冬と言えばノロウイルス感染症のシーズンです.
小腸型のウイルス性胃腸炎ですので,急にゲーゲー吐いて,ピーピー下して,数日のうちに治るというのが典型例です.

アウトブレイクを疑う際には,カプランの診断基準というものがあって,
①症状の平均(中央値)期間が12~60時間
②半数以上の患者さんが嘔吐をしている
③潜伏期間の平均(中央値)が24~48時間
④便培養で原因細菌がみつからない
すべてを満たす場合の感度68%,特異度99%とされています.
やはり急にゲーゲー吐いて,ピーピー下して,数日のうちに治るというイメージです.

以前ノロウイルス感染症の患者さんをみた際に,下痢の持続が長く,本当にノロウイルス?と心配になったことがありました.

N Engl J Med. 2009 Oct 29;361(18):1776-85.
Norovirus gastroenteritis.
PMID: 19864676
には次のように記載があります.
(Table 1より)
Duration of illness
Typically 28-60 hr; longer than 3 days in 15% of cases; longer illness in immunocompromised persons and adults with underlying illnesses.
(本文中より)
The illness normally lasts only 2 to 3 days but can last longer (i.e., 4 to 6 days) in nosocomial outbreaks and among children younger than 11 years of age.

つまり15%くらいは3日より長く症状が続き,4~6日くらい続くこともあるようです.この記載の引用文献である下の2つの文献をさらに読むと,さらに面白い記述がありました.

Clin Infect Dis. 2002 Aug 1;35(3):246-53.
Natural history of human calicivirus infection: a prospective cohort study.
PMID: 12115089
・ノーウォーク様ウイルス感染(=ノロウイルス)に伴う臨床症状の続く中央値は5日間であった.
・症状の持続期間の中央値は,症状によって異なった.
・下痢が最も長く続き,中央値は4日間.しかし,調査終了となる28日まで認めるものもあった.
・嘔吐,嘔気,発熱は発症の初日に最初に起きた.
・全症状の持続期間の中央値は年齢とともに減る傾向にあった.すなわち,1歳未満の子供で6日間,1~4歳で4日間,5~11歳で5日間,12歳以上で3日間.
・ノーウォーク様ウイルス感染による症状は中央値で5日間観察された(前述)が,これは他で記載された期間よりも長い.
・ノーウォーク様ウイルス感染の経過に対する見識はボランティアによるいくつかの研究と疫学的研究から得られている.
・これらの研究は健常成人あるいは急性非細菌性胃腸炎のアウトブレイクが起きたリスクのあるコミュニティにフォーカスを当てており,12~48時間の潜伏期間のあとに24~72時間症状が続くことを示している.
・今回の研究の意外な結果は,その比較的長い症状の持続期間である.一般的には12~60時間と信じられていたが,今回の研究では5日間であった.
・疾患(ノーウォーク様ウイルス感染)は最初の5日間の下痢によって特徴づけられたが,28日間まで報告があった.
・嘔吐,嘔気,そして発熱は最初の1日に起きた.
・症状の持続期間の範囲の大きさは,異なったタイプのウイルスの症状の違いによって説明できるかもしれない.社会にはたくさんのジェノタイプが循環しているからである.
・症状の持続期間について,私たちの研究の結果と他で報告された研究の結果の違いは,私たちの研究でフォーカスを当てたのが,市中における感染症であるのに対し,他の研究は主にアウトブレイクや成人における実験的な感染による症状にフォーカスを当てたからかもしれない.
・子供のノーウォーク様ウイルス感染が多いにもかかわらず,成人もかなりの割合で発症する.
・血清学的研究では,ノーウォーク様ウイルスに対する抗体は,生涯の早期に獲得され,9~10歳でほぼ100%近くまで到達し,その抗体は終生残存することがわかっている.
・成人の症候性のノーウォーク様ウイルス感染がコモンであることを考えると,これらの広く行き渡った抗体は成人における防御免疫に関係していないようにみえる.
・健常者の実験的な感染の研究では,抗体の存在は感染の防御には関係しなかった.
・しかし年齢とともに症状の持続期間が減っていくことは,成人は部分的な防御能を持っていることを示している.

Clin Infect Dis. 2004 Aug 1;39(3):318-24.
Clinical manifestation of norovirus gastroenteritis in health care settings.
PMID: 15306997
・482名の病院職員,166名の施設職員,266名の施設入所者では,ノロウイルス胃腸炎の持続期間の中央値は2日間で,3日以内に75%が完全に回復した.
・730名の入院患者では,ノロウイルス胃腸炎の持続期間の中央値は3日で,これは他のグループよりも優位に長かった(P< .001).5日以内に75%が完全に回復した.
・ノロウイルスが確かめられたアウトブレイクにおいて,持続期間中央値は2日間,範囲は1~21日間,75パーセンタイルは4日間.
・病院職員,施設職員,施設入所者では,持続期間中央値は2日間(75パーセンタイルは3日間)であった.しかし,入院患者では持続期間中央値は3日間(75パーセンタイルは5日間)であった.
・高齢者グループ(85歳以上)のおける回復が最も遅く,入院患者のうちの40%が4日後にも依然として症状を認めた.
・カプランらが1982年に診断基準を開発した頃には,現代の分子解析やELISA法に基づいた確認と比べて,ウイルス学的な確認はより困難であった.
・おそらくさらに重要なのは,カプランらは彼らの古典的な研究において入院患者でのアウトブレイクを想定していなかった.
・私たちの研究から言えることは,カプランらの報告による持続期間の平均あるいは中央値が12~60時間という診断基準は入院患者のポピュレーションでは不正確ということだ.
・今回の研究では,持続期間の平均と中央値は,それぞれ80時間と72時間であった.
・(ただし今回の研究では)入院患者の背景についての情報(例えば入院した理由)は手に入らなかった.
・そうすると,入院患者の持続期間が長いのは背景によるものかもしれない.しかし,どのような状況がノロウイルス感染からの回復の遅延に関係するかは正確にはわからないままである.
・アウトブレイクに関連した症例はアウトブレイクにおいて発見された病原微生物(=ノロ)による感染以外の理由で症状を呈していた可能性もある.
・しかし,(Fig.2のように,)微生物学的に確認された症例でも,アウトブレイクに関連して臨床的に診断された症例と同様のことが観察されており,このようなことは主要バイアスとはならない.
・ノロウイルス胃腸炎の医学文献の記載のほとんどが健常成人のボランティアか個々のアウトブレイクにおいて得られたデータである.
・これらの観察の結果では,ノロウイルス胃腸炎は軽症で自然軽快する疾患で,その症状の持続期間は12~60時間で,治療なしに軽快するとされている.
・今回の研究では病院職員,施設職員,施設入所者の経過については,これらの記載に近い.(が,入院患者では違った.)

もちろん症状が続くような場合には,ノロウイルスだけでなく他の原因の可能性も十分に考えるべきですが,両者の文献から見えてくることは,
・カプランの診断基準の設定背景には,健常成人のボランティア,単一ウイルスによるアウトブレイク,市中の設定といったものがあり,高齢者・基礎疾患のある場合や,市中の場合ウイルスのタイプによって,そして院内アウトブレイクで,症状が長くなる可能性がある.
・症状のなかでも嘔吐は比較的急速に消えるのに対して,下痢は遷延しうる
といったことがわかりました.そういえば下痢が続いていた症例も嘔吐は最初の1日だけでした.
Clin Infect Dis. 2002 Aug 1;35(3):246-53.の文献のFig.2 A(Diarrhea),B(Vomit)のグラフはノロの症状の推移をみるのに役立つと思うので,興味のあるかたは調べてみてください(下記リンクにパワーポイントのスライドがあります).

Proportion of Norwalk-like virus (NLV) cases associated with diarrhea (A) or vomiting (B) in patients aged <1, 1–4, 5–11, and ≥12 years.