2009年03月08日

ペイパーポスト議論が見落としている点/戦争広告代理店とCM化するニッポン

グーグル×サイバーバズでの口コミキャンペーンでトラブルがあったことが引き金になり、ブログに関連したマーケティングの是非について、議論が一部で盛り上がりました。

ライブドアでは、ペイパーポストは全くやっていませんが、ブログを活用したキャンペーンを多数手がけていることもあり、議論の流れをビジネス上の要請から追ってはいました。

実務的なガイドラインとしては、徳力さんの以下のエントリー

私が考える、お金をもらった「クチコミ」と、製品をもらった「クチコミ」の境界線
: tokuriki.com

で、完璧かつ丁寧な整理がされており、この内容に私も同意するものです。

今回は違った角度から、「ペイパーポストの是非」に関する議論について、私が思ったことを書いてみたいと思います。

それは、美学とリテラシーの次元という問題からです。

あくまで私見ですが、入試の小論文のような制約を、やたらブログの記事内容に付け、エントリーに数百円という単位での報酬をエサにブログを書いてもらう、というペイパーポストという行為については、いろんな議論の次元での捉えることが可能です。

法律論の次元から、ペイパーポストを問えば、完璧にシロでしょう。

モラルの次元から、ペイパーポストを問えば、見る人によってシロでもあり、クロでもある。まあ、グレーでしょう。

美学の次元から、ペイパーポストを問えば、どうでしょうか?

つまり、こう問うてみたらどうでしょうか。

カネを払ってブロガーに提灯記事を書いてもらいながら、カネを払ったことを隠し、「ブログで評判だ!」とか喜んでいる企業やその商品を、カッコイイと思いますか?

あるいは

わずか数百円の報酬のために、懸賞論文のように制約が付けられまくった記事を内職のように、せっせと書くブロガーは、カッコイイと思いますか?

ペイパーポストは、私から見ると、まあ、やるのはご自由ですが、関わっている人みんなが、「かっこ悪く」見えるキャンペーン手法だな、と思うのです。

新撰組風に言えば「士道に背く」行為でしょうし、白州次郎風に言えば「プリンシプルのない」行為でしょう。

いいとか悪いとか、許されるとか、許されない、とかいう前に、ペイパーポストを、「ブログを活用したキャンペーン手法」として営業したり、実行したりするというのは、「インターネット道」に照らして、カッコ悪い行為だと私は、思うのです。

ライブドアがペイパーポストをやらない理由の根底はこれだと、私は思っています。

もう一つ。ペイパーポストを巡る議論で気になったことがあります。それはPRという業の深い商売へのリテラシーの問題です。

ネット上では、既存メディア(特にテレビや新聞)への嫌悪感がベースにあるのか、メディアを通じて「自分たちの行動が操作されること」への強いアレルギーがあるように見えます。

そんな中で、極めて自律・分散型のメディアであり、特定の企業や政府などが、その内容を操作することが、極めて困難なブログというメディアは、特に上記のようなアレルギーを持つ人にとっては、神聖不可侵な聖域といってもいいメディアなのでしょう。

そこに、カネの力でもって、ブログのコミュニケーション内容を操作しよう(=ペイパーポスト)という手法が登場したことが、ペイパーポストに対するブログコミュニティからの皮膚感覚レベルでの反発の原因になったのでしょう。

これは心情的には、よく理解できます。尾崎豊風のベタな言葉でいえば「俺らの解放区を汚い大人やビジネスの連中に汚されたくない!」というような反発も根底に感じ取りました。

しかし、自分たちの意見が、「操作されてしまう」ことへの強いアレルギーや反発があるということは、裏を返せば、「全く操作されてない」純真無垢なブログ記事の存在が、現状で、多数を占めているということを前提にしています。

これは、あえて言えば、ナイーブで純情過ぎる、思い込みでしょう。
(ブロガー本人の認識として、「誰にも操作されず、純真無垢で100%自発的に記事を書いている」と思っている人が多数いる、ということなら分かりますが・・。)

剣の達人に切られると、切られても痛みを感じないとか、超絶的なサギ師に引っかかると、そいつが逮捕された後でも、被害者はダマされてないと思い、事情聴取でサギ師を弁護してしまう、などと言います。

世の中には、情報の受け手に「俺は今、操作されている」という認識など、全く持たせずに情報の受け手を操作する、もっと、洗練されていて老獪な、PR手法というのは、ヤマほどあるのです。そのことが、下記の2冊を読めば、よく分かると思います。

1990年代に、ユーゴスラビアでのコソボ紛争で、NATO軍による空爆が行われたことを覚えていますか?

そこそこ国際情勢に詳しい人でも、「ミロシェビッチというワルモノ政権が、民族浄化というナチスまがいの蛮行を行い、人道的介入という目的でNATOが空爆をした」というくらいの記憶でしょう。

この「民族浄化」という言葉は、ミロシェビッチと敵対するボスニア政府とPR契約したアメリカのPR会社である「ルーダー・フィン社」が、メディア上で相手方の悪いイメージを効果的に拡散するために広めた言葉です。

当時、BBCやCNNなど名だたる一流メディアが、おそらく無自覚に「民族浄化(ethnic cleansing)」という言葉を繰り返し、使ったと思いますが、この言葉を使うことが、ある種のイメージ操作のPRキャンペーンに参加することになる、という認識があったジャーナリストは、どれほどいたでしょうか。

はっきりいって、今の「ペイパーポスト」でブロガーを操作するレベルというのは、確かにevilかもしれませんが、ちびっこギャングレベルのevilであって、ガチで玄人なアメリカのPR会社のレベルから見れば、オママゴトにも等しいくらいに思えます。

ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
著者:高木 徹
販売元:講談社
発売日:2005-06-15
おすすめ度:4.5
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出版社/著者からの内容紹介
銃弾より「キャッチコピー」を、ミサイルより「衝撃の映像」を!!

演出された正義、誘導される国際世論。
ボスニア紛争の勝敗を決したのはアメリカPR企業の「陰の仕掛け人たち」だった。
スパイ小説を超える傑作ノンフィクション!!
NHKスペシャル「民族浄化」で話題を呼んだ驚愕の国際情報ドラマ!

人々の血が流される戦いが「実」の戦いとすれば、ここで描かれる戦いは「虚」の戦いである。「情報の国際化」という巨大なうねりの中で「PR」=「虚」の影響力は拡大する一方であり、その果実を得ることができる勝者と、多くを失うことになる敗者が毎日生み出されている。今、この瞬間も、国際紛争はもちろん、各国の政治の舞台で、あるいはビジネスの戦場で、その勝敗を左右する「陰の仕掛け人たち」が暗躍しているのだ。――序章「勝利の果実」より


「戦争広告代理店」を読めば分かってもらえるでしょうが、この本に登場するレベルの超一流PR会社にきちんとカネを払えば、日本が国連常任理事国になるくらい十分できるのではないでしょうか。

本物のPRとは、そのレベルなのです。

もう少し、日本の生活者になじみがある部分でいえば、下記の「CM化するニッポン」を読めばよく分かるでしょう。

皆さん、うすうす、番組内容がスポンサーの意向に左右されている、と思っていた人も多いでしょうが、まさか、ここまで・・・とビックリする内容ばかり、です。

例えば、キムタクがF1レーサーを演じた月9ドラマ「エンジン」というものがありました。

このドラマ、主人公がレーサーであるドラマなのに、ほとんどレースシーンが登場しませんでした。なぜだと思いますか?

「CM化するニッポン」を読めば、その理由が、「エンジン」というドラマが、そもそもの成り立ちから、改装されたトヨタ傘下の富士スピードウェイの知名度アップを狙ったプロモーションビデオとして企画されたから、だということが分かるでしょう。

レースシーンだと当然、他メーカーのクルマと競争するわけです。当然、他メーカーのクルマを画面に、写さざるを得ません。また、実際のレースは、いろんなサーキットを転戦するのですが、富士スピードウェイ以外に、キムタクが行くのでは、このドラマのそもそもの制作意図に反してしまいます。

そこで、レースシーンが無いレーシングドライバーのドラマ、という摩訶不思議な内容になりました。ちなみにヒロインが小雪な理由も、彼女が当時CMに出ていたクルマメーカーがどこか、を考えれば、すぐに分かると思います。

CM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのかCM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのか
著者:谷村 智康
販売元:WAVE出版
発売日:2005-10
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出版社/著者からの内容紹介
小泉自民大勝利、ホワイトバンド大流行、韓流ブーム、ヒットのからくりはマーケティング理論にある!

あなたのココロと財布が狙われている!
マーケティングのプロが明かすメディアの「常識」

内容(「BOOK」データベースより)
あなたが今日、見ようとしているテレビの人気番組も、感動したあの名作番組も、実は番組じたいが広告だった!?CMを見ない人が急増する現在、マスメディアでは「見えない広告」が急速に拡がっている。マーケティングのプロが明かすテレビ・新聞・雑誌が書けないメディアの「常識」。テレビの新しい見方ができるようになる。


ことほどさように、視聴者の想像を遥かに超えるところまで、「受け手の認識を操作しよう」という意図は、あらゆるメディアのあらゆる領域に入り込んでいます。

そういう事態に対し、全体的なパースペクティブへの想像力とリテラシーを持つべきであって、ペイパーポストかどうか、という議論にこだわることには、個人的にはあんまり意義を感じません。

「情報操作されないメディアはブログも含めてない」というと沢山のブロガーが、反発を感じるでしょうが、「他者からの影響をうけないメディアの送り手は、ブロガーを含めていない」と言えば、どうでしょう。「当たり前だ」と思うのではないでしょうか。

では、「情報操作」と「他者からの影響」の境界線はどこにあるのでしょう・・?。
突き詰めると、純粋な自由意志ってなんやねん、という哲学的な領域に辿り着くのかもしれません。

ですから、誰にも操作されない純真無垢なメディアを取り戻そう!というベクトルに注意を払うのでなく、常に、自分は「ひょっとして、情報操作されているのではないだろうか?されているとしたらどの程度、されているのだろうか?」と、自分自身が何か人に伝えるときに「動機の由来」や「手の汚れ方」を問い続けることが、誰もが発信者になれるこのブログ時代に注意すべきではないでしょうか。

追伸:このエントリー自体も上記2冊の著者や、それを買わせる機会を作ったアマゾンに「私が操作され、影響を受けている」ことを白状しておきます。


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1. ペイパーポスト議論が見落としている点  [ 裏[4k] ]   2009年03月08日 12:27
このエントリーは素晴らしい。 TABLOG:ペイパーポスト議論が見落としている点/戦争広告代理店とCM化するニッポン - livedoor Blog(ブログ)「情報操作されないメディアはブログも含めてない」というと沢山のブロガーが、反発を感じるでしょうが、「他者からの影響をうけ....
2. ブログによる広告  [ 「コラーゲン食って肌がぷりぷりになるわけねーだろ(笑)」社長のブログ ]   2009年09月14日 08:17
どうする? ブログのやらせ問題--ライブドア、サイバーエージェントらが議論 アメブロ(サイバーエージェント)でときどき芸能人がこっそり広告記事をしのばせるのは有名な話だけれど、それについてサイバーは正々堂々とやっていると表明。ある意味潔い。曰く、 当社....
3. 「私たちの知っている戦争」の作られ方がわかる本『ドキュメント 戦争広告代理店』  [ ポエムコンシェルジュと探す詩と詩的デザイン ]   2010年09月29日 08:05
ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)著者:高木 徹講談社(2005-06-15)おすすめ度:販売元:Amazon.co.jpクチコミを見る 『ドキュメント 戦争広告代理店』は中学・高校・大学、そして社会...

コメント一覧

1. Posted by T. Suzuki   2009年04月15日 18:26
5 この話を読んで、ふたつ考えたことがあります。ひとつは社会心理学でいうところの影響力とは何か?という心理学で、これは人間がどのようなものに影響を受けるかということです。これは拡大すれば「騙される」ということにはなりますが、人間である限り、この部分は条件として考えなければならないでしょう。
もうひとつは、キャンペーンの倫理や功罪というよりも、実際は「公平なもの」を探すのは困難で、人間にとっての「主観」をどのように考えるか、という点です。それぞれの人がそういう主観を持っているというところがブログの面白いところなので、それが誰かに金をもらっているか、という点も含めてパーソナリティなので。(実際このようなイメージのインフルエンサーもいて、それを読者が面白がっていることもあるので)
2. Posted by 禁煙センセイ   2009年08月08日 00:39
5  楽しく禁煙 ブログを開設している ”禁煙センセイ" ことharuyukiです。私も”CM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのか” とタバコについて、考察してみました。
 宜しければ見に来て下さい。

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