aisurando金融危機からの復活を目指すアイスランドが描く「ジャーナリズム天国」構想の凄み

 

 アイスランドの窮地については、皆さんご存知と思います。思い切った金融自由化により金融立国を実現したものの、2008年の金融危機の影響をもろに受け、今や30万人足らずの国はGDPの9倍の対外債務を抱えるに至りました。3月6日には、英国とオランダへの預金返済法案が国民投票にかけられることになっていますが、否決された場合は欧州の金融市場の新たな混乱要因になるかもしれない、と言われています。

 こうした事実は既にたくさん報道されており、読者の皆さんもよくご存知だと思いますが、それでは、そのアイスランドが経済復興に向けて、金融とはまったく異なる新しい分野への進出を狙っていることはご存知でしょうか。なんと、アイスランドを“ジャーナリズムの天国”にしようとしているのです。

国会議員の3分の1がすでに賛成する
“ジャーナリズム・ヘブン”構想

 私も偶然その事実を知ってびっくりしたのですが、アイスランドでは、数名の国家議員を中心に、“アイスランド・モダン・メディア・イニシアティブ”(Icelandic Modern Media Initiative)という構想が動き出しています。

 その概要を簡単に説明すると、世界でもっとも“表現と情報の自由”(freedom of Expression and Information)が守られる環境を実現することによって、アイスランドが主にネット上でビジネス展開するメディアや出版社の拠点(本拠地の移転、起業、データセンターの設置)となり、更には人権擁護機関の拠点となることを狙っています。

 その背景としては、ジャーナリズムが十分に機能していなかったために、金融に関する銀行や行政の暴走を制止することが出来なかったという反省と、ブロードバンドの普及に伴い、ネット時代のメディアは自国の外に拠点を置くことも可能になったという事実認識があるようです。また、スウェーデンが報道の自由を法律で担保して以来、多くの報道機関や人権擁護機関が拠点をストックホルムに移し、一方でマレーシアでは報道の自由が犯されたことで新聞社が本社を米国に移した、といった事例も参考となっているようです。

 この構想によれば、“ジャーナリズムの天国”という環境を実現するために、既存の情報自由法(Freedom of Information Act)を大幅に改正して、世界中の法律の規定のうち、表現と情報の自由を定めた優れた条文をすべて引っ張ってきて盛り込もうと考えているようです。タックス・ヘイブン(租税回避地)ならぬジャーナリズム・ヘブン(天国)を実現しようとしているのです。

 ちなみに、党派の偏りなくアイスランドの国会議員の1/3がこの構想に賛成しているようであり、今月から議会で議論が始まるようです。

3つのインプリケーション

 アイスランドのこの構想をどう評価すべきでしょうか。私は、それぞれまったく異なる観点から3つのインプリケーションがあると思います。

 メディアの観点から言えば、この構想はプラスとマイナスの両方の要素を持っていると思います。取材源の秘匿などの報道の自由が貫徹されるようにするという点ではプラスでしょう。しかし、報道する側の自由が極端に大きくなると、風説の類いを抑止できなるなるリスクも同時に持っているのではないでしょうか。

 次に、国家の観点から考えると、今後はこうした国家間の制度の競争が強まるのだろうと予想せざるを得ません。グローバル化が進む中では、国家間、都市間で優れた企業や人材、更には資本の奪い合いが激化することになります。そして、他国よりも魅力ある制度を構築しない限り、そうした生産要素を自国に誘致することは出来ないのです。

 それと比較すると、今の鳩山政権の経済政策に足りない部分が見えてきます。確かに需要面は大事ですし、家計に優しくすることも必要ですが、その一方で供給の側に厳しい環境(高い法人税、厳しい環境制約、派遣規制など)を作っては、企業は海外に逃げて行くだけではないでしょうか。

 最後に、地方活性化の観点からも、アイスランドのダイナミックな取り組みは参考になるのではないでしょうか。アイスランドの人口は僅か30万人、日本で言えば市町村のレベルです。日本に例えて言えば、田舎の市が金融特区にトライして一度は地元の活性化に成功したけど、金融環境が悪くなって結果的に失敗に帰した、でも債務の返済だけに汲々とせず、今後はジャーナリズム特区で再度活性化に取り組んでいるようなものです。

 このように、地域の資源を特定の戦略分野に集中投下しようとする姿勢は、地元のあらゆる産業に均等に資源を投下しようとする日本の自治体の悪平等路線とは大きく異なります。グローバル化によるアジアの都市間競争が厳しくなる中では、そのどちらのアプローチが正しいかは明らかではないでしょうか。日本の自治体は、アイスランドのダイナミックさを見習うべきと思います。

変態プレーに見習うべき

 アイスランドの“ジャーナリズム天国”構想には、正直、若干変態プレーの色彩もあると思います。特にメディアとネットの関わりの観点からは様々な論点を提起できると思います。

  しかし、他国の法律をパクることも厭わず、狙った分野で世界のベストプラクティスを導入して自国の比較優位を築こうとするそのアグレッシブな姿勢は、鳩山政権と地方自治体の双方が見習うべきではないでしょうか。
http://diamond.jp/series/kishi/10079/?page=1
http://diamond.jp/series/kishi/10079/?page=2

【コメント】
アイスランドの取り組みは素晴らしいと思います。
特に日本のように報道の自由に無頓着な国では
見習わないといけないと思います。