剣沢から見た剱岳
富山県上市町と立山町にまたがる剱岳(つるぎだけ)に登りました。
氷河の浸食によって岩が削られて形成された極めて険しい山容を持ち、岩の殿堂の異名を持ちます。その険しさと圧倒的なまでの存在感により、多くの登山者を引き付け魅了する山です。一般登山道もしっかりと存在しますが、ルート上には数多くのクサリ場や難所が存在し、難易度の高い危険な山と見なされています。
期待と不安を胸に訪れた岩の殿堂は、前評判に違わぬスリル満点の山でした。

2019年7月27日に旅す。


なんでこんなところに来てしまったのだろう。
剱岳 かにのたてばい
岩場は苦手だったのではなかったのか。アルペン的な岩峰よりも、穏やかで放牧的な稜線の山の方が好きだと、常日頃から公言していたはずだったのに。

それが今、何故かそのアルペン的な岩峰の最たる場所へ来てしまっている。・・・魔がさしたとしか思えません。

という事で、前日の立山縦走に続いて今回は二日目の記録です。一般登山道最高難易度なる物々しき肩書を持つ岩峰、剱岳へと登って来ました。この山は一言で言うと「危ない山」です。
剱岳別山尾根 平蔵の頭
そもそも一般登山道と言う言葉の定義は、特別な道具や登攀技術を用いずに登れる道のことを指します。

そういう意味で、鎖や足場がしっかりと整備されているこの別山尾根ルートは、確かに一般山道の要件を満たしています。・・・満たしているのか?

別山尾根ルート以外にも、明治時代に剱岳に初登頂した陸軍の測量隊が登ったと言う雪渓沿いのルート等、この山にはいくつかのコースが存在します。しかし、その多くは玄人向けで、一般登山者向きのものではありません。

目もくらむような高度感満載な険路を乗り越えた先に待つのは、立山連峰を一望する大絶景です。決して容易に登れる山ではありませんが、しかしそれでも登ってみたいと思わせる、甘美なる魅惑に満ちた山です。
剱岳から見た立山連峰

安全第一をモットーとするセーフ登山家が行く、剱岳別山尾根訪問記をお届けします。
前剱から剱岳を見つめる登山者


コース
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剣沢キャンプ場から別山尾根ルートを通って剱岳を往復します。剱岳登山としては最も一般的となる行程です。


1.剣沢キャンプ場より、剱岳登山の開始地点、剣山荘へ

4時11分 夜明け間の剣沢キャンプ場よりおはようございます。テントから頭を出すと、剱岳の山頂へ向かってヘッドランプの明かりの列が出来ているのが見えました。
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鎖場と難所が続く別山尾根ルートでは、しばし登山道上に渋滞が発生ます。それを避けたいがために、まだ暗いうちからヘッドランプ装着で登り始める人が割と多いのだとか。


安全第一をモットーとする私は、ただでさえ危険の多そうな剱岳登山に、ヘッドランプをつけての夜間歩行と言うさらなる危険要素を追加するつもりなどもとよりありません。
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ゆっくりと朝食を取り、周囲が明るくなるのを待ってから行動を開始します。混んでいるのなら、ゆっくり登ればいいじゃない。


5時15分 周囲が十分に明るくなったところで行動開始です。本日の天気は午前中が晴で午後からは崩れるという事なので、午前中の内にスパッと登ってスパッと降りて来たい所です。
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始めは眼下に見えている剣山荘を目指し、剣沢カールを下って行きます。
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雪解け水が溜まってできた名もなき池に、見事な逆さ剱が映っていました。
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割と大きめの雪渓を横断します。大した傾斜ではないものの、一度滑りだしたらどこまで転げ落ちるか分かったものではないので、ここは一歩一歩慎重に行きます。
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剱岳へ近づくにつれて、剱岳本体は見えなくなり、前衛峰の前剱がだけが頭上高くに見える状態になりました。剱岳そのものをじっくりと眺めたいと思っている人は、剣山荘よりも手前にある剣澤小屋に泊まった方が良い感じです。
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陽が登って来ました。剣沢カール内に眩い光が差し込みます。
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振り返ると、青空の下に昨日越えて来た別山の姿が良く見えました。
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剣山荘に近づいてきました。剱岳山頂に最も近い位置にある山小屋です。当初はここに泊まって楽をしようと思っておりましたが、前日に電話したらすでに予約で満員でした。剱岳の人気のほどが伺えます。
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剣山荘付近には、いくつかの池塘が点在しています。逆さ剱ならぬ逆さ前剱です。
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5時45分 剣山荘に到着しました。
剣沢キャンプ場からは、すぐそこのように見えめて割と距離がありました。これでようやくスタート地点に立ったわけです。
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小屋の正面には、後立山連峰の山並みが連なります。右が鹿島槍ヶ岳(2,889m)で左が五竜岳(2,814m)かな。初めて目にするアングルなのでイマイチ自信がありませんが。
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2.絶壁のごとく立ちはだかる剱岳の前衛峰、前剱へ

それでは張り切って登山を開始しましょう。まずは目の前に見えている、一服剱と呼ばれるピークを目指します。
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剣山荘の裏手はコバイケイソウが満開でした。剱岳と言えば岩場のイメージばかりが強く、こんなに多くの花が咲く山だとは少しも思っておりませんでした。
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ほどなく前方に、最初のクサリ場が現れました。なお別山尾根ルートには、鎖場が全部で13カ所あります。
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最初のクサリ場に特に難しい要素はありません。クサリがなくても登れそうな岩場です。
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背後からプレッシャーをかけて来るような人がいたら、その時は先に行ってもらいましょう。慌てる必要はありません。落ち着いて一つづつゆっくり登ればよいのです。焦らず慌てず、そして恐れず。


最初のクサリを突破すると、すぐに二つ目が視界に入ります。今度はトラバースです。
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ここも難しくはないのだけれど、足場が微妙に外側に傾斜していてヤな感じがする鎖場です。
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私は、例え垂直に近い角度であろうとも、上下の移動にはあまり恐怖を感じないのですが、この手の横向きのトラバースが大の苦手です。


6時10分 一服剱に到着しました。
この前方に絶壁のように立ちはだかっているのは、剱岳本体ではなく前剱です。山肌に何となく見えている登山道は、かなりの急勾配です。
一服剱から見た前剱


左手には富山湾が一望できました。その先には能登半島も見えます。能登半島と言うのは、こんなに大きかったのですね。
一服剱から見た富山湾


振り返れば剣沢カールの大パノラマです。まあ、頂上まで行けばもっと凄い光景を見れますが。
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inゼリーで軽くエネルギー補充し、前剱に向かって行動を再開します。
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しかし見れば見るほどトゲトゲした山ですな。なんと言うか、落ちたら痛そうな光景です。
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右手には武藏谷と呼ばれる谷が下まで続いています。先は見えませんが、もしここから滑落したら、剣沢雪渓までノンストップで転げ落ちて行くことでしょう。
剱岳 武藏谷



やがてエグイ傾斜度の登りが始まります。下から見上げると、ほとんど絶壁です。
前剱の急登


足元はザレており、小さな石が散乱していました。登る分には何ら問題ありませんが、下山時には注意を要しそうな道です。
前剱の急登


この見上げる角度は、奥穂高岳の重太郎新道を思い出す光景です。とにかく浮石だらけなので、落石に要注意です。
前剱の急登


急坂を登るうちに、3番目のクサリ場が現れました。幅のせまい岩の隙間を通り抜けます。
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このクサリ場は全長が長めです。隙間を抜けたあともしばらく続きます。
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ふと左手を見ると、影剱が映っていました。
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急登ゆえに見る見る高度が上がっていきます。先ほど通ってきた一服剱が、あっという間に小さくなりました。
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ようやく前方に前剱の山頂が姿を見せました。
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4番目のクサリ場は、またもや苦手なトラバースです。やはりここも足場が微妙に斜めで、ヒヤヒヤします。
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剱岳山頂もお目見えです。まだ結構な距離がありますな。
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7時10分 前剱に到着しました。
標準コースタイムをややオーバーするペースでの到着です。本日はもとより、コースタイムを巻こうなどとは少しも考えておりません。安全第一で行きます。
前剱から見た剱岳
ここから一見した限りでは、剱岳本体の山頂直下は、ほぼ垂直の岸壁に囲われているように見えます。さて、一体この壁のどこをどう登るのでしょうか。皆目見当がつきません。


背後を振り返ると、別山の上に立山が僅かに頭を覗かせていました。
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室堂平の奥に見えているこの大柄な山は、北アルプスの女王の異名を持つ薬師岳(2,926m)です。「登りたい山リスト」に名を連ねているので、何れ訪問することになるでしょう。
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眼下彼方には、スタート地点の剣沢キャンプ場が見えます。割と沢山と歩いたような気分になっておりましたが、こうして見ると大した距離を歩いてはおりませんな。
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3.剱岳登山 登頂編 幾多の難所を乗り越え、一般登山道最高難易度の頂へ

行動を再開しましょう。前剱を過ぎてから一時の間は、嵐の前の静けさのような穏やかな稜線の道が続きます。
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やがて前方に、飲み物を盛大に吹き出しそうになる光景が飛び込んできました。前剱の門とよばれる、5番目のクサリ場です。
剱岳 前剱の門


「なんだ剱岳なんて大して怖くないじゃん」と油断し始めていた登山者に、合計2トン分くらいの冷水を浴びせかけてケツの穴まで水浸しにしてくれるような場所です。
剱岳 前剱の門
この門と言う名称は、「これを見てビビるようなら、ただちに引き返せ」と言う、剱岳からの警告であるかのように思えます。


この鎖場手前にある鉄の渡りが微妙に傾いているのもまた、無駄に恐怖心を煽ってくれます。この道、ホントに大丈夫???
剱岳 前剱の門の鉄の橋


足場はしっかり存在するので特に難しくはありませんが、ともかく高度感が半端でない場所です。端的に言えばとても怖い。
剱岳 前剱の門のクサリ場
ではここでおじさんから、前剱の門を突破する際のワンポイントアドバイスを残しておきましょう。
「下を見るな」以上です。


岩の山を歩いていると、土の道が現れただけで妙にホッとするから不思議です。
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続いて6番目のクサリ場、ここは下りです、特筆すべき点の無い、至って普通のクサリ場です。・・・普通のクサリ場と言うのも、何か妙な日本語ですが。
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門を越えると、しばしの間、安息の時が流れます。
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どこが道なのかよくわからない岩場を、ペンキマークを頼りに登って行きます。
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剣沢側から見上げた時には、筋骨隆々な感じのする厳つい姿をしていた前剱は、実は裏側から見ると薄っぺたい張りぼての様な姿をしていました。
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近づくにつれて大きさを増して行く剱岳山頂部。刺々しい姿をしております。
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7番目のクサリ場までやって来ました。平蔵の頭と呼ばれる場所です。ここは、登りと下りとで左右にルートが分かれて一方通行です。
剱岳 平蔵の頭クサリ場
どうやら一人登りあぐねている人がいるらしく、登り側の列が完全に停止していました。慌ててもしょうがないので、ゆくっりと気長に待ちましょう。


10分ほど待って、ようやく順番が巡って来ました。下の方は、垂直の岩に鉄の杭が打ち込んであるので。それを足掛かりにして登ります。
剱岳 平蔵の頭クサリ場


杭があるのは下の方だけです。上の方に杭は無く、つま先の先端がちょこっとかかるだけの突起に足をのせた状態で、上体を持ち上げる必要があります。
剱岳 平蔵の頭クサリ場
なるほど確かに、今までのクサリ場に比べると、ここは少し難しいかもしれません。

ではここでおじさんから、平蔵の頭を突破する際のワンポイントアドバイスを残しておきましょう。
「下を見るな」以上です。


登りきると、今度はすぐに下りです。屏風の様な横幅の薄い岩を乗り越えるイメージです。
剱岳 平蔵の頭クサリ場


平蔵の頭を越えると、登りと下りのルートが合流します。狭い場所でのすれ違いが発生するので、譲り合って行きましょう。
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ここには何故かクサリがありません。えぇ、怖いんですけれど。
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右手に見えている雪渓は、平蔵谷(へいぞうたん)と呼ばれています。剣沢から、この雪渓を登り上げるバリエーション・ルートも存在します。


8番目のクサリ場も、登りと下りで左右に分かれています。登った先が一方通行ではないため、結局はすれ違い待ちの渋滞が発生していました。
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振り返って見た平蔵の頭は、このような姿をしております。・・・うむ、やはりこの山は控えめに言って頭がおかしい
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土台の様な人工物が残っていました。かつてこの場所には、平蔵小屋と呼ばれる小屋が立っていたのだとか。こんな場所によう作りましたな。
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もう少し早い時期だと、ここで雪渓を横断することになります。今回はもう、雪渓がとけて切れ目が出来ていたので、その切れ目の中を進みます。
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ここで遂に、剱岳最大の難所と言われる、カニのたてばいがその姿を現しました。なるほど、ほぼ垂直ですな。
剱岳 かにのたてばい


あえて熊本弁で言うなら「これがカニのたてばいばい」。
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頭上高くに、岩を横切っている人の姿が見えます。あちらは下山ルートのカニのよこばいであるようです。トラバースが大の苦手な私としては、目の前のたてばいよりも、帰りのよこばいの方が今から不安でなりません。
剱岳 かにのたてばい下から見上げたかにのよこばい


順番が巡って来ました。カニのたてばい行ってみよう。
剱岳 かにのたてばいの取り付き地点


剱岳だろうが丹沢表尾根の行者ヶ岳だろうが、クサリ場において行うべき動作に違いはありません。三点を支持し、手と足を一つづつ上へと持ち上げて行きます。
剱岳 かにのたてばいの中間付近
決して焦らず慌てず、そして恐れずに。


てっぺん付近は足がかりがやや頼りなく、少し難しく感じました。最後まで、慌てず慎重に登ってください。
剱岳 かにのたてばいの上部
ではここでおじさんから、カニのたてばいを突破する際のワンポイントアドバイスを残しておきましょう。
「下を見るな」以上です。


そして、カニのたてばいを越えたらもうすぐに山頂なのかと勝手に思い込んでおりましたが、全然そんなことはありませんでした。山頂まではもうひと道あります。
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振り返って見た別山尾根は、恐ろしいまでにギザギザしておりました。我ながらこんなところを良く歩いたもんだと、感慨深くなります。
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・・・いや待て、感慨に浸るのはまだ早い。


この遠く彼方にある、とても特徴的な尖った山の姿がやたらと目につきました。方角的に、あれはか笠ヶ岳(2,898m)でしょうか。
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山頂に向けてラストスパートです。ここまで来れば、もう登りに難所はありません。あとはウィニングランを決めるだけです。
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頂上が見えました。
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9時5分 剱岳に登頂しました。
喜びよりも安堵感の方が勝る登頂の瞬間でありました。いやー、緊張した。やはり私は岩場は苦手です。
剱岳山頂の社


山頂からの景色は、なんと言ったらいいのか。絶景過ぎて言葉が出て来ません。
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前日に縦走した立山の主要なピーク達も、この通りすべて一望することが出来ました。
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こちらは後立山連峰の白馬岳(2,932m)です。割と特徴的なシルエットをしているので、山座同定は容易です。
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北側に見えているのは毛勝三山と呼ばれる山です。とても立派な姿をしておりますが、一般登山道の存在しない藪山であるそうです。
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毛勝三山の背後に広がるは、広大なる富山湾です。
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眼下には早月尾根が見えます。このルートは別山尾根ほどの危険はないものの、登山口からの標高差が2,200メートルにも及ぶ、非常にタフな行程です。
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剱岳への再訪があるとしたら、次回はこのルートかな。


4.剱岳登山 下山編 家に帰るまでが剱岳です

9時20分 さて、素晴らしき光景も十分に堪能したことだし、ボチボチ下山に移りましょう。
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「剱岳に登頂出来たならもう死んでもいい」とでも思っているのならばともかく、ピストンである以上は、現時点はまだ道半ばに過ぎません。

剱岳における滑落事故の大半は、登りではなく下山時に発生しています。見方によっては、むしろここからの方が正念場とも言えます。


ガレ場の急斜面を下って行きます。こういう何気ない場所一つとっても、剱岳に安全な場所など一つも存在しません。この山は、一瞬でも気を抜くものを即座に殺しにかかります。
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さあいよいよ、個人的に一番恐れ戦慄している、カニのよこばいへとやって来ました。ビビッてなんかいないぞ、これは武者震いだ!
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まずは取り付き地点まで真っすぐに下ります。この時点ですでに、かなりの急勾配です。
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そして核心部のトラバースへと取り付きます。
剱岳 かにのよこばい
上からではまったく見えませんが、ペンキで書かれた赤い矢印の先に、足を乗せられる小さな突起があります。鎖を掴みながら背を向けて、まずその突起に右脚を下ろします。

落ち着けベイビー。焦らず慌てず、恐れずだ。


その先は、岩に横向きのクラックが入っているので、そこへ左足のつま先を突っ込みます。あとはクラックに沿って、横向きにすり足で水平移動するだけです。
剱岳 かにのよこばい
特に難し動作は要求されませんが、最初の右足を下ろすタイミングがとにかく恐ろしいです。一瞬ではあるものの、殆ど宙吊りのような状態になります。


振り返って見るとこんな感じです。クラックに沿って移動するその様は、まさによこばいです。
剱岳 かにのよこばい
ではここでおじさんから、カニのよこばいを突破する際のワンポイントアドバイスを残しておきましょう。

「下を見るな」・・・と言いたい所ですが、ここはしっかりと下を見ながらでないと危険です。という事でアドバイスは「腹をくくれ」です。


トラバースを越えると今度はハシゴです。このハシゴは怖いヤツだ。
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ハシゴに怖いも怖くないもないだろうと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。この手すり部分があるかどうかで、ハシゴの取り付き怖さは格段に違ってきます。
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そもそもこの手すりが無いと、最初の一歩を踏み出す時に掴まれる場所が無いんですよね。


ハシゴを下ると再びクサリです。ここは足を置くステップが豊富にあり、特段難しくはありません。
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難所を突破すると小屋がありました。中は検めませんでしたが、これはトイレだそうです。こんな場所によく作りましたな。
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カニのよこばいを突破して人心地、と言いたい所ではありますが、まだまだ難所は続きます。一息つくにはまだ早い。
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11番目のクサリ場は、登りで通った8番と左右に分かれていた場所です。
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高度感がかなりあるものの、特に難しい要素もなく無く、危なげなく突破します。
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続いて12番、平蔵の頭の下りルートです。遠目にはかなり恐ろしげに見えていた場所ですが、さてどんな感じでしょうか。
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往路と同様に、屏風の様な一枚岩を登って降りてして乗り越えます。下り側で苦戦中の人がいるらしく、渋滞が発生していました。
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登って見ると、意外と傾斜は緩めでした。見た目の怖さとは裏腹に、ここはあまり難しくありません。
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登りきるとすぐに下りです。下り側も、これと言って特筆すべき点の無い、ごく普通のクサリ場です。
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平蔵の頭を越えると、前剱の門までしばしの間、安心安全な尾根歩きとなります。
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うーん。安心安全は少し言いすぎだったかもしれません。ここまでに比べれば、比較的平穏な道が続きます。
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最後となる13番目のクサリ場は、前剱の門への登り返しとなります。ここも、特筆すべき点の無いごく普通のクサリ場です。
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往路で飲み物を吹きそうになった前剱の門も、帰路の方は怖い要素の無い歩きやすい道でした。こんな最後の最後に急に優しくされても、困惑します。
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10時45分 前剱まで戻って来ました。
もう難所は突破したと言う安堵感に包まれてしまいそうになりますが、まだまだ油断は禁物です。
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実は剱岳で最も多くの滑落死亡事故が起こっている場所は、平蔵の頭でもカニのたてばいでもありません。滑落死亡事故の多くは、この前剱からの下山中に発生しています。

ここまでの疲労が蓄積してきているからと言うのも理由の一つでしょう。けれどそれよりも「もう難所は突破した」と言う安堵感から、ここで緊張の糸がプッツリと途切れてしまうことが、最大の原因であると考えられます。

家に帰るまでが剱岳です。最後まで気を抜いてはいけません。


という事で、前剱からの急坂を、油断なく慎重に下って行きます。ストックが欲しくなるような勾配ですが、登るときには邪魔だろうと思い、持ってきてはおりません。
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それでも、沿道の花を愛でるくらいには、心の余裕も生まれて来ます。
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一服剱に向かって登り返します。ここでポツポツと、小さいながら雨粒が落ち始めました。結局、午前中いっぱいは持ってくれませんでしたか。
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11時40分 一服剱まで戻って来ました。
朝にはあんなにも青空の広がっていというのに、いつの間にかすっかり周囲はガスガスになっていました。山の天気と言うのは、変わるときは本当にあっという間です。
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さあ、本降りになる前に、足早に撤収しましょう。
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1番のクサリ場を危なげなく下ります。今度こそ、これで危険ヵ所はお終いです。
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12時5分 剣山荘まで戻って来ました。
ここで剱岳の山バッジと一緒に剱人Tシャツを買おうとしたのですが、Lサイズまでしか存在しませんでした。残念。
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・・・ちなみに、私の体形にジャストフィットするサイズは3Lです。XLでもなんとか着れますが、若干つんつるてん気味になります。


剣沢キャンプ場へ登り返します。ああちなみに、剱人Tシャツは剣澤小屋の方の売店でXLサイズを無事に購入できました。
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12時40分 憩いの我が家へと帰還しました。
今日はここでもう一泊し、明日に室堂を散策してから帰宅する予定です。よって本日の行動はこれで終了となります。あとはグダグダと、なにするでなしに飲んで食ってする贅沢な時間を過ごします。
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剱岳はすっかりガスの中です。うまい事晴れ間の時間帯を突いた、会心の山行きでありました。
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5.台風直撃の眠れぬ夜

さてこの後はまあ、大荒れに荒れました。台風6号は当初の予想進路を大きく外して、この日私の居た富山県へと直撃しました。

おかげさまで私は図らずして、アライテントの耐候性能の優秀さを身をもって体験すると言う、とても貴重な機会を得ることとなりました。強制的に。

とりあえず嵐の中を過ごす場合、風向きとテントの向きを合わせておくことがとても重要です。必ず短辺側を風上に向けて設営してください。横っ腹を見せたままだと、テントごとひっくり返ります。

私のテントではありませんが、実際に横倒しになる瞬間を目撃しました。

ペグは、大真面目に打てるだけ打っておきましょう。ペグ打ちは慣れるに従い適当になりがちですが、初心に返って12か所すべてに打ちこみます。

後は・・・文字通り嵐が過ぎるのをじっと耐えて過ごすだけです。テントが潰れないようにお祈りでもしながら。


6.剱岳登山 帰還編 黒部立山アルペンルートで扇沢へ下山する

結局最終日は、台風一過の快晴とはならず。暴風&小雨パラパラな天気でした。あまり写真も撮らなかったので、最終日については軽くダイジェストでお送りします。

明けて7月28日 5時
おはようございます。雨は夜の内に止んでくれましたが、風の方は相変わらず荒ぶったままです。
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暴風の中で四苦八苦しながらテントを撤収し、下山を開始します。下山とは言いつつも、まずは別山乗越に向かって登り返します。
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剣沢カール内では、ハクサンイチゲの群生が見事でした。晴れていれば、さぞや素晴らしい光景であることでしょう。
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剱御前小屋の立つ別山乗越まで登って来ました。ここから今度は、室堂側に向かって下って行きます。
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ここで小雨を通り越して大真面目に雨が降り出したため、カメラはこの後しばらく間、防水バック内に避難と相成りました。


雷鳥坂と呼ばれる、なかなか急勾配の道を下って行きます。だいぶ下の方まで下ってきた所で、ようやく雨脚が弱まってくれました。
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やがてガスの切れ目から、雷鳥沢キャンプ場が姿を現しました。
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キャンプ場の脇を流れる称名川は、雨と雪解け水を集めてかなりの水量です。この水量で徒渉ができるのかと不安になっていたら、何のことは無い橋が架かっておりました。
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よくよく考えてみたら、ここは天下の北アルプスは立山室堂です。徒渉などと言う原始的な真似をさせられるハズないか。


雷鳥沢キャンプ場には、意外なほどに多くのテントが張られていました。台風直撃の最中に、小屋に逃げ込みもせずにテントで過ごした物好きたちは、結構多くいたようですな。
立山室堂 雷鳥沢キャンプ場


この雷鳥沢キャンプ場から室堂バスターミナルまでがまた、思いのほか大きく登り返します。もう登るのは腹いっぱいなんですがねえ。
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当初の予定通り、みくりが池温泉に立ち寄り入浴して行きます。3日ぶりに入った風呂はそれもう、気絶しそうなくらいの気持ちの良さでした。
立山室堂 みくりが池温泉
なお、日帰り入浴の受付時間は午前9時からとなります。あまり張り切って朝早くに行くと、まだ入れないのでご注意ください。


晴れていれば見事な逆さ立山が見れると言うみくりが池ですが、この通り何も見えませんでした。
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風呂に入って元気を取り戻し、その後は足取りも軽やかに室堂バスターミナルへと戻って来ました。
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ここからは、乗り物が大好きな人にはたまらない黒部立山アルペンルートを通り、扇沢へと下ります。まず初めはトロリーバスです。
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映画「黒部の太陽」でおなじみの破砕帯を貫くこのトンネルは、常に水浸しの湿度100%の世界です。
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大観峰からお次はロープウェイに乗り換えです。山の下の方は晴れていたらしく、眼下には黒部湖の姿がしっかりと見えました。
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黒部平からは、今度はケーブルカーに乗り換えです。
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いや、この転倒の仕方はまずいでしょう。
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この、いかにも元は工事用のトンネルですと言わんばかりの厳つさが素敵です。ラフな格好をした観光客の姿とのギャップが面白い。
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という事で、やってまいりました黒部ダム。立山には興味のない人でも、ここまでだったら来たことがあると言う人は意外と多いのではないでしょうか。
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ちょうどよいタイミングで観光放水を実施中でした。そうそう、この光景を見たかったのですよ。
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対岸に展望所はあるので行ってみましょう。展望所は上と下とあるようですが、より放水口に近そうな下の方へ行ってみました。
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パンフレットなどで何度も目にしたことのある光景なので、初めて目にする割には、ひどく既視感のある光景でした。
放水中の黒部ダム


ダムから最後は電動バスに乗って終点の扇沢まで下ります。
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下界は晴天で、その暑さに少々面喰いました。せっかく温泉に入ってスッキリしたのに、早くも汗だくです。
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扇沢からは、信濃大町行きと長野行きの路線バスが出ています。ちょうどよいタイミングで長野駅行きが出発するところだったので、そのまま乗り込みます。長野までは確か2000円だったかな。
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長野駅から新幹線で帰宅の途につきました。
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岩場が苦手な自称セーフ登山家が行く剱岳訪問記は、これにて終了です。剱岳は前評判通りの、実におっかない山でありました。
この山に興味を抱いている多くの人にとって、最も気になるのは「そもそも自分の技量でこの山に登ることは可能なのか」と言う一点であろうかと思います。その問いかけへ答えになるかどうかはわかりませんが、一つだけ言えるのは、別山尾根は一般登山道であるという事です。道は整備されており、特別な道具や技術が必要となる場所はありません。三点支持の基本を理解し、かつ正しく実践できる人であれば、問題なく登ることは出来るでしょう。
カニのたてばいにしてもよこばいにしても、クサリ場の一つ一つに着目して見ると、特別に難しい場所は存在しません。では剱岳の一体何が難しいのかと言うと、それは一度のミスが死に直結する場面が、長時間にわたって続くと言う点にあります。混み具合にもよりますが、往復でおよそ6~7時間の間、常に緊張し集中力を切らさずに行動することが求められます。それを考えると、この山へ登るのに最も必要とされるのは、途中で集中力切れを起こさないだけの体力と言えるかもしれません。
この山へ挑戦してみようと思う方は、前日にしっかりと休養し、気力体力を充実させたうえで挑んで下さい。


<コースタイム>
剣沢キャンプ場(5:15)-剣山荘(5:45)-一服剱(6:10~6:15)-前剱(7:10)-剱岳(9:05~9:20)-前剱(10:45)-一服剱(11:40)-剣山荘(12:05)-剣沢キャンプ場(12:40)

剱岳の山頂


最後までお読みいただき、ありがとうございました。