赤痢アメーバ抗体にIgM,IgGの2種類あるのですが,どのように使い分けたらいいでしょうか?
という質問を以前受けたことがありました.
自分は「アメーバ抗体」というオーダーしか出したことがなく,IgG,IgMと分けて測定したことがなかったため調べてみました.

まずアメーバ抗体(おそらくIgM,IgG,IgAなどすべてを含んだもの)の特徴をおさらいしておくと…
・急性期には偽陰性となりうる.
・時間がたてば(2週間ほど)ほとんどのすべて症例で陽性となる.
・病原性赤痢アメーバであるE. histolyticaのみで陽性となる.
といった特徴がありました.
さらに捕捉すると,肝膿瘍は腸管感染以上に感度が高いと言われています.これはMandellにも記載があります.

一方で一般的にアメーバ抗体(おそらくIgM,IgG,IgAなどすべてを含んだもの)が陽性であった場合,それでかつての感染か現在の感染かの区別はできないとされています.

UpToDateによると赤痢アメーバが地域的に広がっている発展途上国では,10~35%の非感染者のアメーバ抗体が陽性とされています(無症状のまま罹患し治癒している可能性).
また後述の文献ではリアルタイムPCRでアメーバの感染を確認した無症候のひとたちの82.6%が抗体陽性であったとされています.
またアメーバの腸管感染は無症状から慢性経過をとるものまで様々であるため,感染から発症までのタイミングの判断が難しく,肝膿瘍も地域流行性のある地域から帰国して何年も経過してから発症することもあり,さらにややこしいです.

以上のこと前提で,

Clin Microbiol Rev. 2007 Jul;20(3):511-32, table of contents.
Laboratory diagnostic techniques for Entamoeba species.
PMID: 17630338
Free Article
によると,

Detection of antibodies using the IFA test was shown to be rapid, reliable, and reproducible and helps to differentiate ALA from other nonamebic etiologies (56). In addition to this, IFA tests have been shown to differentiate between past (treated) and present disease (56). A study conducted by Jackson et al. (92) indicated that monitoring of immunoglobulin M (IgM) levels using the IFA can be of clinical value in cases of invasive amebiasis. The IgM levels become negative in a short period of time after infection, with more than half of the subjects having negative results at 6 months or 100% becoming negative by 46 weeks after treatment. In ALA the sensitivity of the IFA is reported to be 93.6%, with a specificity of 96.7%, making it more sensitive than the ELISA (165).
とあります.ALAはアメーバ肝膿瘍のこと.

また同じ文献で,ELISA法の箇所での記載ですが,
Serum IgG antibodies persist for years after E. histolytica infection, whereas the presence of IgM antibodies is shortlived and can be detected during the present or current infection.
とあります.

(92)の文献は手に入らず,pub-medのAbstractの記載しかわかりませんが,
In a pilot study in which sera from 56 patients with suspected invasive amoebiasis were tested the IgM was positive in 40% of confirmed intestinal and 83% of confirmed hepatic cases, the IgG and AGD were positive in all confirmed cases.
とあります.腸管感染では40%とかなり感度が低く,検査したタイミングもわかりませんが….

つまりまとめると,

・IFA法によるアメーバ抗体では,原則IgMは現在の感染を,IgGは過去の感染を表す.
・IgMは治療後半年で半分の症例が,1年ですべての症例が陰性化する.
・IgGは数年の単位で陽性が続く.
・腸管感染症のIgMの感度は40%,肝膿瘍のIgMの感度は83%(検査のタイミングは不明).

ということになります.

アメーバが感染した後のIgGとIgMの具体的な上昇の時期などについては調べてもわかりませんでした.
日本では流行性の低さから,IgGとIgMを分けて測定しなくても,アメーバ抗体陽性で,症状・所見があれば,アメーバ腸炎あるいは肝膿瘍の可能性を高く見積もっても問題ないかと思います。ただしアメーバの治療歴があったり,発展途上国から来た方であれば,アメーバ抗体の特異性の低さには注意すべきです(アメーバ以外に他の原因も考えるべき).といってもフラジール10日間で治療できてしまい,治療効果も極めて良好なことが多いので(肝膿瘍の場合,画像だけはしばらく残りますが),治療してみて反応をみてみるというのがひとつの選択肢だと自分は考えています.