ブログ「台湾は日本の生命線」より

■岸田外相の「屈従」を印象付ける新華社の報道
   

岸田文雄外相は二月十七日、中国の王毅外相とドイツ・ボンで会談。これについて中国国営新華社は、「王毅は岸田文雄の求めに応じて会見した」との、日本を見下すような書き出しで、おおよそ次のように伝えている。

2902222.jpg
日中外相会談を伝えた中国側の報道写真。岸田外相が大人に諭される少年の
ように見えるとしたら、それは中国の印象操作の成功を意味する


―――王毅は「今年は中日国交正常化四十五周年で来年は中日平和友好条約締結四十周年。双方はこれを機に両国の先輩たちの初心を忘れず、両国関係の政治的基礎をしっかりと守り、中日関係が正しい軌道に戻るよう努力すべきだ」と述べた。

―――王毅は「中日関係の改善については好機を迎える一方で傷害も存在する。日本側は最近、重大、敏感な問題の上で否定的態度を繰り返し見せ、両国関係の改善を妨害した。日本が約束を守り言行を一致させない限り、中日関係の真の改善は望めない」と強調した。

―――岸田文雄は「今年は日中関係の発展にとり重要な年だ。日本側は日中戦略的互恵関係の構築という構想に照らし、双方の意見の異なりを妥当に処理し、日中国交正常化四十五周年の記念行事を行い、日中関係の改善を推進したい。中国側が提示する重大な関心事を重視し、『二つの中国』と『一つの中国と一つの台湾』を支持せず、『台湾独立』を支持しないという立場を変えないことを改めて表明する」と述べた。

さすがは新華社だ。これを読まされれば、中国側から叱責を受けた日本が、懸命に忠誠を誓っているかのような印象を受けざるを得ない。岸田氏が台湾問題に関し、台湾を中国の不可分の領土とする「一つの中国」(一中)原則を掲げる中国に対し、帰服を表明するかの如きくだりなどは特にそうである。

しかし残念ながら同氏は、実際にそのような誓約を王毅氏の前で行ったようである。

■政府の立場―台湾人が知れば反撥必至

外務省中国モンゴル課に電話で真偽を確認したところ、特に否定はされなかったし、そもそも外務省は以前から、そうした表明を行っているのである。

ここで同課が作成した「最近の日台関係と台湾情勢」(二〇一四年)なる文書を見てみよう。

290222_20170222141047ace.jpg
外務省中国モンゴル課作成の資料「最近の日台関係と台湾情勢」
に載る「台湾に関する我が国の基本的立場」


「台湾に関する我が国の基本的立場」として、次のように書いている。

―――我が国は、「2つの中国」、「1つの中国、1つの台湾」との立場をとらず、台湾独立を支持しない。

これを考える上で先ず用語の解説が必要だ。

第一に「二つの中国(二中)の立場をとる」だが、これは中華人民共和国と台湾の中華民国という二つの「中国政府」を同時に承認するということだ。

また「一つの中国・一つの台湾(一中一台)の立場をとる」とは、中華人民共和国と台湾の政府を同時に承認するということだが、しかし台湾という国家は存在しておらず、そうした問題は目下発生し得ない。しかし中国という国家と台湾という地域が並存する現実を認める立場という意味ならもちろん成り立つ。

そして「台湾独立を支持しない」だが、これはよく中華人民共和国からの独立を意味すると誤って受け取られるが、実際には中華民国体制からの台湾人の独立だろう。なぜなら台湾は中華人民共和国に支配されていないからだ。

以上の通りなのだが、それではなぜ日本政府はわざわざこうした立場を表明するのだろうか。

台湾人民がそれを聞けば、「日本はなぜ台湾を見捨てるのか」「台湾のことは台湾人が決める。余計なお節介だ」との反発が噴出しそうだが。

■中国のためにわざと誤解されやすい表現を

もちろん、それは中国に言わされているからだ。

「二中」も「一中一台」も、ともに台湾が中華人民共和国に隷属しないという現実の状況を言い表すものとして、中国にとっては基本的にほぼ同義である。またあの国は時には、そうした現状を維持し続ける台湾側の姿勢を「台湾独立」と表現して警戒心を剥き出しにすることもある。

そして、そうした現状を、日本を含む世界各国に対し、「否定しろ」と訴えるのである。これがよく見られる「一中」原則の押し付けというものだ。

台湾を中国領土と強調する中国の「一中」原則は、台湾併呑を正当化するための虚構宣伝だ。したがって日本はそれを受け入れてはいないのだが、しかし「受け入れろ」と迫る中国側の押し付けに耐え切れず、「二中」「一中一台」の「立場を取らない」、「台湾独立」を「支持しない」と表明しているのである。

それにしても「支持しない」などとは、まるで台湾の宗主国にでもなったかのような傲慢さだ。そしてそれと同時に、中国の傀儡に成り下がるが如き卑屈さとも言えるのだが、これについて中国モンゴル課は、「別に『反対する』と言っているのではない。『支持しない』と言うのは、『特に積極的に支援する気はない』といった意味だ」と説明する。

このように「支持しない」と「反対する」とは意味が異なると強調するのだが、しかし実際のところ、「支持しない」と言われれば、大部分の人は「反対する」の意味を受け止ることだろう。

ちなみに米政府も日本と同様、「台湾独立を支持しない」との表現を用いるが、そう繰り返された結果、ジョージ・W・ブッシュ大統領までが自国の見解を誤解して、「台湾独立に反対する」と発言し、それを中国が嬉々として宣伝利用したことがあった。

このように、実に誤解を招きやすい、そしてだからこそ中国には実に好ましい言葉が「支持しない」なのだ。外務省が誤解を恐れず、敢えてこれを口にする目的は、中国への迎合以外にないだろう。

■「外交的配慮」だと回答拒否した外務省

「最近の日台関係と台湾情勢」は、「台湾との関係に関する我が国の基本的立場は、1972年の日中共同声明にあるとおり」とし、以下のように同声明の一部を表示している。

(第2項)日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。

(第3項) 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。

したがって、「二中、一中一台との立場をとらない、台湾独立を支持しない」との外務省の表明も、この共同声明に基づいたものであるはずである。しかしどのようにすれば、そこからそうしたセリフが導き出されるのだろうか。

私はそのことを中国モンゴル課に質問すると、最初に電話口に出た職員は「外交的配慮の問題なので申し上げられない」などと歯切れが悪い。

要するに、その人はわかっていないのだ。それはその人が不勉強であるというより、そうした立場表明の内容自体に問題があるからだろう。

実際に問題は大ありだ。次に私と話した職員は私の問いに明確に答えて見せた。つまり日中共同声明に基づくのだと。しかし私はそれにはどうしても納得できないのだ。

■いったいどこの国の判断に従っているのか

「二中の立場をとらない」というのは理解できる。日中共同声明で日本は「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」としているからである。

しかし「一中一台の立場をとらない」というのはどうか。

日本は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」とする中国の立場を「十分理解し、尊重」するとしたが、それは要するに、中国の主張は尊重すると言うにとどめ、「台湾が中国の不可分の領土」との承認は拒んだということなのだ。

それであるなら日本の立場は明確だ。中華人民共和国と台湾の並存、つまり「一中一台」を認めるものとなるはずである。

「台湾独立を支持しない」というのも同様だ。日本が共同声明で表明した立場とはまったく無関係の考えである。そもそも台湾が将来どうなろうと、日本には与り知らない事柄なのだ。

ところがそれであるに関わらず、中国モンゴル課職員はこう説明したのだ。

「日本は中国政府の立場を『尊重する』と表明した。だから日本は『一中一台』も『台湾独立』も支持しないのだ」と。

そこで私は「日本は台湾を中国領土と認めていない。しかし外務省は中国領土ではない台湾を、中国領土と看做しているということか」と聞くと、「それは違う」と答える。そして次のように語ったのだ。

日本は「中国政府の立場を尊重する」と表明しており、「一中一台」「台湾独立」の不支持を表明しないと、「尊重する」の域を出てしまうと。

それはいったい誰の判断か。中国か。

■でき得るだけ中国の立場に沿おうと必死な様子

そもそも「尊重する」は「承認する」とは違うのだ。

ここで考えるべきは「承認」しない中での「尊重」とは何かだ。これはもはや国語の問題であるが、それは中国の立場に対して「認めはしないが一々反論はしません」という以上の意味にはなり得ないのである。なぜなら「承認」していないだから。

「最近の日台関係と台湾情勢」にはもう一つ、「台湾に関する我が国の基本的立場」が書かれている。それは、

―――我が国は、サン・フランシスコ平和条約第二条により、台湾に対する「すべての権利、権原及び請求権」を放棄しているので、台湾の法的地位に関して独自の認定を行う立場にはない。

要するにこれは、「日本はすでに台湾を放棄し、その領土処分の権利を持たないため、中国から中国領土と認めよと要求されても、勝手にそうだと認める権限はない」という意味だ。

ところがそれでありながらも外務省は事実上、台湾を中国領土と認定するようなことをしていないか。「尊重」の二字を口実に、でき得る限り中国の立場に近づこうと懸命になっているではないか。

だからこそ中国側に好いように宣伝利用されるのだ。今後政府は中国の前で、「一中」「二中」「一中一台」「台湾独立」については何も表明する必要はない。

このままでは暴力団への軽率な妥協で深みにはまる市民のような状況に、外務省も陥ることになるだろう。いや、すでに深みにはまってしまっているのか。

私はそうしたことも含め、中国モンゴル課の職員にはいろいろと質そうと思ったのが、先方はその日何やら忙しいらしく、あるいはあまり私の質問を受けたくないためか、説明したいことだけ説明し、ガチャンと電話を切ってしまった。