2009年02月04日

焼肉屋に例えて説明する"行動ターゲティング広告"の真実

この不況の中でも、行動ターゲティング広告は好調のようだ。確かに、費用対効果をより厳しく求める広告主に対して、行動ターゲティングは、セールストーク的に「刺さる」商品だと思う。

しかしながら、広告メディア企業の立場からみたときに、行動ターゲティングが、バラ色の未来を自動的に保証すると思うののは危険である。これまで行動ターゲティングについては、プライバシー保持の問題と絡めて、その功罪が論じられることが多かったが、そもそも広告ビジネスにとり、広告を「ターゲティング」することは、売上拡大をひねり出す「打ち出の小槌」ではないのだということを、焼肉におけるミンチとハラミの関係を例に説明してみようと思う。

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そもそも、行動ターゲティング広告だけではなく、検索エンジンへの出稿やデモグラフィックでのターゲティングを含む広義のターゲティング広告が、何ゆえに画期的なのだろうか。それは、単純にいえば、ターゲティングによって、告知すべき商品やサービスのターゲット層以外の消費者に広告メッセージが届いてしまう「無駄」がなくなるからである。例えば、男性である私が、生理用ナプキンのテレビCMを見たところで、そのために使われた広告費は「ムダ」以外の何者でもない。その意味で、広告技術の進化による「ターゲティング」精度の向上は、マクロで見れば、媒体社ではなく広告主に、より大きなメリットをもたらすだろう。

例えばマンション・デベロッパーにとっては、現在、マンション購入を検討していない人(=大部分の一般生活者)とのコミュニケーションには興味がないし、求人サービス運営企業にとっては、転職するつもりのない人(=こちらも大部分の一般生活者)に自社の広告がリーチしても仕方がない。しかしながら、行動ターゲティングの導入以前は、マンションデベロッパーや求人企業も、ムダを承知で多額のバナー出稿をしていたわけである。これは、他に代替手段がないから仕方なくそうしていた、ということである。

この部分のジレンマを焼肉に例えて説明してみよう。
焼肉屋によく来るグルメな常連のお客さん(不動産デベロッパー)がいる。このお客さんは、とにかくハラミ(マンション購入を検討中のユーザーへのリーチ)が大好きで、ハラミを食べることにしか興味がない。そんな美食家に対し、これまでは、牛を部位別に解体したバラ売りが、技術的に難しいからということを口実に、牛一頭を丸ごとミンチにした挽肉(例:テレビCM)を売っていたのが、ターゲティング広告を導入する前の広告ビジネスの構造なのである。いささか、マンガチックな例えだが、テレビや新聞、雑誌までを含むこれまでの広告ビジネスは、構造的には、このような「ムダ」によって、その業界規模を維持していた面があろう。常識的に考えてみれば「そんな焼肉屋は有りえね〜!」となるだろう。

ターゲティング広告の導入によって、広告主は「カルビはカルビで」「ハラミはハラミ」でバラでオーダーする自由を手に入れた。しかしながら、焼肉屋(広告ビジネス)にしてみれば、これは必ずしも、商売繁盛を意味しない。

これまでなら、グルメな常連は、ミンチ肉を100gあたり100円で10Kg分オーダーし、1回の来店で1万円落としてくれたが、バラ売りのオーダーが可能になれば、ハラミを300g頼むだけになってしまうかもしれない。そうすれば、ハラミについては100gあたり1000円と、グラム単価でこれまでの10倍の値段を付けても、1回の来店でもらえるお金は3000円にまで減ってしまうだろう・・。ターゲティング広告の導入は広告ビジネス全体にはそういうジレンマをもたらす。

行動ターゲティングのアドネットワークや、テクノロジーについて導入を推進する企業は、CTRが〜〜%向上します! impあたりの単価が〜〜%も向上します!というような表記を提案資料内に盛り込むことが多い。しかし、それは、肉屋に対し「ミンチで売るよりも、ハラミで売ったほうが、グラム単価が向上する!」と提案するようなものだ。ある意味では「当たり前」なのだ。

ビジネスの基本の公式だが、売上=単価×数量である。行動ターゲティングに代表されるターゲティング広告は、媒体社の立場からすれば、単価上昇↑の効果は確かにあるのだが、販売数量が減少する恐れも同時に内包する。ターゲティング行為が、トータルでみた売上拡大を自動的に保証するものでは決してない、ということをメディア企業としては、肝に銘じるべきだろう。

単価上昇の効果が、販売数量のロットを減少させてしまう影響を上回れるよう、牛肉でいえば、部位別に最適な料理方法が編み出され、1gたりともムダにせずに美味しく食べられるように、お肉が有効活用されていくような、自社の広告在庫のパッケージング・ノウハウを蓄積していくことが、今後の広告メディア企業に求められるように思う。

(なお、くれぐれも誤解のないようにいうと、私は行動ターゲティングを筆頭にしたターゲティング広告の導入は、推進すべきだと思っている。ターゲティング性こそが、オンライン広告の最も優位性のある特徴だと思うからだ。しかし、行動ターゲティングが、何もかもを解決する魔法のランプでないことを、特に業界関係者に理解してもらうべきだと思い、今回のエントリーを書いた。)

TVから新聞、バナー、検索エンジンまで複数の広告媒体をまたいで最適な予算配分をするための考え方については
「クロスメディアでの広告媒体配分は、ゴルフ場でのクラブ選択だ! 」
に私の考えを書いた、興味のある方はそちらも、是非ご覧ください。


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コメント一覧

1. Posted by T. Suzuki   2009年04月15日 11:40
5 ターゲティングによって減る無駄は、経営者のいうところの「廃棄ロスを最小化する」という意味合いとなると思います。
つまり焼肉でいうところの、ハラミ好きにはハラミを売り、あらかじめミンチにした場合よりも売れ残って捨てる部位を減らすということですね。
これは効率はよくなりますが、おっしゃるとおり縮小を意味する。
商売繁盛につなげるためには、「機会ロス」を減らす必要、つまり「売れたかもしれない機会を最大化する」ことですね。これは「牛一頭を仕入れる」というメッセージで「焼肉を食べたい」と思わせる人を増やすとか、「ハラミを食べている客に他の部位をすすめて」単価を上げることも含まれます。廃棄ロスに比べて機会ロスは目にみえにくいので、売れない店は効率化をすすめすぎるとおっしゃるとおりどんどんビジネスが縮小してしまいます。
機会ロスを減らすには、自社だけでなく市場全体を知る必要があります。広告が近視眼的になればなるほど、それがみえにくくなってしまいますね。
2. Posted by meet   2010年04月05日 16:18
焼肉の例えが余計に読みづらい。残念
3. Posted by northface outlet   2010年11月22日 04:07
これは効率はよくなりますが、おっしゃるとおり縮小を意味する。
商売繁盛につなげるためには、「機会ロス」を減らす必要、つまり「売れたかもしれない機会を最大化する」ことですね。これは「牛一頭を仕入れる」というメッセージで「焼肉を食べたい」と思わせる人を増やすとか、「ハラミを食べている客に他の部位をすすめて」単価を上げることも含まれます。

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