2009年01月19日

森薫の新連載「乙嫁語り」に出てくる“テュルク系民族”を追う




『エマ』で有名な漫画家、森薫先生の新連載が隔月の漫画雑誌『フェローズ』にて、去年の10月から始まってます。

その名も『乙嫁語り』(リンク先で試し読みできます。)
舞台は中央アジアのカスピ海沿岸、テュルク系民族の生活をテーマにしたお話です。




……って、テュルク!?
つ、ついに日本にもトルコの時代が来たか!!

あの緻密な書き込みっぷりに定評のある人気作家がテュルク系民族をテーマに選んで下さるなんて……トルコ語専攻として感謝感激。
次は是非オスマン帝国史でお願いします。


元々森薫先生は「小さいころから○○スタンという名前の国に興味があった」そうで、こうしたテュルク系民族を扱った連載が始まったのはある種必然的だったと言えます。


少し話はそれますが、日本ではTURKという英単語を読み分けによって三通りの使い方をするのをご存知ですか?

・トルコ……広義ではトルコ民族全般のこと、また、狭義では現トルコ共和国、及び現在トルコ人と呼ばれている人々のことを指す際に用いる。
・チュルク……言語学関係の研究でトルコ系民族のことを指す際に用いる。例えば東はウイグル、西はトルコ(果てはドイツ)に広く分布するトルコ系民族が使用する数々の言語を「チュルク諸語」と呼ぶ。
・テュルク……「チュルク」に対し、歴史学・文化人類学・社会学などの方面でトルコ系民族のことを指す際には「テュルク」を用いる。


元は同じTURKという一つの同じ単語なのですが、日本の学会などではこうした使い分けが暗黙の了解的に存在するそうです。

外国語学部のトルコ語専攻では、「狭義のトルコ」のみならず、いわゆる「チュルク」「テュルク」な研究も活発であり、専任教員三名のうち二名は中央アジア地域も専門領域だったりします。

更に世界言語研究センターの地政学プロジェクトでも中央アジアやコーカサスの研究が進められていたり、文学研究科の方でも中央ユーラシア史学の研究が超熱かったりと、旧ソ連のイスラム圏やシルクロードのあたりを勉強するにつけて、大阪大学はかなり充実してるような気がします。


本題に戻りましょう。
さて、その「テュルク系民族」とは一体何族のことなのか?

こういった民族系の話題で困ったらみんぱくへgo!





何故かインドのコーナーで足が止まってしまいそうになる。
何故……?


けど、そこは耐えて中央アジアのコーナーへ。





やっぱりあった。

この赤は、カラーのところに出ていた女性用の服のそれに似ています。
学習コーナーなどで調べてみても、やはりトルクメンが、それもテケ族が怪しい、という結論に我々は辿り着きました。確かに、トルクメニスタンはカスピ海の東岸に位置しております。




そして、同じ中央アジアの女性用民族衣装でもタジクとキルギスは白、ウズベクは緑が基調。しかし、トルクメンは紅一点の赤。なんでもトルクメンでは赤には魔除けの効果があると信じられているとか。




装飾品もこのとおり、真ん中に赤い石が埋め込まれている点などが酷似しております。


みんぱくにいる総合研究大学院の先生に質問をしようとしたのですが、テュルク系民族を扱う学者の方は退官されてしまって今は不在らしく、質問カードを投稿しても満足な回答を得られない可能性があるとのこと。


……よし、ならば箕面キャンパスへ行こう!


という訳で、地政学プロジェクトに携わるウズベク人の特任准教授(中央アジア・テュルク研究が専門)の方に聞いて参りました。


1ページ目のカラーの絵(↓)をお見せすると……



「これはトルクメンじゃないね。コーカサスのアゼルバイジャンの民族のものじゃないかな。もしくはトルコ東部とか……」


あれ?トルクメンじゃ無いんですか。


ちなみにアゼルバイジャンも同じくカスピ海沿岸の、トルコ系民族の国です。

他のページはともかく、トップのカラー絵の方は確かに色こそ赤いが、服自体の特徴はあまりトルクメンのそれには似ていない、とのこと。

同じく、トルコ語のネイティブの先生にもマンガを見せてみると、

「女性の衣装は確かにアゼルバイジャンっぽい、というかトルコの地中海沿岸東部とかにもこういったのはありそうですね。んーでもよく分からない。特定はできません。」


実は、トルコやコーカサスが含まれるみんぱく西アジア展示場へは、改修工事中のために調べに行くことができませんでした。みんぱくのデータベース上にも、なかなか満足な情報が見つからない……


ネイティヴの先生は続けて


「女の人の服はトルコとかアゼルバイジャンっぽいけど……





こっちの子供たち(↑)が着ている衣装は明らかに中央アジアっぽいし……たぶんこの漫画家は色んなところから(衣装のデータを)引っ張ってきてるんじゃないかな?」

とおっしゃりました。

なるほど、衣装を見る限りでは現時点で既に単一民族の話ではなくなっており、よって「これは◯◯民族である」といった特定作業は難しいということですね。


主人公夫婦の名前を見ても同様であり、チュルク系言語を研究している日本人の先生に伺ってみたところ

「主人公の『カルルク』はウズベク・ウイグルで見られる名前で、トルコ系のものでカルルク族やカルルク方言というものがある。主人公の嫁『アミル』は『部族長』を表す名前だよ。」

とのこと。

結局、現時点においての乙嫁語りに出てくる「テュルク系民族」は「中央アジア・コーカサスからトルコにかけて生活しているテュルク系民族の複合的なイメージ」と捉えるのが吉だと言う事なのでしょう。

tadaiken at 12:28コメント(8)トラックバック(0)中東・中央アジア研究  この記事をクリップ!

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コメント一覧

1. Posted by 青い目   2009年01月20日 09:06
話が横に逸れて恐縮ですが、昔トルコ人から「青い目」がはめ込まれたプレートをもらいました。これは魔よけですか?
2. Posted by ダダルマー   2009年01月20日 12:46
> 青い目さん

はい、トルコに限らずイランなどでもポピュラーな魔除けのお守りで、「ナザールボンジュ」と言います。
邪眼を防ぐ効能があり、トルコ語専攻の関係者は一人最低一個、常に携帯しているとかいないとか。
3. Posted by 青い目   2009年01月20日 18:25
ありがとうございます。初めて名前を知りました。
何故「青い目」が魔よけなのか。面白いですね。
4. Posted by とぅみぃ   2009年01月20日 23:40
異文化圏を題材にした漫画を知的に観察できるっていうのも外大生の大きな魅力ですよね☆勉強になりました☆
5. Posted by カナダ在住   2009年01月24日 17:24
すみません、日記の内容とは違うんですが・・・
今日Slumdog Millionaireという映画を観ました。日本で上映されているかは分からないのですが恐らくヒンディー語科の方が見ればかなり興奮するんじゃないかと思って、ここにメッセージを残させていただきました。
インドのスラム等が細かく描写されていて、是非ヒンディー語科の方の感想も聞いてみたいなと思いました。是非一度ご覧になってください!
6. Posted by 受験生A   2009年01月26日 00:59
初めまして。

記事とは関係ないのですが聞きたいことがいろいろありまして、書き込みをしています。
今年、前期で阪大の外国語学部の英語専攻を受ける予定なのですが、青本で見ても専攻別の合格最低点が書いてないので気になっています。もしわかるようでしたら去年または一昨年などの各専攻の合格最近点を教えていただけるとうれしいです。。
7. Posted by ダダルマー   2009年01月27日 19:59
> 受験生Aさん

専攻語別の合格最低点はこちらのサイトに載っています。PDFファイルです。
http://www.osaka-u.ac.jp/jp/examination/faculty/index.html

合格最低点など、受験に必須とも言えるデータは通常大学側が公開しています。そういった話題で困りましたら、まずは大学のオフィシャルサイトをご覧になるのがベストです。
あと一ヶ月ですね。健闘を祈ります、努力は惜しまないで下さい。
8. Posted by CITRUS_J   2012年01月19日 11:34
5 中央アジアを専門に勉強したものからするとその地域の衣装がいっしょくたにされていると違和感がありますが、漫画としては面白そう!内容もごちゃまぜなんでしょうなんでしょうか?
読みたいので探してみます。
モフセン・マフマルバフのLe Silenceの画像を探していたらこちら見つけました。(^∇^) 面白いですね。
C_J

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