2019年02月17日

BREXITをめぐる議論からの教訓

 先日、来日中のエストリン・ロンドン市長(The Lord Mayor)と面会しました。先週末は麻生大臣と共に世界銀行の総裁候補となっているマルパス米財務次官と、そして就任以降も海外投資家の方々などとも頻繁に意見交換しており、財務副大臣として変化の速い国際金融の世界の中で日本がどの様な役割を果たすべきか、あるいは日本経済の状況はどうなのかについて議論する機会が頻繁にあります。DSCF1090

 その中で感じたことを、ここに少し書かせていただきたいと思います。

 このところ、米中の貿易関連であったり、Brexitであったり、いろいろなトピックが注目を集めています。こうした問題を議論する中で、感じるのは、様々なものの時間軸や影響に関する反応のギャップとそれが引き起こすさまざまな事象です。

 日本もそうですが、イギリスもアメリカもある意味では島国です。島国にあっては、死活的に重要なのが「ヒト・モノ・カネ」のクロスボーダーの流れ、加えてこれは島国に限りませんが、今後の経済体系の中でイノベーション等の観点から死活的に重要なのが「ヒト・カネ・アイデア」がどの様に適切に必要な場所に行くかです。

 その意味で、変化の速い時代、それは国際競争という意味でも、消費者などのニーズの変化という意味でも「速い」わけですが、そこに適応できるような社会構造が必要とされています。法体系から労働市場、世界全体のフローの中での競争力を高めるためのborderの在り方、すべてにわたって、従来の延長線上ではないところに出遅れずにバージョンアップすることが求められています。

 そして実は、この「ヒト・モノ・カネ」の三要素はそれぞれ、スピード感や、流入への人々の心理的な抵抗感、規制の性質などが異なります。その違いをどううまくManageし適切なタイミングで適切な手法で対応していくことができるか、そこに政府の果たす重要な役割があります。

 Brexitに関していえば、もともとはヒトの流入への抵抗感が惹起した問題です。カネやモノについてはイギリスがEUから離脱する理由にはなっていなかったはずです。本来であれば、ヒト・モノ・カネはそれぞれ別の論理で論じられなければなりません。それがセットになっていたがゆえに、最も人々の抵抗が強かったヒトのパートに引っ張られて国民投票の結果、イギリスはEUから離脱するということとなったわけです。特に大陸でない島国のイギリスにおいては、英連邦からの移民が多い国とはいえ、EUの一部として管理できないレベルの移民問題に直面することは、感情的にかなりハードルが高い問題であっただろうことは想像に難くありません。

 加えてEUの求心力がその意味では非常に脆く、論理的には、国家をなくして統合するのか、EUをなくして国家の非常に緩い連合にするのかのどちらかしかない状況の中で非常に中途半端な立ち位置にいること、つまり無理やりにでもヒト・モノ・カネにまつわるものをセットにせねば、離脱が続いてEUが崩壊する可能性が高いというEUサイドの実情も、今回の混乱を助長したところでもあったと思います。

 一方のカネの分野に関していえば、グローバルに動いている国際金融の世界にあって、為替であったり、様々なイノベーションの基盤や金融インフラにおいて、ロンドンの強さというものは際立っています。カネの面では逆にイギリスはEUを見ていないといってもいい状況です。グローバルに見ても特に為替の世界ではロンドンの存在感は飛びぬけていますし、通貨間の取引ということで言っても、ユーロポンドの取引高はドルポンドと比べて明らかに少ない。

 ところがモノの世界に関しては、物理的な距離に制約を受けますから、サプライチェーンも含め、イギリス経済は大陸ヨーロッパとかなりの相互依存にあり、市場や供給力の大きさから言っても大陸の方が強い立場にいることもまた明らかです。

 どの視点で今後の国家経営をしていくのか。EUの中にありながら、通貨と金融政策の自由を維持し、シェンゲン協定の枠外でもあったイギリスのこれまでの立場は、この矛盾に一番フィットした最も有利なもので、移民問題等のヒトのファクターに感情的に引っ張られた結果、国民投票でそれを捨てる選択をしたことは非常に愚かな選択であったということは言うまでもありません。しかし、これまでの特権的な立場を放棄し、結果的にはゼロベースでこのスピード感の異なる三つのファクターの最適解をどう考えるのか、イギリスが現在直面している長期戦略の選択は日本やほかの国々にも示唆を与えてくれるものです。

 BREXITについては、日本経済・世界経済への影響を最小限に抑えるための努力を全力ですることは当局としてもちろんですが、このような視点からも注目していきたいと思います。

suzuki_keisuke at 00:38 
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