2014年夏、日本映画史に燦然と輝く一本の超大作が発表された。

その名は……

青鬼 スペシャル・エディション [Blu-ray]
入山杏奈
TCエンタテインメント
2014-12-10



「青鬼――アオオニ――」である。



「青鬼」といえば、謎解き脱出ゲームに「不定期に現れる追跡者から逃げる」というアクション要素を加味した、フリーゲームの金字塔である。ゲームそのもののみならず、二次創作やプレイ動画などでもおなじみであり、誰しも名前くらいは耳にしたことがあるのではなかろうか。

その「青鬼」が、待望の実写映画化を果たしたのだ!


……正直、厭な予感しかしない。


賢明なる諸氏は、常日頃の経験から「あっ、これはヤバいやつだ」と一発でお気付きになるだろう。
「君子危うきに近寄らず」とはよく言ったもので、普通はそこで引き返してしまう。

しかし、ここで遭えて正面から立ち向かうことにより得られるものがあるのではないか。
「火中の栗を拾う」などという言葉があるが、生の栗なんてそもそも食えないじゃないか。火中でよく焼けた栗は、拾うのに危険があったとしてもそちらのほうが旨いじゃないか。

と、いうわけでいざ!



……

………


うわっ、やっぱりダメだった!! OTL




<以下、作品の内容全体に触れます。万が一自分で結末を見たい方などがいればご注意ください>


本作の登場人物はゲームでもお馴染みのひろし、卓郎、美香、たけし、そして追加キャラクターのシュンとアンナである。
というか、こちらのシュンとアンナのほうが主人公である。
アンナを演じるのは入山安奈女史、元AKBで女優への転身を図っているのだろうか。
そして、シュン役は須賀健太氏であるが……記憶が正しければ映画「不安の種」(後日紹介予定)にも主演してなかったか。あれか、なんか最近キナ臭い仕事ばっかりやってないか。
ちなみに、他の面々はテニミュ俳優だとかそんな感じの人らしい。 

・アンナ:普通の子。直樹という弟を卓郎のイジメで亡くしている。霊感体質。
・シュン:根暗パソゲーオタ。作中ではゲーム「青鬼」の開発者。
・卓郎:超絶DQN。
・美香:DQNその2。卓郎の慰みモノ。
・たけし:DQNその3。立場が前二人に比べて弱い。
・ひろし:前半狂人、後半普通。

卓郎一派が想像を絶するDQNになっているが、元々のゲームでも旧版(Ver.1時点)では卓郎はいじめっ子であり、まぁそのへんはいい。
ただ、ひろしが凄まじい変人と化している。初登場時点で虫取りをしており、「素晴らしくないですかぁ?!昆虫の生態こそ生命の神秘!」「すみません、人間の習性に興味はないので……」などとまくし立てる。ど、どうした脳味噌野郎!取り柄だったはずの脳味噌が溶けてなくなってるぞ!?
ちなみに、さすがにこのキャラは扱い切れなかったのか、物語後半で虫オタク設定は消滅し、普通の高校生になってしまういやいや、一発撮りじゃないんだから……

本作であるが、「怯えたたけしがタンスに引きこもる」「入り口で妙な音を聞き、キッチンに行くと皿が割れていた」など、ゲームを知っていれば思わずニヤリとする場面が散りばめられている、否、そういう場面だけで構成されている。公式サイトのあおり文には「この謎を解かなくては、生きて出られない!」みたいなことが書いてあるが、謎を解くシーンは全く存在しない。というのも、ジェイルハウスで起きる出来事についてシュンが「これ、僕が作ったゲームのシナリオと同じだ!」などと言い、文字通り攻略サイトをガン見しながらのプレイ動画の如くサクサク進んでいくためだ。どれぐらいサクサクかを具体的に言うと、「ノーヒントで金庫の暗証番号を当てながら『次はピアノの鍵盤を液体洗剤が付いたハンカチで拭かなきゃ!』と呟いたかと思えば、階段の裏に置いてある液体洗剤に一直線、更に道に迷うことなくピアノ室へ直行する」のである。

……これ、誰が面白いんだ??


シュンが作ったゲームの世界に迷い込んだのか、とも思うが、DQN三人衆どころか仲良くしてくれるアンナや、創造主たるシュンまで青鬼に襲われるのだから一体これはどういうことだったのか。
全部見た私がこう言っていることからもわかるとおり、結局この疑問は最後まで解消されない。

たけしたちが盛大に絶叫しながら青鬼に喰われるシーンはわりと見所があるし、青鬼のCGは日本有数のCG会社(映画版GANTZで星人をつくってたとこ)だけあって非常にクオリティーが高い。いいところが全くないわけではないし、無理矢理褒めようと思えば褒められるのだが……映画「青鬼」は終盤に向けて一気に勢いを増していく。

たけしと美香が喰われた後、シュンの「これで地下室の扉が開く、そこから脱出口があるはずだ」という相変わらずのチートアドバイスに従って地下室に行くと、そこには序盤で行方不明になった卓郎が。ちょくちょく地下室で何か作業をしているシーンは映っていたが、ここでようやく合流となる。
アンナが卓郎の近くにあったダンボールを開くと……なんと、そこにはシュンの遺体が。
そう、卓郎はいじめの末に勢い余って殺害してしまったシュンの遺体を隠すためにジェイルハウスまでやってきていたのだ。
そして、今まで行動を共にしてきたシュンは、自分が死んだことに気付いていない幽霊だったのである!

……お、おう。

えーと、そうね。確かにね。見返すと、アンナ以外と会話してないのよ。確かに見えてない。うん、まぁそれはいいんだけど。何でシックスセンスもどきをやろうと思ったのかもよくわかんないけど。そんなことより何より、もっと重要な問題がある。それは、

卓郎は今の今まで地下室で何をしていたのか

ということである。

ダンボールに入っていたシュンの遺体は、頭から血を流して死んでいるだけで比較的綺麗な状態である。しかし、物語中盤で卓郎は「床にビニールシートを敷き、諸々の工具のようなものを用意し、何かをグチャグチャとかき混ぜるような、分解しているような音を立てて作業している」うえに、「一仕事終わったていで一服する」シーンがはっきりと収められている。一体卓郎は何をしていたと言うのか。

ここで一つの仮説が浮上してくる。即ち、「シュンの遺体をバラすシーンを撮ったけど、撮ってから『でも死体処理しちゃったらシュンがもう死んでるって気付けないじゃん』という話になったため、なかったことにした」のではないかというものである。

いくらなんでもプロの映画スタッフがこんなことをするなどとは信じたくないが、そう考えなくては全く辻褄が合わない。70分弱の尺において、卓郎の謎作業シーンは5分程度を占めており、全く意味がないシーンであろうはずはないのだが、絶望的なまでに何の意味もないのである。
アンナの弟である直樹もかつて卓郎のいじめにより死亡しているが、これはいじめられた末の自殺であり、遺体はとっくにお墓に入っている。地下室のシーンには影響しようがない。
「卓郎は普段からしょっちゅう人を殺していて、その度にジェイルハウス地下で死体を処分しているため、ここで処理していたのはシュンよりも前の犠牲者である」という言い訳も考え付くが、「じゃあシュンも一緒に処理しろよ」「そもそも以前の死体を置いとくなよ」としか言いようがない。

極めつけはラストシーンである(自分が死んでいると知ったシュンは成仏、秘密を知られた卓郎は激昂してアンナを殺そうとするが、良いタイミングで乱入してきた青鬼に喰われる、ひろしはアンナを逃がす時間稼ぎに喰われるため、この時点でアンナは一人)。自ら端の部屋に逃げ込んでしまったアンナ。逃げ道はなく、部屋の外では青鬼が徘徊しており、絶体絶命である。そんなとき、前にシュンの製作中のゲームをテストプレイさせてもらったときの記憶が頭をよぎる。

「逃げられない状態になってもゲームが詰んじゃわないように、自分から勇気を出して部屋を出れば即死しないように変則プログラムを組んでるんだよ」

自分から踏み出せば助かる――その言葉を信じ、アンナは意を決してドアノブに手をかける。
……気が付くと、アンナは映画冒頭の場面にいた。膝にはPC、隣にはシュン。
「何か……夢を見ていたような気がする」
一粒の涙を流しながら微笑むアンナ。そのPC画面には、「Game clear」と記されていた。

YU☆ME☆O☆CHI  \(^0^)/

平成も四捨五入して30年になるという時代に、清々しいまでの夢落ちを見せてくれました。
いや、一応「ゲームをクリアしたから助かって、全部元通りになったんだ」と言えなくもないし、「クリアはしてねーだろ」の突っ込みには「シュンのゲームは製作途中であり、丁度アンナが端の部屋を脱出するところまでしか出来上がっておらず(映画冒頭で、当該部分から「続きを完成させなきゃ」と言う場面があるので未完成なのは間違いない)、現状存在しているぶんのゲームは全てクリアしている」という反論もできる。
でも違う、そうじゃない。 大事なのはそこじゃない。

あ、ちなみに言い忘れていたが「そもそも舞台が洋館じゃない」。パッケージには不気味な洋館が映されているが、あんな洋館は一秒も映らない。ジェイルハウスは、廃工場と廃屋の中間地点ぐらいの、わりと狭い建物である。……そう、狭いため、青鬼との鬼ごっこが「同じところをグルグル回る」格好になるのである。いや、確かに実際にゲームやってるとそういう逃げ方になるけど。「原作再現!」ってそういうことじゃねーから。見ろよ、天井まで低いから青鬼さんがずっと首横に曲げて走ってんじゃねーか。横尊師かよ。
パッケージ繋がりでもう一つ言うと、青鬼が三体映っているが実際には一体しか出てこない。まぁ、最早この程度のパッケージ詐欺が今さらなんだというレベルであるが。「逃げろ、逃げまくれ」って書いてるけど、実際は見つかった時点で必殺だからほとんど逃げないし。


……さて、ごくごくざっと映画「青鬼」を紹介してきたが、いかがだったろうか。私の拙筆ではどうしてもこの作品の魅力を紹介しきれなかったことが悔やまれるため、是非一度、諸君の目で確かめていただきたい。諸君らの人生の貴重な70分をドブに放り捨ててみていただきたい。

(なお、おそらく大半の方はレンタルで見ることになるかと思うが、レンタル版はスタンダードエディションを使っているためかメニューが「本編再生」「音質切り替え」しかない。チャプターリストを見たい方は、絶賛発売中のスペシャルエディション(¥6000)をお買い求めいただきたい)


敬具、あなかしこ。