2009年12月05日

グーグルは電気を作り、コカコーラはメディアを作る。【書評】コカコーラ・パークが挑戦するエコシステム・マーケティング

「グーグルが発電所を作った」と聞いたとき、皆さんはどう思っただろうか?

数十万台のサーバーを運用するグーグルにとって、信頼性の高い電力を、出来るだけ安価に確保することは、文字通り生命線である。「グーグルが発電所を作った」と聞いたときに、私は、グーグル経営陣の、自社の事業に必要不可欠な経営資源を、出来るだけ他人に頼らずに、自分たちのコントロール出来る範囲に置きたい、という固い決意を読み取った。

グーグルのサーバーが、電力を大量消費するように、世界有数の大広告主であるコカ・コーラは全世界のあらゆる広告枠を大量に消費している。

コカ・コーラの経営陣にしてみれば、グーグルが自ら発電所を運営するように、自社のメディアを構築・運営し、消費者と直接の接点を持ちたい、と思うのは極めて自然なことなのかもしれない。
"No more spray,and pray"
(テレビCMをバラ撒いて、神頼みするのは、もう止めよう。)
これはコカ・コーラのアトランタ本社で最高マーケティング責任者を努めるジョー・トリポディ氏の言葉である。「Spray」は「噴霧する」という意味だが、ここでは、スプレーで殺虫剤をまくように、テレビCMを大量投下することを指している。次の「pray」は「祈る」という意味であり、いわゆる、他力本願な神頼みのことを指す。つまり、"No more spray,and pray"という言葉は、「テレビCMを大量に投下して、たまたま商品を欲っしている消費者に"まぐれ当たり"することに賭けるような、バカみたいなことは、もう止めよう」という決意を表した言葉なのだ。

つまり、この言葉を私なりに解釈すると、マス媒体に依存したこれまでのマーケティングコミュニケーション環境というのは、ユーザー企業にしてみれば、頻繁に停電し、送電線の途中で漏電しまくっている、発展途上国の電力事情のようなものだ!と言っているに等しい。そんな劣悪な環境で、電力の大口ユーザーなら、グーグルでなくとも、自前の発電所を作りたくなるだろう。

そういう問題意識を頭にイメージしながら、日本コカ・コーラのインタラクティブマーケティング統括部長である江端さんの書かれた「エコシステム・マーケティング」を読めば、何ゆえに、日本コカ・コーラが、「会員数740万人/月間1億8000万PV」という通常の「企業
サイト」の規模を遥かに超えたメディアである「コカ・コーラ パーク」を必要とし、その構築に注力してきたのか、よく分かるのではないだろうか。

コカ・コーラパークが挑戦する エコシステムマーケティングコカ・コーラパークが挑戦する エコシステムマーケティング
著者:江端 浩人
販売元:ファーストプレス
発売日:2009-11-12
おすすめ度:4.5
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インターネットが登場する以前の時代環境であれば、たとえコカ・コーラといえども、「メディア」を直接所有することは考えられなかっただろう。(かっては自前のメディアを持つ、ということは、テレビ局を開業したり、日刊の全国新聞を発行したりするということを意味したのだ。その開業には莫大な資金力と、途方もない政治力が必要になる。)

しかし、インターネット技術が、消費者と企業をつなぐコストを劇的に下げた今となっては、コカ・コーラ級の広告主にとっては自前のメディアを持つことは、かえって「安上がり」になってくるのかもしれない。

私が、かって、いわゆるナショナルクライアントのメーカーとの間での広告セールスに携わり出したときに不思議に思ったことがある。

いわゆるトヨタ流生産方式の「なぜなぜ?五回」に代表されるように、自動車や電機といったメーカーの工場では、工程や原材料のムダを減らすべく、それこそ「銭」の単位にまでこだわって、血道を上げて努力しているはずだ。

ところが、「広告宣伝」ということになった途端に、「このような商品のキャンペーンなら、XXXXGRPの露出を確保し、X憶円くらいのTVスポットを打つのが相場ですから・・」という広告会社の営業マンのセールストークに疑問を持たない人が多い。

人事ローテーションで宣伝部にやってきた多くのメーカー系広告主の社員にとっては、テレビCMや新聞の枠取りといったマーケティング・コミュニケーションの領域は、「アウェイ」なのである。

ところが、インターネット技術が消費者と企業がダイレクトにつなげ、広告主にとって自前メディアを構築するための障壁が激しく低下した。そんな環境では、本書においても紹介されているコカコーラ×日産自動車との共同キャンペーンの事例のように、問題意識の高い広告主同士が、お互いに連携して、スケールメリットを発揮し、既存の非効率なマス媒体や広告代理店を華麗にスルーしてしまえる環境がもたらされつつある。

広告主自らがメディア化を成し遂げれば、中途半端な媒体社や広告会社の存在意義は、どんどん薄れていくだろう。そういえば、本書にはほとんど広告会社のことが触れられていないのも、とても興味深い。かろうじて71pに、複数のパートナー企業が共同してメディアを立ち上げる際の注意点として、
代理店経由の案件では、仲介役が入ることで却ってコミュニケーションが複雑になってしまい、当事者間の相互理解がスムーズに進まないことがある。
と、どちらかといえば、問題意識の高い広告主同士が共同で、自社メディアを構築し、マーケティングに取り組もうというクライアントの要請に、既存の広告代理店が付いていけない現状が滲むような記述が読み取れる。

また、本書に紹介されているような「広告主自らがメディア化し、異業種連携しながら、エコシステムを作り上げて、メディアパワーを拡大させていく」という事態は、メディア企業(媒体社)の人間としても、気の引き締まる思いがする現象でもある。なぜなら、本書に出てくるように、問題意識の高いクライアント同士が、共同でメディアパワーのあるサイトを構築してしまえる時代というのは、よほど圧倒的なリーチを持っているか、他では代替しにくいほどひ専門的で深いコミュニティを持っているようなサイトでない限り、そのウェブメディアに出稿する理由がなくなってしまうからだ・・・。くわばらくわばら。

広告主サイド(バイサイド)の人には、企業自らがメディア化をすることの意義と方法論を知るために・・。

媒体社、広告代理店サイド(セルサイド)の人には、自らがメディア化しようとする広告主にとって、さらに付き合うに値する魅力ある価値提供とは、どのような形態になるのかを知るために・・。

ネットマーケティングに携わるあらゆる人にとって「広告主が自らがメディア化すること」の意味を捉える上で、オススメ!。

コカ・コーラパークが挑戦する エコシステムマーケティングコカ・コーラパークが挑戦する エコシステムマーケティング
著者:江端 浩人
販売元:ファーストプレス
発売日:2009-11-12
おすすめ度:4.5
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1. 大企業は、メディアを所有する方が広告打つより安あがり?  [ 小宮日記 ]   2009年12月06日 04:01
http://blog.livedoor.jp/tabbata/archives/50751766.html ライブドア・メディア事業部長のブログより いわゆるトヨタ流生産方式の「なぜなぜ?五回」に代表されるように、 自動車や電機といったメーカーの工場では、工程や原材料のムダを減らすべく、それこそ「銭」の単位

コメント一覧

1. Posted by 山本@五反田   2009年12月06日 14:14
消費財メーカーのメディア化、もっと進んでくれると面白いですね。
PBなど小売からの圧力も増しているだけに、消費者・生活者とのリレーション構築に要するコストと、流通チャネルのメンテナンスに要するコストととをバランスさせる余地は、まだまだ大きいように見受けられますから
2. Posted by ガジェット通信編集部 鬼丸   2009年12月11日 22:18
田端様

はじめまして、ガジェット通信編集部の鬼丸と申します。
私どもは、『ガジェット通信』というウェブ媒体を運営しております。
http://getnews.jp/
こちらの記事をたいへん興味深く読ませていただきました。
この記事を『ガジェット通信』に寄稿という形で掲載させていただきたいのですがいかがでしょうか。

ご検討いただきメールをいただけるとありがたいです。
よろしくお願いいたします。
3. Posted by northface outlet   2010年11月28日 03:22
媒体社、広告代理店サイド(セルサイド)の人には、自らがメディア化しようとする広告主にとって、さらに付き合うに値する魅力ある価値提供とは、どのような形態になるのかを知るために・・。

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