高齢者の方が肺炎の疑いで入院する際に「念のため」喀痰の抗酸菌塗抹・培養検査を1回だけ,一般細菌塗抹・培養と一緒にオーダーしておくことは,よくあることのように思います.とくに1回の塗抹陰性を確認してから入院したりするわけですが,このpracticeは適切なのでしょうか.
(文献の図表を掲載しておらず,わかりにくいところもあるかと思いますがご容赦ください.)

●教科書的な記載
『結核診療プラクティカルガイドブック』には次のように記載がなされています.下線については別途記載します.
直接塗抹と寒天培地培養での検痰の回数と累積陽性率を図4.6に示す.集菌塗抹や液体培地でもほぼ同様の傾向(JCLM.2000.38.3608)を示す.一般に6~8回以上の検痰は無意味とされる.検体回数として通常3回検痰による塗抹培養同定検査が推奨されるが,初回の喀痰検査で塗抹陽性であれば3回目の喀痰培養の意義は(用いる培地に関係なく)乏しい(結核.2006.81.511).複数検体で抗酸菌が培養された場合,同定検査は1回のみでもよい.核酸増幅法を複数回行う有用性は少ない(経験的に活動性結核であっても1回目陰性なら2回目も90%前後は陰性).

図4.6 検痰回数と塗沫および培養の累積陽性率

図をみると塗抹3回の累積陽性率は60%弱.文献3にも約60%という記載あり.

●集菌塗抹について
集菌とは,NaOHやN-acetyl-L-cysteineで不要なものを取り除き,そのうえ遠心することで抗酸菌を集めたうえで検鏡することをいいます.
とある病院の副院長が抗酸菌を専門とした先生で,その講義を聞いた際には「集菌したほうが検出率が上がるから,そうすればいいのに」とおっしゃっていました.
結核診療プラクティカルガイドブックの著者伊藤邦彦先生の文献でも次にようにあります.
集菌塗抹/蛍光染色による2回の喀痰検査の感度は以前の直接塗抹/Ziehl-Neelsen染色による3回の喀痰検査の感度と同等かそれ以上になるものと推測された。
http://jdream2.jst.go.jp/jdream/action/JD71001Disp?APP=jdream&action=reflink&origin=JGLOBAL&versiono=1.0&lang-japanese&db=JMEDPlus&doc=06A0394976&fulllink=no&md5=4f7d720ba197cea6ca7012e0844f064f

ちなみにこの研究では,喀痰結核菌陽性肺結核患者(Gold Standard)362症例中3回の検痰で集菌塗抹(蛍光染色)陽性であったのは304例(84.0%の累積陽性率).
つまり『結核診療プラクティカルガイドブック』には「同様の傾向」とあるものの,集菌したほうが感度は高くなることが予想されます.

●最近のトレンド
今回調べた文献も多くの場合は集菌法も用いていました.
そもそも「3回」という推奨は,CDCやATSが行ってきたもののようですが,そのデータは1940~1950年代のもので,技術の向上した現代では適さないのかもしれず(文献3),「2回と3回は同等である」というデータが出てきているようなのです(文献4).

●地域差
検査特性がどのような母集団における検査特性であるかを知っていないと,そのデータの有用性は低くなります.よって文献を考察する際には,その研究が行われた地域の結核の有病率・発症率を考慮しておく必要があります.

図4 先進諸国およびアジア諸国の結核罹患率
http://www.jata.or.jp/rit/rj/2006toukei.pdf

日本はトルコと似たような結核罹患率で,米国よりはかなり高いことがわかります.
以上のような前提のもとでいくつかの文献を見てみると….

Jpn J Infect Dis. 2007 May;60(2-3):73-5.
Is it valuable to examine more than one sputum smear per patient for the diagnosis of pulmonary tuberculosis?
PMID: 17515635


これはトルコの文献なので,結核罹患率は日本とほぼ同様だと思います.
トルコは3回も検査していたら技師さんのheavy workloadになるから,3回の検査がいつでもできるわけではないようです.
抗酸菌塗抹は集菌塗抹(Kinyoun染色)を用いています.以下が結果です.
165例の喀痰抗酸菌培養陽性患者(Gold Standard)(菌同定までしているという記載があるのでおそらく結核)のうち,70例が塗抹1回以上陽性(累積陽性率42%).
70例のうち68例が1回目で陽性,2例が2回目で陽性,3回目で陽性であったのは0例.
ちなみに培養は,165例のうち155例が1回目,9例が2回目,1例が3回目で陽性.
ということで,塗抹では2回施行と3回施行は同等の効果という結論.
3回目の検痰は塗抹では付加価値なし.培養ならあるかもしれない.
この研究のように塗抹1回目でみつかることが多いという結果は,他の研究でも報告あり.
Discussionにおいて参照された文献の一つでは,培養をGold Standardとして2回目塗抹の感度のincremental yieldは9%,3回目塗抹の感度のincremental yield 4%.もう一つの文献では,3回目塗抹のincremental yieldは0.7~7.2%.

Fig.1. The flow chart for the results of the smear examinations

累積陽性率がやけに低いですが,陽性のものはほとんどが1回目で陽性という結果でした.これをみると最初のQ.で挙げた「入院時に1回」というのはありかもしれません.

Am J Infect Control. 2005 Feb;33(1):58-61.
How many sputum specimens are necessary to diagnose pulmonary tuberculosis?
PMID: 15685138


米国の研究ですが,high incidenceなurban medical centerで行ったと書いてあります.
培養陽性をGold Standardとし,集菌塗抹(蛍光染色)をみています.
HIVとnon-HIVでも比べています.
結果の表を示します.

Table 2. AFB smear sensitivity in culture-confirmed PTB cases

425例の喀痰培養陽性肺結核で集菌塗抹の感度を示しています.注意すべきは1回目の感度の計算には,採痰回数が1回だけの例,2回だけの例,3回の例をすべて合わせて計算しているのですが,2回目,3回目の感度の計算には,採痰の回数が3回の例だけを使って計算している点です.つまり表のsmear 1とsmear 2,3は全く別の話.
3回目だけ塗抹陽性となったのはわずか採痰回数が3回の147例のうち4例だけで,3回目の喀痰は診断的な付加価値がないとの結果です.
またnon-HIVの方が塗抹陽性になりやすい,X線に所見があるほうが塗抹陽性になりやすいという結果になっています.

この文献のDiscussionでも記されていますが,喀痰培養の陽性例を集めたこのような研究では,感度を求めることはできても特異度(negative in health)を求めることはできません.

そこで次のようなprospective studyがありました.

BMC Infect Dis. 2009 May 6;9:53.
Sensitivity of direct versus concentrated sputum smear microscopy in HIV-infected patients suspected of having pulmonary tuberculosis.
PMID: 19419537


これは「HIV患者では集菌法は直接塗抹と変わらない」という結果の文献なのですが….
(さっきと話が違う!HIVだから?)
2週間以上咳が続くHIV患者で行ったprospective studyなので特異度もわかります.
ただし,2週間以上咳が続く結核疑いのHIV患者という前提での話ということになります.

Table 2: Sensitivity and Specificity of Concentrated and Direct smear, By Reference Outcome

痰は1回の早朝痰を用いています.
表がわかりにくいですが,A. SensitivityのtotalにGold Standardを満たした患者数が,B. SpecificityのtotalにGold Standardを満たさなかった患者数が記されています.
例えば培養陽性を肺結核のGold Standardとしたとき,肺結核は170名,非肺結核は109名ということになります(肺結核多っ!)
Gold Standardの培養にはBALの培養も含まれています.
行(横)のpositive/negativeが集菌塗抹,列(縦)のpositive/negativeが直接塗抹を表しています.
直接塗抹も集菌塗抹も特異度は9割くらいといったところのようです.

ここで喀痰グラム染色の感度・特異度の話を思い出しました.
確かEBMジャーナルの岩田健太郎先生の原稿にも感度には幅があるが,概ね特異度は良いという記載があったと思います.塗抹検査の宿命?
ということは結核susp.の患者で抗酸菌塗抹の特異度9割くらいというのは,それほど幅のあるものではないと予想されます(感覚的にも).

あとはさらっと流しますが(というかちゃんと読んでないだけ…),
Int J Tuberc Lung Dis. 2001 Sep;5(9):855-60.
Yield of smear, culture and amplification tests from repeated sputum induction for the diagnosis of pulmonary tuberculosis.
PMID: 11573898


Table1に誘発喀痰の集菌塗抹,培養,PCRの累積陽性率が載っています.塗抹結果良すぎ?

Int J Tuberc Lung Dis. 2007 May;11(5):485-95.
Yield of serial sputum specimen examinations in the diagnosis of pulmonary tuberculosis: a systematic review.
PMID: 17439669


3回目の塗抹検査の感度のincremental yieldは2~5%ほどで,2回だけでもいいのではという結論.集菌かどうかは不明.

Infect Control Hosp Epidemiol. 2002 Mar;23(3):141-4.
Preventing nosocomial transmission of pulmonary tuberculosis: when may isolation be discontinued for patients with suspected tuberculosis?
PMID: 11918119


このstudy自体は微妙な気がした.Discussionには,他のmeta-analysisでも2回と3回では肺結核診断の感度は同じという結果という記載あり.areas with a low to moderate prevalenceなら2回でよい?

●まとめ
抗酸菌が塗抹で陽性になるときには初回に陽性になることが多い.
集菌塗抹だと感度が上がるかもしれず(とくにnon-HIV),集菌なら2回だけでもいいかもしれない.2回目と3回目で感度は変わらないというデータが多い.
3回の直接塗抹では感度は概ね6割と言われていたが,とある日本のデータでは集菌法3回では8割強,誘発痰ならもっといいかも?
→実はAm J Infect Control. 2005 Feb;33(1):58-61のTable2っていい線いっている?
特異度はきっと9割くらい.

Q.の直接的な回答にはなっていませんが,以上を踏まえてよろしければみなさんも考えてみてください.

参考文献
1) 結核診療プラクティカルガイドブック 伊藤邦彦著 南江堂
2) 結核.2006 May;81(5):357-62.肺結核の感染性評価に必要な喀痰集菌塗抹検査の回数
3) Infect Control Hosp Epidemiol. 2002 Mar;23(3):141-4.Preventing nosocomial transmission of pulmonary tuberculosis: when may isolation be discontinued for patients with suspected tuberculosis? PMID: 11918119
4) Am J Infect Control. 2005 Feb;33(1):58-61.How many sputum specimens are necessary to diagnose pulmonary tuberculosis? PMID: 15685138
5) Jpn J Infect Dis. 2007 May;60(2-3):73-5.Is it valuable to examine more than one sputum smear per patient for the diagnosis of pulmonary tuberculosis? PMID: 17515635
6) BMC Infect Dis. 2009 May 6;9:53.Sensitivity of direct versus concentrated sputum smear microscopy in HIV-infected patients suspected of having pulmonary tuberculosis. PMID: 19419537
7) Int J Tuberc Lung Dis. 2001 Sep;5(9):855-60.Yield of smear, culture and amplification tests from repeated sputum induction for the diagnosis of pulmonary tuberculosis. PMID: 11573898
8) Int J Tuberc Lung Dis. 2007 May;11(5):485-95.Yield of serial sputum specimen examinations in the diagnosis of pulmonary tuberculosis: a systematic review. PMID: 17439669