快挙ひとつ前の記事の著者、樋口毅宏氏が常に絶賛している作家の新作。私も随分まえから、白石一文作品にはハマっております。で、この前に読んだ白石氏の作品で、どうもなんだかおかしなこと(近親相姦的酒池肉林が主題?)になっているなぁと思い始めていたのですが、どうやら「関係」という朧げなものを主題にした小説を描く時期に入っているのでしょうか。近作2作を読んだ率直な感想です▼「快挙」という言葉からは、なんだかこれまでの価値観を一変してくれるような大きな事態を想像しがちですが、この物語が訴える快挙はむしろ真逆なものです。主人公の男は小説書きを目指していて、懸賞小説に応募した小説のタイトルが「快挙」。受賞は逃したものの書籍化をすすめてくれる編集者との付き合いが生まれるのだが、その担当編集者の異動や突然の死などで、どうにも出版化の話は進まず、小説家デビューを果たせない。そんな男は小説書きのまえには写真をやっており、被写体探しで街を歩いているとき、ある家の二階物干し場に現れた女性の姿に目を奪われ、声をかけて撮影の許可を得た。そこから始まった「関係」は、ゆっくり熟してやがて「夫婦」になってゆく。子を授からなかった二人の日々には、途中危機もあったようだが、それを相手に問わないという男の静かな英断(これも快挙だと思ったのだが)が、夫婦が夫婦である関係を崩すことを止めていた。そうゆう、つまり傍から見れば大きな事件は何も起きなかったように見える夫婦の日々を振り返ってみて、男が最初に女に声をかけたあの瞬間の勇気こそが、「快挙」だと思うという、なんだか清々しいお話。ひとつ前の作品のドロドロ感は、この作品にはありませんでした。
という淡白なまとめで終わるのもたまにはいいでしょう。他の人のネット上の感想文を読んでいたら、白石氏のインタビューの文言があった。テレビ番組「王様のブランチ」のインタビューでこんなことを語っていたらしい▼「恋愛して結婚するまではストーリー。でも夫婦になって長く一緒にいるとそれがヒストリーになる。ヒストリーは簡単には捨てられない」▼23年のヒストリーを手放す道を選んだ私は、痛切な悔恨と共に本を閉じた次第。