白い箱の中には、色とりどりの洋菓子が六つ。
四人家族で分けるには、少々微妙な個数。
第一選択権を常にキープしているのは、長女の恵理だ。
続いて、浩一。
お父さん。
「きやー。どれにしようかな」
食卓の上で開いた箱を覗き込んで、恵理は華やかな悲鳴をあげる。
グレープフルーツゼリーにしようか、ブルーベリームース?
たっぷりのクリームはダイエットに良くないから、いい。
「でも、二つ食べるんだ」
「食べるわよ?」
浩一は、どれでもいいよと言いたげな顔をしているが、お父さんも彼も、結構な甘党なのだ。
「チーズケーキとモンブラン、っと」
私が、二つを皿にとって浩一に渡すと、お目当てのケーキがあったのか、お父さんが視線で追う。
「あとは、抹茶ムースとティラミスかな。どちらにします?」
「じゃ、抹茶ムース」
はいはいと、皿に取り分け、フォークを添えると、私は各々のマグカップにコーヒーを注ぐ。
アマレットの風味が喉の奥に広がって(私を天国に連れてって!)、初めてティラミスを食べたイタリアンレストランを思い出す。
料理は何だったっけ、アクアパッツア? 忘れちゃった。
美沙子ちゃん、ってお父さんは呼んでいて、いつも、美沙子ちゃんは、何処へ行きたいかな、何が食べたいかな、どういう映画が好きかなって照れたように言っていて、私はちょっと困ったようなお父さんの顔が好きだった。
それで、私が喜ぶとお父さんは嬉しそうで、それが私も嬉しくて、展覧会は? 映画は? このお店、ちょっと素敵じゃない? と一生懸命考えたものだ。
美沙子ちゃん。
お父さん。
そうよそうよ、と私は思う。
二人だけだった頃は、お互いがお互いの一番で。うん。
もうすぐ来るお父さんの誕生日も、ずいぶん気合を入れてプレゼントを選んでいたものだ。
最近は、くたびれたセーターや靴の交換を、いつものワンランク上の品物にしてプレゼントしていたけれど、それもつまらないわよね。
パラポロピンと明るいチャイムの音がして、お父さんのパソコンの画面が明るくなる。
エクスプローラーを立ち上げて、「お気に入り」をチェックしてみる。
「仕事」「釣り」「車」「バイク」「サッカー」「通販」、ずらりとフォルダが並ぶ。
こういうところを見ると、最近のお父さんの好みの傾向が、わかるわよね。
私は鼻歌まじりで、フォルダを次々に開けた。
一番下に「★」っていうフォルダがあって、何だろうと思った。
*
散歩から帰って、リビングのドアを開けると、妻が部屋の中央に立っていた。
「あれ、いたんだ。……美沙子?」
名前を呼ぶと、妻は、ゆ・っ・く・り・と振り向いた。
四人家族で分けるには、少々微妙な個数。
第一選択権を常にキープしているのは、長女の恵理だ。
続いて、浩一。
お父さん。
「きやー。どれにしようかな」
食卓の上で開いた箱を覗き込んで、恵理は華やかな悲鳴をあげる。
グレープフルーツゼリーにしようか、ブルーベリームース?
たっぷりのクリームはダイエットに良くないから、いい。
「でも、二つ食べるんだ」
「食べるわよ?」
浩一は、どれでもいいよと言いたげな顔をしているが、お父さんも彼も、結構な甘党なのだ。
「チーズケーキとモンブラン、っと」
私が、二つを皿にとって浩一に渡すと、お目当てのケーキがあったのか、お父さんが視線で追う。
「あとは、抹茶ムースとティラミスかな。どちらにします?」
「じゃ、抹茶ムース」
はいはいと、皿に取り分け、フォークを添えると、私は各々のマグカップにコーヒーを注ぐ。
アマレットの風味が喉の奥に広がって(私を天国に連れてって!)、初めてティラミスを食べたイタリアンレストランを思い出す。
料理は何だったっけ、アクアパッツア? 忘れちゃった。
美沙子ちゃん、ってお父さんは呼んでいて、いつも、美沙子ちゃんは、何処へ行きたいかな、何が食べたいかな、どういう映画が好きかなって照れたように言っていて、私はちょっと困ったようなお父さんの顔が好きだった。
それで、私が喜ぶとお父さんは嬉しそうで、それが私も嬉しくて、展覧会は? 映画は? このお店、ちょっと素敵じゃない? と一生懸命考えたものだ。
美沙子ちゃん。
お父さん。
そうよそうよ、と私は思う。
二人だけだった頃は、お互いがお互いの一番で。うん。
もうすぐ来るお父さんの誕生日も、ずいぶん気合を入れてプレゼントを選んでいたものだ。
最近は、くたびれたセーターや靴の交換を、いつものワンランク上の品物にしてプレゼントしていたけれど、それもつまらないわよね。
パラポロピンと明るいチャイムの音がして、お父さんのパソコンの画面が明るくなる。
エクスプローラーを立ち上げて、「お気に入り」をチェックしてみる。
「仕事」「釣り」「車」「バイク」「サッカー」「通販」、ずらりとフォルダが並ぶ。
こういうところを見ると、最近のお父さんの好みの傾向が、わかるわよね。
私は鼻歌まじりで、フォルダを次々に開けた。
一番下に「★」っていうフォルダがあって、何だろうと思った。
*
散歩から帰って、リビングのドアを開けると、妻が部屋の中央に立っていた。
「あれ、いたんだ。……美沙子?」
名前を呼ぶと、妻は、ゆ・っ・く・り・と振り向いた。