多治見弁 blog

 多治見弁(東濃弁)についての調査・研究内容を、市民の方々向けにまとめたサイト「多治見弁の部屋」とリンクしたブログです。  多治見弁の特徴について紹介していきます。たまに脱線します。

(続)ふん、りん、かん

陶器商の数え方「ふん、りん、かん」について、前回書きましたが、
まとまって書かれている文献が見つかりました。

 〇 加納陽治著『多治見風土記』(1958年)
 「窯業(用語)方言」として
「ふん(1)」から「すん (9)」まで、平仮名だけですが、紹介されています。

〇 藤巻修一著『新修隠語大辞典』(2017年)
 さまざまな隠語の類に関する辞典をもとにまとめられた新しい辞典です。
これには、前回の『日本国語大辞典第二版』には載っていなかった「厘」「丈」も含めて、
「分(1)」から「寸(9)」まで全取り上げられています。
『符牒六千語 芸者からスリまで』(1955年)
という文献がもとになっているそうです。

〇 宮本光玄著『かくし言葉の字引き』(1929年)
 前回、「貫(3)」について、『日本国語大辞典第二版』が引用元として挙げていたにも
「分(1)」から「寸(9)」まで全部載っています。
この字引には、陶磁器店のほか多数の業界のそれぞれの数の言い方がまとめられていました。
「分、厘、貫…」に似た言い方の業界は他になく、
陶器商独自の言い方と言えるでしょう。

〇 楳垣実著『隠語辞典』(1956年)では、そうしたさまざまな業界の数の言い方について、
次のように名付けています(一部抜粋)。

  縁起文句型 えびすだいこくげほう 糸商。
        むめさくらまつたけ  青物商。
  月名型   正如弥卯雨神星月菊  青物市場。
  いろは型  いろはにほへとちり  煙草商。
        あかさたなはなやら  質商。
  単位型   分厘貫斤両間丈尺寸  陶器商。

「縁起文句型」というのは、
縁起の良いもの、良い印象のものの名前を使っているということでしょう。
たとえば「えびす…」の場合は、1=「え」、2=「び」…10=「う」ということになります。

「月名型」は、月の異名の「正月」「如月」「弥生」「卯月」「五月雨月」「かみなり月」
「七夕月」「月見月」「菊月」を採用したものらしいとあり、
「ちょっと風流である」と、楳垣は褒めています。

一方、「いろは型」については、楳垣は、
「同じ音が二度でないように、九つか十の音節でまとまった文句になるよう
選び出すことさえ面倒と考えた連中は、
「いろは歌」や「五十音図」から選び出すことを考えた。」
「あまり能のない作り方である。」と、こき下ろしています。

そして「単位型」については、いろは型と「同じように機械的な方法」とされています。残念。
でも、「いろは」に比べれば、あらかじめ並んでいる音を拾ってきたのではなく、
単位に関する言葉を拾い集めて決めたのでしょうし、覚えるにもそれなりに努力が必要ですから、
陶器商がそんなにナマカワな連中だっとは言えないでしょう。
 
また、同じ『隠語辞典』では、陶器商の数の符牒として、
「分、厘、貫、斤、両、間、丈、尺、寸」 を昭和のものとして挙げるだけでなく、
「分、厘、、斤、両、間、丈、尺、寸」 または
「分、厘、、斤、、間、丈、尺、寸」 を明治のものとして挙げています。
この明治の形は、私は聞いたことがありませんでした。

ちなみに、平野威馬雄『符牒六千語 芸者からスリまで』(1955年、近代社)では、
陶器商の符牒としてこの昭和タイプの「分、厘、…」を挙げているだけでなく、
「瀬戸物商」の符牒として、
 エ、ビ、ス、ノ、ワ、ラ、イ、ガ、オ
というのを挙げています。
こちらは、「恵比寿の笑い顔」ですから、楳垣の分類によるなら、
「縁起文句型」ということになるでしょう。

これだけいろいろな辞典に載っていると、もはや「隠語」と言っていいのか迷いますが、
本当にあったんだと確認できました。
陶器商にしても、瀬戸物商にしても、
どの範囲で使われているのか、気になるところです。
(2021年9月17日更新)

ふん、りん、かん

多治見を舞台としたアニメ「やくならマグカップも」の土岐川幸恵おばあさんが、
テレビ番組に出たときに歌った歌が、「桔梗が咲いた」でした。

「どこかで聞いたような…?」と思ったら、
多治見の防災無線で夕方に流れている曲なんですね。
数年前に実家に行ったときに聞いたことがありました。

その歌詞の最後に、
「ふん、りん、かんと、数えたよ」という詞があります。
(防災無線は歌詞なしのメロディーですが)

この「ふん、りん、かん…」という数え方は、
子供の頃、年末に両親がお年玉の金額を相談する際に使っているのを
聞いたことがあります。
両親に確かめてみると、陶器商だった祖父から教わったところでは、
次のようになっているとのことでした。

1=ふん(分)
2=りん(厘)
3=かん(貫)
4=きん(斤)
5=りょう(両)
6=けん(間)
7=じょう(丈)
8=しゃく(尺)
9=すん(寸)
0=まる(10でも10000でも、0の数に関わらず「ふんまる」などと言う)

そこで、辞書で調べてみると、得られた情報は次のとおりでした。
(すべて『日本国語大辞典第二版』による。)

「分」(重さの単位である匁の10分の1、1時間や1度(角度)の60分の1という意味のほか)
  「数の一、十、百などをいう、盗人・陶磁器商仲間の符丁。」
「厘」(時代により、「分」「銭」の10分の1や100分の1などの意味のほか)
  「数の二をいう、瀬戸物商の符丁。度量衡の単位の名称を数の符丁としたもの。〔商業符牒袖宝(1884)〕
「貫」(銭や土地、重さの単位といった意味のほか)
  「「三」をいう、陶器商の符丁。〔かくし言葉の字引(1929)〕
「斤」(重さの単位、食パンの単位、容量の単位などの意味。)
「両」(重さの単位、貨幣の値、織物の長さの単位のほか)
  「数の二。ふたつ。ことに、ふたつで対になっている物の双方。両方。」
  「数の五をいう、瀬戸物商の符丁。度量衡の単位の名称を数の符丁としたもの。〔商業符牒袖宝(1884)〕
「間」(長さや碁盤の目、建物などを数える単位の意味のほか)
  「数字の「六」をいう陶磁器商仲間の隠語。〔特殊語百科事典(1931)〕
「丈」(長さの単位、男性の名前に付けて敬意を表す接尾辞としての意味。)
「尺」(長さの単位、ものさしや盆提灯などの意味のほか)
  「数量の八をいう。陶磁器商の符牒。」
「寸」(長さの単位、短いことなどの意味のほか)
  「数字の九をいう、陶磁器商人仲間の符丁。〔特殊語百科事典(1931)〕
「丸」(まるい形、金銭、欠けのないこと、まとまりや重さの単位など、様々な意味。)

上記の説明のうち、「符丁」「符牒」「隠語」はだいたい同じ意味で、
仲間内だけで他人にわからないようにやり取りするための言葉ということです。
つまり、「分」「厘」「貫」「両」「間」「尺」「寸」については、
陶磁器の商人の間で、値段の駆け引きに使われていたものだということでしょう。
(「分」で陶磁器商と並んで盗人が入っているのは、気持ち悪いですが…。)
辞書に載っている時点で、もう、こそーっと相談できんやん、と思いますが。

ちなみに、「貫」の説明で「陶器商」という言葉が使われています。
多治見では一般的な職業名ですが、共通語の文献の中でこの言葉を見たのは初めてです。

しかし、4=斤、7=丈、0=丸、は当てはまる意味が書かれていません。
このうち、0=丸は、「十」の完全さを表すイメージから生まれたのかもしれませんし、
「0」というアラビア数字が入ってきてから、その形によって言うようになったのかもしれません。
残る、4=斤と7=丈は、今のところ手掛かりがありません。

ところで、名古屋の上前津に「ふんりんかん ぎり」という、和食のお店があるそうです。
その店名の「ふんりんかん」について、ネットの口コミ情報ですが、
店主が大阪で修行していた時に修行先で使われていた数え方だとか。
ということは、陶磁器関係以外の業種でも使われていたのか、
あるいは、料理と食器は深い関係がありますから、その関係の中で
食器の業者から伝わったものなのかわかりませんが、興味深いです。

なかなか、コロナ禍で、名古屋のお店まで行けませんが、
行くことがあったら尋ねてみたいものです。


土岐川幸恵

春に、多治見を舞台としたアニメ「やくならマグカップも」が放送されると聞いて、
ぜひ見たい!と思っていたのですが、
なぜか衛星放送の画像が乱れてうまく録画できず、
ネットでの放送も、忙しくて週のうちに見られない日々が続いたので、
結局3回くらいしか見られませんでした。

それでも、懐かしい風景がきれいな絵になっていて、
西浦焼などの陶磁器も見られて、なかなか良かったです。

主要な登場人物は女子高生たちで、多治見弁はまったく使わないのですが、
主人公のお祖母さんだけは違和感のない方言でしゃべっていました。
声優の真山亜子さんが土岐市の人だと知って、納得しました。

 オープン初日からそう混まへんわ。
 あわてんでもええで、よおけ友達つくってりゃあよ。

お祖母さんは高齢者らしい声でしゃべっているのですが、
第8回の話では、孫の友達の夢の中で、女子高生に戻って
少し若々しい声の多治見弁になっていました。

 なーに言っとるのあんたたち、
 わたしやて、わたし、土岐川幸恵。
 見たー?びっくりしやーた?
 若返ってセーラー服着りゃ、捨てたもんやないやらあ!

秋にまた第二期が放送されるそうなので、楽しみに待ちたいと思います。



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