感染性心内膜炎の診療上いつも悩ましいのは,いつ外科治療に踏み切るかという点です.早期の段階から心臓外科医に連絡を取って方針を協議しておくことが望ましく,自施設に心臓外科がない場合には,無理に頑張ることはせずに手術可能な医療機関への転院を検討する必要があります.
手術に対する閾値は低く設定しておいたほうがよく,新しく置換される弁が再感染する可能性が2~3%程度であるのに対し,手術適応の理由として最多であるうっ血性心不全は,保存的治療の場合には死亡率は51%にのぼるとされています(IDATENセミナーテキスト編集委員会 編集:市中感染症診療の考え方と進め方,医学書院,2009)
どのような患者にいつ外科治療をするかについて
Circulation. 2010 Mar 9;121(9):1141-52.
Surgery for infective endocarditis: who and when?
PMID: 20212293
にまとまっています.記事の一番最後にまとめておきます.
この文献のなかにも記載があるのですが,よく問題になるのは,頭蓋内合併症を起こした際には手術はどうするべきか,ということです.
・合併症として脳出血を伴う場合には,(進行する心不全がない限り)少なくとも1ヶ月は手術を延期すべきとされています.
・症候性の脳梗塞合併例での手術のタイミングについては,十分なデータがなく議論の余地はありますが,他の理由による緊急性がないのなら,2~4週間後の方が術後の神経症状の増悪が少ないという報告があります.
・無症候性の脳塞栓や一過性脳虚血発作で手術を遅らせる必要はないとされています.
・頭蓋内感染性動脈瘤が原因の出血であれば,動脈瘤の手術や血管内治療の後であれば,早期の心臓手術は可能かもしれないとされています.
つまり,頭に何かあるかどうかだけで議論しても仕方なくて,それが何なのかまできちんと押さえておく必要があります.
J Neurol. 2004 Oct;251(10):1220-6.
Timing the valve replacement in infective endocarditis involving the brain.
PMID: 15503101
のFig.2にまとまっていますので,興味のあるかたは是非ご一読を.
●感染性心内膜炎の手術適応
うっ血性心不全
・重症AR/MR,疣贅による弁閉塞(稀)によるうっ血性心不全
・左室拡張末期圧の上昇や肺高血圧のエコー所見を伴う重症AR/MR
・人工弁の離開や閉塞によるうっ血性心不全
弁輪部拡大
・ほとんど場合,膿瘍形成あるいは瘻管形成を伴う
全身性塞栓
・適切な抗菌薬治療においても再発する塞栓
・抗菌薬治療開始後,1回以上の症候性あるいは無症候性塞栓の後でも大きな疣贅(>10mm)
・大きな疣贅と合併症の他の予測因子の存在
・塞栓症を合併してない巨大疣贅(>15mm),とくに弁温存手術が可能な場合(controversial)
脳血管合併症
・他の手術適応があれば無症候性の神経学的合併症あるいは一過性脳虚血発作があっても手術適応
・脳出血が除外されており,神経学的合併症が重症(例えば昏睡)でなければ,虚血性脳卒中があっても他の手術適応があれば手術適応
持続性敗血症
・適切な抗菌薬内容でも発熱あるいは血液培養陽性が5~7日以上続く場合.疣贅や手術を要する他病変が持続し,敗血症の原因が心外にあることが除外されている場合が前提
・再発性のIE,とくに感受性の連鎖球菌以外の起炎菌あるいは人工弁の場合
難治性微生物
・S. aureusによるIE(人工弁症例や左心系の自然弁のほとんどの症例)
・他の侵攻性の微生物によるIE(Brucella,Staphylococcus lugdunensis)
・多剤耐性微生物(MRSA,VRE)によるIEやグラム陰性菌による稀な感染症によるIE
・Pseudomonas aeruginosaによるIE
・真菌によるIE
・Q熱によるIE
人工弁の心内膜炎
・早期の人工弁心内膜炎の実質的全症例
・S. aureusによる人工弁心内膜炎の実質的全症例
・人工弁の離開や閉塞による心不全を合併した後期の人工弁心内膜炎
●感染性心内膜炎の手術のタイミング
Emergency surgery(24時間以内)
・自然弁(大動脈弁または僧帽弁)あるいは人工弁の心内膜炎で,次の原因で重症うっ血性心不全あるいは心原性ショックを合併した場合:
急性の弁逆流
重症の人工弁機能不全(離開または閉塞)
心腔あるいは心周囲への瘻孔形成
Urgent surgery(数日以内)
・うっ血性心不全が続く,血行力学的耐性の乏しい徴候を伴う,あるいは膿瘍を伴う自然弁/人工弁の心内膜炎
・ブドウ球菌あるいはグラム陰性菌による人工弁の心内膜炎
・塞栓症の伴う大きな疣贅(>10mm)
・合併症の他の予測因子を伴う大きな疣贅(>10mm)
・保存的な手術が可能な巨大疣贅(>15mm)
・コントロール不能な感染を伴う大きな膿瘍and/or 弁輪部病変
Early elective surgery(入院中)
・うっ血性心不全が薬物治療に良好に反応した重症AR/MR
・弁離開あるいはうっ血性心不全を合併したが薬物治療に良好に反応した人工弁の心内膜炎
・膿瘍や弁輪部拡大の存在
・心外のフォーカスが除外された持続的感染
・真菌あるいは薬物治療に耐性の感染
手術に対する閾値は低く設定しておいたほうがよく,新しく置換される弁が再感染する可能性が2~3%程度であるのに対し,手術適応の理由として最多であるうっ血性心不全は,保存的治療の場合には死亡率は51%にのぼるとされています(IDATENセミナーテキスト編集委員会 編集:市中感染症診療の考え方と進め方,医学書院,2009)
どのような患者にいつ外科治療をするかについて
Circulation. 2010 Mar 9;121(9):1141-52.
Surgery for infective endocarditis: who and when?
PMID: 20212293
にまとまっています.記事の一番最後にまとめておきます.
この文献のなかにも記載があるのですが,よく問題になるのは,頭蓋内合併症を起こした際には手術はどうするべきか,ということです.
・合併症として脳出血を伴う場合には,(進行する心不全がない限り)少なくとも1ヶ月は手術を延期すべきとされています.
・症候性の脳梗塞合併例での手術のタイミングについては,十分なデータがなく議論の余地はありますが,他の理由による緊急性がないのなら,2~4週間後の方が術後の神経症状の増悪が少ないという報告があります.
・無症候性の脳塞栓や一過性脳虚血発作で手術を遅らせる必要はないとされています.
・頭蓋内感染性動脈瘤が原因の出血であれば,動脈瘤の手術や血管内治療の後であれば,早期の心臓手術は可能かもしれないとされています.
つまり,頭に何かあるかどうかだけで議論しても仕方なくて,それが何なのかまできちんと押さえておく必要があります.
J Neurol. 2004 Oct;251(10):1220-6.
Timing the valve replacement in infective endocarditis involving the brain.
PMID: 15503101
のFig.2にまとまっていますので,興味のあるかたは是非ご一読を.
●感染性心内膜炎の手術適応
うっ血性心不全
・重症AR/MR,疣贅による弁閉塞(稀)によるうっ血性心不全
・左室拡張末期圧の上昇や肺高血圧のエコー所見を伴う重症AR/MR
・人工弁の離開や閉塞によるうっ血性心不全
弁輪部拡大
・ほとんど場合,膿瘍形成あるいは瘻管形成を伴う
全身性塞栓
・適切な抗菌薬治療においても再発する塞栓
・抗菌薬治療開始後,1回以上の症候性あるいは無症候性塞栓の後でも大きな疣贅(>10mm)
・大きな疣贅と合併症の他の予測因子の存在
・塞栓症を合併してない巨大疣贅(>15mm),とくに弁温存手術が可能な場合(controversial)
脳血管合併症
・他の手術適応があれば無症候性の神経学的合併症あるいは一過性脳虚血発作があっても手術適応
・脳出血が除外されており,神経学的合併症が重症(例えば昏睡)でなければ,虚血性脳卒中があっても他の手術適応があれば手術適応
持続性敗血症
・適切な抗菌薬内容でも発熱あるいは血液培養陽性が5~7日以上続く場合.疣贅や手術を要する他病変が持続し,敗血症の原因が心外にあることが除外されている場合が前提
・再発性のIE,とくに感受性の連鎖球菌以外の起炎菌あるいは人工弁の場合
難治性微生物
・S. aureusによるIE(人工弁症例や左心系の自然弁のほとんどの症例)
・他の侵攻性の微生物によるIE(Brucella,Staphylococcus lugdunensis)
・多剤耐性微生物(MRSA,VRE)によるIEやグラム陰性菌による稀な感染症によるIE
・Pseudomonas aeruginosaによるIE
・真菌によるIE
・Q熱によるIE
人工弁の心内膜炎
・早期の人工弁心内膜炎の実質的全症例
・S. aureusによる人工弁心内膜炎の実質的全症例
・人工弁の離開や閉塞による心不全を合併した後期の人工弁心内膜炎
●感染性心内膜炎の手術のタイミング
Emergency surgery(24時間以内)
・自然弁(大動脈弁または僧帽弁)あるいは人工弁の心内膜炎で,次の原因で重症うっ血性心不全あるいは心原性ショックを合併した場合:
急性の弁逆流
重症の人工弁機能不全(離開または閉塞)
心腔あるいは心周囲への瘻孔形成
Urgent surgery(数日以内)
・うっ血性心不全が続く,血行力学的耐性の乏しい徴候を伴う,あるいは膿瘍を伴う自然弁/人工弁の心内膜炎
・ブドウ球菌あるいはグラム陰性菌による人工弁の心内膜炎
・塞栓症の伴う大きな疣贅(>10mm)
・合併症の他の予測因子を伴う大きな疣贅(>10mm)
・保存的な手術が可能な巨大疣贅(>15mm)
・コントロール不能な感染を伴う大きな膿瘍and/or 弁輪部病変
Early elective surgery(入院中)
・うっ血性心不全が薬物治療に良好に反応した重症AR/MR
・弁離開あるいはうっ血性心不全を合併したが薬物治療に良好に反応した人工弁の心内膜炎
・膿瘍や弁輪部拡大の存在
・心外のフォーカスが除外された持続的感染
・真菌あるいは薬物治療に耐性の感染
ありがとうございます!