2024年08月25日
沈黙の螺旋理論 ジャニーズ問題に関するニュースとソーシャルメディアの動向
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旧ジャニーズ事務所の性加害スキャンダルに関するニュースやSNSでの反応を分析した研究で、少数意見を不可視化するとされていた「沈黙のらせん」が、エコーチェンバーなどの影響により、むしろ少数意見を増幅する装置として機能していた事などを示しました。 https://t.co/WsW1Ybd3ca
— MITsuo Yoshida | 広告, PR (@ceekz) July 8, 2024
ちゃんと読むと重要な示唆が得られるのでは...?
しかし、本質的に沈黙の螺旋が打ち破られるメカニズムに関しては、あんまり十分には分析出来てないようにも思えるのですが...この内容で本当にSNSの効果と言えるのでしょうか?
他の複数の話題に関しても同様に分析したら説得力が増しそうですが
そしてデータからAstroturfingやspwitterをちゃんと排除出来てるのでしょうか? それらを対応したとは書かれていないと思うので、除けてない気がするんですが...
Breaking the spiral of silence: News and social media dynamics on sexual abuse scandal in the Japanese entertainment industry
Tsukasa Tanihara Ritsumeikan University
Mitsuki Irihara New York University
Taichi Murayama YOKOHAMA National University
Mitsuo Yoshida University of Tsukub
Fujio Toriumi,Kunihiro Miyazaki Indiana University Bloomington
PLoS one 19.6 (2024): e0306104.
...この研究は、社会的沈黙を打ち破る過程についての新たな視点を提供し、特に無視されがちな沈黙のスパイラルが存在する環境で、弱い立場にある個人を支援するための重要な洞察を提供します。
この論文は、SNSデータとニュースメディアデータの包括的な解析を通じて、ソーシャルメディア時代における「沈黙の螺旋理論」を再解釈する事を提案しる点で独自性を持っています。
1 Introduction
本研究の分析は「沈黙の螺旋」理論の中心であるニュースとソーシャルメディアの役割、特にこの文脈で重要な集団であるアイドルファンの行動に焦点を当てます。全世界に潜在的な沈黙の螺旋が存在する事を念頭に入れると、その沈黙が破られた事例を調査する事で、社会的な議論において疎外されてきた声を増幅し、脆弱なグループを支援するための知見が得られます。
本研究では、ジャニーズ事務所について14808のニュース記事と1450万件のSNS投稿を活用し、世間の注目を集めたBBCの報道から、専門家による包括的な報告書に至るまでの6か月間の経過を網羅しています。
ファン層内では態度に明確な差異があり、「エコーチェンバー」現象と特徴付けられる状況が発生していて、個人は自分自身と同じ意見に曝されていました。
同社所属のアイドルに熱心なファンは、反応が遅いだけではなく、容疑者を擁護し、被害者を非難する傾向もありました。
2 Theoretical frameworkNoelle-Neumannによって提唱された「沈黙の螺旋」理論は、メディアと世論による沈黙現象を扱います。
この理論では個人は社会的孤立を恐れて、自分の意見が支持されていない、多数派と対立していると感じた場合、意見を表明しない選択をする場合があると仮定しています。
沈黙の螺旋理論は、世論形成に内在する重大なリスクに注目しており、即ち多数派の見解が支配的になる事で、少数派の視点が抑圧され、結果として多様な意見が交換される場が失われる危険性がある事を指摘しています。
彼を告発する者はいたものの、ジャニー喜多川氏の問題は長く沈黙が続いていましたが、この状況が2023年に何らかの原因で変化したと考えられます。本研究では沈黙の螺旋が破られた経緯を分析します。
ベネズエラのマドゥロ大統領のツイートをリツイートしていた自動ボットが停止された事件を利用し、大統領に対する批判的なツイートが急増した。この研究では、沈黙のスパイラル理論の枠組みを用いて、独裁政権の宣伝活動が中断されると世論が変化する可能性があると仮定した。
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4.1 News media data本研究のニュースメディアデータは、ほぼすべての日本のニュースメディア記事を包括的に収集するCeek.jp News(https://news.ceek.jp/)から取得しました。データセットには、発行元名、見出し、ニュース記事の最初の部分など、様々な情報が含まれています。
4.2 Social media dataデータ収集はTwitterの検索APIを介して行われます。検索クエリは日本語のキーワードです:「ジャニーズ」または「ジャニー」または「ジャニ」または「#ジャニーズ」。この方法は、ジャニーズスキャンダルに関連する幅広い公共の言説を網羅するよう設計されました。
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7 News media reactions by categoryソーシャルメディアと比較すると、マスメディアによるジャニーズ問題への対応が遅れている事が明らかになった。特に、報道機関の中でもテレビは、ジャニーズ事務所との商業的つながりのためか、特に沈黙している事が指摘されており、さらなる調査が必要である。
コミュニケーション研究の専門家である著者の一人が、データセットで最も多く使用されている150のニュース領域を慎重に分類した。
テレビ:テレビ局が配信するニュース(6.7%)
新聞:主にハードニュースに焦点を当てた新聞が発行するニュース(18.7%)
雑誌:出版社が発行するニュース(14.0%)
タブロイド:スポーツや芸能などソフトニュースを主に扱う新聞が発行するニュース(5.3%)
オンラインニュース:上記カテゴリに含まれない、オンラインニュース専門会社が運営するニュース(55.3%)。
8 Social media users reaction by groups
8.1 Methods
8.1.1 User classification by network clustering.
議論の中心ユーザーグループを分析するために、repostのネットワークを作成し、接続コンポーネントを抽出します。
このネットワークでは、ノードは問題に言及したユーザーであり、エッジはユーザー間の複数のrepostを示しています。
ネットワークのノード数は 359109 個 (言及したユーザーの 78.6%)。2 番目に大きい接続コンポーネントのノード数がわずか 7 ノードである事を考えると、残りの議論は些細な事であると推測出来ます。
コミュニティ構造の検出に有効であるLouvain methodを採用し、解像度パラメータを1に設定し、結果、135のクラスターを識別し、ノード数が最も多い5つのグループを抽出しました。
5つのノードはネットワークの84.5%を占めます。
8.1.2 Post classification via topic modeling.投稿からのトピック抽出には、潜在的ディリクレ分布(LDA)などの従来のモデルと比較して、短い文に適している事が知られているbiterm topic model(BTM)を採用しています。
8.1.3 Post classification via sentiment analysis.感情テキスト分類に機械学習を利用しました。
標準的なアプローチでは、感情を主に肯定、否定カテゴリに分類する事が一般的ですが、本研究で扱う主に否定的な談話には、より詳細な感情分析が求められました。
そのため、WRIMEデータセットを用いて微調整されたLUKEベースの日本語感情分析モデルを使用し、日本語のテキストを、喜び、悲しみ、期待、驚き、怒り、恐怖、嫌悪、信頼の8つの感情カテゴリのいずれかに分類しました。各投稿には、1つの感情が割り当てられます。
8.1.4 Comparison of topics and sentiments across user groups.トピックと感情には固有の分布バイアスがあると予想されるため、それらを正規化する必要があります。
具体的には、トピックの場合、最初にユーザートピックマトリックスを作成します。
8.2 Resultsグループは、3種類のファン(ファン1(親ジャニーズ14.8%)、ファン2(neutral 11.6%)、ファン3( 反ジャニーズ11.3%))と政治ユーザー(政治1(32.2%)、政治2(14.5%))で構成されています。
ソーシャルメディアでは政治ユーザーは新しい話題に首を突っ込む事が多く、ジャニーズ問題もそうでした。
政治グループは基本的に反ジャニーズである事に注意してください。
政治グループとファン2が一番最初に反応し、ファン3(反ジャニーズ)はその後に続きます。5月にようやくファン1(親ジャニーズ)が現れ、ジャニーズ事務所へのロイヤリティの強さと反応の遅れに関連がある事が認められます。
スキャンダルが発覚した3月以降、しばらくの間は、ファン1の関心はスキャンダルに向かわず、この問題に対する沈黙の雰囲気が強かった事が分かります。
9 Discussion and conclusion従来のマスメディアと比べて、Twitterユーザーは、ジャニーズ問題に迅速に反応しました。
9.1 Main results
これは、ソーシャルメディアが、沈黙の螺旋を打破する事に貢献した事を示唆しています。
この結果は、ソーシャルメディアが沈黙の螺旋の影響を弱める可能性があるという最近の研究と一致しています。
ソーシャルメディアでは、既存研究で実証されているように、ユーザーは参照グループを形成する事が多く。プラットフォーム上の仲間が特定の話題について議論している事を認識すると、マスメディアがその問題を取り上げるかどうかに関係なく、自分の見解を表明する可能性が高くなります。
ジャニーズ事務所社長が謝罪動画を公開した後、報道機関の反応が最も強く表れました。この記者会見を境に、世間はジャニーズ問題をより深刻に受け止めるようになり、その問題意識は「社会問題」として大きく広がりました。
ユーザーグループ間ではエコーチェンバーが形成されました。
ファン1(親ジャニーズ)は少数派(14.8%)を維持し、圧倒的多数がジャニーズ事務所を批判する中で、これらのファンは唯一の擁護者として残りました。この文脈では、彼らはNoelle-Neumannがジャニーズ問題に関して「ハードコア」グループに分類出来ます。
9.3 Implications for the media industry日本のテレビ業界は、アメリカ等と比べてテレビ局数が圧倒的に少ないという寡占状態が見られます。
これは、放送権が既存の大手企業に有利な形で扱われている事が一因であり、この仕組みが既得権益を形成しています。
こうした背景の中、ジャニーズ事務所は、ほぼすべてのテレビ局に対して大きな影響力を持ち、視聴率に影響を及ぼす重要な存在となっています。
この深い関係は、特定のエンターテインメント企業による不当な支配を助長しかねませんが、新規参入によるテレビ局の増加と局間の競争促進により、こうした問題を緩和出来る可能性があります。
9.4 Limitation and futurework
現在のアプローチにはいくつかの限界があります。ジャニーズ問題に関する投稿を識別するためのキーワード中心の方法は、recallを優先しますが、選択したキーワードを明示的に含まないものの問題に関連する投稿を見落とす可能性があります。
さらに、ユーザーと投稿の分類は、理論主導のコーディングではなく、教師なし学習に依存しているため、将来的に改良の余地があります。