人工関節感染(Prosthetic Joint Infection:PJI)について下記の文献を読みました.

Clin Infect Dis. 2011 Aug;53(4):334-40.
Outcome and predictors of treatment failure in total hip/knee prosthetic joint infections due to Staphylococcus aureus.
PMID: 21810745

本文中とTable番号がずれていたり,Table中に脱字があったり,そもそもどうしてこんな構成なの?っていうTableだったり,なんだかなあといった感じでした(そのような文句を言える立場でもありませんが).

そのまえに.

PJIについては,そもそもその定義が難しいです.
関節液や組織の培養の感度も高くないようですし,aseptic looseningとの鑑別もそのために難しい.
抜去した人工関節を超音波処理するなど培養感度の向上を目指した工夫がなされているのも,そのためです.
関節液の細胞数をみるときもcut-offは低めに設定する必要があります.

とはいってもなんだかんだで診断基準が提唱されています.

・以下のいずれかで細菌を検出
 ①同一の細菌が2つ以上の関節液 or 人工物周囲の組織の培養から
 ②400mLの超音波処理した検体からの10mLあたり20CFU以上
・関節液が膿性である
・人工物周囲の組織の病理組織で急性の炎症が確認される
・人工物と交通する瘻孔がある

①は血液培養と同じような考え方です.つまり皮膚の常在菌が検出された場合に,それが真の原因菌がどうか判断が難しいからです.
ちなみにPJIは

Early(早期):術後3ヶ月以内
Delayed(遅発性):術後3ヶ月~24ヶ月未満
Late(晩期):術後24ヶ月以降
と分けますが,EarlyとDelayedは術部由来の感染症で,Lateは菌血症からの波及が主な原因です.Earlyでは黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原性の強い菌,Delayedではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やP. acnesなど病原性の弱い菌が頻度として多くなります.
原因菌の頻度は
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌:30~43%
黄色ブドウ球菌:12~23%
正常細菌叢による混合感染:10~11%
連鎖球菌:9~10%
グラム陰性桿菌:3~6%
腸球菌:3~7%
嫌気性菌:2~4%
検出されず(臨床上PJI):約11%(→上述の通常培養の感度の問題が浮上するわけ)

さて治療となるとますます混沌とした世界となります.
ブドウ球菌のPJIではキードラッグはリファンピシンです.
バイオフィルムのなかの細菌に殺菌的に作用するにはリファンピシンが圧倒的に優れているからです.他の抗菌薬は殺菌的に作用すると言われているものでも,バイオフィルムのなかでは殺菌的に作用するレベルまで濃度が上がらないようです.
ただしリファンピシンはとても耐性化しやすい薬剤なので,感受性がある抗菌薬と必ず併用します.従って原因菌が同定され,その感受性がわかってからのdefinitive therapyが出番となります.
外科的な治療は
①人工関節は留置したままデブリする.→debridement, antibiotics & implant retention(DAIR
②1回の手術で人工関節を抜いて,新しいものを入れる.→1期置換
③1回目の手術で人工関節を抜いて,抗菌薬治療して,そのあと2回目の手術で新しいものを入れる.→2期置換
④人工関節は抜くが,新しいものは入れない.
の4種類に分かれます.
④は機能的予後が見込めない場合やいままで何度もtryしてダメだった例が適応です.
①~③の選択が問題です.2期置換は感染の面からは一番安全でしょうが,関節がないあいだのADL低下の問題や,2回の手術の侵襲の問題,入院期間の延長など問題も多いです.
そこである程度の条件を満たせば①や②を選ぶというのが,考え方です.

詳しくは
・N Engl J Med. 2004 Oct 14;351(16):1645-54. PMID: 15483283
・N Engl J Med. 2009 Aug 20;361(8):787-94. PMID: 19692690
・感染症のコントラバーシー(医学書院)
・ブログ『感染症科 不定期日報』
http://tothehappyfew.tea-nifty.com/_idfuteikinippou/2010/01/post-46f3.html
http://tothehappyfew.tea-nifty.com/_idfuteikinippou/2010/01/post-1600.html
などがとても勉強になります.NEJMの2004年のreviewではDAIRの条件のひとつには有症状期間が3週間以内とあります.
詳細なストラテジーについては各施設で少しずつ異なるようです.

さて,いままでのPJI文献では,いろいろな原因菌のPJIを合わせて研究したものやコアグラーゼ陰性ブドウ球菌+黄色ブドウ球菌といったものばかりで,臨床上インパクトの大きい黄色ブドウ球菌だけを集めたものはありませんでした(たぶん).
そこで今回の文献がくるわけです.
黄色ブドウ球菌のPJI(混合感染も含む)98例を2004年のNEJMのreviewに従って治療し,後向きに研究したものです.

aureus PJI

よって全く目新しいものはありませんが,黄色ブドウ球菌でも手術法の選定のストラテジーは同じでよさそうであり,RFPはキードラッグであることが再確認された.といったところでしょうか.
ただし,『感染症のコントラバーシー』では,黄色ブドウ球菌のPJIの場合のDAIRの条件のひとつは有症状期間が5日以内 (2日以内がより推奨)となっています.自分はこちらの方が安全と思っています.