【麗し大和】(13)

 塔といえばふつう、仏舎利(ぶっしゃり)(釈迦の骨)を埋めた場所に高くそびえる寺のシンボル。ところが、海龍王寺(かいりゅうおうじ)の五重小塔(奈良時代)は、お堂(西金堂)の中にすっぽりと収まる珍しい塔だ。模型というには大き過ぎ、天平の建築技法を伝える高さ約4メートルの建造物として国宝に指定されている。なぜ、こんな小さな塔が建てられたのか?

 「いまふうにいうと、海龍王寺は光明皇后のマイテンプルだったんです」

 にこやかな石川重元住職の説明に驚いた。皇后が父から受け継いだ邸宅に、自身や家族のごく私的な寺として建立したというのだから、規模は小さくても話のスケールは大きい。限られた敷地に大寺院同様の伽藍(がらん)を造ろうとしたため、小塔になったというわけだ。当初は東西の金堂に塔があったが、東は現存しない。寺にはいまだ謎が多く、発掘調査などから平城遷都前から前身の寺院があったことが分かっている。

 謎といえば、初代住職を務めた玄●(=日へんに方)(げんぼう)もそう。阿倍仲麻呂や吉備真備(きびのまきび)とともに遣唐使として唐に渡り、帰国後は僧正の地位まで上ったが失脚。九州の太宰府で亡くなった。逸話が多く“怪僧”イメージがつきまとう一方で、唐から5000もの経典を持ち帰るなど「骨太の宗教者だった」と石川住職は評価する。

 帰国のさい「海龍王経」を唱えたおかげで乗った船が無事に着いたという伝承があり、旅の安全を守る寺として今も参拝者が絶えない。海龍王寺は、歴史の波に沈んだ一人の遣唐使の形見かもしれない。(山上直子)

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