2009年01月22日

子供の遊び心と体力低下

 バングラデシュ滞在も1ヶ月近くになり、そろそろインドに向けて旅立とうかと考えているところです。去年に引き続き、バイクを使ってこの国を旅したのですが、今回も充実した面白い旅になりました。どうも僕はバングラデシュととても相性がいいみたいです。バングラを4度も旅している人間なんて滅多にいないのでみんなから珍しがられますが、まぁたまにはそういう人がいてもいいじゃないですか。

 今はダッカの下町のど真ん中にある安宿に泊まっています。1月のバングラデシュは朝晩がかなり冷え込むのでホットシャワーが欲しいところなのですが、ここにはありません。ダッカでホットシャワーを求めると宿代が3倍以上に跳ね上がるし、高めのホテルでも必ずしもいい環境にはないからです(先日もホテルのフロント係と騒音を巡って喧嘩したばかりです)。

 この宿は350タカ(500円)とダッカにしては安い部類にもかかわらず、さほどうるさくはないし、ほどほどに清潔だし(あくまでもバングラレベルでは)、ベッドも柔らかい。何よりテレビでNHKワールドが見られるのが嬉しかった。すごく久しぶりに日本の生の情報に触れることができ、日本語を聞くことができたのです。

 NHKのニュースでは、子供の体力低下が話題に上っていました。小学5年と中学2年を対象に行われた運動能力のテストの結果が、過去最低のレベルだったというのです。
 子供の運動能力が落ちていることについて、様々な原因が挙げられています。運動能力が田舎で高く、都会で低いことから、子供が外で遊ばなくなったことが主原因であることは確かで、テレビゲームの普及、塾通い、少子化、都市化などがその背景にあるようです。つまりこれは社会的な裾野の広い問題で、「体育の授業時間を増やす」といったことで簡単に解決できるものではないということです。



 子供の運動能力がピークだったのが昭和60年だそうで、それはちょうど僕らの世代です。確かに僕らが小学校の頃は、毎日遅くまで外で遊んでいました。校庭でサッカーをしたり、鬼ごっこをしたり、裏山を駆け回ったりした。塾や習い事をやっている子もいたけれど、少数だったように思います。ファミコンが登場したのは僕が小学生の頃だったけど、その影響はまださほど大きくはなかった。

 ニュースでは八王子に住む僕と同年代の主婦が、子育ての不安を訴えます。
「私たちが子供の頃は外で遊ぶのは平気だったけれど、今は治安が悪いから子供を公園で遊ばせるのは怖い」
 一主婦のまっとうな意見だというふうに思えるし、事実NHKはそのような文脈で彼女の主観を伝えているわけだけど、僕は強い違和感を感じました。
 本当にそうなの?
 本当に治安は悪化しているのでしょうか? 僕らの子供時代と比べて、本当に子供を狙う犯罪が増えているんでしょうか? そこに定量的なデーターの裏付けはあるのでしょうか? もしないのだとしたら、それはメディアを通して語られる犯罪情報の量に左右された「思い込み」なのではないでしょうか?

 実際、僕らが子供だった頃にも「変な人」はいました。痴漢も誘拐犯もいたし、性犯罪者もいた。でも今ほど話題にはならなかったのです。そういう「変な人」は社会に少数ではあるけれど含まれていて、でも滅多には遭遇しないという暗黙の了解があったのだと思います。

 変わったのは治安ではなく、犯罪を受け止める社会の側なのです。滅多に起こらない異常な犯罪が、メディアを通じて詳細に伝えれ、恐怖が増幅され、憎悪が反復され、強迫観念となって社会全体を覆っている。
 その結果として「次はうちの子が狙われるんじゃないか?」と親が考えはじめ、「子供の安全のためにできる限りのことをするのが親のつとめだ」として、市役所から送られてくる犯罪者情報を携帯電話で受信しながら、眉をひそめて子供たちの遊びを見守ることになる。

 子供のことを大切に思う親が増えたのでしょう。子供に手をかける時間を持てる親が増えたのでしょう。それは基本的に良いことだと思うけれど、あまりにも行きすぎているのだと思う。真昼の八王子の児童公園で「性犯罪者が子供たちを狙っているのではないか」という恐怖に怯えているのって、「そりゃ変だよ」と思うのです。同じ八王子市民の僕としては。


 バングラデシュの首都ダッカの子供は、あらゆる意味で東京の子供とは対極の状況に置かれています。



 たとえばこの写真。これはダッカの南を流れるブリゴンガ川の河岸に積もっているゴミの山なんです。この付近にはプラスチックの工場がたくさんあって、こうして一時的に集められたゴミを原料にして、ビニール袋やプラスチック家具なんかを作っているのですが、とにかく今はただのゴミの山です。
 それに向かって子供たちがジャンプをしていました。コンクリートで固められた斜面を一気に駆け下りて、ゴミのクッションの上にダイブ。ずぼっと頭だけがゴミの山に突っ込むと、友達に足を引っ張って抜いてもらう。とても楽しそうです。子供って本当に遊びの天才で、何でも遊び場に変えてしまう能力があるのです。

 ダッカの線路沿いにはこんな光景もありました。線路沿いにはボスティと呼ばれるスラム街が広がっていて、最底辺の人々が寄せ集まって暮らしているのだけど、そこではごく普通にガンジャ(マリファナの一種ですね)を乾かして売買している人たちがいる。バングラでもガンジャは違法なのだけど、まぁ警察も見てみないふりをしている。お酒が飲めないイスラムの国なので、飲酒代わりに酩酊できるということで需要があるらしい。
 昼間からガンジャでハイになった若者が「ねぇ、あんちゃんも買わない?」と絡みついてくる。ちょっと不穏な雰囲気も感じる。でもそのすぐ横を、リュックを背負った小学生たちが楽しそうにお喋りをしながら通り過ぎていくんですね。わりとまともな服装をしているから、ボスティの住民ではなさそうです。実は線路の上というのは、一般の道路よりもはるかに安全なんです。道路は交通ルールなんて無視のひどい混沌状態だけど、列車はちゃんとレールの上だけを走るから。だから通勤通学のために線路の上を歩いている人は結構多いのです。

 ダッカには東京の何百倍もの「変な人」がいます。見るに耐えないような凄まじい物乞い、頭がすっかりおかしくなっちゃった人、なぜか全裸で中央分離帯の上を歩く男、ガンジャの売人、コソドロ。「子育てにいい環境だ」なんて口が裂けても言えない。バングラ人だってそう思っている。
 にもかかわらず子供はちゃんと育っているんです。日本人の目から見て「まともに」育っているかどうかはわからないけれど、大多数の子供たちがたくましさと、ある程度の常識と、ありあまる好奇心とを備えた大人になっている。ゴミの中でもちゃんと子供は育つんです。



 おそらく、今の日本の子供たちに自由な遊びを取り戻させてやるためには、親の側の「諦め」とか「放任」とかが必要なのでしょう。そして成り行きや偶然に任せる。
 しかしそれは今の日本人がもっとも苦手としていることです。ニュースでは「原因究明に全力を注ぐべきです」とか、「再発防止策を講じるのが急務です」といった言葉が常套句になっていて、「子供のことはある程度放っておきましょう。成り行きに任せた方がいいんです」なんて言ったら、「そんなの無責任だ」の大合唱になるに決まっている。

 でも「無責任上等」なんですよ。
 だって子供なんてどう育つかわからないんだもん。ゴミの山見つけて、「おお、これは使えるぞ」ってさっそくダイブしてみる。たまに着地に失敗して頭にコブを作ることもあるかもしれない。イテテ。でもその失敗から何かを学んでいく。子供の自由な遊び心ってそうやって育っていくものでしょう?

 授業で跳び箱が跳べないから、お金を払って体育専門の塾に通わせるなんてナンセンスですよ。滑稽ですよ。
 そこに箱があるから飛び超える。壁があるから乗り越える。あるいは壁の上を歩いてみる。そういう自由意志とか、ジャンプ力とかって、本来は誰もが備えているものだよ。
 その力を摘み取っているのは親の過剰な心配と関わりであるってことを、きちんとアナウンスするべきときなんじゃないか。僕はそう思っています。





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1. バングラデシュの子どもたちに学ぶ?  [ ココロのアンテナ ]   2009年01月22日 23:28
旅空日記:子供の遊び心と体力低下 - livedoor Blog(ブログ) アジアの子どもたちの笑顔を撮らせたら天下一品、の旅写真家・三井昌志さんのブログから引っ張らせて頂きました。 「子供の遊び心と体力低下」というタイトル。 結論を言わせてもらうと、全面的に賛成。 よく...

コメント一覧

1. Posted by 怪盗にゃんこ   2009年01月22日 19:25
こんにちは、はじめまして。
いつも楽しみに読ませていただいています。
写真はもちろんですが、三井さんの文章がとても好きです。

太宰治の言葉だったか・・・
「親はなくとも子は育つ、と言うが、親があっても子は育つ、だ。」
というのを思い出しました。
子供の自立を妨げる過保護な親がいても、子供はそれなりに育つ、
ということだったと思います。

なるようになる、という言葉がありますが、けして無責任なことではなく、なるべきようにちゃんとなるんですよね・・・。

昨今では、会社員の息子・娘を会社に送り迎えしたり、残業があると上司に苦情の電話をしたりする親御さんもいるそうな・・・。

2. Posted by わかば   2009年01月22日 20:58
三井さんに賛成。
中学に入学するまでの子どもにはもっともっと子どもどうしで遊ばせて欲しいです。
知的好奇心も、体力も、運動能力も、コミュニケーション能力も、社会性も、お金を出さなくても自然に身に付くというのに・・・。
物質的に・経済的に豊かになるほど子どもが遊べなくなるって、不思議かつ悲しいです。
3. Posted by まいるど   2009年01月23日 17:03
三井さん

 初めまして、こんにちは。いつもブログ拝見しています。子ども達の笑顔に感動と安心感を覚えます。
 日本の治安のことを書いておられますが、私が読んだ本では……犯罪発生率は増えていないけれど、犯罪の発生する時空の境が曖昧になったことによって、体感治安が悪化しているのだそうです。もちろんマスコミが変に煽るのも一要因でしょう。つまり、昔は「夜」の「倉庫街」とか、犯罪起こる場所と時間はたいてい決まっていました。それが昼間の住宅街、小学校、駅など、時と場所を選ばなくなったことが原因だそうです。
 私は学生をしているかたわら、子ども達を野外へ連れ出してキャンプなどをしています。最初は自分たちで遊ぶということができない。普段から自然の中で、集団で遊んでいないから、スタッフが主導で遊ばないと遊べない。確かに三井さんのおっしゃる通りです。保護者の方の言い分も分かりますし、三井さんの「無責任上等」も分かります。でも、成熟した社会では、無責任は許されない。だから、日本には日本のやり方で何とかしなくてはと思います。大人が回避できるリスクは事前に除去し、その中で冒険をさせる必要があると思います。それでも完全にリスクを排除してしまっては、危険予知能力の発達に繋がらないので、その判断は難しいところです。私はキャンプに行くと、「命は落とすな」、「少しくらいのケガはしろ」と言っています。
 三井さんもお気をつけて旅を続けてください。楽しみにしています。私も3年ほど前にインドとバングラに行ったので、どことなく懐かしい景色です。
4. Posted by ふじこ   2009年01月23日 20:15
1 子を持つ親の気持ちがあなたにどれほどわかるのか。

かっこいい事が書いてあるけど、大人が見てみぬ振りをする希薄な社会で自分の子供を安心して外で遊ばせられるというのでしょうか。

5. Posted by ろけあ   2009年01月24日 20:17
また素敵な写真をありがとうございます。子供の才能は無限大なんだって
ことをあらためて感じされられ希望がわききもちが楽になりました。
三井さんのそういうおおらかな考え方好きです。
教育パパにならなくてよさそう
私も少し体きたえなくちゃ。明日はちょっと絵本展にいってきます。
自分の可能性ももうちょっと模索してみようとおもいます。
ありがとう
6. Posted by kei   2009年01月25日 01:45
バングラデシュは、三井さんのブログや写真、報告会で一番興味を惹かれた国です。
一度訪れてみたいと思っています(^^)

>メディアを通して語られる犯罪情報の量に左右された「思い込み」なのではないでしょうか?

はっ!!私も左右されていた一人です・・・やばいやばい(^^;)
7. Posted by としば   2009年01月26日 10:12
5 川で遊ぶ子供たちの写真がとても気に入りました。
この子供たちのしあわせそうな笑顔とともに、生活に裏付けられたしなやかな体つきが痛いぐらい目に飛び込んでくる作品ですね。

我が家も子供を外で遊ばせないと・・・

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三井昌志プロフィール
1974年生まれ。東京都在住。
旅写真家・フリーライター。
機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。旅した国は36ヶ国。
2003年12月には初の写真集「アジアの瞳」を出版。
2005年9月には写文集「素顔のアジア」を出版。
2006年8月には、写真集「アジアンスマイル」シリーズの第1弾と2弾「美少女の輝き」「子供たちの笑顔」が同時出版される。

2006-08年にはバイクを借りて気ままにアジアを旅する「バタフライ・ライフ」を堪能。この自由な旅の魅力を伝えるための新ブログを立ち上げる。

三井昌志の本

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(2009/10 パロル舎)



「スマイルプラネット」
この世界にたったひとつしかない、とびきりの笑顔を探して、ぼくは旅に出た。かけがえのない「笑顔の星」へのメッセージがつまった一冊。
(2008/10 パロル舎)



「子供たちの笑顔」
笑顔には国境なんてない。遊び、学び、働き、共に笑う…。アジアで暮らす子供たちのありのままの姿を収めた写真集。
(2006/08 グラフィック社)



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(2006/08 グラフィック社)



「素顔のアジア」
津波後のインドネシアや内戦後のアフガニスタンを歩き回り、人々の逞しさと笑顔の価値を知った。旅写真家の新境地。
(2005/09 ソフトバンク・クリエイティブ)



「アジアの瞳」

会社を辞めて出かけたユーラシア一周の旅。初めての海外旅行で出会った人々の姿を写真に収めた。旅写真家の出発点。
(2003/12 スリーエー・ネットワーク)

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