2005年05月26日

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「あの夢」(安堂流 24歳 友人へ)
 
 あれは夢だったような気がします。
 柄にもなく丁寧な言葉使いをしますが、笑わないで下さい。やはり、まだあなたには照れてしまうのです。
 夢だと思うのは、あなたと出会えたことです。いや、あなたと笑顔を向け合える関係になれたことです。今となっては、本当にそう思えるのです。望めば、毎日だって会えたかもしれないあの頃が、夢のような時間だったのだと思うのです。
 別に隠しているつもりもなかったのですが、ここで正直に言います。最初は度胸だめしだったのです。まわりの人から、ブサイク、と言われたことはないですが、特にモテた経験もない私が、みんなから一目も二目も置かれているあなたに声を掛けたのは。
 あなたには既に恋人がいましたね。でも、それが私を苦しめたことはありませんでした。むしろ、私はそのことを楽しんでいました。そう、私にとってあなたは手の届かない存在であってくれればよかったのです。私を振り回す、そのためだけに存在していて欲しかったのです。
 あなたが、眠れない、と深夜にメールを送ってきたのは夏だったでしょうか、それとも冬だったでしょうか。メールを受け取った時の私の驚きは、きっとあなたには伝わっていなかったでしょう。私はその時の驚きしか憶えていません。暑かったのか、寒かったのか、それすらも憶えていません。あたふたしながらも理由を訊いた私のメールに、あなたは、ごめんね、と返してきました。きっとあの時からだったと思うのです。私の中であなたが、振り回される存在から守るべき存在へと変化していったのは。
 あなたは何度か私の部屋に来ました。何もなかったけれど、多くを話した気がします。それはいつも私からの一方的な会話でした。一瞬でもあなたの目の前にいたかったのです。あなたと一緒にいる自分がたまらなく好きだったのです。おそらく、あの頃の私は召使の範疇からも友人としての範疇からも逸脱していたように思います。
 あなたはそれに気付き始めていたのでしょう。私から距離を置くようになりました。もしかしすると、それは私の勘違いだったかもしれません。でも、あの時期の私にはそうとしか思えなかったのです。
 私は急に怖くなったのです。片想いのあなたが離れていくとことよりも、友人としてのあなたが私から離れていくことに。友人としてであっても、一生付き合っていきたい、そう私に思わせた異性はあなたが初めてだったのです。そして、今でも唯一の存在なのです。
 もうあなたには会えない気がします。すごく近くにいても気付けないような気がします。
 だから、私は私に誓うのです。友人として、私の活躍をあなたにも気付かせてやろうと。私の一番望む形で気付かせてやろうと。
 どうぞその時には自慢してくださいね。過去に自分を愛したのはこんな奴だったのだと。自分はこれほどの奴に愛されていたのだと。

PS あの頃の私と違い、近頃は守るものが多くなりましたが、人生があなたによって狂うくらいならどうってことないですよ。

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