多治見弁 blog

 多治見弁(東濃弁)についての調査・研究内容を、市民の方々向けにまとめたサイト「多治見弁の部屋」とリンクしたブログです。  多治見弁の特徴について紹介していきます。たまに脱線します。

寒ぅに、こたつ入りゃあ

去年、東濃地方の皆様にアンケートのご協力をお願いし、
この地方の独特な「に」の使い方について調査しました。
年齢は10代から80代まで、出身地域は多治見から中津川までの、
およそ100名の方がアンケートに答えてくださいました。
ご協力、本当にありがとうございました。
ずいぶん遅くなってしまいましたが、結果をお知らせしたいと思います。

調べたのは、共通語で言うと「~ので」「~から」に当たる、
理由を表す「に」の使い方です。
東濃に限らず、岐阜県や愛知県の広い地域で、理由を表すには、「で」を使って、
「寒い、こたつに入りゃあ」のような言い方をすることが多いのですが、
「で」の代わりに「」を使うこともあります。

実は、今回の調査をする前から、過去の研究によって、
「~しろ」と命令したり、「~するな」と禁止したりするというような、
人に行動を指示する理由を言うときに、「に」が使えるのだということは、分かっていました。
でも、あまりに「で」の勢力が強いので、「に」が絶滅しそうになっているのではないか?
とも思っていました。

そこでまず、現在でも「に」が理由を表すのに使えるかどうか、確かめると、
どの世代でも、東濃のどの地域でも、
何らかの場面では、自然なものとして受け止められているということが分かりました。
特に、「頼む、大声出さんといて」「すぐ来る、待っとれ」
というような文では、自然だと感じる人が比較的多いようです。
ただし、人によるようで、理由を表す「に」をまったく不自然だと考える人もいました。

そのうえで、どんな指示をするときに「に」が使えるのかを調べました。
2つ、わかったことがあります。

<1>
「言われなくても知っている理由」の場合です。
例えば、「あした、早い、はよ寝やあ」(明日早いから、早く寝なさい)
と、親が息子に指示する場合、
(A) 息子自身が、部活の遠征のために早起きの必要があると分かっている場合
(B) 明日は朝から家族で出かける予定だが、今まで息子がそれを知らなかった場合
という2つの可能性があります。
(A) のように、言われる側(息子)が、
言われる前から「明日は早起きしないといけないから」という理由を知っている場合のほうが、
「に」が使いやすい、ということが分かりました。
ほかにも、
「米はある、買わんでええよ」
「(お菓子が)たくさんある、好きなだけ取ってええよ」
といった場合にも、米やお菓子がたくさんあるから、という理由を、
言われた方が分かっている場合に、どちらかというと、
「に」が使いやすいという結果となりました。

共通語では、言われた方が理由を分かっている場合、
「あした、早いんだから、早く寝なさい」のように、
だから」「だから」という「の(ん)」が入ることが多いですが、
それに当たるのが、東濃弁の「に」の特徴と言えそうです。

<2>
言われる側が、理由を分かっていない場合でも、
「に」が比較的使いやすい場合がありました。
例えば、「その卵、古い、食べやあすな」という場合です。
言われた方が、卵が古いと分かっているときでも、分かっていないときでも、
同じくらい「に」が使えるという結果となりました。
このように、分かっていないときでも「に」と言えるのは、ほかにも、
「熱中症になるといかん、水飲みゃあ」
「台風が来る、レインコート持って行け」
「床が濡れとる、滑って転ぶなよ」
というような場合があります。
これらに共通するのは、そうしないと、
おなかを壊したり、熱中症になったり、雨に濡れて風邪をひいたり、
転んでけがしたりするというような、
言われた人にとって何か悪いことが起きるかもしれないということです。

では、どうして<2>の場合、言われた方が分かっていなくても
「に」が使えるのでしょうか。

ここからは推測です。
「に」は本来、<1>のように「あなたも知ってのとおり~だから」というニュアンスですが、
<2>のような、相手の健康に関わる話だったりすると、
「あなた自身のことなんだから、しっかり分かっていてほしい」という
親身な気持ちから、「に」を使いたくなるのではないでしょうか。

枕をかう

引き続き寝具の話ですが、
枕を頭の下に入れることを、何と言いますか?

「枕を敷く」だと、かなり薄い枕を想像しますよね。
「枕を置く」だと、その上に頭を載せるという意味を含みません。
「枕を使う」なら、枕の使い道は頭を載せることですから、いいですね。
それでもいいのですが、私は「枕をかう」と言います。

線路のレールの下に枕木があるように、
建築材の下に直角に木材を置くことも、建築用語で「枕をかう」と言うそうです。
人間の頭の枕を「かう」のと、どちらが先にある言い方なのかわかりませんが、
人間の体と枕も直角に置きますから、同じ意味で「かう」と言っていることになりますね。

この意味の「かう」は、「当てがって支えとする」と言う意味で、
漢字で書くとしたら「支う」と書くようです。
常用漢字表にある読み方ではないため、通常はひらがなで書きますが。
さらに、「鍵やかんぬきなどをかける」という意味で
鍵をかう」というときにも「鍵を支う」という書き方が可能です。
かんぬきタイプの鍵だと、やはり扉の開口部に垂直に配置されることになるからでしょうか。
つっかえ棒のような鍵だったら、「支う」というのがよく合う気がします。

いずれも、辞書には載っているものの、
「枕をかって寝る」「鍵をかう」というのは岐阜県や愛知県の方言とされています。
共通語としては、「枕をかう」は建築などの場面に限定され、
一般的な言い方ではなくなっているため、
よそで使うと、「枕を飼う!?」とびっくりされるかもしれません。

かっこ悪い

暑くて寝苦しい夜は、ちょっとしたことでも気になって、
ますます眠れなくなることがあります。
たとえば、お盆の帰省先で、いつもと違う枕だったり、
布団に敷いたシーツがずれて気持ち悪かったり…。

先日、多治見出身の40代の女性から、そんな不快感を、
「かっこわるい」と言っていたら、夫に通じなかった、
というお話を聞きました。
たとえば、布団に敷いたパッドがぐちゃぐちゃなまま寝ようとする子供に
「そのまま寝ると背中がかっこわるいやらぁ。」
と言ったり、
「枕が高ぁと かっこわるて 寝れんわ。」
と言ったりするとのことです。

「格好」という言葉はどの辞書にも載っていますが、
意外に「格好悪い」「かっこわるい」は載っていない辞書もあります。
「かっこわるい」を見出し語にしている『デジタル大辞泉』によれば、
「物事に気のきいた感じがなくて自分の好みにぴったりしない、という気持ちで使う語。」
という説明で、かならずしも見た目だけの意味ではないようですが、
一般的に、共通語で「格好悪い」というと、
例えば、「格好悪い制服」というように、
見た目の様子がよくない、気に入らない、という意味だったり、
「転んじゃって、格好悪かった」というように、
見られて恥ずかしい、体裁の悪い様子を表したりします。

一方、多治見弁の「かっこわるい」は、見た目の悪さに関する意味だけではなく、
何か身体に触れる物の構えが、身体の動きや形に適した形になっていないことによる
不快感を表しているということになります。
私の感覚では、寝具に関してだけではなく、例えば
靴やリュックサックが身体に合っていない場合にも、また、
手仕事をするときに、道具の配置が悪くて使いにくいような場合にも、
「かっこわるい」ということができます。
単に「好みに合わない」というよりは、
あるべき形でない、合っていない、という判断だと思います。

他にも、見た目ではない意味で意味で「かっこわるい」ということばを使う地域がないか、
『日本方言大辞典』で調べてみたところ、
島根県や石川県で、「都合が悪い」という意味で使われるということが分かりました。
「不快感」とは違うようですが、道具の配置などには使えるかもしれません。

いずれにしても、良くない意味で用いられる形容詞で、
すこしずつ意味がずれているわけです。
単語の形が違う方言は、独特なものだということに気が付きやすいのですが、
形が同じで少し意味が違うということになると、
文脈によっては気が付かないことがあります。
例えば、枕の高さが合わなくて「かっこわるい」と言っているのに、
枕の柄がダサい、という意味で受け取られてそのままになる、ということもあるでしょう。

その意味で、地域独自の意味というのは見つけにくいものです。
多治見の独特な「かっこわるい」の意味を指摘してくださった女性は、あっぱれです。
近隣の他の地域でも同じような使い方をするかどうか、調べてみたいものです。
プロフィール

あんどうともこ

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