中白峰山から見た間ノ岳
南アルプスの白根三山を縦走して来ました。
白根三山とは赤石山脈(南アルプス)に連なる北岳(きただけ)、間ノ岳(あいのだけ)および農鳥岳(のうとりだけ)の総称です。今回は縦横二日目から三日目にかけて歩いた、間ノ岳と農鳥岳の記録です。北岳から間ノ岳へと続く稜線は、日本で最も長い標高3,000メートル越えの尾根となっており、その全長は3kmにも及びます。
天空を歩くがごとき、3,000メートルの稜線を縦断して来ました。

2019年9月2~3日に旅す。

前日の北岳に引き続き、今回は白根三山縦走の二日目と三日目の記録です。前日の記事はこちらです。

縦走二日目ではいよいよ、日本最長と言われる標高3,000メートル越えの稜線を歩きます。この天空の回廊とでも言うべき稜線歩きは、白根三山縦走におけるハイライトです。
間ノ岳の中腹から見た北岳
当然ながら私も、この稜線歩きをとても楽しみにしおりました。しかし、実は今回の白根三山縦走計画において、私が最も重要視しているのことは、もっと別にあります。

そう、私は以前からずっと農鳥小屋に泊まってみたかったのです。
農鳥小屋
南アルプスの生ける伝説、農鳥親父こと深沢さんが、高齢のためにまもなく引退する。そんな噂を耳にした私は、居てもたってもいられなくなり、今回の縦走を計画しました。

ちなみに、農鳥小屋の一体何が伝説的なのかと言うと・・・私の口から説明するよりも、大変秀逸な記事が存在するのでこちらをご覧下さい。(外部サイトです)


そんな訳で、農鳥小屋宿泊がメインコンテツという、何やらよくわからない白根三山縦走二日目と三日目の記録です。


コース
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二日目は北岳山荘より間ノ岳を経て農鳥小屋に一泊します。三日目は農鳥小屋から西農鳥岳と農鳥岳へ登り、その後は大門沢コースを下り奈良田(ならだ)へ下山します。

二日目、三日目共に、強行軍とはならない行動時間に比較的ゆとりのある行程です。


1.白根三山の目覚め~お天気はイマイチ風味

9月2日 5時 山小屋の朝は早い。
という事でこちらが北岳山荘の朝ご飯になります。山小屋の朝食としてはごくごく普通のメニューです。
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昨日から引き続き外は相変わらず暴風が吹き荒んでいたので、横着して小屋の窓からご来光を望みます。
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北岳の間からは、ちょうど真正面に太陽が昇るので、わざわざ寒い中を表に出て太陽の出待ちをする必要はありません。


富士山も綺麗に見えました。日本第二位の山から眺める第一位の姿です。
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ご来光と富士。素晴らしき一日の幕開けを予感するような光景です。
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残念ながら天気予報によれば、本日は晴れてくれるのは早朝のごく短い時間だけとのことです。いずれは昨日のように、白根三山の稜線は濃密なガスに包まれてしまう事でしょう。


ノロノロと身支度を整えて表へ出ます。本日の行程は農鳥小屋まで行けば良いだけあるので、時間には大いに余裕があり、とくにせかせかする理由もありません。
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地味な上に恥ずかしがり屋さんの北岳パイセンは、今日も雲隠れを決め込んでいました。
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なんとなくガスが取れそうな気配だったのでしばし待機するも、これが限界でした。西から吹き続ける強風が次々と新手のガスを生み出し、一向に取れてはくれませんでした。
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富士山はこの通りよく見えました。白根三山の稜線を境に、西は曇りで東は晴れと言う、前日と全く同じ天気模様です。
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これから向かう間ノ岳もガスの中です。僅かだが晴れ間があると言う予報を信じて、今は前へ進むしかありません。
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2.北岳山荘より、天空の稜線を歩き間ノ岳へ

5時50分 間ノ岳に向かって行動を開始します。稜線の上に出ると、相も変わらずな強烈な西風に晒されます。
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ガスと暴風の中をノロノロと前進します。こう風が強いと、好むと好まざるとにかかわらず、どのみち早くは歩けません。
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不意にガスが取れました。これで、イマイチ乗り気ではなかったテンションが一気に上がりました。
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この後もガスったり晴れたりを繰り返すのですが、それでも晴れる瞬間があるのだとわかれば、果然やる気がわいて来ると言うものです。
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東側はこの通りずっと良いお天気です。いい景色だあ。
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ふと反対に目を向けると、ブロッケン現象が発生していました。
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背後を振り返ると、北岳の方は相変わらず雲の中です。この深田久弥曰く「謙虚な山」は、本当にどこまでも謙虚な奴ですね。
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やがて頭上に、頂上らしき場所が見えて来ました。
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前方には間ノ岳。こちらも、あと少しでガスが取れそうな感じです。
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6時30分 中白峰山に登頂しました。間ノ岳の前に立つ前衛峰です。堂々たる3,000メートル峰なのに、ただの通り道の様な扱いを受ける不遇の頂です。
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間ノ岳がついに雲の中から姿を見せました。この山もまた、北岳同様にぞんざいな名前のせいで損をしている感のある山です。
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この山は国土地理院によって2014年に標高が3,190メートルに変更され、北アルプスの奥穂高岳とタイの日本第3位となりました。間ノ岳のみならず、南アルプスの山は今なお隆起を続けており、標高は少しづく高くなり続けています。


左手には、富士山は相変わらず良く見えます。
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右手の伊那地方は完全に雲の下です。中央アルプスも一切見えません。
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背後には北岳が・・・見えませんな。是非ともここから見た北岳の姿を写真に収めたかったのですが、粘っても一向に晴れてはくれませんでした。残念。
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ご存知の方もいるかと思いますが、中白峰山から見た北岳は凄くカッコ良いんです。北岳のベストアングルは間違いなくここから見た姿だと思えるほどに。


諦めて前進を開始します。岩陰に入ると、強風は嘘のようにパタリと止みました。
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まあ、すぐにまた暴風の稜線へと舞い戻るわけですがね。富士山山頂に吹く風などと同質の、同じ強さの風が常時吹き続ける状態です。
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標高差が優に1,000メートル以上はありそうな斜面です。南アルプスの山はすべてが雄大で、谷一つとってもスケールが桁違いです。
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ふと背後を見ると、北岳が晴れているではありませんか。中白峰山で粘っていた時には、チラリとすら見えなかったのに。何たる間の悪さなのでしょう。ぐぎぎぎ。
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どうも私には、ただジッとシャッターチャンスを待つだけの粘り強さが欠けているようで。。


甲斐駒ヶ岳も頭がだけが僅かに見えました。
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昨日に続いて、鳳凰三山は実い良いお天気です。ちょうど白根三山が、湿った西風を防ぐ盾の役割を果たしているかのような状態です。
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稜線には割とアップダウンがあります。大した登りではありませんが、空気が薄いのでちょっとした登りでもすぐに息があがります。
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間ノ岳まではもうひと気。北岳山荘からもっとサクッと往復出来るのかと思いきや、意外と遠いです。往復すると2時間半から3時間くらいはかかると思います。
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先ほどから晴れてはガスるを繰り返していますが、だんだん晴れる瞬間が少なくなってきました。早朝晴天タイムはもう終わってしまうのか。
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そしてついに、間ノ岳はガスの前に屈してしまいました。登頂まで持ってはくれませんでしたか。。
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7時30分 間ノ岳に登頂しました。さあ、これが日本第3位の高峰からの眺望だ(涙)。
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山頂の様子
かなり広々とした空間です。ガスっているときは迷いやすいのでご注意ください。・・いまがまさにガスっている時ですね。
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3.そして農鳥小屋へ

一瞬でも晴れる瞬間が無いものかと、風を避けられる岩陰で待機しましたが、一向にガスが取れる気配がありません。あきらめて行動を再開します。
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おどろおどろしいペンキのペイントが現れました。これが話に聞く農鳥フォントなのか。
農鳥フォント


過剰とも思えるほどのペンキマークが付けられています。広くて迷いやすいと言われる間ノ岳の山頂部ですが、これだけマークがあれば流石に迷う事はありません。
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綿毛になった後のチングルマが多く目につきます。最盛期に訪れてみたかったな。
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これはニコちゃんマークなのか。多くの登山者に恐れられていると言う農鳥親父は、実はお茶目な人なのだろうか。何にせよ、早く会ってみたい。
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間ノ岳から農鳥小屋までの標高差は400メートルほどあります。という事で何気に大きく下ります。親父が付けたペンキマークに導かれながら下って行きます。
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なにやら広い場所を歩いているのは何となくわかるのですが、相変わらずの視界不良で周囲が良く見えません。
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前方に大きな山の姿がなんと無く見えて来ました。あれが農鳥岳なのだとすると、農鳥小屋はこのすぐ近くあるはず。
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9時15分 農鳥小屋に到着しました。・・・いくらなんでも、早く着き過ぎましたなこれは。
農鳥小屋
行程的に言えば、初日に北岳山荘に泊まったのであらば、二日目の宿泊地は大門沢小屋とした方が自然ではあります。農鳥小屋の悪評も重なってか、ここを避けて少々無理をしてでも大門沢小屋を目指す人は実際に多いようです。

私は基本的に物好きと呼ばれるカテゴリーに属す人間です。物好きな人間と言うのは、悪評を耳にしてもそれを避けるなどいう行動は取りません。

「そんなに評判が悪いなら、是非一度に泊まってみよう」となります。物好きな人間のロジックと言うのは、そのようにできているいのです。言うなれば、農鳥小屋に泊まることそのものが一つのエンターテイメントです。

「ここを とおりすぎるなんて とんでもない!」


ウケケケに見えると言う受付。少々緊張しつつ、いざ戸を叩きます。
農鳥小屋の受付


4.農鳥小屋で過ごす濃い一日

こちらがその伝説の農鳥親父こと深沢さんです。少々耳が遠くなって来ているようで、大声でないと会話が成立しません。
農鳥親父


宿泊棟の様子です。昔ながら山小屋と言った佇まいですね。農鳥小屋の収容人数は120人という事になっていますが、ここにそれだけ入れるはずもないので、混んでいるときは他の建物にも収容するのでしょう。
農鳥小屋の宿泊棟内部


ちなみにここは親父の「マイ パーソナル スペース」とのことです。何故か突然会話に英語が混ざるのが農鳥親父クォリティです。
農鳥小屋のコタツ


お茶はセルフサービスです。インスタントのコーヒーと紅茶がありますが、どれもしっけていてビンにこびりついていました。そして何故か、マドラーがアルミのペグです。きっと誰かの忘れ物をリサイクルしたのでしょう。
農鳥小屋のセルフコーナー
自分のマグカップで飲むように言われたので、カップは無いと答えると「お前は大馬鹿野郎だな」とのお言葉を頂きました。ありがとうございます。


「2個はやらねーからな、絶対無くすなよ」と言いつつ紙コップをくれました。単に口調がぶっきらぼうなだけで、実は優しい親父さんです。
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ゴミを持ち帰れないような軟弱な人は、そもそもゴミを出すなとのお言葉です。言っていることは至って正論ですね。
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「ちょっと犬の散歩に行ってくるから、客が来たら適当にお茶でも進めておいてくれ」と言い残し、散歩に行ってしまいました。フリーダム過ぎるだろう農鳥小屋。
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もし客が来て、その客がマグカップを持っていない大馬鹿野郎だった時にはどうしよう。などとしょうもないことを考えつつ、お留守番しました。


こちらが怖いと評判なの農鳥小屋のトイレです。以前は男女で分かれていたそうですが、見ての通り片方が壊れてしまっているため今は共通です。
農鳥小屋のトイレ


手前一つが男性用で、奥の二つが女性用です。これはとても重要な事なのでよく覚えておいてください。鍵はありませんので。
農鳥小屋のトイレ
なおこのトイレは、汲み取り式ですらありません。床に穴が開いているだけです。あなたの落し物は、南アルプスの大自然に直接還元されます。

当然ながら備え付けのペーパーなどないので、チリ紙を忘れずにお持ちください。忘れた場合は・・・インド方式で対応するしかありません。


売店は宿泊棟の後方にあります。欲しいものがある場合は、ここへ親父を連れてきて清算します。
農鳥小屋の売店


これが昔から変わらないと言う、正規の食器置き場です。軒先ですらなく完全に雨ざらしです。
農鳥小屋の調理器具置き場


親父が中々散歩から戻らないので、かわりに親父の定位置で登山者の姿を見守ります。誰も来ませんねえ。と言っても、時刻はまだ正午前ですが。
農鳥小屋のドラム缶


前方の間ノ岳は濃厚なガスの中です。これでは客が来ても見えないか。
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犬小屋から脱走したのか、犬が一頭、小屋の周りを闊歩していました。
農鳥小屋の犬


小屋の正面には夜叉神峠の一帯が見えます。相変わらず、上空は雲に覆われ低い場所は晴れている状態でした。
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さて、農鳥小屋にはそもそも談話室などと呼べる場所はなく、北岳山荘の様に山岳雑誌のバックナンバーが並んでいたりもしません。ここで時間つぶしをするならば、、
①周囲の絶景を眺めつつ写真を撮って過ごす
②空荷で農鳥岳を往復してくる
③他の宿泊客と会話して過ごす
④寝る
くらいしか選択肢はありません。

当初は①か②で過ごすつもりでいましたが、この天気ではどうにもなりません。という事で③で過ごしました。

最終的にこの日の宿泊客は私を含めて全部で五人でした。自ら好き好んで農鳥小屋に泊まろうとするような人達ですから、みな一癖も二癖もある個性的な面々で、一様に話しが面白い。


さて、お楽しみの(?)の晩御飯の時間です。食事はウケケケの向かいにある食事棟に移動してとります。
農鳥小屋の夕飯


「味見はしてねーからな」と言う煮干し出汁の味噌汁は、少々しょっぱいけれど割と好みの味でした。もっとも、私は好き嫌いがほとんどない人間なので、この感想はあまり当てにはならないかもしれませんが。。
農鳥小屋の夕飯
その後、夜になってもガスは取れず、星空撮影会は諦めて早々と就寝しました。寝る以外にすることが無いしね。


5.白根三山縦走最後の山、農鳥岳へ

明けて9月3日 3時50分 農鳥小屋の朝は早い。・・・って、いくらなんでも早すぎるでしょう。
農鳥小屋の宿泊棟内部
親父曰く、天気は午後から崩れそうだから早く行動を開始せよとの事です。


農鳥小屋の朝ご飯です。タクアンが発酵し過ぎてアルコールのような味がした点を除けば、特筆すべき点はありません。
農鳥小屋の朝食
ともかく早出せよ4時前に叩き起こしておきながら、今度は「ヘッドランプで歩くのは危ないから明るくなるまで待て」とのことです。どっちなんですか親父さん。


5時10分 ライトがいらなくなるくらい明るくなってから、3日目の行動を開始します。世話になった礼を述べると「グッド ラック」と言って送り出してくれました。
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目の前の西農鳥岳に向かって登って行きます。上は全く見えませんが、結構な急勾配です。
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振り返ると、農鳥小屋はもう見えません。
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やがて雲間に、僅かながら下界の様子が見えました。見事な雲海が広がっていますな。
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間ノ岳と同様に、過剰なまでにペンキマーカ―がつけられているので、視界不良であっても迷う心配はありません。ありがとう、農鳥親父。
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一瞬ガスが取れて、山頂らしき場所が見えました。あそこが西農鳥岳の山頂かな。稜線上は昨日までと同様の、猛烈な風です。結局この風は、3日連続で止んではくれませんでしたか。
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西農鳥岳の山頂で進路を東に転じるのですが、ここは迷いやすいポイントらしく、これでもかと言わんばかりにマーキングがつけられていました。
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5時55分 西尾農鳥に登頂しました。実は農鳥岳本体よりも僅かに標高が高いと言うピークです。
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ここからの鳥岳までは岩の稜線歩きです。道は稜線上を忠実にはなぞらずに、西側を巻きながら続いています。
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不意に視界が晴れました。この西農鳥岳から農鳥岳にかけての道は険しく、ここだけ北アルプス的な光景が広がります。
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目の前の岩のピークを、右下へ回り込みながら巻きます。滑り落ちないように慎重に。
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昨日同様にガスったり晴れたりします。といっても、晴れるのほんの一瞬で殆どガスの中です。
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今日も下界は晴れています。本当に3日連続で同じような天気のままでしたな。
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やがて前方に農鳥岳本体が姿を見せました。これはガスの晴れたほんの一瞬をうまく切り取っただけで、先ほどからずっと、濃厚なガスの中です。
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私は登山中は基本的に、首から一眼レフをぶら下げたまま歩いています。これまでいろいろな運搬方法を試してみましたが、結局はこれが、不意に訪れたのシャッターチャンスに対する即応性に最も優れていると言う結論です。

最近はミラーレスもだいぶ性能が向上してきてはいますが、電源を入れてから撮影可能になるまでのレスポンスについては、まだレフ機に一日の長があります。


山頂に向かって最後登りです。先ほどよりも、ガスが取れる瞬間が長くなってきているような気がします。昨日の朝の様な晴れ間タイムが訪れてくれるのでしょうか。
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山頂が見えました。
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6時35分 農鳥岳に登頂しました。無事に白根三山縦走を達成です。
農鳥岳の山頂


山頂の様子
間ノ岳ほど広くはありませんが、北岳よりは幾分か広い空間です。
農鳥岳山頂の様子


南アルプス南部方面の雲が、ほんの一瞬だけ取れてくれました。僅かに頭を見せているのたぶん塩見岳(3,047m)です。
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東側は上層と下層が曇りで、中間層だけが綺麗に晴れてくれました。
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見事なまでにシンメトリックな富士山です。農鳥親父曰く、白根三山の中でも富士山が一番きれいに見えるのは農鳥岳だとのことです。確かに、すそ野まですべて見えています。
農鳥小屋から見た富士山


鳳凰三山は今日も悪くないお天気です。あちらはこの3日間、ずっとガスとは無縁に過ごしておりました。うらやましい限りで。
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これから目指す奈良田は、この深い深い谷底のどこかにあります。奈良田の標高は830メートルなので、この場所から標高差は2,200メートルあります。
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今さりげなく言いましたが、大事な事なのでもう一度。農鳥岳から奈良田までの標高差は2,200メートルです。ここ、テストに出ますよ。

過去の登山において、一日で一気に2,200メートルも下ったと言う経験はありません。今から若干の不安を感じずにはいられない高度感です。


山頂の岩には、ペンキで書かれたゴミモチカエレの文字が。ここはまだまだ、農鳥親父のテリトリーの中だという事ですな。
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6.大門沢下降点へ続く穏やかなる道

7時 農鳥岳を辞去し、下山を開始します。そうそう気軽に来れる場所ではありませんが、それでも次こそは晴れてる日にと、早くも再訪を固く誓ってしまった山でありました。
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稜線上はチングルマが盛沢山です。農鳥岳は花の名峰でもあります。
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たわわに実ったナナカマド。紅葉が始まるのは、まだ少し先のことです。
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大門沢下降点まで稜線歩きが続きますが、尾根上を東側に少し外した場所を歩くので、風はぴたりと止みました。
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この辺りは広々としおり、それが故にガスが濃い時だと少々道が分かりにくいかもしれません。幸いなことに、ガスは徐々に薄くなってきました。
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親父はまだ私を導いてくれています。ありがとう、農鳥親父。
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頭上にはわずかながら、青空が広がりつつありました。
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やがて前方に鞍部が見えて来ました。あの場所が奈良田への下山路の取り付きである大門沢下降点です。
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左手の下方彼方には、その大門沢が見えます。それはようするに、今からあの沢の流れている場所まで、一気に下って行くという事です。眩暈を起こしそうになるこの圧倒的な高度感よ。
下降点から見た大門沢


7時35分 大門沢下降点に到着しました。天空の稜線歩きはここでお終いです。この先は、鬼のような激下りが待っているだけとなります。
農鳥岳 大門沢下降点
ちなみにこの黄色い櫓は、悪天候時にこの降下地点を発見できずに道に迷い、最後は力尽きて亡くなった一人の青年の死を悼んで建てられたものです。

慰霊のための碑であると同時に、ここを通る登山者に下降点の位置を教える目印の役割も果たしています。


ちなみにこの稜線上をさらに進むと、広河内岳(2,895m)へと至ります。下降点からは1時間少々で往復できるようです。
大門沢下降点から見た広河内岳
寄って行こうかしばし逡巡するも、見ている目の前で再びガスに没してしまったので、寄り道は取り止めました。


振り返って見た農鳥岳。どこがピークなのか、そもそもピークは見えているのかも、よくわかりませんでした。
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そして南アルプス南部の山々。右手前の山が塩見岳で、左奥に頭だけがちょこっと見えているのが悪沢岳(3,141m)でしょうか。
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南アルプス南部には以前よりずっと行きたいと思いつつ、なかなかまとまった休みが取れず未だ訪問できておりません。来年は行けるかな。

しかし、まとまった休みが取れるのであれば、雲ノ平にも行きたいし飯豊山にも行きたいしトムラウシにも行きたい。行きたい場所が多すぎて休みが足りない!圧倒的に足りない!


富士山は相変わらずよく見えます。上層を覆っていた雲も取れつつありました。・・・崩れるどころか、回復してきていませんか天気。
大門沢下降点から見た富士山


富士山の右後方に雲海から頭を出した山並みが見えます。方角的に高い山などない一帯に思えますが、これはひょっとして伊豆の天城山なのかな。
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しばし下降点からの眺望を眺めて過ごしました。名残しかったからと言うのもありますが、単にこれから始まる下りに気乗りしなかったからと言うのも理由です。


7.標高2,000メートル以上、大門沢の死闘

8時10分 そろそろ観念して下山を開始します。この大門沢コースは、あまりの勾配のえげつなさに、デーモン沢なる通称で呼ばれることもあるのだとか。
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降り始めて早々に、ガレ場の急坂が始まります。滑らないよう一歩一歩慎重に降りて行きます。稜線から外れるなり、風は完全に止まり一気に暑くなってきました。
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崩落地の脇を通ります。土の部分が濡れており、ここは見た目以上に怖い場所でした。
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稜線でキンキンに冷やされていたカメラのレンズが、急激に温めれたことにより結露してしまいました。ついさっきまでレインを羽織って震えていたと言うのに、今や半袖でも汗ばむような陽気です。何たる極端さ。
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仕方がないので、ここからはしばらくサブカメラのコンデジで取った写真でお送りします。
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・・・先ほど述べた即応性云々の話を除けば、web掲載サイズまで圧縮した画像には、一眼レフで撮ったものとほとんど差が感じられませんねえ。これだけ写るなら、もうコンデジだけで良い気がしてきました。


下り始めて15分ほどで、樹林帯の中へと突入しました。大きめの石が散乱する急坂が続きます。この下りがともかく長い。
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道の整備状況は余り良好とは言えません。ほったらかし気味です。
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そもそも南アルプスと言うのは、ある程度山に慣れた人しか歩かない場所です。登山道の整備状況も、そうした人を対象に行われているように感じられます。

「別にこれくらい通れるだろう?」という、登山道を整備した人の心の声が聞こえてくるかのようです。


延々と下り続けることおよそ1時間30分ほどで、ようやく沢と同じ高さまで下って来ました。
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まるで滝の様な勾配で流れ落ちています。沢まで下りてくれば、少しは道の傾斜が緩むだろうと言う淡い期待を、見事に打ち砕いてくれました。
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悲しいけどこれ(自分の携帯)、AUなのよね。
ドコモの電波が入る旨の標識


青海苔がかかったおにぎり。ようやくレンズの結露が取れました。
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本日のベストオブきのこ。そもそもこれは食べられるのでしょうか。
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葉越しの陽光が降り注ぐ、圧倒的な緑の空間です。
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一瞬何がどうなっているのかわかりませんでしたが、橋が架かっていたのが流されたのですね。大した水深ではなかったので、難なく徒渉しました。
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せっかく沢に追いついたと思ったのに、高巻き気味のトラバースでまた引き離されてしまいました。そのツケは、このあとに急坂でもって払わなければなりません。
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ふたたび沢を横断します。今度の橋は、流されてはいないものの、土砂にうずもれかけております。
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この橋の命運もまもなく尽きそうですな。この大門沢ルートは、水量が多い時には避けた方が良さそうな感じです。
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降下点より下り続けること2時間と10分。森の中にようやく赤い屋根の小屋が見えて来ました。
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10時20分 大門沢小屋に到着しました。厳しい下りでありました。まあ、まだまだ終わりではありませんがね。
大門沢小屋
ここのトイレは農鳥小屋のトイレに負けず劣らずな凄さです。どう凄いのかを流しソーメンに例えて説明しようかとも思いましたが、流しソーメンを食べられなくなると困るので、やっぱりやめておきましょう。


ちなみに、登山道はこの小屋の前を通りません。前を通らずにここを右に河原に向かって下りるのが正解です。お間違え無きよう。
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8.まだまだ続く悪魔の沢の道

10時35分 下山を再開します。実のところこの大門沢小屋は、まだ下山行程の折り返し地点ですらありません。
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かなりの水量が、凄まじいスピードで流れ落ちていきます。軽く恐怖を思えるような勢いです。
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流石に本流を徒渉は出来ないと見えて、橋が架かっていました。
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え、手すり?南アにそんな登山者を甘やかすものがあるわけないじゃないですか。


落ちて流されでもしたら、あっという間に全身を複雑骨折しそうな勢いです。流石は悪魔と呼ばれし沢。
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壊れたハシゴが朽ちて放置されていました。「別にこれくらい通れるだろう?」と言う声が、どこからか聞こえたような気がします。
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一見とても綺麗に見える大門沢ですが、間違ってもこの沢の水を飲んだり、手や顔を洗ったりするのも止めておいた方が良いですよ。
190902白根三山_132何故かって?それは大門沢小屋の流しソーメンがノンストップで流れ込んでいるからですよ。


つづいて今度は、まるで工事現場の足場の様な道です。
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おまけに横倒しの木に頭上を塞がれると言うオマケきです。アスレチックか何かかこれは。
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再び本流を渡ります。南アにしては珍しく手すり付きです。
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ここで再びトラバースとなり沢に引き離されます。
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そして激下り。写真ではわかりにくいですが、ちょっとした恐怖を覚えるような急坂です。
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この赤と黄色のペンキのマーキングは間違いなく農鳥親父の仕事です。親父はまだ私を導いていてくれていたのですか。
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「別にこれくらい通れるだろう?」
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いや、通れはしましたけれど、ここ結構際どかったですよ。


何度目になるかもわからない徒渉をします。ここにも親父の導きがつけられていました。
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農鳥親父はもともと奈良田の猟師だと言う話なので、ある意味ここは親父の通勤路なのかもしれません。


やがて前方に吊り橋が現れました。
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ふむ。気のせいではなく、この吊り橋は明らかに左に傾いていますねえ。だからと言って、渡らないと言う選択肢はない訳ですが。
大門沢コースの吊り橋


振り返るとこんな感じです。こちらから見ると右側になる揺れ止めの索が、明らかに撓んでしまっているように見えます。主索が健在であらば、落橋することは無いのでしょうけれど。。
大門沢コースの吊り橋


これは奈良田発電所の取水口でしょうか。人工物が現れたことにより、この長かった下山路もようやく終わりが見えてきた感じがします。
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まあ実際のところは、まだまだ終わらないのだけれどね。


広河原よりもずっと広い河原に出ました。砂防ダムに悪魔の沢がせっせと上流から大量の土砂を運んできて作り上げた空間であるようです。
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大門沢の下流にある早川は、日本国内でも有数の急流に数えられている川です。土砂災害を防ぐため、このように大規模な治水工事が施されています。
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再び吊り橋が現れました。
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今度の吊り橋はとてもしっかりした造りで、先ほどのように傾いてはおらず安心です。
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吊り橋の上から見た砂防ダムは、なんと言うかコンクリート製の城塞の様な物々しさです。荒ぶる悪魔の沢を封じ込めるには、これだけのべトンの塊が必要なのでしょう。
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ここでようやく登山道は終わり、林道に出ました。
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舗装道路が現れました。やれやれ、長く苦しかった下山もようやく終わりか。
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と思うでしょう?残念でした。このあとまだ、コースタイムにして1時間の下りが残っております。


この深い谷は一体どこまで続くのでしょうか。奈良田は遠い。遠すぎる。
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舗装された林道を30分近く延々と下り続け、ようやく奈良田第一発電所が見えて来ました。
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バス停があるので思わずここで待ちたくなりますが、平日は一日に2本しかバスは通りません。おとなしく奈良田まで歩いてください。
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このトンネルの先は、県道南アルプス公園線が延々と広河原まで続いています。行きどまりの道が一本しかなく、そこが塞がれば即アウトな上高地と比べて、広河原の方は一応は2重化されています。
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奈良田まではあと30分です。最後の気力を振り絞って歩きましょう。
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大門沢は奈良田第一発電所の先で野呂川と合流し、そこから下流は早川と呼ばれます。暴れ川らしく、あちこちで砂防工事が行われており、ひっきりなしに大型の工事車両が往来しています。
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この道はその名も南アルプス街道です。先ほど述べた通り、広河原まで通じています。
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奈良田のバス停が見えて来ました。ああ、やっと終わる。燃えたよ、燃え尽きたよ。真っ白にな。
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右手には奈良田湖の姿が見えます。早川は急流であるが故に水力発電の適地で、この界隈は発電用のダムだらけです。
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現在の奈良田の集落は高台に移転して出来た新しい町並みであり、かつての奈良田温泉はこのダム湖の底だそうです。


13時20分 奈良田バス停に到着しました。なんとか13時50分のバスに間に合うことが出来ました。デーモン沢の下山は実にツラかった。
奈良田温泉バス停


このバスは身延駅行きですが、身延よりも手前にある下部温泉駅を先に通るので、下車しました。
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無人駅じゃないですか。ここで約一時間後にやって来ると言う甲府行きの鈍行を待ちます。
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時刻表通りに現れた身延線の鈍行列車に乗り込み、帰宅の途につきました。
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かくして30代最後となる登山は無事に終了しました。3日間にわたりピリッとしない天気ではありましたが、それでも時よりガスの切れ目からは、素晴らしい光景を見せてくれました。
そして、ある意味今回の主要な目的であった農鳥小屋の宿泊体験ですが、少なくとも私にとっては少しも不快なところの無い体験でありました。なんの予備知識もなしに行ったら多少々戸惑ったかもしれませんが、どういう場所なのか承知の上うえで行く分には、古き時代の山小屋体験として純粋に楽しめると思います。
悪評にばかり惑わされず、あなたの白根三山縦走計画に農鳥小屋を組み込んで見てはいかがでしょうか。素晴らしき天空の稜線の光景と、一風変わった宿泊体験が待っています。親父さんが引退してしまう前に是非どうぞ。


<コースタイム>

二日目
北岳山荘(5:50)-中白峰山(6:30~6:45)-間ノ岳(7:30~8:10)-農鳥小屋(9:15)

三日目
農鳥小屋(5:10)-西農鳥岳(5:55)-農鳥岳(6:35~7:00)-大門沢下降点(7:35~8:10)-大門沢小屋(10:20~10:35)-奈良田(13:20)

農鳥岳の山頂


長々と最後までお読みいただき、ありがとうございました。