2005年04月25日

国際線スチュワーデスの孤独

df70fb39.jpg 今までいろいろな航空会社の飛行機に乗ってきたけれど、一番機内食が美味しくてサービスも良かったのがエミレーツ航空だった。エミレーツはUAEのドバイに本拠地を置く航空会社である。日本ではあまり知られていないようだけど、ヨーロッパとアジアを結ぶ中継地としての地の利を生かして、急成長している会社らしい。
 僕はバンコク・ジャカルタ間の往復と、バンコク・カサブランカ間の往復に、エミレーツを使った。特にドバイからモロッコのカサブランカに飛ぶフライトには、定員の二割程度しか乗客が乗っていなかったので、とても快適な空の旅を満喫することができた。


 客室乗務員の国籍がやたらとバラエティーに富んでいるのもエミレーツの特徴である(ホームページによれば世界90ヶ国以上から採用してという)。欧米系はもちろん、中東、東南アジア、中国や韓国など、多種多様な顔の乗務員がサービスをしてくれる。ドバイ・カサブランカ間には日本人スチュワーデスも一人乗っていた。肌の色がとても白くてなかなか親切なスチュワーデスさんだった。僕は食事時に赤ワインを頼んだのだけど、しばらく後にわざわざワインのお代わりを持ってきてくれた。
 ワインを飲んでぐーぐー寝てしまう、というのが僕の理想的な飛行機での過ごし方である。液晶テレビでやっている映画もろくなものはないし、テレビゲームのテトリスをしばらくやっていると頭が痛くなってくる。酔いが回ってきたなぁと思うと、おもむろに眠る態勢に入ってしまうのが一番なのだ。
 二時間ほど眠ってからトイレに立つと、別の席に移っていた同行者のウィリアム(日本在住アメリカ人)が日本人スチュワーデスとにこやかに話をしていた。まぁ乗客も少ないし、食事時間も終わったから、スチュワーデスもやることがなくて暇を持て余していたのだろう。
 結局、ウィリアムと彼女はかれこれ一時間以上も話をしていた。世間話にしてはいささか長すぎる。子供達がみんな独立して話す相手がいない近所のおばさんじゃないんだからさ。

「何を話していたの?」
 僕は隣の席に戻ってきたウィリアムに聞いてみた。
「彼女の寂しさについてさ」
 もっともらしい顔をして彼は言った。
「寂しさ?」
「ああ、彼女は寂しい人なんだ。ロンリー・インターナショナル・エア・ホステス。略してLIAHなんだ。何故寂しいかって? それは彼女がドバイに住んでいるからだよ。ドバイだぜ、君。彼女にはちゃんと日本に恋人がいるらしいんだ。でもドバイに住んでいるから、なかなか会うことができない。しかもたまに日本に帰って『会いましょう』って電話すると、彼は『今忙しい』っていうんだって。可哀想な人じゃないか。だから彼女はあと一ヶ月でエミレーツを辞めるんだって。日本に帰って大学に入り直すらしいんだ」
 国際線の機内の中で、スチュワーデスからこれほどプライベートな話を聞き出せる人はなかなかいないのではないかと思う。誰とでも仲良くなってしまえる才能を持っているのだ。ウィリアムという人は。
「それでね、彼女は今晩カサブランカに一泊するらしいんだけど、寂しそうな口調で『今晩は何もすることがないのよ』って言うんだよ」
 彼は上目遣いとかわいらしい女の子の声真似で、「今晩は何もすることがないの」ともう一度言う。
「それで君はなんて言ったの?」
「我々は今日中にカサブランカからマラケシュに行かなくちゃならないんです、と言ったよ。もちろん紳士的に。我々は仕事で来ているから、予定を変更するわけにはいかないんですってね」
 ウィリアムには愛する奥さんと二人の子供がいるから、たとえ魅力的な女の子に誘われてもなびくことはない(と彼は自信を持って断言する)。しかし「寂しい国際線スチュワーデス」というキーワードは、彼のイマジネーションを刺激して止まないらしい。
 僕らはその後四週間ばかり、かなりストイックかつハードは取材旅行を続けたのだが、肉体的にも精神的にも疲れてくると、ウィリアムは「ロンリー・インターナショナル・エア・ホステス(略してLIAH)」とのファンタジックな妄想を僕に話すことで、ストレスを解消していた。妄想の中で、彼はスチュワーデスの女の子に得意のフットマッサージを施してあげる。そして彼女からもマッサージのお返しをしてもらうのだ。うーん、なかなか楽しそうな想像である。僕も混ぜてもらいたいぐらいだ。
 残念ながら、四週間後に乗った帰りの飛行機にはLIAHの彼女はいなかった。どこか別の空を飛んでいるのかもしれないし、もうエミレーツを辞めて日本に帰っているのかもしれない。いずれにしても我々が彼女に会うことはもう二度とないだろう。結局、「寂しい国際線スチュワーデス」という妄想だけが、我々の頭に取り残されてしまったのだった。

 ところで国際線スチュワーデスというのは、意外にも暇な職業なのだそうだ。フライト時間は月に何十時間と決められていて、それ以上は飛ぶことができないから、仕事と仕事の合間が何日も空いてしまうこともしょっちゅうなのだという。フライト時の忙しそうにテキパキと働く姿とのギャップが意外ですね。
 もし国際線スチュワーデスの方で、「旅空日記」を読んでいる方がいたら(いるんだろうか?)、ぜひ「仕事がない日の過ごし方」を教えてください。僕にはちょっと想像がつかないですから。
 ほんと、何をしているんだろう? ホテルでフットマッサージでもやっているのかなぁ・・・。

tabisora at 22:56コメント(5)トラックバック(0)別冊「たびそら」旅コラム  

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コメント一覧

1. Posted by タリバンファン   2005年04月26日 01:17
思わず、クスクス笑ってしまいました。

ウィルアムさん、いい方ですね。


>ほんと、何をしているんだろう?

彼女達、多分、暇な時間の使い方、上手だと思いますよ。

うーーん、想像だと、何か習い事らしきもの、
エステとか、美容院通い、
読書、映画、美味しいレストランでの食事三昧、等など、、?

私などからみれば、”雲の上の生活”ですね。

2. Posted by もえ   2005年05月03日 20:54
こんにちは。私は「元」スチュワーデスです。
同期が何人かこちらの航空会社に転職していったので、ちょっと微妙です。笑
だいたいみんな1年ぐらいで辞めて日本に帰ってきちゃうみたいです。
ドバイは何もすることないみたいですから…。

休みは結構おおかったです、確かに。
私は一人暮らしだったので、3日間ぐらい誰とも話をしなかったり。
海外にステイの時は観光に行ったりしたので忙しかったですけど…。

お給料もOLと変わらないので贅沢できませんし!
日本の航空会社(正社員)ぐらいですよー、あんなにお給料がいいのは。

結構地味でした。
3. Posted by 小沼 功   2005年05月03日 22:29
とても記述は印象的でした。
スチュワーデス、パーサー等機内でお会いする機会はありますが、学生の時は、結構怖いもの知らずで色々とお話をしたことを思い出します。
然しながら、身の上相談のようなこと迄お話したことはなく、機上での話は、旅の思い出に終始したものでした。ウィリアムさんは、特異な人なのか、環境がそうさせたのか。でもそれもとても新鮮な気が致しました。
非日常を旅に求めるというまのの、何回も海外旅行等に出るとマンネリ化がしてきます。人間素直な気持ちで色々な方と色々な会話が出来ることはすばらしいと思う今日この頃であります。
4. Posted by 三井昌志   2005年05月04日 01:31
>もえさん

ようやくスチュワーデス経験のある方からの回答がもらえましたね。
なるほど、やっぱりドバイでは何もすることがないのですか(^_^;)
エミレーツの宣伝ビデオではビーチリゾートもエステサロンも競馬場も充実していて楽園みたいに紹介していますが、まぁ現実はそんなに甘いものじゃないのでしょうね。

結構地味なスチュワーデス生活・・・そうですか。空港の中をスーツケースを引っ張りながらカツカツと背筋を伸ばして歩いていく姿は、とてもかっこいいんですけどね。
5. Posted by 元クルー   2008年04月02日 00:33
はじめまして

元クルーです。

確かに休みはあるんですけど、
仕事の疲れで結構ぐったりです。。

でも、中には動いたい女子がいて
パワフルにしてたりしますけどね〜。

でも、LIAHさんは本当に
辞めたんでしょうか。。。
そうやって港港で、、、って
何気にいたりするんですよね。。。

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三井昌志プロフィール
1974年生まれ。東京都在住。
旅写真家・フリーライター。
機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。旅した国は36ヶ国。
2003年12月には初の写真集「アジアの瞳」を出版。
2005年9月には写文集「素顔のアジア」を出版。
2006年8月には、写真集「アジアンスマイル」シリーズの第1弾と2弾「美少女の輝き」「子供たちの笑顔」が同時出版される。

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