先日自分が研修した病院でケースカンファレンスをさせていただきました.
末梢静脈カテーテルを毎日観察する習慣を初期研修のうちにつけよう!
というメッセージを込め(たつもりで),カンファレンスをしました.が,すでにそのような習慣を持っている研修医の先生方が多かったようで感心しました.

実は末梢静脈カテーテル関連合併症(とくに末梢静脈カテーテル関連血流感染症)は未開拓の分野で,詳しいことは未だわかっていないようです.もっとも頻繁に行われている手技なのに.

末梢静脈カテーテル関連合併症には主に
 ・(血栓性)静脈炎
 ・末梢静脈カテーテル関連血流感染
 ・出口部感染
の3つがあります.下記はそのreviewです

Int J Antimicrob Agents. 2009;34 Suppl 4:S38-42.
Peripheral venous catheters: an under-evaluated problem.
PMID:    19931816

Abstract
・70%までの患者が入院中に末梢静脈ラインが必要で,控えめに見積もって,急性期病院のPVC daysはtotal patient daysの15~20%.
・ほとんどの研究が血栓性静脈炎にフォーカスを当て,カテーテル交換のスケジュールに関する問題に取り組んでいるが,PVC交換の至適な時点について,あるいはそもそもカテーテル交換が必要かどうかについて,コンセンサスはまだない.
・末梢静脈カテーテル関連血流感染(PVC-BSI)は血栓性静脈炎よりさらに深刻だが,この問題に取り組んだ研究はほとんどなく,大規模な多施設研究は欠如している.
・PVC-BSIについて利用できる現在のデータでは,incidence density rateは1000 device daysあたり0.2~0.7 episodesで,他のカテーテルと比べて低いようだ.
・しかし,いくつかの研究は,中心静脈ライン関連感染の範囲内でPVC-BSIの絶対数を報告している.
・PVC-BSIは深刻な医療問題と考えるべきか,ただのとてもまれな出来事と考えるべきか,はっきりしないままである.

1. Introduction
・30~80%の患者が入院中に末梢ラインを受けていると見積もられる.
・このルーチンデバイスの頻繁な使用にも関わらず,PVC-BSIを調査したランダム化研究はまれである.
・実際に,この潜在的に深刻な合併症のデータは小研究からのみ,とりわけ模範となるのはMakiらの報告,手に入れることができる.
・われわれは,PVC使用から起こる合併症が過小評価されているかどうか,とくに,peer-reviewされた文献がこのデバイスの幅広い利用を適切に反映しているかどうか,潜在的に有害な合併症によく取り組まれているか,を決定するために文献をreviewし,そして提案された予防と介入の手段をreviewした.

2. Epidemiology
・米国では年間合計1億5千万のPVCが使われ,推定catheter daysは4億5千万に達する.これは中心静脈ラインの累積留置期間の15倍を超える.
・2006年のthe Swedish Council on Technology Assessment in Health Careが実施した全国規模の年間PVC使用のreviewでは5百万のPVCが報告されている.
・PVC使用はルーチンな処置だが,さまざまな研究で,4~28%は治療には利用されておらず,catheter daysの20%は不必要と見積もられている.
・入院時のルーチン処置として患者が末梢ラインを受けている可能性の高いERでは,不必要なPVCの割合がほとんど50%に達する.
・PVCの平均留置期間は3~4日で,留置期間の中央値は2日.
・CDCが奨める短期間の留置は,たいていは,短い手術時間,短い入院期間,あるいは血栓性静脈炎や出口部感染のようなカテーテル合併症の結果である.(残念….)

3. Complications
3.1 Thrombophlebitis
最も頻繁なPVC合併症は静脈炎あるいは血栓性静脈炎(血栓形成を伴った静脈炎)である.
・PVC関連の血栓性静脈炎の頻度は2~80%.この注目に値するバリエーションは,異なった研究セッティングや血栓性静脈炎の個別の定義の使用の結果である.
・すべての定義が,発赤,腫脹,圧痛,疼痛,熱感,索状物触知,排膿などの臨床所見に基づいているが,ある厳密な定義ではほとんどすべての臨床所見を必要とし,より寛大な定義ではいずれか2つの臨床所見しか必要としていない.
・血栓性静脈炎の定義の不均等な利用が研究結果の比較を難しくしている
スコアリングシステムも提案されているが,広く採用されているものはなく,状況を楽にするというよりも,複雑にしている
・血栓性静脈炎は局所の静脈の炎症と血栓形成のプロセスである(Fig.1)
・注入剤,硬いカテーテルの材質,あるいは細菌のコロナイゼーションによる血管壁の機械的な刺激が内皮にダメージを与えると仮定される.
・このプロセスが血管壁の炎症,フィブリンの沈着と血栓形成を誘発する.
・早期の血栓形成は穿刺部の近くにみられる(カテーテル挿入による血管integrityへのダメージ).
・後期の血栓形成はカテーテル先端の周囲によりよくみられる(カテーテル先端からの機械的刺激による血管integrityへのダメージ).

3.2 Factor associated with thrombophlebitis
・血栓性静脈炎の危険因子は4つのグループに分類できる.

3.2.1 Catheter-related risk factors
・血栓性静脈炎の割合はカテーテル留置期間とともに増加する.
・このことは成人で,とくに最初の3日間に,明白に示されているが,新生児や小児では有意ではない
・tetrafluoroethylene-hexafluoropropylene(テフロン)から作られたような,より好ましくない血栓形成の特性をもったカテーテルはより血栓性静脈炎を誘発する.
テフロンとpolyurethane cathetersとでは30~45%の違いがある(polyurethane cathetersが好ましい).しかし,血栓性静脈炎が誘発されているあいだは,カテーテルの材質は局所の感染とは関係しないかもしれない(それぞれ5.4%と7.6%).

3.2.2 Drug-related risk factors
塩化カリウム,フェニトイン,あるいは化学療法薬剤のような,低pHあるいは高浸透圧の注入剤は,直接に血管内皮のintegrityを阻害し,血管壁にダメージを与える.
・ヘパリンのフラッシュはカテーテルの開通性を高めるが,血栓性静脈炎を引き起こすかもしれない.この機序はまだ解明されておらず,他の研究ではこの結果を確かめられなかった.
・注入剤の粒子によって血栓性静脈炎が誘発されうることが提唱されており,end-line filterが血栓性静脈炎を減らすことがひとつの研究でわかり,完結した.

3.2.3 Patient-related risk factors
高いヘモグロビン値血栓形成傾向の素因質の悪い静脈というような,直接に血栓性静脈炎と関連する,いくつかの内在する危険因子がある.

3.2.4 Healthcare-related risk factors
トレーニングを受けていないあるいは経験の浅い医療従事者によるPVCの挿入と管理は血栓性静脈炎のリスクを増やすことは明らかに示されている.

3.3 Catheter-associated bloodstream infection
・血栓性静脈炎と比べて,PVC関連血流感染あるいは敗血症は,カテーテル挿入のより深刻な合併症である.
・PVC-BSIの最も可能性の高いメカニズムは,血管カテーテルの管のコロナイゼーションと,それに続くバイオフィルムの形成である(Fig.1).
・コロナイゼーションは,カテーテル挿入のあいだや,薬剤投与あるいは血液採取のためにカテーテルを操作する際に起こりうる.
・PVC-BSIのincidence densityは1000 device daysあたり約0.2~0.7 episodes,全体の割合はカテーテル使用の0.08%と見積もられている.
・比率は低いが,ICU外ではPVC-BSIの絶対数は中心静脈ライン関連感染(CLABSI)の絶対数に到達するかもしれないと報告されている.
・血栓性静脈炎が血流感染に移行するということが広く推測されている.それゆえ,血栓性静脈炎に取り組めば,血流感染は問題ではないと考える傾向がある.しかし,血栓性静脈炎は主に機械的な合併症であり,PVC-BSIと血栓性静脈炎の関係はまだ納得のいくように証明されてはいない.
・いくつかの研究ではPVC-BSIを二次アウトカムとして記述しているが,どの研究も十分なパワーを持っていないので,結果の解釈には注意が必要である.
・血栓性静脈炎に関する多くの研究が,血栓性静脈炎とPVC-BSIの関係においても,PVC-BSIの重要性においても,我々の知識を増やすことはなかった.
PVCの5~25%が抜去時に保菌していた.中心静脈カテーテルの所見を考慮すると,末梢カテーテルの保菌は,血栓性静脈炎よりもPVC-BSIとより関係しうる.PVCのコロナイゼーションの高さからは,もっと多くのPVC-BSIがみられないのは驚きである.その理由は短い留置期間と低頻度の操作かもしれないと推測される.適切なサーベイランスが欠けていて,PVC-BSIのエピソードが見逃されていることも想定される.

3.4 Local PVC infection: dressings
・PVCに関連した局所のカテーテル出口部感染は2.3%の率で起こる.
・これらの感染は皮膚の微生物がカテーテルの皮膚部位(the cutaneous tract of the catheter)へ入り込むことで誘発される.
・皮膚の保菌は,局所の消毒手段やカテーテル挿入部位の保護に使われるドレッシングの種類に依存する.
・何年ものあいだガーゼがカテーテル挿入部位の保護の標準であったが,ガーゼはカテーテル挿入部位の観察のために定期的に交換が必要である一方,透明なドレッシングは全カテーテル留置期間のあいだそのままでよい.
・この理由で透明ドレッシングは次第にガーゼに置き換わっているが,密閉されてカテーテル挿入部位の細菌定着につながる可能性が懸念される.しかし,いくつかの研究とひとつのメタアナリシスが,皮膚のコロナイゼーションと血栓静脈炎について,ガーゼは透明ドレッシングより優れてはいないことを示している.

4. Scheduled catheter change
・血栓性静脈炎の予防のためのカテーテル交換のスケジュールについての報告はたくさんある.早期の結果に基づいて,CDCは48~72時間後にPVCを交換すべきであることを提唱している.
・3日間という閾値は,その後にさまざまな研究で疑いを持たれており,そのなかでは,カテーテルは血栓性静脈炎の増加なしに96時間以上留置されていた.
・留置期間を96時間まで延ばした研究は十分な結果を生んだが,スケジュールされたカテーテル交換は廃止できると提唱しようとしたものの,深刻な方法論的な問題に悩まされた.主な障壁は,多くのカテーテルが4日後にはなくなってしまっていることだった.ほとんどのPVCがスケジュールされたカテーテル交換以外の理由で3~4日後には除去されてしまっており,コントロール群と介入群のカテーテルの期間は同様であった.
・しかし,スケジュールされたカテーテル交換が実際に日々のプラクティスで行われているかどうかは疑問視されうる.日々のプラクティスでスケジュールされたカテーテル交換はあまりみかけず,必要なくなるか,合併症を起こすまでカテーテルは留置されたままということが,合理的に想定されうる.(残念…).

5. Precautionary measures
・臨床的な介入戦略を調べた研究は少しだけしかなく,それらは主に第一のアウトカムパラメータとして血栓性静脈炎にフォーカスをおいて行われている.
・イギリスの37の外科病棟の研究では,フィードバックは静脈炎の率を8.5%から5.4%に減らした.フィードバックは医療,とくに感染制御における確立された介入方法である.効果はsmallからmoderateだが,専門的なプラクティスの改善においてフィードバックは有効であることが繰り返し示されている.
・特化したintravenous teamは,カテーテル関連合併症の発生とそれに関係したコストの減少において,はっきりとした有効性が示されている.intravenous teamは局所の炎症所見を21.7%から7.9%に減らし,全静脈炎の率を32%から15%に減らした.
・2つの小さな研究が,PVC挿入部位をカテーテル交換のあいだでローテーションさせて血栓性静脈炎が減るかどうかを調べた.この目的は達成された.しかし,理論的にはこの所見は興味深いが,挿入部位のローテーションのために日々PVCを変えるのは現実的ではない.