2011年12月21日

自炊代行を提訴する作家の偽善〜再販制度での裁断本のほうが遥かに多いゾ

この7人のセンセイによる記者会見での発言内容を読んだが、時代感覚のなさ、を露呈した迷会見だったと思う。(まあ、気持ちは分かるんだけどさw)

東野圭吾氏、弘兼憲史氏など著名な作家・漫画家7名が、スキャン代行業者2社を提訴した問題。記者会見の場で7名は何を語ったのか。紙への思い、裁断本を含めた違法コピーへの憤り、出版業界の現状や未来など、各人がそれぞれの心情を吐露した内容をまとめた。

私が思うに、小説家や漫画家が目指すべき本来的なアウトプット、目指すべき達成点は、ある種のストーリーを読者の脳内で紡ぎだし、読者の心をつかみ、深く揺り動かすことであって「インクが乗っかった物理的な紙の束」を届けることではないはずだ。

このセンセイ方は、アマ同人誌の発行者ではなく、商業出版において大成功されたエスタブリッシュメントな有力者ばかりではないか。そんなに、裁断されるのがイヤならば、さっさとオフィシャルにデジタル書籍を、読者が受け入れられるような、使いやすい条件で提供すればいいのだ。iTunesMusicStoreの事例をみても分かるように、ユーザーは利便性にはオカネを払う。本の自炊は、CDのリッピングよりも、もっとメンドクサイことなので、音楽業界よりも、有利な立場にあるはずなのに、この頑迷さはどうだろう。

林真理子氏が話す、デジタル化に対して「各出版社の方々と本当に考えながら1つ1つクリアしながら積み重ねております」のコメントに滲む出版社への依存心。この時代に自らがどう向き合うのか?という当事者意識の希薄さが、私には猛烈にダサく思えてしまう。

表現者として、新しい表現メディアへの好奇心や興奮は感じないのだろうか。目下の情勢に対して、それこそ作家・表現者・ペンで生きるものに固有のIndependence精神、DIY精神を発揮して、出版社をかませずとも、作家が直接に自ら新たな読者へのチャネルを切り開いてやろう、というような気概はないのだろうか。それこそ、村上龍が挑戦しているように。

昭和図書の推計では、書店で売れ残って出版社に返品される書籍は年間5億冊を超え、そのうち約2割の1億冊が断裁処分になっているそうだ。(出典
作家から見れば、裁断本を見るのは本当につらいです。本当に、もうちょっと本を愛してくださいといいたいです。
  by 武論尊センセイ  


上記のようにセンセイ方はおっしゃるのだが、(リンク先のデータの信頼性は脇においても)自炊で裁断される本の何十倍、何百倍も、再販制度による返本の結果として、これまでにも、今現在も、(先生方の愛する)本というものが裁断されてきたことだけは間違いないはずだ。そのことに目をつむって、「自炊代行業者による裁断」だけをことさら「蛮行」のことのように言い立てるのは、あさましいポジショントークと言われても仕方ないだろう。適切なデジタル流通はむしろ、そのように、痛ましく「虐殺」されてきた「本」を減らす福音にもなりえるはずなのに・・・。
 
「(自炊のために)裁断された本が正視に耐えない」とか「本がないがしろにされている」とかいうのは、要するに、本音としては、自分の取り分が減ってしまうのは困る、俺の本が断裁されるの不快だから見たくない、という現実から目をそむけた偽善的な態度だ。今回の会見は、私には、本当に、読者を愛し、創作を愛する文士の態度とは、思えない。裁断本を減らすためには、再販制度をやめ、売れ残った本は店頭において値下げ販売を可能とするほうが、自炊代行業者を訴えるよりも、よほど有効なはずだ。それとも、この先生方は、莫大な数の本の裁断処理をもたらしてきた再販制度にも反対なのだろうか・・・。
 
「14歳のハローワーク」やJMMを始めたあたりから、村上龍の時代感性は凄いと思っていたのだが、この会見記事に載った7人のセンセイの発言を読んで、相対的に村上龍のマトモさが、脳内に鮮烈に呼び起こされた。

勝手に邪推すると、出版社からの「ご進講」に対して、実際の事情をよくわかってらっしゃらない「センセイ」方が、裁断本の写真とかで情緒的に食い込まれ、うまいこと担がれてしまっている、という構図にも思える。が、それこそ、「文壇ゴルフ」という言葉に象徴される、出版社丸抱えの「作家センセイ」たちの依存体質とムラ社会、そして情報弱者ぶりが垣間見えた面白い事案だったと思う。

「本」という物理的な形態に拘ってしまい、裁断行為を批判するセンセイたちには、
”Le plus important est invisible ”  「大切なものは、目に見えない」
という、サン=テグジュペリが「星の王子様」で書いた有名な一節を紹介しておこう。中身ではなくて、「紙の束」それ自体が、そんなに大事かね?
 

余談だが、私は、既存書店業界の起死回生の策は、既存のリアル書店自ら、自分たちが売った本への「アフターサポート」として、自炊代行サービスを開始してしまうことだとかねてから、思っている。ある書店チェーン経営者との対談で、そのことを話したら「いや、実際に書店業界の仲間うちでは、そういう話も出るんですよ」と話されていた。

何より、自炊代行サポートを通じて、自らの店の顧客が、どのような属性で、過去に、どのような本を買ったのか、という最も貴重なCRMデータも入手可能ではないか 。ユーザーとしても、実際に家の近くで普段から来訪している書店が自炊代行してくれるのならば、ネット上の良く分からない代行業者に本を送るよりも、何かと安心な面も多いから、かなり競争力はあるはずだ。

自炊代行をトリガーにしたCRMデータの整備とモルタル&クリック的、あるいはオフライン2オンライン的な展開での消費者接点の確保。そして、そのような関係性をベースに、台北・誠品書店的な文化サロン業、知のスポーツクラブ業へ業態転換していくこと、これが、21世紀に書店が生き残る道だと私は、思っている。 

===追記===
おっと、センセイたちの会見の動画があった。皆さん、これみて判断しましょう。


さあ、みんなで年末大掃除に自炊しよ〜!
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