おはようございます。言わなくても分かると思いますが転枝です。
今日も喋ります。今田ずんばあらずさんの『イリエの情景』についてです。
前回がですます調での語りだったんですが、今日はである調でいってみます。まだまだ慣れない感じですが暖かい、とても暖かい目で見守っていただければありがたいです。
いきなり口調が変わるのもどうかと思いますが、まあこれも実験のうちです、やるだけやってみましょう。ただ、語りがダメでも作品自体は素晴らしいので、どうか伝わりますようにという心だけは忘れないようにしたいです。はい。
さっそくいきます。
「風景」の変化は、往々にして自然現象と重ねられる。
代表的なのは四季の移り変わりだ。春の風景といえば桜が、夏の風景といえば海や花火が、秋といえば紅葉が……。自然の流れの中で万物は移り変わり、形を変えて生まれ変わりさえする。日本的とも東アジア的ともいえるこの考え方は、一側面においてはもちろん正しい。自然の力は古くから「神」としてさえ信仰されてきた、絶対の象徴でもある。
しかし、ときにそれは人間にとって猛威を振るうことがある。二千十一年三月十一日、東日本大震災と呼ばれる一連の天災はその典型といえるだろう。二万人を超える死者を出したあの災害の記憶は、未だに人々の中に、傷と共に残り続けている。その天災において人々が衝撃をもっとも受けたのは、おそらくは津波被害の動、画像だ。当時すでに、一般家庭の多くの人々に普及していた携帯電話、スマートフォンに内蔵されたカメラよって捉えられた風景は、地震や津波の恐ろしさを伝えるうえでもっとも効果的な手段として、メディアなどにも取り上げられていた。津波被害の後に家々の区画だけが残された風景は、その象徴であった。
今田ずんばあらずが著した『イリエの情景』は、その震災被害のあった東北沿岸を女子大生二名が順々に廻っていくというストーリーとなっている。今回取り上げるのは一巻までとなっているため、石巻市と南三陸町が舞台となっている。依利江と三ツ葉の二人は「被災地さんぽ」をしていくなかで、復興の片隅(舞台は二千十六年であり、震災からは五年の月日が経過している)に残っている震災の爪跡を見つけ、様々なことを感じていく。行動力があり旅の提案をしたボーイッシュな三ツ葉は物語のエンジン役。繊細な心を持ちながら、旅の目的について考え続けている依利江は読者の視点に立った感情移入役。それぞれが役割を果たしているこの作品の世界は、女性のホモソーシャル的な雰囲気を保ったまま進む。
彼女達が被災地で出会うのは、被災の記憶が未だ残る風景たちだ。これらの風景は震災前と震災後で大きく形を変えたものが多い。前述した、自然の力に寄る風景の変質が行われているのである。その風景たちは、彼女達の心境に少なからぬ影響を与えていく。まるで津波の被害の変質が、彼女達の精神に及んでいくように、この震災がまだ終わったものではないというかのように、震災の残した風景は人の心に染み入っていく。かつて原爆ドームの取り壊し運動や、女川の役場跡なども議論を呼んだことは記憶に新しい。このような風景が人に対し発するメッセージ性は無視できないものとして「イリエ」の中には含まれているのだ。写真や地図等の資料が多分に収録されているというところも、実際にこの風景が存在するという生感を助長する効果があり、読者に対しての喚起が促されてすらいるかもしれない。
しかし、彼女達が出会うものは被災物ばかりではない。そもそも彼女達が旅に出て、被災地の「さんぽ」ができてしまえるのは、一定レベルの復興を被災地が遂げているからでもある。戦後の焼け野原すら想起させるあの絶望的な光景から、人は人の力でもって「風景」を変化させてきた。どうしても被災地の風景が変化した、という言説には津波を想起させるものがある。けれど人は人の力で、自然ではない力で風景を変質させることもできる。仮設住宅や、その先の町の再建。自然に破壊された人々の風景は、もう一度人の手によって取り返される。その復活の力にも、彼女達は何度も触れていく。
一日で風景を変えてしまった自然の力に抗うように、人は幾年もの時間をかけてまたも風景を変えていく。
そういったサイクルを、一本の小説として描写しつくしている本作は個人的に高く評価したいと考える。人の持つ風景を変質させる力。これは依利江たちにもきっと効果をもたらすだろう。即時的な破壊の風景に対し、依利江たちが別個で受け取るのは、人々の話や仕草、町そのものだ。その「人」による力が彼女達をゆっくりと、そして確実に変えていくという展開をこの作品の二巻以降にも期待したい。自然ではなく、人によっての変質。それこそが彼女達の旅に出た理由なのではないだろうか。そんなことを夢想しながら、次巻の購入を企んでいたいものである。
そのような本との出合いもまた、私を変えてくれる「人」の力になると信じて。
以上です! なんか色々すみません!!
いやーなんかこう、伝わるんだろうか……。とにかくずんばさんすげーよって話ですよ。この小説は絶対に読んだ方がいいっすよ。マジで。八月二十日のコミティアにも出られるそうなので、是非お読みになってください。私は当日いけませんが……。
という訳で、今回はこんな感じです。なにか不備があったらすみません。なんなりといってください。
お付き合いいただきありがとうございました。明日か明後日の朝にも、もう一本小説について語りたいなって思いますが、それはまた別のお話。
コメント