弦楽四重奏曲は、全部で15曲。
交響曲も15曲。
この2つのジャンルだけで30曲を書いています。

交響曲と比較すると、演奏時間は短めです。
交響曲は、演奏者や演奏時間の規模が大きく、大ホ-ルで演奏されるので、特に旧ソ連当局の目に留まるものでした。
ですから、作曲者は、一番伝えたい「ラルゴ」や「レント」「アダ-ジョ」楽章の隠れ蓑として、早くて快活な楽章を全体の中に巧みに配置したのです。
当然、演奏時間が伸びてゆくのは納得です。

それに比べて弦楽四重奏曲は、ホ-ルでなくても、街の広場、建物の一室で演奏できます。
当局の目に留まりづらいのです。
そこで、作曲家は、一番言いたい事をより真っすぐに伝える術として、室内楽作品に注力したのだと察します。
例えば、第8番は20分程度の演奏時間の内の13分を3つの「ラルゴ」楽章に費やしています。5楽章中3楽章が「ラルゴ」なのです。
交響曲では、ここまではやりませんでした。

ショスタコ-ヴィチは、自分の作品の大半を、不条理に人間の尊厳をはく奪された人々のために献呈すると語っています。
その意思を信じたとして、演奏家たちは、どのような距離感や想いを、楽譜に重ねて模索するのでしょう。
このCDのハ-ゲン弦楽四重奏団は、曲に付きまとう前述したような先入観を一度リセットしているように想います。
そしてあらためてスコアを読み抜き、純粋な一人の作曲家に誠実に向き合おうという新風を注ぎ込んでいるように感じるのです。