2010年03月08日

「グーグルとは違う切り口を探す」田端信太郎インタビュー@文化通信を全文掲載

3月8日付の文化通信というマスコミ業界の専門誌に私のインタビューが掲載されています。

マーケットハックや、テックウェーブなどの専門ブログメディアの立上げの意図から入って、今後の雑誌の電子配信や、紙とネットの棲み分け論や、人間心理の基本に裏打ちされたソーシャルメディアの隆盛・・みたいなことについて「グーグルとは違う切り口を探す。」という見出しの元、田端が語っております。

文化通信さんの許可を頂いて、下記に私のインタビュー部分の全文を転載させて頂きました。
______________

ライブドアは1月、ITテクノロジー専門ブログメディア「Tech Wave(テックウェーブ)」(湯川鶴章編集長)と投資専門ブログメディア 「Market Hack(マーケットハック)」(広瀬隆雄編集長)をスタートさせた。昨年10月には時事分析やオピニオンブログを整理し紹介するサイト「BLOGOS(ブロゴス)」を始めるなど、同社ではブログをメディアとして積極的に活用している。これらの仕掛け人は、前職のリクルート社ではフリーマガジン『R25』立ち上げなどに携わったライブドア執行役員メディア事業部長の田端信太郎氏。自らもブログやツイッターで、情報を発信する田端氏に話を聞いた。

――テックウェーブやマーケットハックをスタートした経緯は。
 新聞やテレビの時事問題のニュース報道に対して、問題意識がありました。例えば医療事故で、救急車が何件も病院を回ったのに受け入れてもらえず、亡くなってしまったとき、マスメディアは「病院がけしからん」と言うだけだったり、「政府の早急な対応が望まれる」といった紋切り型で報道したりしがちです。そんな時にブログで、実際の現場で働いている医師の人が書くものからは、リアリティーや説得力が感じられます。

 ブログではさまざまな分野で最前線にいる人たちが最前線にいたまま、自分の思いや考えなどを伝えられます。自分は仕事上、いろいろなブログを読む機会があるので、なるほどと思える意見に多く触れられますが、世の中全体で見たら、ブログ発のリアリティーのある情報に触れられる人の方が少ない。そういった人たちの架け橋になることが、ブログもありポータルサイトも持つライブドアの立ち位置だと考えています。

 具体的には、専門分野で質が高く、一般の人も読んで分かるような文書を書ける人がいれば、ライブドアがサポートし、広いステージに立って、スポットライトを浴びてもらえるようにしていきたいです。
 もっと言えば、誰でもメディアになれる今の時代で、基本的に一般人でブログを書いているような人は好きでやっているわけです。サラリーマンを全否定するわけじゃないですけど、好きでやっている人に、必ずしも書きたいことを書いているわけではないサラリーマン感覚のマスメディアの記者では、勝つのが難しいなと感じています。

 一方で、今回の問題意識は僕が言わなくても、現場の新聞記者、雑誌記者、編集プロダクションの人で分かっている人もいるはずです。なぜそういう人たちがブログを書かないのかといえば、ロールモデルというか、実際に出来るという前例がないからではないでしょうか。

 実はライブドアのブロガーでもトップ100人ぐらいはアクセス量から考えて、推測ですがアドセンスやアマゾンのアフィリエイトで経済的に十分暮らせるぐらいになっているはずです。ネットベンチャーを成功させて上場した社長と比べたら全然ですが、あれぐらいの質の記事を、あれぐらいの分量で書いたら、普通に暮らせるぐらいにはなるという事例を作りたいですね。

――今後の事業見通しは。
 専門ブログメディアでは、広告のクリック率やクリック単価が高いので、半年でほぼトントン近くにはなっていると思います。半年か1年かは分かりませんが、間違いなく黒字になります。正直に言えば黒字にするだけなら、ライブドアニュースの他のアクセスを落としてでも、優先的にリンクをしていけばできます。広告単価が高いのでビジネス的にも意味はないわけではないのですが、社内にいろいろな部署がありますので。

――これからの展開については。
おかげさまで注目を集めさせていただいて、既存の出版社さんやブロガーさんからいくつか話をいただいているのは確かです。今後調整が済み次第スタートしていきます。

――新聞や雑誌は読まれますか。
 紙の新聞は、ほとんど読んでないです。でも電車で人が広げているのは、何となく気になりますね。あと電車ですと、中吊りをよく見ます。ネットだと自分が見たいものしか見ないので、中吊りで世の中の雰囲気を知ろうと。朝ご飯食べながらぶつくさ言って、「みのもんたの朝ズバッ!」を見るのと同じ感覚です。

 雑誌はまだ読みますね。中吊りを見たら、内容はだいたい分かるのですが。今ちょっと思うのは、ムックと雑誌の境がだんだん無くなっている気がすることです。時事問題は別ですが、例えば「時間術」とか「整理術」といった特集なら5月号でも6月号でもいいわけで。賞味期限が2、3カ月ぐらいのムック化したパッケージとしての魅力は雑誌にはあります。編集というのはパッケージなのかもしれません。『週刊ダイヤモンド』や『アエラ』とかが、そういう意味では相対的には上手いですよね。
やるぞと決めたときにいろんな角度で関係者から話を聞いて1次情報にアクセスして、パッケージとして出す能力は、ブロガーでは絶対かなわないですよ。はっきり言って新聞や雑誌の記者トップ10%ぐらいを見たら、ひとりひとりの取材力、筆力はブロガーなんて目じゃないです。ただ個人個人の戦闘力が組織になったときに、打ち消しあっている気がして、もったいないと思います。スキルという意味では自信を持っていただいて、ネット上でブロガーなんて大したことないとガチンコで勝負してもらいたいです。勝てるブロガーなんてそんなにいませんから。

――新聞社のインターネットへの取り組みをどう見ていますか。 
 まず紙とかネットは形態であって本質ではありません。すぐに“紙”対“ネット”という二元論の見方をしていたら見誤りますね。いちばん信じられないのは、記事の有料データベースがあるからか、パーマリンクを設定せずに古い記事を削除してしまうことです。
 私たちはコンテンツを仕入れるときに、無期限でネットに掲載してアーカイブ化が可能なのかをすごく気にしています。ライブドアにおいて、ニュースはフローのビジネスでもありながら、実はストックのビジネスでもあります。通常のニュースですと、掲載直後の1週間ぐらいで95%ぐらいのアクセスがあると思うのですが、記事を削除しなければ、検索エンジンからのアクセス数は積み上がり続けます。だからこそ時間が経って読まれたとしても、満足してもらえる賞味期限が長い記事をどうやって作るかは、常に頭の中で3割ぐらい考えています。

――雑誌のデジタル配信については。
 iPhoneとかで実際に買ったりするので、すごく興味のある分野です。ただ今のデジタル配信のように、雑誌の誌面をそのまま配信しているだけではあまり意味がないです。アナログレコードからCDになったときに、曲の飛ばしがすぐ出来るようになって、サビが曲の頭になりましたよね。イントロが徐々に盛り上っていく曲だと、飽きられてしまうので。コンテンツのパッケージングが変わると、コンテンツ自体も変わらざるを得ないわけです。
 どのページがどれくらい読まれて、どのページがまったく読まれなかったといった、ネット広告での行動履歴データみたいなものを取れるようにしないと駄目だと思います。行動履歴と紐づけた広告のマッチングに踏み出さないとすごく中途半端です。今までのモデルをネットに移すだけでは延命策にしかならないですし、下手したら紙にしがみついているだけのほうが長生きできるかもしれません。

――ネットにおけるメディアのビジネスは、今後どうなるのでしょうか。
 全てをデータ、数値に置き換え、広告の費用対効果を追求していくグーグル的な世界観とどう違う切り口を提供できるのか?は常に意識しています。自分の欲しいものを分かっていて、検索エンジンを使って調べられる人からの、顕在化している欲望を拾うという意味でグーグルは最適です。ただユーザー自身も気付いていない、潜在的な欲望をどう喚起するかという点で、グーグル的な世界観では絶対に行き着けない所があると考えています。そこに対してネット上のメディアビジネスがどのように関わっていくのかは、正直、誰もまだ答えを持っていないはずです。

 今のソーシャルメディアの流れ、一時のブーム的に浮ついている所があるかもしれません。でも、この動きには深い人間心理の本質と関係があると思います。誰でも、三つ星レストランにいきなり連れて行かれてフルコース食べるよりも、好きな子がお弁当を作ってきてくれて「田端君のために作ってきたんだけど食べない?」って言われる方が絶対うれしいですよね。そういう人間同士のコミュニケーションの中にこそ、生きていく喜びだったり、楽しみだったりがあったりするんだよねという、ある種の哲学的な裏付けに今のソーシャルメディアの隆盛は支えられています。Facebookやツイッターだとかは、そういったことを現代的な意味で思い出させてくれましたね。

<プロフィール>
 たばた・しんたろう氏 1975年石川県生まれ。99年3月慶應義塾大学経済学部卒。同年、NTTデータ入社。2001年に入社したリクルートでは、フリーマガジン『R25』の源流となるプロジェクトを起案。創刊後は広告営業の責任者を務めた。05年4月にライブドア入社。ライブドアニュース、スポーツなどのコンテンツの統括を経て、現在は執行役員メディア事業部長。34歳。



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