2017年09月10日

アメリカの政治・金融関係者の日本への見方

 9月6日から7日にかけて、アメリカ東海岸(ニューヨーク・ワシントン)において、機関投資家及び下院議員を含む議会関係者、外交・安保の専門家と意見交換しました。実質2日間で一時間程度のミーティングが13という非常にタイトな日程でしたが、各方面と有意義な意見交換が出来ましたので、ここにオープンにできる範囲での所感を書かせていただきたいと思います。

 まず、投資家の日本への見方ですが、日本経済について、「慎重な楽観」というのが正直な印象です。2013年の安倍総理・黒田総裁就任直後あるいは、2014年のコーポレートガバナンス改革、法人税減税を推し進めた頃の熱気から比較すると寂しいものはありますが、逆に過度な期待も失望も無いという落ち着いた状況といえます。

 特に今回は、時期的に北朝鮮情勢、政局、日銀総裁人事に関心が集中していて、政策的にはコーポレートガバナンスの深化や流動性を高める労働市場改革への注目が高い印象を受けました。

 賃金上昇圧力の欠如、設備投資の弱さ、内部留保の増加など最近の現象を分析する中で、政府、中央銀行の政策というよりも金融緩和や法人税減税を活用しきれない民間企業の動きに問題があり、そこを動かす政策、すなわちコーポレートガバナンス、事業会社の株の持ち合い解消、終身雇用の打破を含む労働市場改革等の改革が必要との声が一致して多かったのが印象的でした。

 構造問題、貨幣現象、様々な見方のあるデフレの根本原因ですが、日本においてはむしろ、横並び社会の中で根強い個人と法人の「リスクをとらない」傾向、将来への期待の異常な低さといった、意思決定における心理的な要因にあるとの認識が共有されつつあると個人的には感じたところです。

 デフレ脱却、持続的な経済の拡大のためには、公需の創出など政府主導の一時的な景気回復ではなく、真に民間のプレーヤーが適切なリスクテイクを行い成長の原動力になり続ける環境が必要です。自民党がこうした民間のマインドの変化を促す構造改革路線に戻れるかどうかがが注目されていますし、同時にこの点こそが、日本への投資の呼び込みや潜在成長率の押上げには不可欠だと思われます。

 一方のアメリカ政治の状況ですが、アメリカの格差問題から共感を得ている「アメリカファースト」はかなり根強く、トランプ政権の二期目の可能性が高いとの見方が広まってきているようです。日本としても、そのことを可能性の一つとして前提において、いろいろな対応をしていく必要があります。

 特に、TPP、パリ協定をはじめとした国際秩序へのアメリカの関与に関して、再びアメリカが将来的に国際社会に戻ってくるのか否かは日本だけではなく、中国・北朝鮮以外のアジアの国にとっては、極めて重要な問題です。正直な印象を言えば、可能性はあるものの、当面は厳しいということだと思われます。我々が日本としてどう対応すべきか、長期的な観点からも再考が必要です。

 アメリカ社会全体として、国際的なルールや秩序は押し付けられるもので忌むべき「官僚的」なものとの受け止めが根強いとのことで、アメリカにあっては外交が大きく国内の世論や政局に影響されるという現実を考えれば、相当悲観的にならざるを得ません。しかしながらこの米国社会における受け止めはある意味で誤解である面が強く、アメリカという国が、基本的には生活や経済への他者の介入を嫌がるという国の成り立ちから来る哲学を根強く持っているということを考えれば、「小さな政府を指向し、政府の介入を防ぐためには、国際的なルールの確立と適用を徹底すること、そしてルールづくりに関与し主導することが最重要」との思考をどう広めていくことが出来るのかが極めて重要です。

 大統領だけでなく、上院下院問わず、連邦議員でも、例えば自由貿易を例にとれば、選挙区の産業がどのような影響を受けるかだけが行動の原点となってしまっている現状の中では大きなチャレンジですが、日本やイギリス、オーストラリアなど、自由貿易を強く指向するアメリカの同盟国が粘り強く関与していくしかありません。

 さらに外交問題に関しては、時期的なこともあって、アジア専門家の関心は北朝鮮に集中しています。ある意味集中しすぎているといってもいい状況です。結果として、中国が依然として長期的な構造的な脅威との見方は正直薄いと言わざるを得ません。北朝鮮のミサイル発射のことは耳にするが、尖閣周辺での中国の動きについては認識されていないという実態があります。

 アメリカの地理的な位置の問題、さらには旧ソ連と異なり中国市場がビジネス的に大きなチャンスだという見方が根強く、かつ事実でもあるということもあって、中国が冷戦時代のソ連並みの脅威だとのアジア諸国における認識は、残念ながらそのレベルでは共和党支持者の間でも現状、共有されていません。しかし、アジアにおいては、長期的に見れば、中国の脅威こそが極めて構造的に深刻なものです。こうした認識の差を放置しておけば、10年後、20年後取り返しがつかないことにもなりかねません。連邦議会も含め、アメリカの外交政策は国内世論の影響を強く受けるので、我々として、きちんとした戦略的コミュニケーションを行っていくこと必要です。


suzuki_keisuke at 14:55 
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