【切り絵】紫陽花の頃

  • author: tadekichi
  • 2009年05月22日

紫陽花の頃657

切り絵 紫陽花の頃(色紙)

北海道では紫陽花の季節はもう少しだけ先になる
だけど今日の雨は紫陽花に似合いそうだった。

私は紫陽花の花が好きだ
母代わりに私達姉妹を育ててくれた祖母も
この花が好きだったようで
庭の片隅に青い紫陽花を毎年咲かせていた。

しかしその家で祖母は亡くなり
小学生から大学まで住んでいた家を売って
私達家族は引っ越しをした。

多感な頃をすごした家だったので思い出が多く
引っ越ししてからも「どこかにあの家があるような感覚」を
私は何年もどこかに持ち続けていた。

本当はその家はもう取り壊されて
周囲の様子も変わっていると知ってはいたのだが
そのような感覚は消えることがなかったのだ。

ある日私は「あの家のあった場所」へ行ってみようと思い立った。
結婚して住み慣れた北海道からG県に行くことに 決まったからだ。

地下鉄に乗り懐かしい駅で降りると
タイムスリップしたかのような感覚が私を包む

この先に「あの家」があり
「ただいま」と声をかけると
亡くなった祖母が「おかえり」と応えてくれる気がした。
祖母の作ったフキの煮物の香りや
毎朝あげる線香の香りまで自動的に再現されてくる。

しかし、

もちろんそんなことはない。

聞いていた通り
あの家があった土地には別の家が建ち
庭は潰されて駐車場になっていた。

言葉では知っていたが それを目の当たりにして
やっぱり私はショックを受けた。
祖母と私が丹精したあの美しい庭を
こんなアスファルトで覆ってしまうなんて!

なんて無粋なんだろう!

新たな住民に逆恨みのような気持ちを抱きながら
ふと片隅に目をやると 

そこには見覚えのある紫陽花が一株残されていたのだった。

変わらずにあの青い花を咲かせている。

なんだか

「おかえり」

と優しい声で言われたようで 私は不覚にも涙がこぼれそうになった。

ここで私は姉妹たちと一緒に大きくなった
ここで祖母が亡くなり家は売られることになった。
いままでここを訪れること無く何年も過ぎていたのに
この紫陽花は変わらずにここで咲き続けてくれたのだ。

私はその花に「また来るね」と言って帰った。
次はいつ来れるのだろう
北海道には帰れるのだろうか

紫陽花の花を見ると
あの時の気持ちを思い出す。

あれから20年も経った。
もちろん今は北海道に住んでいる。