本の学校を卒業した青年も多く、彼らとの交流の必要性、大切さを感じた。大学院では、世界レベルの研究をし、その成果を統一祖国の繁栄に生かしていきたい」(『朝鮮新報』ウェブサイトより)

 若き日の在日物理学者は、そんな風に抱負を語っていたのだ。

 この李に、やはり『統一日報』が大阪大学を通じて今回の再入国禁止措置について取材申し込みしたところ、彼は「北朝鮮に行ったのは高校の修学旅行が最後であり、人違いである」と主張している――とのことだった。彼は民間企業に移る前に韓国籍に変更している。


「可能性は否定できない」


 以上、卞哲浩と李栄篤の2人は、30代と50代前半の若い世代の科学者だが、最後の梁徳次は1940年生まれで既に現役を引退しており、なぜこの人物が「再入国禁止」というかたちで制裁措置の対象に選ばれたのか、はっきりしていない。しかし、この梁は若かりし頃、名古屋大学プラズマ研究所(現・核融合科学研究所、岐阜県土岐市)に勤務していた経験があり、このあたりの経歴が、今回の制裁措置を招いたと言えそうだ。

 旧プラズマ研究所は、1961年に超高温プラズマの基礎研究を主に行うことを目的に設立された。当時、核融合の研究が世界レベルで加速化したことに由来する。55年、国連主宰の第1回原子力平和利用国際会議がジュネーブで開催されたが、その席上、議長を務めたインドのホーミ・バーバ博士は「核融合反応をエネルギー源として考える方法も、おそらく20年で成功するだろう」との発言を行った。これを契機に各国で核融合のエネルギー利用に関する研究がはじまったのだが、日本での草分けの1つがこのプラズマ研究所だったのである。ごく大雑把に言えば、核分裂の原理を応用するのが原爆であり、さらに加えて核融合の原理を応用するのが水爆だ。

 ということは、これまで名前の上がっていた除錫洪、除判道は北朝鮮のミサイル製造技術に、そして今回新たに名前が出た3人は北の核開発にその技能が寄与していたのではないかと疑われ、制裁対象として浮上したと見てまず間違いなさそうだ。

 去る5月8日、フジテレビの『新報道2001』に出演した柴山昌彦内閣総理大臣補佐官は、日本の現役国立大学教授らが北朝鮮の核ミサイル開発に関わっていた疑いについての論議の後、「日本の技術が北朝鮮に流出している可能性は否定できない」と発言した。


「水爆実験」は本当か?


 では、日本からの技術流出の可能性が根強く囁かれる北朝鮮の核開発は、現在どの程度の水準に達しているのか?

 1月6日、北朝鮮は第4回目の核実験、北朝鮮側によれば「水爆実験」を実施した。核分裂反応による原子爆弾に較べ、熱核融合反応を利用する水素爆弾の技術は遥かに複雑で、しかも高度だ。

 今回の核実験は、爆弾威力がさほど大きくないことから、米露などの「水爆先進国」では、北朝鮮側の発表に対して懐疑的である。ただし、水爆実験の前段階の実験を行なったという可能性ならまだ残っている。

 というのは、水爆とおなじ核融合を使った「ブースト型核分裂弾」の実験をやったのではないか――ということだ。ブースト型核分裂弾実験に成功すれば、水素爆弾の実用化も、もう目前である。水爆の威力は原爆の100~1000倍というのが世界的な常識だ。

 北朝鮮の核開発は、1950~60年代に隣の中国で毛沢東がはじめた核武装化計画に刺激を受けたものだが、それは弱小国が大国と伍して交渉を行うにあたっての唯一無二の外交カードであったからだ。

 以来、北朝鮮の核開発はおよそ半世紀にわたって継続され、特にここ数年は日進月歩で核分裂や核融合の技術が進んでいると考えていい。


過去4回の核実験


 北朝鮮は2006年から今年にかけて、10年のうちに4度の核実験を行ってきたが、実験を繰り返すごとに技術力は上がってきている。 ことに金正恩時代に入ってからというもの、各所での発言から、核保有に対する執着が格段に強まっている傾向が顕著に見受けられる。

 過去4回の核実験の内容を簡単に振り返ってみよう。


☆第1回/2006.1.9
 爆発威力はTNT火薬換算で1kt(1000トン)未満と見積もられ、小規模の核実験だった。プルトニウム中のプルトニウム239(Pu-239)の純度が低かったか、あるいは、プルトニウムの爆縮技術が不完全であったか、2通りの原因が考えられた。

☆第2回/2009.5.25
 Pu-239の純度を上げたプルトニウムを用い、さらに爆縮技術を改良することによって小型の原子爆弾を完成させた模様。爆発威力はTNT火薬換算で数ktと推定される。


☆第3回/2013.1.6
 使用核物質はプルトニウムではなく、ウランだったのではないか、との観測も流れている。実験は成功したと考えられる。爆発威力TNT火薬換算8kt(推定)。


☆第4回/2016.1.6
 やはりウランを使用した可能性が指摘されている。北朝鮮側は、「水爆実験」と発表。爆発威力はTNT火薬換算で6~12kt。米CNNは「水素爆弾の一部だけが作動した可能性がある」との米政府見解を伝えた。


 以上のように、北の核実験は、回を追うごとに爆発威力を増しており、最後的には水爆実験の片鱗すら見受けられるようになった。現在この時点でもその発展は進行形であるとみてまず間違いない。


核弾頭の小型化に成功


 今年4月7日、韓国政府報道官は外国人記者を前に、「北朝鮮が核弾頭を中距離ミサイルノドンに搭載できるほどまで小型化することに成功した可能性がある」との見解を発表した。

 それによれば、ノドンは重量1tの弾頭を搭載したまま2000km飛行が可能で、日本と韓国にある米軍基地も射程に入ると当局者は分析しているという。

 また同日のCNN報道によれば、北朝鮮の核戦力に関して米政府も同様の見方を示している。国防省デービス報道官は4月5日、記者団に対し、「北朝鮮はその能力があると言っており、我々はその言葉通りに受け止める必要がある。しかし、北朝鮮がその能力を実証するところまではまだ見ていない」と発言した。

 つまり、金正恩第一書記が3月に言及した通り、北朝鮮が核弾頭の小型化に成功したとの北朝鮮側の主張が真実として受け止められていることは、もはや世界レベルで常識化しつつあるということだ。

 これを受けて制裁の動きを強めているのは、わが国ばかりではない。3月の国連決議は北朝鮮への制裁強化を全会一致で採択し、これまで北朝鮮経済を裏で支えてきたと言われる中国ですら、北朝鮮との貿易を規制した。

「ワシントンまで到達可能」


 以上のように、北朝鮮の軍事産業は長年の懸案だった核弾頭の小型化をほぼ確実のものとしているものと目されるが、ではその弾頭を目的地まで正確に到達させるための運搬能力、すなわちミサイル技術、とくにICBM(大陸間弾道ミサイル)の進展具合はどうか?

 周知のように2月7日、北朝鮮は人工衛星光明星4号、即ち、テポドン2Aの進化型ミサイルの発射実験に成功した。前回、2012年12月の銀河3号=テポドン2号よりエンジン推進力が大きくなった。
 しかも今回は、3段式ロケットの3段目の切り離しにも正確に成功し、「人工衛星」と称する物体を軌道に載せた。これでアメリカ東海岸まで届く射程距離1万メートル以上の3段式ミサイル技術がほぼ完成したと考えられる。

 これを見越して対抗するかのようにアメリカは、1月の米韓合同軍事演習に戦略爆撃機を参加させた。北朝鮮が核実験を行なった直後、戦略核攻撃に使用可能なB52を韓国上空で低空飛行させ、核弾頭がワシントンDCやニューヨークに落ちた時の報復措置として、即座に平壌を叩く能力があることを示した。   また、今年4月、「金正日の料理人」こと藤本健二が訪朝して金正恩第一書記と面会したところ、彼は1月2月の核ミサイル実験について「カッとなって、やった」と語ったという。北朝鮮は昨年、アメリカに対し、繰り返し平和協定締結の打診をしていた。しかしアメリカのほうがまったく応じる姿勢を見せなかったので、その腹いせに核を爆破させ、ミサイルを打ち上げたというのだ。

 小型化に成功した核弾頭と、アメリカの中枢機能が位置する東海岸まで到達可能なミサイルを操るのが、この凶暴無類な〝若大将〟とあって、アメリカもいよいよ北朝鮮への武力介入を視野に入れはじめたように見える。今年に入り、米韓の軍関係者から「先制攻撃」の言葉を聞く機会が多くなった。
 
開発資金


 北朝鮮の核ミサイル開発に日本からの資金が大きく寄与したことは周知の事実だが、既に日本の朝鮮総連からの巨額援助が途絶えて久しい。ところが、折に触れて飢餓状況が伝えられる北朝鮮が、この間、大量破壊兵器(WMD)の開発を中断したという話は一向に聞こえてきたことがない。国際社会からの援助も途絶えているなか、一体北朝鮮はいかなる手段でWMD開発資金を捻出し、国家運営を継続しているのか?

 かつて、最大の外貨獲得手段と言われたのが、武器輸出である。主力はスカッドを中心とするミサイルで、主な輸出先は中東だった。10年ほど前には、このミサイル輸出が北朝鮮の外貨獲得額の4分の1から2分の1を占めると言われたこともあった。武器輸出の貿易高は表の統計には出てこないので、はっきりとした額は判らないが、現在でも「数百億円単位」というのが定説になっている。武器輸出で稼ぎだした利益は、そのほとんどが新たな兵器開発にまわされているものと見られる。つまりは、武器を売ってカネを稼ぎ、そのカネでさらなる新兵器を開発するという構図である。

 因みに、最大の外貨獲得手段とはいっても、北朝鮮はミサイルそのものを輸出しているわけではない。ここのところは誤解があるので少しばかり説明を加えると、北朝鮮ミサイルは「製品」として輸出されるのではなく、「ノ
ウハウ」として輸出されているのである。

 どういうことかといえば、北朝鮮は提携関係にある中東の国々と売買契約を結んだ後、各々の国に専門技術者を派遣し、現地で資材と原材料の調達から兵器の製造まで、完全パッケージ形式で生産指導を行うわけである。そうでなければ、ミサイルのような巨大な製品を数百機、数千機の単位で非合法的に輸出するのは不可能だ。

 2002年に1度、15発のスカッドミサイルと通常兵器を積んだ北朝鮮船がアラビア半島沖でスペインのフリーゲード艦に拿捕され、アメリカの軍艦に引き渡されるという事件があった。しかし、この事件は本来の〝輸出ルート〟をカムフラージュするため、周到に準備された〝囮輸出〟であった可能性が高い。


鉱物輸出、開城工業団地、労働力輸出


 北朝鮮の対外貿易で最も大きいのは、中国との取引である。制裁発動前、中朝貿易の取引高は、輸出入併せて年間6200億円だった。もちろん、この中には、麻薬などの密輸品は含まれていない。中国に向けて輸出していたなかで、最大の売物は石炭、鉄鉱石、ニッケル、マグネサイト他、ありとあらゆる種類の地下資源だ。そのなかにはウラン資源も含まれる。

 特に石炭は中国向け輸出の主力を占めたが、今年3月、国連で対北朝鮮制裁決議案が満場一致で採択され、さしもの中国もこれに背くわけにはいかなくなった。中国政府は国内関係各社・機関に「3月1日より北朝鮮産石炭の輸入を全面停止する」と方針を伝え、実際に北朝鮮からの石油輸入がストップした。北朝鮮側で石炭はじめ鉱物輸出権を事実上独占している人民軍と北朝鮮当局は現在大打撃を受けているものと予想される。

 北朝鮮が世界最大級のレアアース鉱床を持つことは、広く知られるようになった。 
 実際、2013年12月に現地で地質調査を行なった英企業(=SREミネラルズ社)によれば、平壌の西北に位置する鉱床に推定2億1600万トンのレアアースが眠っている可能性があるという。これが事実なら、全世界で確認されているレアアース埋蔵量(推定1億1000万トン)の約2倍であり、現在世界最大のレアアース大国である中国の約6倍となる。

 他に、韓国と共同運営している開城工業団地から入ってくる労働者の賃金が年間約130億円あった。また国連の北朝鮮人権状況特別報告によれば、北朝鮮が、ロシア、中国、ポーランド、モンゴル、さらにアフリカ諸国等、世界17カ国で派遣している出稼ぎ労働者の数は5万人以上にのぼると見積もられ、本国に送金される資金は年間12億~23億ドル(約1440億=2760億円)とみられると指摘した。
 これら幾つかの手段で捻出された外貨が、現在北朝鮮のWMD開発に資するものと見られている。

 しかし、国連制裁発動以降、中国ですら北朝鮮からの鉱物輸入を中止し、さらに韓国も開城工業団地プロジェクトを中断するなど、現在の北朝鮮が相当の経済打撃を受けているのは間違いない。


国会でも追及


 日本から北朝鮮に対する軍事的機微技術情報移転の可能性について、5月12日の衆院拉致問題特別委員会で、民主党の松原仁議員が政府に質問した。

 松原議員はまず在日本朝鮮人科学技術協会、即ち、科協についていかなる実態の団体かと質した。

「5人の科学者が再入国禁止措置をとられた在日本朝鮮科学技術者協会とは、一体どんな組織なのか?」

 これに対し、公安調査庁、警察庁の答えは「朝鮮総連の傘下団体であり、科学技術によって北朝鮮を支援する組織であると考えている」
 だった。さらに松原委員がこの団体が北朝鮮の大量破壊兵器開発に寄与していることはないのか?」と糺したところ、「重大な関心を持って見守っているところである」との回答があった。

 さらにその後、今回再入国禁止の制裁措置をとられた5人の在日科学者について触れ、彼らの持ち出す科学技術が北朝鮮の核開発やミサイル開発に与した可能性についても言及する。


「外為法に抵触」


 松原議員の質問は続く。

「共同通信の配信記事にもこういうのがありまして、北朝鮮に対する日本政府の独自制裁で、訪朝後の再入国が原則禁止された在日朝鮮人科学技術協会、科協ですね、5人のうち、5人と明確に書いてあります、1人はロケットエンジン開発の権威とされる東大出身の研究者、博士号を持っている、こういうふうに書いてあります。その人間が北朝鮮の金剛原動機という会社の役員を過去やっていたということでありまして、その金剛原動機というのは、日本側が日本の技術が漏れてはいけないというその中の1社になっておりまして、経済産業省が指定している309番目の会社になっているわけであります。こういった事実があるわけであります。
 京都大学であるとか他の大学や国公立の施設において、日本の技術を勉強しているところにおいて、北朝鮮の科協の人間がいて、それが事実上北朝鮮にそういった技術を持っていくということは、これは国際社会から見ても許されないし、日本の拉致問題という固有の問題がある我々からすれば、絶対に許されないことだろうと私は思っております」

 これに対して岸田文雄、加藤勝信両国務大臣は、当然のことながら「断固として許してならない」と述べた後、岸田大臣は、「(これら軍事転用可能な先端技術情報の持ち出しが)国連安保理決議1718c8(a)(2)、もしくは外為法25条の2に抵触する」と明言した。
 外為法に違反すれば、10年以下の懲役に相当する。


「ウリナラ科学技術トップ10」


 今回名前の挙がった5人のなかで、特に注目度の高かったのが、京大原子炉実験所で准教授を務める卞哲浩だった。
 朝鮮総連や科協との関係を否定した卞だったが、松原議員に情報提供したアジア調査機構の加藤健によれば、

「卞は、特例財団法人金萬有科学振興会から1997年と1999年の2度にわたり、原子物理学関連の論文で研究奨励金を70万円ずつ受けている。さらには、卞が所属していると言われた科協も、『学術報告会への助成』名目で毎年50万円受け取っている。また金萬有財団評議員に科協幹部が入っている」

 という。
 さらに松原委員の質問で興味を引いたのは、朝鮮総連傘下の朝鮮青年社が発行する在日青少年向け情報誌『セセデ』今年3月号に掲載された科協会長の黄喆洪による「ウリナラ(我が国)の科学技術 ザ・ベスト10」と題された解説記事に言及したことである。『セセデ』によれば、1947年生まれの黄会長は、朝大工学部卒。朝鮮人民共和国物理学博士号を取得後、朝大工学部講座長、副学部長を歴任したとある。

 黄会長の選定によれば、「最近5年間における共和国の総合的な科学技術発展ザ・ベスト10」の上位3位は、次のようなものだ。


第3位=プログラム開発


 黄会長によれば、北朝鮮には「赤い星」と呼ばれるウリ(我々)式OSがある。
 最新版の「Ver.3.0」は、データベース機能、セキュリティ支援、互換性が向上した上に、各種応用プログラムが充実。しかも、PC用とサーバ用の2種が開発された。

 WindowsでもMacでもない、独自のOS開発に力を入れているのは、やはり、閉鎖国家としての北朝鮮の特殊性に由来しているようだ。各国がサイバー空間を通じて、北朝鮮に対する情報工作にしのぎを削っており、「他国からのサイバー攻撃を躱すためにも独自のOSが必要」という発想なのだという。


第2位=CNC技術の発展と工場の現代化


 CNC=Computerized Numerical Controlとは、コンピューター支援による自動制御装置のことで、一般には機械制御の技術に用いられる言葉だが、北朝鮮では工場管理のオートメーション化も含めて「CNC」と総称している。1992年、北朝鮮はCNC工作機械部門で開発グループを組織し、2010年には9軸マシニングセンターを完成した。これは1台の工作機械でフライス削り、穴あけ、タップ立て、中ぐり、その他加工を集約的に作業できる、画期的システムだ。

 5軸以上の精密工作機械を商品として製作可能な国は世界でも10数カ国というから、北朝鮮の工作機械レベルは相当高いといえる。 一方、工場のCNC化は4段階に分かれ、レベル4の段階にあれば、コンピュータ制御により完全に無人化された工場で生産可能になる。北朝鮮では、一部の工場がその手前のレベル3、即ち、有人管理ではあるが、コンピュータ統合システム下で自動生産ができる段階に達しているという。熙川運河機械総合工場、平壌基礎食品工場、大同江果物総合加工工場などがCNC化された代表的工場であるといわれている。


第1位=人工衛星「光明星3」2号機、「光明星4」の打ち上げ


 そして、堂々の第1位が、北朝鮮が「人工衛星」と称する「光明星3,4」即ち、なんと、ミサイル発射実験の成功である。
 事実上、日本の技術でつくったような多段式ミサイルを「人工衛星」と言い換えて、臆面もなく「共和国の総合的な科学技術発展第1位」と賞賛している。

 黄会長は言う。

「人工地球衛星は最先端科学技術の象徴であり、機械工学、制御工学、電気工学、電子工学、電気工学、化学工学、材料工学、燃焼工学、情報通信工学、液体工学、地球科学、宇宙工学、システム工学など総合的科学技術が必須である。2012年12月12日に打ち上げられた衛星は、現在も地球の周りを元気に回り続けている。(略)いずれ大気圏に突入して燃え尽きるだろうという誹謗中傷が多々あった。しかし、米国のNASAでは「光明星3」号2号が打ち上げに成功した衛星であることを確認し、KMS3-2と命名した」

 このように、現実問題として北朝鮮の人工衛星=ミサイル技術は日進月歩の勢いで進化している。そして、さらなる進化形として、今年2月7日の「光明星4」号の打ち上げ実験も成功したことは、既述の通りである。3年前と較べ、運搬ロケットも衛星も大型化され、制御技術も格段の進歩を遂げている。

 わが国にとって、危険極まりない軍事的脅威を、科協会長は「これこそ、共和国が近年に達成した科学技術成果の代表格」として、大いに誇るのである。

 また、黄会長によれば、「最近5年間における共和国の総合的な科学技術発展」の第4位以下には次のようなものがあるという。


第4位=光ファイバー通信の利用


 黄会長によれば、北朝鮮のインフラ分野でもっとも進んでいるのが、通信関係だ。光ファイバーのケーブルは、すでに全国津々浦々に広がり、町村レベルにまで開通しているという。この光ファイバーの技術も、日本から在日系ハイテク企業が持ち込み、普及させたと言われる。
 北朝鮮では2010年の10月に金策総合大学で通信教育課程の講座が開設されていたが、その後、金日成総合大学、元山農業総合大学、韓徳洙平壌軽工業大学などにも通信教育課程が開かれることになった。
 さらには近年、通信画面を通じた遠隔医療の試みもはじまっている。北朝鮮には、金日成総合大学病院、金萬有病院、玉流児童病院などの高度医療病院があるが、これらの上級病院が地方の病院と高速回線で繋がって治療や手術の指導を行うなど、IT医療が開始されている。


第5位=石炭科学の発展

 黄会長によれば、2010年を前後して「チュチェ鉄」「チュチェ肥料」「チュチェ繊維」などの言葉が北朝鮮で持て囃されたという。外国からの輸入されたコークスなどに頼らない、100%国産の石炭燃料によって生産された産品のことで、彼らはこの国産燃料の使用を「チュチェ的技術」と呼んでいる。
 北朝鮮の豊富な石炭資源の存在はとみに知られてきており、現在は主に中国との貿易で外貨稼ぎの主力商品となっていることは既に触れた。

 しかし、そればかりではない。

 北朝鮮科学者たちは、石炭派生製品の新たな商品化にも取り組んでいる。例えばその一つに、「無煙炭ガス化による高湿空気燃焼技術」がある。無煙炭をガス化して、1000℃以上の高湿空気を発生させ、燃焼システムの効率化を促すのが目的だ。
 現在、経済制裁下にある北朝鮮では、今後輸入品である重油、コークスと決別しなければならないと強調されており、その代用として期待されているのが、無煙炭のガス化技術である。


「科協幻想」は禁物

 そして、6位以下には、「電子図書館、科学技術普及室の設立・運営」(第6位)、「重要生産設備と教育・文化施設、住宅の建設」(第7位)、「科学技術人材育成」(第8位)、「高麗薬・医学の発展」(第9位)、「体育科学の発展」(第10位)の順になっている。

 これらすべてが純粋に「科学技術発展」とと呼んでいいのか、少々疑問の残るところではあるが、しかし、意想外ともいえる北朝鮮科学分野の飛躍的な進歩に、多くの場面で在日科学者たちが日本から持ち出した「日本の技術」が大きく貢献していたことは、誰も否定出来ない。

 ただし、昨今の対北朝鮮制裁で「在日科学者再入国禁止」問題がクローズアップされ、その在日科学者たちの属していたということで、「科協」の名称が一人歩きし過ぎている感が強い。しかし、科協それ自体はそれほど結束のある組織というわけでも、求心力のある組織というわけでもない。彼ら在日科学者たちは、それぞれ個人商店として北朝鮮の科学技術部門、とりわけ軍事科学分野と直結しているから問題なのであって、科協という団体が組織としての意志をもって北朝鮮の軍事産業に参加しているわけではない。

 例えば、親朝派日本人の団体として、北朝鮮式社会主義を学ぶ「チュチェ件(主体思想研究会)」という組織があるが、これは「北朝鮮が利用できそうな日本人を集めておくプールのような役割」をしている。科協の性格も基本的にはこれと同様である。科協の在日科学者たちは「在日本朝鮮人科学技術技術協会」の名簿に名前が載っているというだけでは、それが直ちに北朝鮮の科学技術に直結しているか否かの判断はできない。ただし、科協の在日科学者が日本で目立った成果を上げれば、直ちに北朝鮮本国から目をつけられることになるのも、また事実である。❏

http://blog.livedoor.jp/nomuhat/archives/1060603032.html 

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