アメナクシテニジハナシ

一般内科,感染症,HIV,救急などの医学領域と個人的な趣味について

2011年02月

Bacillus cereus菌血症と温故知新(1)

感染症診療では①背景,②臓器,③微生物を把握することが重要です.それにより,自ずと適切な抗菌薬が決まります.微生物の感受性が手に入っている段階で,抗菌薬を決定(変更)するときには,その微生物に感受性があり,かつ歴史的にその臓器のその微生物による感染症に効果があることがわかっている抗菌薬を選択します.つまり先人の経験やデータを私たちは利用しているのです.

ところで,Bacillus cereusが血液培養から生えたらコンタミですか?
1/2セットから生えた場合は,コンタミのことが多いです(91.7%).ただ2/2セットから生えた場合は,起炎菌と考えた方が安全です.多くの場合はカテーテル関連血流感染(CR-BSI)です(末梢でも起きます).個人的には重篤感があって,血圧が下がったり,血小板が下がったりする印象があります(下記をみるとそうでもないようですが…).
Bacillus cereusに対する抗菌薬の使用については実は標準的な治療は明確には決まっていないようです.Bacillus cereusのCR-BSIに対して抗菌薬を使用するときには,感受性が出る前にはバンコマイシンを使うことが多いのですが,感受性が出たらどのようにde-escalation(defenitive therapy)をしますか?たとえばクリンダマイシンが感受性と帰ってきたら,クリンダマイシンを使いますか?それを知るにはクリンダマイシンを使ってCR-BSIが治るのだという,先人のデータが必要です.

CR-BSIではないのですが,同じ血流感染である感染性心内膜炎について,Johns-HopkinsのABX Guideには次のようにあります.
Successful treatment reported with either vancomycin or clindamycin.
参照文献の解説も付いていて,
Thirty eight patients series and literature review that suggests isolated bacillus bacteremia is of no significance and dose not require antibiotic therapy. Patients with endocarditis responded to vancomycin or clindamycin. Interestingly this may be one of the few times when clindamycin as a bacteriostatic agent has been recommended for the treatment of endocarditis.
とありました.この参照文献を読んでみました.
古い文献なので内容の丸飲みは注意ですが,いろいろと勉強になる記載もありました.

Medicine (Baltimore). 1987 May;66(3):218-23.
Serious infections caused by Bacillus species.
PMID: 3106749

Introduction
Bacillus spp.はユビキタスな菌.
・そのためコンタミとして扱われてきた.しかし,この10年で,その病原性が見直されてきている.
・これは38例の患者の非腸管Bacillus感染症のケースシリーズ.
・歴史:ユビキタスな菌なので,実際の感染症であることはまれであると広く認識されていた.1898年“unusual form of abscess”からBacillus anthracis similisと名付けられた細菌が分離された.1927年Bacillus subtilisによる致死性肺炎.その後,髄膜炎、心内膜炎,骨髄炎,再発性菌血症,眼感染症の報告.
・今回5病院の5年間の記録をreview.菌血症が多かったが,内臓,筋骨格,眼の感染症もあった.直接の死亡例はなかったが,固形臓器病変の重症度が高かった.固形臓器病変は通常は血行播種により起こり,ときどき直接の外傷で起きる.
・重症なBacillus属感染症はIVDU,血管内デバイス,外傷,顆粒球減少,鎌状赤血球症,AIDSの病歴のある患者に起きた.

Results
・30例(78.9%)の患者が菌血症を起こした.
・菌血症患者は2名を除いて,次の危険因子を1つ以上持っていた:血管内カテーテルIVDUの病歴悪性疾患
・IVDUの割合が多いにも関わらず(31.6%),心内膜炎は2例のみであった.3例が全眼球炎(全例が非可逆性の盲目),4例が骨髄炎を起こし,3例が重症外傷後.
・in vitroで最も有効な抗菌薬は,クリンダマイシンバンコマイシンゲンタマイシンのようだった.

菌血症(primary)と心内膜炎
2例症例提示あり,いずれもクリンダマイシン(+異物除去)で治療され治癒
・30例の菌血症患者のうち, 10例が現IVDU,14例が末梢あるいは中心静脈カテーテル留置,4例が担がん患者だった.
・菌血症患者で感染症を直接の結果として死亡したものはいなかった.
・4例は血管内デバイスの除去のみで,抗菌薬なしで,菌血症は解除された.
・一方で,10日間の適切な抗菌薬投与にも関わらず,微生物の陽性が続き,ペースメーカーと乳房インプラントの除去後に治癒した症例もある.
・抗菌薬の時代では,Bacillus spp.による孤発性菌血症が致死的になることはまれで,心内膜炎の合併も一般的ではない.

Discussion
・孤発性菌血症はたいてい容易に除菌された.
・以前の症例報告やケースシリーズでも孤発性菌血症は比較的予後が良いことが示されている.
・抗菌薬時代に合計7例のBacillus心内膜炎が報告されているが,全例がIVDUで,全例が治癒している.4例はクリンダマイシンで,1例がエリスロマイシンで,1例はセファゾリンで治療された(最後の例はBacillus subtilis,残りはB. cereus).
・私たちの経験では,Bacillusによる心内膜炎は起こるが,Bacillus菌血症に合併することは一般的ではないことが示唆された.
・一方で,最近のBacillus spp.のシリーズでは,心内膜炎はuncommonではなかった.
・院内の Bacillus菌血症において血管内デバイスの役割は強調するにふさわしい.
・14例の血管内デバイス留置例のうち,7例は,末梢静脈の排膿の培養により,あるいはカテーテル先端の半定量培養が15コロニー以上であることから,デバイスが菌血症のソースであることが示された.他の7例も,カテーテルがソースである可能性が高いと思われた.
・9例の悪性腫瘍あるいは好中球減少症の患者のうち,血管内デバイスのない菌血症患者だけが,発症時に好中球減少状態であった.
Bacillus spp.は顆粒球減少患者の日和見病原菌になりうる.私たちの症例では全例が生存したが,このグループは致死的になりうる,とくに肺炎のような内臓病変があったときに.
・primaryな菌血症と異なり,固形臓器の感染のある患者はしばしば重症度が高い.これらの感染症の多くは,とくに眼球炎は,血行性の起源である可能性が高くBacillus菌血症の間に内臓へ播種する頻度はわかっていない.
Bacillu属は眼の病原菌として認識されている.初期の報告では,Bacillus subtilisが多いが,これは恐らく誤った同定の結果であり,最近ではBacillus cereusが第一の病原菌と考えられている.
・眼感染症のほとんどが血行性に広がると考えられ,Bacillus菌血症の早期発見と早期治療はその発生頻度を下げるかもしれない.
・他の内臓病変は壊死する傾向にある.例えば,好中球減少患者の空洞を作る肺炎,壊死性の皮膚軟部組織感染症など.これらの感染症のいくつかも,恐らく血行性の起源である.
・他の内臓病変は穿孔性の外傷に関連しているようだ.
Bacillus属によるprimaryな菌血症は,ほとんど重症でないことは明確である.何人かの患者では,この菌血症は長い間耐えられるものである.一方で,眼や内臓に局所的な感染を起こしたときには,重症な壊死性感染症が起こり,重症度が増す.顆粒球減少症のBacillus菌血症もより重症な感染症となりうる.

治療
・治療を成功させる重要な側面は,感染しているあるいは感染が疑われる異物(カテーテルやインプラント)を除去すること.
・4例はカテーテル除去のみで治癒した.(下記注意参照)
・抗菌薬治療は好中球減少患者や固形臓器病変のある患者には必ず必要.後者は外科的なインターベンションもたいてい必要.
注意:真の菌血症であれば,孤発性の菌血症でも抗菌薬治療するのが現在のスタンダードです.)
・βラクタムがin vitroで有効であることはまれ.
・私たちの研究では,アミノグリコシド,クリンダマイシン,バンコマイシン,エリスロマイシン,クロラムフェニコールは一般的に感受性であった.
・一般的に,培養の結果が利用できるようになった時点で特異的な治療を行うことが適切であるくらい,感染は緩徐である(本当!?).Bacillus cereusのエンピリックなカバーは重症な眼球炎や好中球減少のがん患者で適応になる.エンピリックな治療よりも,この菌に病原性があることを認識することのほうが重要である.

ノロの下痢っていつまで続くの?

冬と言えばノロウイルス感染症のシーズンです.
小腸型のウイルス性胃腸炎ですので,急にゲーゲー吐いて,ピーピー下して,数日のうちに治るというのが典型例です.

アウトブレイクを疑う際には,カプランの診断基準というものがあって,
①症状の平均(中央値)期間が12~60時間
②半数以上の患者さんが嘔吐をしている
③潜伏期間の平均(中央値)が24~48時間
④便培養で原因細菌がみつからない
すべてを満たす場合の感度68%,特異度99%とされています.
やはり急にゲーゲー吐いて,ピーピー下して,数日のうちに治るというイメージです.

以前ノロウイルス感染症の患者さんをみた際に,下痢の持続が長く,本当にノロウイルス?と心配になったことがありました.

N Engl J Med. 2009 Oct 29;361(18):1776-85.
Norovirus gastroenteritis.
PMID: 19864676
には次のように記載があります.
(Table 1より)
Duration of illness
Typically 28-60 hr; longer than 3 days in 15% of cases; longer illness in immunocompromised persons and adults with underlying illnesses.
(本文中より)
The illness normally lasts only 2 to 3 days but can last longer (i.e., 4 to 6 days) in nosocomial outbreaks and among children younger than 11 years of age.

つまり15%くらいは3日より長く症状が続き,4~6日くらい続くこともあるようです.この記載の引用文献である下の2つの文献をさらに読むと,さらに面白い記述がありました.

Clin Infect Dis. 2002 Aug 1;35(3):246-53.
Natural history of human calicivirus infection: a prospective cohort study.
PMID: 12115089
・ノーウォーク様ウイルス感染(=ノロウイルス)に伴う臨床症状の続く中央値は5日間であった.
・症状の持続期間の中央値は,症状によって異なった.
・下痢が最も長く続き,中央値は4日間.しかし,調査終了となる28日まで認めるものもあった.
・嘔吐,嘔気,発熱は発症の初日に最初に起きた.
・全症状の持続期間の中央値は年齢とともに減る傾向にあった.すなわち,1歳未満の子供で6日間,1~4歳で4日間,5~11歳で5日間,12歳以上で3日間.
・ノーウォーク様ウイルス感染による症状は中央値で5日間観察された(前述)が,これは他で記載された期間よりも長い.
・ノーウォーク様ウイルス感染の経過に対する見識はボランティアによるいくつかの研究と疫学的研究から得られている.
・これらの研究は健常成人あるいは急性非細菌性胃腸炎のアウトブレイクが起きたリスクのあるコミュニティにフォーカスを当てており,12~48時間の潜伏期間のあとに24~72時間症状が続くことを示している.
・今回の研究の意外な結果は,その比較的長い症状の持続期間である.一般的には12~60時間と信じられていたが,今回の研究では5日間であった.
・疾患(ノーウォーク様ウイルス感染)は最初の5日間の下痢によって特徴づけられたが,28日間まで報告があった.
・嘔吐,嘔気,そして発熱は最初の1日に起きた.
・症状の持続期間の範囲の大きさは,異なったタイプのウイルスの症状の違いによって説明できるかもしれない.社会にはたくさんのジェノタイプが循環しているからである.
・症状の持続期間について,私たちの研究の結果と他で報告された研究の結果の違いは,私たちの研究でフォーカスを当てたのが,市中における感染症であるのに対し,他の研究は主にアウトブレイクや成人における実験的な感染による症状にフォーカスを当てたからかもしれない.
・子供のノーウォーク様ウイルス感染が多いにもかかわらず,成人もかなりの割合で発症する.
・血清学的研究では,ノーウォーク様ウイルスに対する抗体は,生涯の早期に獲得され,9~10歳でほぼ100%近くまで到達し,その抗体は終生残存することがわかっている.
・成人の症候性のノーウォーク様ウイルス感染がコモンであることを考えると,これらの広く行き渡った抗体は成人における防御免疫に関係していないようにみえる.
・健常者の実験的な感染の研究では,抗体の存在は感染の防御には関係しなかった.
・しかし年齢とともに症状の持続期間が減っていくことは,成人は部分的な防御能を持っていることを示している.

Clin Infect Dis. 2004 Aug 1;39(3):318-24.
Clinical manifestation of norovirus gastroenteritis in health care settings.
PMID: 15306997
・482名の病院職員,166名の施設職員,266名の施設入所者では,ノロウイルス胃腸炎の持続期間の中央値は2日間で,3日以内に75%が完全に回復した.
・730名の入院患者では,ノロウイルス胃腸炎の持続期間の中央値は3日で,これは他のグループよりも優位に長かった(P< .001).5日以内に75%が完全に回復した.
・ノロウイルスが確かめられたアウトブレイクにおいて,持続期間中央値は2日間,範囲は1~21日間,75パーセンタイルは4日間.
・病院職員,施設職員,施設入所者では,持続期間中央値は2日間(75パーセンタイルは3日間)であった.しかし,入院患者では持続期間中央値は3日間(75パーセンタイルは5日間)であった.
・高齢者グループ(85歳以上)のおける回復が最も遅く,入院患者のうちの40%が4日後にも依然として症状を認めた.
・カプランらが1982年に診断基準を開発した頃には,現代の分子解析やELISA法に基づいた確認と比べて,ウイルス学的な確認はより困難であった.
・おそらくさらに重要なのは,カプランらは彼らの古典的な研究において入院患者でのアウトブレイクを想定していなかった.
・私たちの研究から言えることは,カプランらの報告による持続期間の平均あるいは中央値が12~60時間という診断基準は入院患者のポピュレーションでは不正確ということだ.
・今回の研究では,持続期間の平均と中央値は,それぞれ80時間と72時間であった.
・(ただし今回の研究では)入院患者の背景についての情報(例えば入院した理由)は手に入らなかった.
・そうすると,入院患者の持続期間が長いのは背景によるものかもしれない.しかし,どのような状況がノロウイルス感染からの回復の遅延に関係するかは正確にはわからないままである.
・アウトブレイクに関連した症例はアウトブレイクにおいて発見された病原微生物(=ノロ)による感染以外の理由で症状を呈していた可能性もある.
・しかし,(Fig.2のように,)微生物学的に確認された症例でも,アウトブレイクに関連して臨床的に診断された症例と同様のことが観察されており,このようなことは主要バイアスとはならない.
・ノロウイルス胃腸炎の医学文献の記載のほとんどが健常成人のボランティアか個々のアウトブレイクにおいて得られたデータである.
・これらの観察の結果では,ノロウイルス胃腸炎は軽症で自然軽快する疾患で,その症状の持続期間は12~60時間で,治療なしに軽快するとされている.
・今回の研究では病院職員,施設職員,施設入所者の経過については,これらの記載に近い.(が,入院患者では違った.)

もちろん症状が続くような場合には,ノロウイルスだけでなく他の原因の可能性も十分に考えるべきですが,両者の文献から見えてくることは,
・カプランの診断基準の設定背景には,健常成人のボランティア,単一ウイルスによるアウトブレイク,市中の設定といったものがあり,高齢者・基礎疾患のある場合や,市中の場合ウイルスのタイプによって,そして院内アウトブレイクで,症状が長くなる可能性がある.
・症状のなかでも嘔吐は比較的急速に消えるのに対して,下痢は遷延しうる
といったことがわかりました.そういえば下痢が続いていた症例も嘔吐は最初の1日だけでした.
Clin Infect Dis. 2002 Aug 1;35(3):246-53.の文献のFig.2 A(Diarrhea),B(Vomit)のグラフはノロの症状の推移をみるのに役立つと思うので,興味のあるかたは調べてみてください(下記リンクにパワーポイントのスライドがあります).

Proportion of Norwalk-like virus (NLV) cases associated with diarrhea (A) or vomiting (B) in patients aged <1, 1–4, 5–11, and ≥12 years.

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