2008年08月28日

U.W.F.戦史 -1983年~1987年 誕生 勃興編-

ed1e73a5.JPG『U.W.F.戦史 -1983年〜1987年 誕生 勃興 編- 』塩澤幸登 / 茉莉花社

本書は元雑誌編集者による、UWFという「運動」の軌跡を当時の資料(新聞・雑誌記事や関連書籍、選手のインタビュー等)のみを元に、その過程を時系列で編纂した「歴史書」(前書きで著者自身がこう述べている)である。

サブタイトルの通り、その不可思議な誕生から、格闘技色の濃い「シューティング・プロレス」を打ち出した第1次UWFの躍進、そして志半ばに古巣の新日本の軍門に下るまでの選手・関係者たちの行動が記されている。

著者が決してオンタイムでプロレスを追い掛けていたような人物ではないので、その視点は極めて冷静で客観的である。また、事実誤認や誤表記もかなり見受けられる。
なので、熱心なファンにしてみれば大して思い入れが無い「余所者」に、昔日の自分が熱く注視し続けた大切な青春の宝物をイージーに愚弄されたという気分になるやも知れない。

しかし、ノンフィクションである「歴史書」とは本来そういう性質のものなのだ。
むしろ、これまでインサイダーであるプロレスライターが思い入れたっぷりに情緒的に描いてきたプロレスジャーナリズムの方が余程いびつなものだったのだろう。

当時からUWFを追い掛けていたファンにしてみれば、別段驚くべき新事実が述べられている訳ではないが、それでも時間軸に沿って大河ドラマを観るように波乱に満ちた当時のプロレス界の流れを追っていくと、改めてとんでもない時代であり、何といい加減な業界だったのだと驚愕する。

とにかく猪木のえげつなさは凄い。
その猪木の極めて個人的な事情が銃爪となって、はからずも後に時代の寵児となる前田日明というモンスターを生み出し、自身の首を絞める結果となってしまったのだから皮肉なものだ。

(私は当時、実はUWFとは新日が完全に当初から計画済みの構想で、見込みのある若手を促成で「外敵」として育成させる為の装置ではないかと疑っていたフシがあった...)

或は、本書は前田日明という一人の男のビルドゥングスロマン(成長物語)と言ってしまってもいいだろう。

当初は言われるがままに新団体へと赴いたアイドルレスラーが、その発起人たちから見事に梯子を外されて団体を牽引せざるを得なくなり、裏切られた怨念をベースに仲間たちと新たな「プロレスの格闘技化」というイデオロギーをぶち上げ叛旗を翻す...に至るまでの壮絶な過程が実に生々しく伝わってくる。

このたった1年半の間に、前田は一介の新進レスラーから、団体を背負って立つ過剰な行動者・扇動者へと、リングの内外で変貌してゆく。
ヒーローとは、決して生まれ落ちた時から後の栄光を約束された存在ではなく、時代や他者との軋轢を経て醸造されてゆくものなのだ。

だが、そう言い切ってしまうには、前田のプロレスラーとしての軌跡はあまりにも劇的過ぎる。やはり資質があった上での当然のポジジョンだったのは言うまでもない。
そういう意味では、まさに「選ばれし者」であったのだろう。

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それにしてもここ最近、UWF関連の書籍や雑誌の特集が矢鱈と頻発している。
果たして、これも何者かが手引きしているムーヴメントなのだろうかと疑いたくなる。

taizan66 at 22:59│Comments(4)TrackBack(0)書籍 

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この記事へのコメント

1. Posted by kimlucky   2008年08月30日 00:13
>UWF関連の書籍や雑誌の特集が矢鱈と頻発している

それはある意味、日本の戦国時代や中国の三国志の物語が語り継がれてるのと同じで、プロレス史において大の大人がロマンを感じるサーガ〜大河ドラマを感じさせるストーリーのある部分が語り継がれているように思えます。
そう思うと同時にプロレス史の幕が一度降りてしまったような寂しさも感じてしまいます(たぶん完全に降りてるでしょうけど..)。

現在発売中の「Gスピリッツ」も第一次UWFに関する特集ですが、佐山さんには「未来を語ってもらう」という構成が秀逸でした。
いくつになっても佐山さんの言動からは目が話せない、と感じらていられることを幸せに思います(笑)。
2. Posted by TAIZAN   2008年08月30日 11:09
kimluckyさん>

確かに、現在のプロレス・格闘技界(及び他のジャンルも含めて)を
見渡しても、あそこまで濃厚でリアルで苛烈な群衆劇やイデオロギー
闘争が連続的に展開されている状況は皆無ですからね。

先の船木vs田村戦でも、内容にとやかく言うマニアの方はいますが
あれだけ上質な煽りVが作られたり、入場だけでファンの積年の感情
を見事に投影出来るようなタマは今現在まず見当たりません。

現代の格闘家にしてみれば、プロレスの修行なんて強くなるためには
無駄な遠回りだと思っているでしょうけど、逆に無駄を生きることで
「選ばれし者」として磨かれ光を放つ存在になれるんですよね。

UWFという運動体を同時代で目撃出来た喜び。これに尽きます。
3. Posted by lunaleclipse   2008年08月30日 21:17
初めまして。
今と違い、接することのできた情報が限られていたあの時代、想像が入り込む余地に、皆が何がしかの自己投影をしていたのかなと思います。
おっしゃるように、あの時あの場所にあの登場人物が揃っていたことに、そしてその空気を感じていたことにノスタルジーとは別種の喜びを感じます。

ちなみに私も『硬派と宿命』を持っています。僭越ながら、心の中で「おお、我が同士よ」と喜んでいます。
4. Posted by TAIZAN   2008年08月31日 03:54
lunaleclipse様>

はじめまして。コメントありがとうございます。

仰るように、単なるノスタルジーとしてではなく、すでに歴史の一幕
となってしまった壮大な「英雄叙事詩」を改めて検証し、そして素直に
称賛したいという気持ちがあります。
当時の熱を実体験として知った上で、歴史を冷静に見つめ直す姿勢で。

本書を通読し、改めてユニバーサル旗上げ以降の猪木と前田の関係が
『猛き箱舟』に於ける隠岐浩蔵と香坂正次の関係に重なって見えます。
親による子殺し、そしてその復讐としての子による親殺し、という構図が。
前田の存在はまさに豊浦志朗が定義した「硬派」そのものだと思います。

今後とも宜しくお願い致します。

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