境界性パーソナリティ障害とは?
 
境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、対人関係や自己に対するイメージなどの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化していく特性がある障害です。
境界性パーソナリティ障害の多くは思春期から青年期・成人早期に起こる感情と行動の失調状態です。時間はかかりますが適切な治療を行うことによって自分自身を取り戻していくことができるといわれています。
現在さまざまなパーソナリティ障害が確認されており、境界性パーソナリティ障害はその中の一つとして存在しています。パーソナリティ障害とは、思考、感情、人とのかかわり方、衝動の制御の4つのうちの少なくとも2つにおいて、柔軟性がない状態をいいます。
このようなパーソナリティ障害がある人は、考え方や行動パターンに著しい偏りがあるため他者と摩擦が生じ、日常生活や仕事・学校の場面でトラブルをおこしてしまうことがあります。境界性パーソナリティ障害は他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどう振る舞えば良いのか分からない自己イメージの不安定さがトラブルの背景にあるといわれています。
境界性という名前は、“強いイライラ感”が症状として現れる神経症と、“現実が冷静に認識できない”認知障害をもつ統合失調症、2つの精神疾患の境界にあると、かつて考えられていたことに由来し命名されています。
現代社会の中では境界線がはっきりしないことは数多く存在しています。例えば自分と他人との境界や男と女の境界、子どもと大人との境界など、あらゆるボーダーラインがあります。境界性パーソナリティ障害がある方はその境界が分かりにくく、社会にうまく適応できないという生きづらさを抱えています。
境界性パーソナリティ障害を発症している方々の中での男女割合は女性が75%と多く、主に女性が発症しやすい傾向があることが分かっています。
出典:日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)http://amzn.asia/5klmtQQ
参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書,2009)http://amzn.asia/8gwtYj6



境界性パーソナリティ障害の主な特性とは?
 
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10132009412
境界性パーソナリティ障害の主な特性として代表的なものは、自己イメージの混乱と見捨てられるかもしれないという強迫観念があることです。この3つの特性からくる不安と恐怖の感情がもととなり、さまざまな症状に発展していきます。
 自己イメージの混乱
境界性パーソナリティ障害がある人は、「自分がどんな人か分からない…」というように自己イメージがはっきりしない状態であるため、他人の影響を受けやすかったり、他人と自分を区別できなかったりすることがあります。
自己イメージは自己同一性(アイデンティティ)とも言われ、自分・他人から見ても一貫している自己を持っていることをいいます。自己イメージが安定していると、自分が社会にとって意味があり、自分の中に生きているという実感が生まれます。それによって過剰に不安になることや人に流されることが減ってきます。
しかし境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージが混乱しているため、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまうことが多くなります。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。
このような対人関係を続けることで過度なストレスを感じるようになり混乱や落ち込んだ状態が慢性化し、さらに自分を見失うという悪循環に陥ってしまいます。
 見捨てられ不安
境界性パーソナリティ障害がある人は、自身が信頼をおいている相手に依存する特性がみられます。常に根底には自分が見捨てられてしまうのではないかという「見捨てられ不安」というものを感じています。
幼い頃に両親の離婚によって家族や愛着のある場所などから離れることに強い不安を抱いたり、虐待などにより愛情を失う体験をしたことが背景になっている場合もあります。「また同じ思いはしたくない」という潜在的な意識によって見捨てられ不安は招かれ、信頼できる相手に対して疑い、見捨てられるのではないかという不安を抱いています。
その見捨てられ不安から例えばメールを送ってもすぐに返ってこなかったり、自分が期待している反応が返ってこなかったりする場合、「嫌われたのではないか?」、「見放されたのではないか?」と強い恐怖を感じ相手から離れまいとしがみつこうします。
そして見捨てられ不安から逃れたり、相手の興味を自分に引きつけたりするためにギャンブルや過食、過量の飲酒・服薬、自傷行為や自殺をほのめかす行動を起こしてしまうのです。
 感情のコントロールができない
境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージの混乱や見捨てられることに不安や恐怖を常に感じていることから、感情の波が激しく変動し、自分でコントロールすることができなくなります。
激しい怒りやひどい落ち込みや空虚感を感じることから、それを解消しようと暴力や暴言を吐いたり、リストカットなどの自傷行為や大量の薬物摂取、大量の飲酒、過食などに走りやすくなります。これらを繰り返すことで日常化していくと、薬物依存やアルコール依存などに発展していくこともあります。さらに強いストレスにさらされ続けると一時的な記憶喪失になる解離性症状が表出する場合もあります。
境界性パーソナリティ障害が発症する原因ときっかけって?
 
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境界性パーソナリティ障害の原因はさまざまな説があり、定まっていません。原因は本人の生物学的な気質要因と環境的要因の相互作用によって生じるという考え方が有力です。
 生物学的気質要因
脳の機能の中には衝動を抑えたり、怒りや不安をコントロールしたり、ストレスに対する感情をコントロールしたりする部位があります。境界性パーソナリティ障害がある人は、何らかの原因によってそれらの部位に特徴があるために、衝動性、怒り、不安、ストレスなどを感じやすくなっているのだと考えられています。
・前頭前皮質:行動をコントロールし、合理的判断に関係する部位です。なんらかのストレスによりこの部分の活動が低下すると、扁桃体の活動を抑えることができず、感情や行動をコントロールできなくなると考えられています。
・扁桃体(へんとうたい):怒りや不安といった感情をつかさどっている部位です。境界性パーソナリティ障害がある人は扁桃体が平均より小さいという研究があります。扁桃体の特定の部位が、感情的な刺激に対して過剰に反応するという研究があります。
・視床下部/下垂体:ストレスに対する反応に関係する部位です。ちょっとしたトラブルにもイライラや落ち込みを感じる人とあまり動じない人がいますが、それはこの部位の反応の個人差が一因と考えられています。境界性パーソナリティ障害がある人は過剰にストレスを感じ、精神的なショックを受けて落ち込んでしまったり、心が傷ついたりするのは、この部位に関連があると考えられます。
・セロトニン系:脳内にある神経細胞間の神経細胞伝達物質のひとつです。セロトニンがうまくはたらかないと、不安やうつの気分が強くなったり、衝動性が抑えられなかったりすることがわかっています。


 環境的要因

環境的要因には養育環境が大きく関係しているという説があります。過去に心的外傷体験(心が傷ついた体験)や不認証体験(自分を認めてもらえなかった体験)があり、数年後に似たような体験が再現されることによって、境界性パーソナリティ障害の症状が表出するということがあります。
心的外傷体験や不認証体験とは、極端な例だと親が子どもに対する虐待やネグレクト(育児放棄)などが挙げられます。または親の離婚や死別によるショックなどもあります。これはあくまで極端な例ですが、他にも、子どもへの愛情不足や褒める・認めるといった共感の不足、過保護や過干渉によるストレスなども子どもにとっては負担になっていることがあります。
そのような体験がベースにあり、ちょっとした友人関係や恋人関係の出来事がきっかけで、見捨てられ不安などの症状が発生します。





パーソナリティ障害  Personality disorder, PD


パーソナリティ障害(パーソナリティしょうがい、英語: Personality disorder, PD)とは、文化的な平均から著しく偏った行動の様式であり[1][2]、特徴的な生活の様式や他者との関わり方[1]、または内面的な様式を持ち[2]、そのことが個人的あるいは社会的にかなりの崩壊[3]や著しい苦痛や機能の障害をもたらしているものである[2]。青年期や成人早期に遡って始まっている必要がある[1][2]。症状が著しい苦痛や機能障害をもたらしていないものは、正常なパーソナリティである[4]。
従来の境界例や精神病質の受け皿にあたる概念である。以前は、人格障害(じんかくしょうがい)の訳語が当てられていたが、烙印[5]あるいは偏見的なニュアンスが強いことから現在の名称に変更された[6]。なお以前は同様の意図から性格障害と言われることもあった。



定義

パーソナリティは、見方や反応の仕方、考え方、人とのかかわり方、振る舞いの仕方といったことの持続的なパターンであり、その人らしさを形成している[7]。それが、適応的にできなくなり、臨床的に著しい苦痛や機能の障害をもたらしている場合にパーソナリティ障害である[7]。
世界保健機関は以下のように定義する。パーソナリティとは、個人の生活様式と、他者との関係の仕方における様々な状態と行動のパターンである[1]。パーソナリティ障害は、根深い持続する行動のパターンであり、文化による平均的な人間のものから偏っている[1]。パーソナリティ障害は、小児期、青年期に現れ持続するものである[1]。従って、成人期に発症したなら、ストレスや、脳の疾患に伴って起きる別の原因がある可能性がある[1][8]。各々のパーソナリティ障害は、行動上の優勢な症状に従って下位分類されているだけであり、排斥しあうことはない[1]。
しかし、苦しみやつらさが一つに限局できず、より深い問題を抱える例がある。このような患者は慢性的、かつ複数の症状を抱えており、抑うつや不安感、厭世観や希死念慮などの、人生を幸せに生きることができないという広範囲に及ぶ問題を持ち、「自分が自分であることそのもの」「生きることそのもの」、つまりパーソナリティが苦しみやつらさの中心であるとしか表現できないような状態を、「パーソナリティ障害」と位置付けている[9]。「パーソナリティ障害」という診断名を付けることは、障害の対象を明確にすることにより、治療とそのためのコミュニケーションに利用するというポジティブな意味でなされている[9]。
『現代臨床精神医学』改訂第11版では、精神医学において疾病(病気)(illness)は、正常な状態である「健康」に対置する価値概念であり、平均からかけ離れた状態になり、生存する上で不利であり人間が生活していく上で不都合な状態であるとする社会的な側面も包含していると説明し、よってパーソナリティ障害は平均から偏っているという異常があり病的であるとしている[10]。しかし、注釈では本質的で重大な問題があるため、世界保健機関(WHO)は疾患や病気といった言葉を避け、障害という用語を用いていることを[11]説明している[10]。



名称の変更

人格障害からパーソナリティ障害への変更を最初に行ったのは、『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』の2003年新訂版である。その早見表の翻訳書にて、翻訳者の高橋三郎は、2002年の精神分裂病から統合失調症への名称変更に伴うものであり、診断名にスティグマのあるものとして精神分裂病、精神病、人格障害であると言及している[5]。
2005年11月に『ICD-10精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン』日本語版が改訂され、精神分裂病は統合失調症に、痴呆も認知症に変更され、そして「人格障害は精神分裂病の場合と同様に当事者にとっては極めて差別的印象をもたらしやすい呼称であることからDSMシステムと同様にパーソナリティ障害に修正した」としている[6]。『精神医学ハンドブック』は2007年1月の版にて、それぞれの名称が変更されている[12]。
2008年6月に日本精神神経学会は、『精神神経学用語集』を約20年ぶりに改定し、パーソナリティ障害へと変更した[13]。新聞にて「人格障害は性格の極端な偏りを指すが、人格否定の印象があり、変更した[14]」と報道されている。厚生労働省では2010年3月にその病名データベースにおいて、多くをパーソナリティ障害へと変更している[注 1]。


診断

世界保健機関

F60特定のパーソナリティ障害は、パーソナリティの領域を含む性格と行動における重度の障害であり、崩壊した個人や社会機能を伴っていることがほとんどである[3]。小児期後期以降から現れる傾向にあるが、16~17歳において適切に診断されるということは疑わしく、成人期に入り明らかとなってから持続する[15]。 診断基準dが、小児期から青年期に発症したものが持続していることを要求している[16]。診断基準eが、相当な苦痛について言及している[16]。診断基準fが、職業上あるいは社会的遂行機能の重大な障害を要求している[16]。これらの全般的診断ガイドラインは、すべてのパーソナリティ障害に適用されるものであり、その補助的なものは個々において示されている[16]。
その評価には、生活史を含めた多くの情報源に基づくべきである[3]。また多軸的に評価することで、他の障害によって引き起こされているパーソナリティ障害の記録は容易になる[3]。
アメリカ精神医学会
パーソナリティ障害とは、その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、広範かつ柔軟性のない、持続的な内的あるいは行動の様式によって、精神障害#重症度苦痛または障害を引き起こしているものである[17]。青年期や成人早期にはじまり持続していることが必要とされる[17]。小児期の傾向が大人になるまで持続することはあまりなく、もし18歳以下に診断を下す際には、18歳未満には診断を下すことができない反社会性パーソナリティ障害を除き、少なくとも1年間の持続を要する[18]。記録は、多軸評定に沿って、I軸とII軸も評定し、パーソナリティ障害が主診断であれば、そのことを記録する[19]。


分類

診断分類には、世界保健機関による『ICD-10精神と行動の障害』と、アメリカ精神医学会による『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)が存在する。

DSMによる分類
『精神障害の診断と統計マニュアル』では、10種類のパーソナリティ障害を3つのカテゴリに分け規定している。このカテゴリ分類は、ある種の研究のためには有用であるが、一貫した妥当性があるものではなく、異なった群のパーソナリティ障害を同時に有さないということでもない[20]。

A群(クラスターA)、奇異型 (odd type)
風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持つ。
301.0 妄想性パーソナリティ障害 Paranoid personality disorder
世の中は危険で信用できないとして、陰謀などを警戒しており、自己開示しない[21]。
301.20 スキゾイドパーソナリティ障害 Schizoid personality disorder
とにかく1人で行動し、友人を持たず1人で暮らすことを望む[21]。
301.22 統合失調型パーソナリティ障害 Schizotypal personality disorder
幻覚や妄想といった統合失調症と診断されるような症状はなく、病的ではない程度の風変わりな行動や思考を伴っており、人生の早期に表れそして通常一生持続する[21]。しかし、現在ではより受け入れられやすいアスペルガー障害とすることも多い[21]。

B群(クラスターB)、劇場型 (dramatic type)
感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込むことが多い。
301.7 反社会性パーソナリティ障害 Antisocial personality disorder
少年期の素行症による非行の段階を経て、利己的で操作的な成人となり、人を欺くが周囲には気づかれにくい[22]。中年になると落ち着くことも多い[22]。
301.83 境界性パーソナリティ障害 Borderline personality disorder
他者に大きな期待を抱き、非現実的な要求によって人を遠ざけてしまったり、喪失体験をしたときに、自傷行為に至ることがあり、不安定な自己の感覚や人間関係があり、衝動的な側面を持つとされる[23]。中年になると落ち着くことも多い[23]。
301.50 演技性パーソナリティ障害 Histrionic personality disorder
自己顕示性が強く、その時に演じている役柄に影響され、大胆に振る舞う[24]。
301.81 自己愛性パーソナリティ障害 Narcissistic personality disorder
他者に賞賛を求め、自分が特別であろうとし、有名人との関係を吹聴したり、伝説の人物のつもりでいて、他者の都合などは度外視している[22]。

C群1(クラスターC)、不安型 (anxious type)
不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になりそれがストレスとなる性向がある。
301.82 回避性パーソナリティ障害 Avoidant personality disorder
人付き合いが苦手であり、批判や拒絶に敏感であり、新たな関係を避けがちであるが、スキゾイドパーソナリティ障害とは異なり、人間関係は希求しており、親しい人を何人か持っている[25]。青年期前後にさらに回避的になってくることがあるが、加齢と共に寛解してくる傾向がある[26]。
301.6 依存性パーソナリティ障害 Dependent personality disorder
何かを決めることも、身の回りのことも手助けが必要であると感じている[25]。
301.4 強迫性パーソナリティ障害 Obsessive-compulsive personality disorder
完璧主義であり、他者に仕事を任せられず、くつろぐことも、気のままに行動することもできない[25]。


その他

301.9 特定不能のパーソナリティ障害 personality disorder Not Otherwise specified
2種類以上のパーソナリティ障害の特徴を示しながら、単独では診断するほどの重症さはない場合など[4]。


ICDによる分類

『ICD-10第5章精神と行動の障害』においては、「F6.成人のパーソナリティおよび行動の障害」における「F60.特定のパーソナリティ障害」である。
F60.0 妄想性パーソナリティ障害 Paranoid personality disorder
F60.1 統合失調質パーソナリティ障害 Schizoid personality disorder
F60.2 非社会性パーソナリティ障害 Dissocial personality disorder
F60.3 情緒不安定性パーソナリティ障害 Emotionally unstable personality disorder
F60.30 衝動型 impulsive type
F60.31 境界型 borderline type
F60.4 演技性パーソナリティ障害 Histrionic personality disorder
F60.5 強迫性パーソナリティ障害 Anankastic personality disorder
F60.6 不安性[回避性]パーソナリティ障害 Avoidant (avoidant) personality disorder
F60.7 依存性パーソナリティ障害 Dependent personality disorder
F60.8 他の特定のパーソナリティ障害 Other specific personality disorder
F60.9 パーソナリティ障害、特定不能のもの personality disorder unspecified
F60-62をひと塊で説明しており[1]、他は「F61.混合性および他のパーソナリティ障害」、「F62.持続的パーソナリティ変化、脳損傷および脳疾患によらないもの」である[27]。


多軸評定におけるパーソナリティ障害

『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)には、1点だけに関心が絞られてしまえば見過ごすようなことを系統的に評価するために、多軸評定を持っている[28]。I軸の精神障害、II軸のパーソナリティ障害と精神遅滞、III軸の一般身体疾患による精神障害、IV軸の心理社会的また環境的な問題、V軸の機能の全体的な評定と総合的に見るということである[28]。そこではパーソナリティ障害は、精神遅滞と共にII軸であり該当すべき状態がない場合には、II軸にはV71.09という診断コードが割り当てられる[28]。コードは用いず障害に達しないような人格的特徴や、防衛機制のために用いることもできる[28]。


パーソナリティ変化

ICD-10におけるパーソナリティ変化は、他の精神障害や脳疾患から二次的に生じたり、重度のあるいは持続的なストレスといったものに引き続いて起こる[1]。対してパーソナリティ障害は、小児期、青年期に現れるもので他の精神障害や脳疾患から二次的に生じることはない[1]。F07が脳疾患、脳損傷および脳機能不全によるパーソナリティおよび行動の障害である。それ以外はF62持続的パーソナリティ変化である[1]。大惨事など強度のストレスや体験が原因にあり、パーソナリティ変化がその体験に先行していてはならない[29]。DSM-IV-TRにおいては、パーソナリティ障害の診断基準Fが除外している、薬物乱用や投薬といった薬物による症状や、頭部の外傷など一般身体疾患によるパーソナリティ変化が鑑別される[30]。


診断における注意点

症状が著しい苦痛や機能障害をもたらしていないものは、正常なパーソナリティである[4]。パーソナリティ障害は、発症年齢が低く持続的である必要がある[31]。文化的な文脈によって適切だとみなされるパーソナリティは異なり、観察者ではなく患者における標準的な文化を基準にすることが必要である[32]。また観察者自身のパーソナリティの在り方を自覚することで、偏見に基づく評価を避けることができる[32]。ICD-10研究用診断基準は、文化的に規範が異なるため、下位分類について相応した行動パターンの定義を推奨している[33]。
たとえば、相互依存的な文化習慣色が比較的強いとされることの多い日本[34][35]では、欧米で依存性パーソナリティ障害として定義づけられている状態を病的とみなさないことが多いとされる。また自己愛性パーソナリティ障害の症例報告は先進国に有意に多く、文化的産物と言えるであろうという意見もある[36]。子供と青年期のような低年齢において、パーソナリティ障害の診断をくだすのは賢明ではなく、年齢が低いうちは行動が変わりやすいためである[32]。


鑑別診断

行動等が、他の精神障害の発症によって現れているものは、その軽快によって消失してくる[4]。突然に、(年をとってから)遅発性で変化したならば、抑うつ、物質使用、医学的疾患である脳腫瘍など、また重大なストレスといった他の原因の探索が必要である[8]。一般身体疾患によるパーソナリティ変化の原因としてDSMは、甲状腺機能低下症、または亢進症、副腎皮質機能の異常、妄想性のパーソナリティ変化の例には全身性エリテマトーデスが、他にも中枢神経系の新生物、頭部外傷、脳血管疾患、ハンチントン病、HIVウイルスが挙げられている[37]。
パーソナリティ・ディメンジョン[編集]
パーソナリティ・ディメンジョンとは、正常な状態と、他の精神障害、また各々のパーソナリティ障害は連続上にあり、明確な境界線はないため、カテゴリーによる累計の分類ではなく、ディメンジョン(次元的)に定量的に数値的に表す方法である[38]。コンピュータによる数値処理に適している[38]。以前から関心を集めてきたが、成功をおさめていない[38]。
現行のカテゴリーの分類は、明確な境界線がなく不正確でもあるが、現行のように分類することは、より分かりやすく鮮明である[38]。DSM-IIIが改訂される際には、このディメンションモデルの発想を取り入れるかどうか大きな論争を呼んだが、結局はDSM-IVでの採用は見送られることとなった[36]。DSM-5においても、さらなる研究が必要とされる部分に収録されている[38]。



治療

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治療は精神療法を中心にして行われる[39][信頼性要検証]。薬物療法は合併しているI軸の精神障害の治療や、精神症状に対する対症療法として補助的に用いられる[39][信頼性要検証]。
精神療法においてはスキーマ療法が有効である[40]。なお、補助的にソーシャル・スキル・トレーニング (SST) を行い、本人が社会生活をスムーズに営めるようサポートすることも大切である[41]。境界性パーソナリティ障害では、ランダム化比較試験 (RCT) により、弁証法的行動療法 (DBT: Dialectical Behavioral Therapy) とメンタライゼーション療法 (MBT: Mentalization-based Treatment) の有効性が実証されている[42]。
根本的曝露療法 (Basal exposure therapy) は、重症あるいは精神障害が並存している人々に向けて開発され、障害が回避行動によって維持されていると仮定しており、正式な診断と関係なく恐怖として治療され、薬の使用量の減少、機能の全体的評定尺度 (GAF) の向上がみられている[43][44]。
一部のパーソナリティ障害は、30~40歳代までに状態が改善していく傾向(晩熟現象)があるとされている。それは加齢による生理的なものの影響だけではなく、社会生活を通じて多様な人々に触れ、世の中にはさまざまな生き方・考え方があるということを知り、それを受容することによると考えられている。