いたいけな秋salyu×salyu

2011年10月22日

ショーン・タン講演会

僕はサイレントの2ページ漫画を描いている。2ページなので、瞬間の世界。
ときどき、もっと、その先の物語へと主人公の男の子を連れて行ってあげたくなる。
ページをめくるたびに、「わっ」「わーっ」「わーーっ」と、めくるめく異世界へ誘い続けるような、
そんな50ページぐらいの物語を描きたいなーって夢を描いていた矢先に、
<究極の文字なし絵本>「アライバル」に出会ってしまった。


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圧倒された。

得体の知れない大きな長い尻尾の生物が襲う町。
主人公は家族を養うために、町を離れて仕事を探す旅に出る。
知らない土地や人との出会いを通して描かれる、
主人公の不安や苦悩、健気さ、ひたむきさ、家族への想い。
ページをめくるたびに、次へ次へと異世界の風景が飛び込み、
また、登場人物の佇まいや些細な行動のイラスト描写は、心の機微までを的確にとらえ、
文字では得られない、豊かな幻想体験を与えてくれる。

すっかり、この作者、ショーン・タンに夢中になってしまった。

次いで、岸本佐知子さんの訳も素敵な短編集「遠い町から来た話」で
さらに好きになった。(こちらは文章あり)

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日常から離れた場所の不安や孤独、日常の中の非日常、非日常の中の日常、
自己存在の意味を問われるような物語の数々にどっぷり魅了されてしまった。
驚きに満ちた絵は、人間の、想像する喜びを十分に感じさせてくれるし、
その絵の線の描写ひとつひとつに、生き物や光や影への愛情があり、
この世界の存在そのものを肯定してくれる優しさを持っている。



このたび、来日講演会があるというので津田ホールまで行ってきた。

短編アニメフィルム「The Lost Thing」の上映や、
作者自身が語る、生い立ちから創作までのお話、
そして、柴田元幸先生との対談まであって、充実した内容だった。

砂漠と海に挟まれたオーストラリアのバースという田舎町で、
移民系の家庭に育ったというショーン・タン。
彼の描く、何処か、大海を漂うような、よるべない日常の世界は、
そのような環境の中で育まれたことを知る。

「アライバル」の創作のために、たくさんの移民の人へインタビューした話も聞けた。
あれだけの傑作は、そうした取材があってこそなのだと解った。



柴田元幸先生は、<Belonging>がショーン・タンのテーマだとおっしゃっていた。

<Belonging=所属すべき場所が見つからない人を励ます物語>

人気ブロガーの伊藤聡さんも会場にいらしていたようで、twitterで、
「彼の新作翻訳を手がけた岸本佐知子さんの、
ミランダ・ジュライ "No one belongs here more than you" を連想しました。」
と呟いていた。なるほど。確かに。



質問コーナーも楽しかった。
「アライバル」に出てくるペットのような動物のモデルは?との問いへの回答。
それは、おたまじゃくしからカエルへ変わる途中段階の生体らしい。

ショーン・タン氏は、子供のころ、おたまじゃくしをカエルに孵すのが好きだったらしく、
特に、おたまじゃくしなのに手足が出てきている変態過程にとても興味を持っていたという。
「移民も、生まれ育った母国をひきずりながら、新しい居場所をみつけようとします。
そんな状態が手足の出たおたまじゃくしに似ています。」と語った。
属すべき場所がない者への愛が伝わるエピソード。

僕も、おたまじゃくしがカエルに変わる過程が大好きで、
実は今月号の「夢を見た」の原稿で、たまたま、その様子を描写したばかり!
音符が、本来の居場所である紙の世界を離れて、現実空間に飛び出して、自ら音を奏でる物語。
ぼく自身、広告マンとしても漫画家としても中途半端で、
所属すべき場所が見つからない気持ちでいるため、
そんな想いを2ページに込めたばかりだったから、さらにシンパシーを抱いてしまった。


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追記:
会場で柴田先生にお声をかけていただき、
自作の漫画「夢を見た」の感想をいただいたのでした!
実は、数ヶ月前に、ある仕事で先生にお会いする機会があって、
帰り際にラブレターのように、漫画をお渡ししていたのです。
「言葉を使わずに、豊かな世界を構築している」とお褒めいただきました。
(実際はもうちょっと、やわらかく、やさしい言葉でした。)
研究室のみなさんで楽しんでいただけたとのこと。
描き続けてきて、よかったー。

柴田先生の雑誌「モンキービジネス」が終わってしまうのが寂しいです。

taiyonoto at 23:59│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by なつみ   2011年11月10日 10:00
この「Arrival」いいなあ誰かにプレゼントしたいなあと思ってました。「遠い町から来た話」も読んでみようっと。
2. Posted by ひろし   2011年11月11日 10:28
>なつみさん

「レッドツリー」もオススメです。
さびしい夜に開きたくなる絵本でした。

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