2010年05月
2010年05月31日
「壁」考
パレスチナ情勢で国際社会が注目していたのが、いわゆる「壁」の存在です(左の写真が壁です)。この壁の設置の仕方、非常に効果的にパレスチナの生活基盤に打撃を与えるような配置になっています。パレスチナ側のナンバーの車はこのような検問所
そして、もう一つ問題となっているのが、いわゆる入植地の問題です。たとえばこの写真に見らるように壁に守られるような形で入植地が存在している。逆にいえば、本来パレスチナ領として国際社会の合意がある程度形成されている1969年時点のいわゆるグリーンラインの内側にユダヤ人の入植地が形成されています。
これらの入植地については、アメリカの市民権をもつものが結構いたり、アメリカの市民団体が資金提供していたりと、ユダヤの土地を広げるための政治的な入植という意味合いが特に最近強くなってきているということです。そして、ここのところその入植地の増加のペース、特に戦略的な入植地の拡大のペースが非常に速くなっているようです。
我々が抱く印象では入植地とは、「貧しい人が入植して開墾して・・・」というものになりがちですが、実態としてはむしろカリフォルニアの街といったようなきれいな街が突然砂漠の中に出現するといったイメージのほうが正しいかもしれません。
まさに入植地をめぐる攻防はパレスチナ・ユダヤの政治、いやむしろ戦争といったほうがいいのかもしれません。
しかしここで一つどうしてもここに載せたいのがこの写真。
その一方で、そこからわずか数キロのところでは「宗教対立」の名を借りた憎しみ合いの芽がまた蒔かれようとしている。そして、かつて何次にもわたる中東戦争で取り合いをした領土は荒涼たる沙漠、我々日本人の目からすれば利用価値のない完全なる荒野であったりします。
にもかかわらず現実の問題として戦争がおこり、人が殺しあい、憎しみの連鎖となっている。
そこにあるのは決して宗教上の対立などでは決していない。
まさに政治が作り出す人々の心の壁が対立を生みだし、いったん殺し合いが始まれば憎しみの蓄積で冷静な話し合いすらできないような隣人関係になってしまっているのが今のパレスチナの現状である気がします。
海に囲まれ、外敵から何もしないでも守られてきた我々日本人が実感しにくい国際社会の現実がここにはあります。
suzuki_keisuke at 01:01│トラックバック(0)
2010年05月26日
Beyond Futenma
今週鳩山総理が普天間の海兵隊部隊の移設先を辺野古に決定しましたが、これについてはやはり大きな問題があるといわざるを得ません。
辺野古の現行案に限りなく近い形での決着というのは、関係者の合意を取り付けられるのであれば、今の時点での選択としては妥当なものでしょう。
しかし、昨年の9月に民主党政権が発足して以降のこの8ヶ月間の迷走のツケは極めて重大です。
何よりも大きいのは我々がこれまで中国や北朝鮮に囲まれているにもかかわらず戦争に巻き込まれず平和のうちに暮らしてくることが出来てきた一番の要素である日米関係に大きな影をもたらしたこと。
アメリカに「日本は政権交代すると国と国とのそれまでの約束を平気で違えるようなことが行なわれる国なのだ。安全保障や国際政治のまともな議論が出来ない政権が生まれうる国なのだ」と思わせてしまったことは非常に大きなマイナスです。
今後まともな政権が出来たとしても、いつアブナイ政権が出来るかわからないという疑心暗鬼の下ではアメリカが日本を特別なパートナーとして扱うことは難しくなってしまいます。その信頼関係を取り戻すにはかなりの時間がかかります。
おそらく日米の同盟関係がこれから戦略的パートナーシップというレベルで続くことはそれほど難しくはない。あるいは韓国や台湾とアメリカの関係と同じような関係、つまり政権によりかなり揺れ動く関係というのは充分に可能でしょう。
しかし、英米のような価値観を共有した同盟、それに近づきつつあったこれまでの日米関係というレベルに戻すためにはかなりの時間と努力が必要な状況になってしまいました。
この点、長期的なわが国の安全、国際社会の中での立ち位置という意味では、鳩山政権、というよりも党内から異論も出ていないわけですから民主党政権といったほうがいいでしょう、のもたらした国益へのマイナスはきわめて大きいといわざるを得ない。
普天間の問題だけでなくそれよりも大きな流れで見たとき、今回の迷走がどのような意義を持つのか、我々はここのところをきちんと考えねばなりません。
辺野古の現行案に限りなく近い形での決着というのは、関係者の合意を取り付けられるのであれば、今の時点での選択としては妥当なものでしょう。
しかし、昨年の9月に民主党政権が発足して以降のこの8ヶ月間の迷走のツケは極めて重大です。
何よりも大きいのは我々がこれまで中国や北朝鮮に囲まれているにもかかわらず戦争に巻き込まれず平和のうちに暮らしてくることが出来てきた一番の要素である日米関係に大きな影をもたらしたこと。
アメリカに「日本は政権交代すると国と国とのそれまでの約束を平気で違えるようなことが行なわれる国なのだ。安全保障や国際政治のまともな議論が出来ない政権が生まれうる国なのだ」と思わせてしまったことは非常に大きなマイナスです。
今後まともな政権が出来たとしても、いつアブナイ政権が出来るかわからないという疑心暗鬼の下ではアメリカが日本を特別なパートナーとして扱うことは難しくなってしまいます。その信頼関係を取り戻すにはかなりの時間がかかります。
おそらく日米の同盟関係がこれから戦略的パートナーシップというレベルで続くことはそれほど難しくはない。あるいは韓国や台湾とアメリカの関係と同じような関係、つまり政権によりかなり揺れ動く関係というのは充分に可能でしょう。
しかし、英米のような価値観を共有した同盟、それに近づきつつあったこれまでの日米関係というレベルに戻すためにはかなりの時間と努力が必要な状況になってしまいました。
この点、長期的なわが国の安全、国際社会の中での立ち位置という意味では、鳩山政権、というよりも党内から異論も出ていないわけですから民主党政権といったほうがいいでしょう、のもたらした国益へのマイナスはきわめて大きいといわざるを得ない。
普天間の問題だけでなくそれよりも大きな流れで見たとき、今回の迷走がどのような意義を持つのか、我々はここのところをきちんと考えねばなりません。
suzuki_keisuke at 17:53│トラックバック(0)
2010年05月19日
普天間問題の迷走
普天間をめぐってさまざまな報道が続いています。
民主党政権に期待したいのはただ一点。こと安全保障、財政は一度の失敗が取り返しのつかないこととなる可能性があります。このような分野についてだけは、取り返しのつかない失政をしないで欲しいということだけです。
普天間の問題は、(1)安全保障上日米同盟は死活的、(2)海兵隊部隊が台湾海峡の金門・馬祖から近い距離にいることが中期的に不可欠、(3)普天間の街のど真ん中においてヘリコプターの運用を伴なう訓練を繰り返す事は近隣住民の安全上、さらには日米同盟へのリスクという意味からも望ましくない、ということから辺野古への移転の判断かがされて、自民党政権下で13年にわたって調整を進め、各者の犠牲の下に実現へあと一歩というところまでこぎつけていたものです。
民主党政権になってからかなりの迷走を我々も目の当たりにしたわけですが、事ここに至っては、せめて我々が今後も安心して暮らしていける基盤を守っていくためにも、最善の案である現行案に妥結するという結論を下してもらいたいと期待するだけです。
選挙だの、与党、野党といったことでなく、わが国の10年後、20年後を考えればそれ以外に選択肢はない以上、適切な判断を期待したいと思います。
民主党政権に期待したいのはただ一点。こと安全保障、財政は一度の失敗が取り返しのつかないこととなる可能性があります。このような分野についてだけは、取り返しのつかない失政をしないで欲しいということだけです。
普天間の問題は、(1)安全保障上日米同盟は死活的、(2)海兵隊部隊が台湾海峡の金門・馬祖から近い距離にいることが中期的に不可欠、(3)普天間の街のど真ん中においてヘリコプターの運用を伴なう訓練を繰り返す事は近隣住民の安全上、さらには日米同盟へのリスクという意味からも望ましくない、ということから辺野古への移転の判断かがされて、自民党政権下で13年にわたって調整を進め、各者の犠牲の下に実現へあと一歩というところまでこぎつけていたものです。
民主党政権になってからかなりの迷走を我々も目の当たりにしたわけですが、事ここに至っては、せめて我々が今後も安心して暮らしていける基盤を守っていくためにも、最善の案である現行案に妥結するという結論を下してもらいたいと期待するだけです。
選挙だの、与党、野党といったことでなく、わが国の10年後、20年後を考えればそれ以外に選択肢はない以上、適切な判断を期待したいと思います。
suzuki_keisuke at 17:05│トラックバック(0)
2010年05月13日
ヨルダン川西岸の今
今ということでまずは経済について。
パレスチナ経済は疲弊している。それは事実です。しかしそれもある程度詳細にみていかねばなりません。
まず第一に、イスラエルの壁の建設により(これについてはまた改めて)物流、人の往来等に支障が出ているという現実があります。そして第二に壁の建設によりさらにイメージが悪化して観光収入なども大きく落ち込んでしまっているというのもまた事実です。
(壁により車両は迂回を強いられる↓)

さらにいえば、壁以前の問題として、パレスチナ側に自治等もほぼ移管されているエリアAはまだ全体の半分にも満たない面積であり、入植地の場所等もパレスチナ経済にマイナスの影響を効果的に与えられるような分布をしているようにも見えるのが現状です。
しかし、そのような大きな負の要因がある一方で、実はヨルダン川西岸地区においてはそれなりの経済成長をしている。もちろん失業率はまだ20%台という高い水準である一方でという但し書きは必要ですが。
ただ、この成長を支えているのはいわゆる建設ラッシュです。つまり産業が発達して持続可能な成長ということではありません。しかしそれにしても西岸地区の南部の割と広範囲を回りましたが、かなりの建設ラッシュというのは非常に強い印象を受けました。
その影響か、西岸地域の経済はかろうじて回ってはいる。しかし、今回いくことはできませんでしたが、ガザ地区の状況ははるかに悲惨なもののようです。そもそも人口密度が高いことに加え、ハマス・イスラエル双方の影響で西岸とガザの往来があまり十分ではないとのことです。現実、ガザの議員がやむを得ず議会のある西岸のラマラに滞在しているというケースありました。
少なくとも西岸レベルの経済にガザを持っていくこと、そして西岸においても将来にわたり持続可能な成長をするための産業振興が今後非常に重要です。

F/S等が十分ではないとはいえ日本の「平和と繁栄の回廊構想(右がその第一区画予定地。道路工事までほぼ完了)」は非常に野心的な試みであり、今後もきちんと進めていく必要があります。加えて水、電気といった産業の基礎的インフラの整備も行っていくべきです。実際フランスはパレスチナ地域で工業団地を合弁で計画しており、イスラエル政府との交渉も不可能ではありません。
和平のためにはパレスチナ側の政治的な安定が必要で、またイスラエルの安全のためにも経済発展失業率の低下は直接のプラスのインパクトをもたらします。日本や欧米だけでなく、湾岸諸国やイスラエルも巻き込む形で進める必要があります。もちろん簡単な話ではありませんが。
次の稿ではこの「壁」について取り上げたいと思います。
パレスチナ経済は疲弊している。それは事実です。しかしそれもある程度詳細にみていかねばなりません。
まず第一に、イスラエルの壁の建設により(これについてはまた改めて)物流、人の往来等に支障が出ているという現実があります。そして第二に壁の建設によりさらにイメージが悪化して観光収入なども大きく落ち込んでしまっているというのもまた事実です。
(壁により車両は迂回を強いられる↓)
さらにいえば、壁以前の問題として、パレスチナ側に自治等もほぼ移管されているエリアAはまだ全体の半分にも満たない面積であり、入植地の場所等もパレスチナ経済にマイナスの影響を効果的に与えられるような分布をしているようにも見えるのが現状です。
しかし、そのような大きな負の要因がある一方で、実はヨルダン川西岸地区においてはそれなりの経済成長をしている。もちろん失業率はまだ20%台という高い水準である一方でという但し書きは必要ですが。
その影響か、西岸地域の経済はかろうじて回ってはいる。しかし、今回いくことはできませんでしたが、ガザ地区の状況ははるかに悲惨なもののようです。そもそも人口密度が高いことに加え、ハマス・イスラエル双方の影響で西岸とガザの往来があまり十分ではないとのことです。現実、ガザの議員がやむを得ず議会のある西岸のラマラに滞在しているというケースありました。
少なくとも西岸レベルの経済にガザを持っていくこと、そして西岸においても将来にわたり持続可能な成長をするための産業振興が今後非常に重要です。
F/S等が十分ではないとはいえ日本の「平和と繁栄の回廊構想(右がその第一区画予定地。道路工事までほぼ完了)」は非常に野心的な試みであり、今後もきちんと進めていく必要があります。加えて水、電気といった産業の基礎的インフラの整備も行っていくべきです。実際フランスはパレスチナ地域で工業団地を合弁で計画しており、イスラエル政府との交渉も不可能ではありません。
和平のためにはパレスチナ側の政治的な安定が必要で、またイスラエルの安全のためにも経済発展失業率の低下は直接のプラスのインパクトをもたらします。日本や欧米だけでなく、湾岸諸国やイスラエルも巻き込む形で進める必要があります。もちろん簡単な話ではありませんが。
次の稿ではこの「壁」について取り上げたいと思います。
suzuki_keisuke at 00:29│トラックバック(0)
2010年05月07日
中東情勢(その1)
中東問題。これまでの歴史的経緯を見るまでもなく非常に複雑な糸が絡み合ってしまっています。しかしここのところ、中間選挙、あるいはイランの核問題、イラク・アフガニスタンの問題を背景にアラブ社会からの信頼を獲得する必要に迫られているといった様々なファクターが重なって、アメリカが本腰を入れて調停に乗り出しうる情勢にもなっており注目されます。
そもそもこの問題は、1967年時点の境界線、東エルサレムの帰属、難民の帰還権といったことを要件とするTwo State Solutionという最終着地点については、まだまだ調整が必要であるにせよ視野に入ってきているといっても良い状況です。
しかし政治的リーダーシップの問題がパレスチナイスラエル双方にあり、またこれまでの経緯の積み重ねから相互の不信感が、交渉に入ることすら妨げてしまっているのも現実です。
軍事的プレゼンスがなく、また中東地域の国の生命線を握っている状況も無い中で日本が果たせる役割が限定的であるのは事実です。しかしその一方でこれまでのプレゼンスが経済協力の割にはあまりにも低かったという現実も直視する必要があります。
実は今の一番の障害となっているこうしたプロセス論においては、双方にある程度信頼される中立の第三者の存在が非常に重要です。日本としても今後この問題に関してアメリカとの緊密な関係というレバレッジをきかせてプレーヤーとして参加するのか、あるいは調停役として一定の役割を果たすべきなのか。
今回の出張では様々な会合、会議での議論・意見交換を通じてそうした間合いを探りたいというのが主な目的でした。日米すらディールできず議論にすらなっていない今の状況の下では中東に手を出せば大やけどしかねませんが、政権が変わってまともな外交を出来る環境になればやがて直面せざるを得ない問題です。
オイルの問題、国際的な紛争の可能性といった点からも中東は決して無視できない地域だということも我々は忘れるべきではありません。
これから数回にわたってこのブログでは中東問題を取り上げていきたいと思います。
そもそもこの問題は、1967年時点の境界線、東エルサレムの帰属、難民の帰還権といったことを要件とするTwo State Solutionという最終着地点については、まだまだ調整が必要であるにせよ視野に入ってきているといっても良い状況です。
しかし政治的リーダーシップの問題がパレスチナイスラエル双方にあり、またこれまでの経緯の積み重ねから相互の不信感が、交渉に入ることすら妨げてしまっているのも現実です。
軍事的プレゼンスがなく、また中東地域の国の生命線を握っている状況も無い中で日本が果たせる役割が限定的であるのは事実です。しかしその一方でこれまでのプレゼンスが経済協力の割にはあまりにも低かったという現実も直視する必要があります。
実は今の一番の障害となっているこうしたプロセス論においては、双方にある程度信頼される中立の第三者の存在が非常に重要です。日本としても今後この問題に関してアメリカとの緊密な関係というレバレッジをきかせてプレーヤーとして参加するのか、あるいは調停役として一定の役割を果たすべきなのか。
今回の出張では様々な会合、会議での議論・意見交換を通じてそうした間合いを探りたいというのが主な目的でした。日米すらディールできず議論にすらなっていない今の状況の下では中東に手を出せば大やけどしかねませんが、政権が変わってまともな外交を出来る環境になればやがて直面せざるを得ない問題です。
オイルの問題、国際的な紛争の可能性といった点からも中東は決して無視できない地域だということも我々は忘れるべきではありません。
これから数回にわたってこのブログでは中東問題を取り上げていきたいと思います。
suzuki_keisuke at 19:26│トラックバック(0)